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「ADHDは手柄横取り」「ASDは異臭を放ってもおかまいなし」職場心理術の新刊が物議。「職場での“誤った診断ごっこ”に繋がるだけでは」当事者会代表も懸念

まるでパワハラのようなASD当事者への対処法

中高年発達障害当事者の会「みどる」代表理事・山瀬健治 さん(59歳)

「筆者のインタビュー記事を読んで、ASD当事者への対処法に懸念を持ちました。たとえ迷惑であっても隔離したら、ショックで退職や、それ以上の結果になりかねません。そのようなリスキーな手法を『環境調整』と呼ぶのには抵抗があります」 第2章には、ASDの特性として「異臭を放ってもおかまいなし」と挙げられているが、この対処法はまるでパワハラのようだ。「お風呂キャンセル界隈」という、インターネットスラングがあるように、疲労や忙しさ、または気分的な理由から、入浴を避けることは誰にでもあり得る。 「三笠書房は、2025年4月18日に出した同書への見解の中で、書籍を読めば意図を理解できると書いていますが、目次と表紙の段階で、すでに実害が出ています。出版されることで、既に指摘されている差別ばかりでなく、更に別の具体的な被害が発生して、それが広がることを懸念しています」 Xでは、精神的に不安定になった障害当事者が、主治医を受診したとの投稿も多数みられる。

そもそも書籍の目次は医学的・科学的に正しいのか

分析資料を見ながら語る山瀬氏

目次には、ADHD当事者が「同僚の手柄を平気で横取り」する、ASDタイプは「こだわり強めの過集中さん」との表記もあるが、これらは特性を正確に表しているのか。 「米国精神医学会(APA)が発行する精神障害の診断基準マニュアルDSM-5や世界保健機関(WHO)が作成した国際疾病分類の最新版であるICD-11の内容に基づいていないと、医師を含む複数の識者が指摘しています」 過集中などは、どちらかというとADHDの特性として語られるものだ。また、ASDとADHDの併発率は、米国国立精神衛生研究所(NIMH) の研究や『Journal of Autism and Developmental Disorders』(2020年)によると、50~70%とされる。単純に、ASD・ADHDならこうだと、分類できるものではない。 「特性理解が筆者独自のもので、科学的知見からかけ離れています。誤った知見から作られた簡易版タイプ診断チャートは、職場での誤った診断ごっこやレッテリングに繋がるだけでしょう。誤った診断や偏見を助長し、支援を妨げる恐れがある」と山瀬さんは懸念する。 著者が使用する「カサンドラ」という用語も、DSM-5やICD-11にある正式な診断名ではない。「実際に迷惑している人がいる」「表現(言論)の自由」を盾に出版を擁護する声もあるが、医学的・科学的知見に基づいた本はいくらでも存在する。
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労働環境のストレスが障害者ヘイトに繋がる可能性
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立教大学卒経済学部経営学科卒。「あいである広場」の編集長兼ライターとして、主に介護・障害福祉・医療・少数民族など、社会的マイノリティの当事者・支援者の取材記事を執筆。現在、介護・福祉メディアで連載や集英社オンラインに寄稿している。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1

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