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「ADHDは手柄横取り」「ASDは異臭を放ってもおかまいなし」職場心理術の新刊が物議。「職場での“誤った診断ごっこ”に繋がるだけでは」当事者会代表も懸念

労働環境のストレスが障害者ヘイトに繋がる可能性

三笠書房のホームページによると、同社には、56名の従業員がいる。創業は1933年(昭和8年)11月で、歴史のある中堅出版社だ。この規模の出版社で、出版時のチェック機能が働かなかったのは意外だ。 こういった本が出版される背景に「日本の労働環境のストレスが、障害者ヘイトに繋がっているのではないか」と山瀬氏は指摘する。 厚生労働省によると、障がい者雇用のルールとして、民間企業の法定雇用率は2.5%に定められている。従業員を40人以上雇用している事業主は、障害者を1人以上雇用しなければならない。事業主は、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となっている事情を改善するため、募集・採用に当たり障害者からの申出により障害の特性に配慮した必要な措置(合理的配慮)を講じなければならない。 「職場での合理的配慮へのノウハウや支援が不足しているのが現状です。現場での個人負担が『困った人』という表現を生んだ背景にあると思います。ノウハウ教育や支援が不足すると、現場の上司や担当者に負担がかかります。それが、合理的配慮を必要とする部下や同僚への忌避感につながっているのではないでしょうか。『みどる』にも、そういった摩擦から、離職に繋がった当事者が多く相談に訪れます」 合理的配慮は、障害者差別解消法の中で求められているが、現場での実践は不足している。2015年12月1日より、労働安全衛生法の一部改正にともない、職場でのストレスチェック制度が義務化された。調査では、日本の職場における高いストレスレベルが明らかになった。そういった環境は、障害者への配慮に関する緊張を悪化させる。 「法定雇用率を上げる際には、現場への手当てを先行すべきだと思います。現場への教育や直接的な支援がないと、職場での敵意が高まり、障害者への偏見を深める有害な出版物が増える可能性があります」と山瀬氏は危惧する。 負担が増すばかりでは、障害のある同僚への忌避感が増す。今後の同出版社の追加対応や当事者団体の行動が注目される。 <取材・文/田口ゆう>
立教大学卒経済学部経営学科卒。「あいである広場」の編集長兼ライターとして、主に介護・障害福祉・医療・少数民族など、社会的マイノリティの当事者・支援者の取材記事を執筆。現在、介護・福祉メディアで連載や集英社オンラインに寄稿している。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1
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