「中世的体質にメス」「分断に橋」 識者がみるフランシスコ教皇とは

聞き手・田中瞳子 聞き手・山本逸生

 ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇が4月21日、死去した。初の南米出身の教皇として、世界14億人の信者を束ね、死の直前までメッセージを発し続けた。フランシスコ教皇はどんな存在で、社会に何を残したのか。2人の識者に聞いた。

上野景文・元駐バチカン大使

 貧困と「南」に目を向け続けたフランシスコ教皇は、保守的だった前任のベネディクト16世の対極をいく人だった。

 カトリック教会は長年、欧州中心・イタリア中心主義だったが、フランシスコ教皇は異を唱えた。教会はもっと「南」を向くべき、貧しい人に目を向けるべきだとして、アフリカや中南米、アジアを重視した。欧州でキリスト教離れが進むなか、グローバルサウスの国々へ信仰の種をまいたことは、カトリック教会にとって大きな功績だった。

南米での貧困が根底に

 カトリック教会の幹部に欧州出身者以外も積極的に起用し、教会の体質そのものにメスを入れ、変えようとした。中世的体質が根強く残るバチカンを現代に合わせるべく奮闘した。欧州の教会を、「世界の教会」に広げたといえる。

 こういった姿勢を取ったのは、教皇自身がアルゼンチンの首都ブエノスアイレスに生まれ、欧州の外からものを見ることができたからだ。南米の教会で本当の貧困を目の当たりにしてきたことが、彼の根底にある。

 現代において宗教離れは進んでいるが、世界性と2千年の歴史性に支えられた道徳的な権威として、ローマ教皇は人類的・中立的な立場から発言できる数少ない存在だ。是々非々でものを言える「国際社会の水戸黄門」的な存在ともいえる。

 一方で、保守派からは強い抵抗があった。また、教会において女性の登用が進まなかったこと、同性婚を公式に認めるまでには至らなかったことなど、進歩派からは「中途半端」という批判を受けている。だが在任期間の十数年で成し遂げられることには限界があっただろう。

 次の教皇選挙(コンクラーベ)では、振り子を元に戻す力が働く可能性がある。保守派の不満も無視はできない。フランシスコ教皇の成果を壊すことは考えにくいが、中道へと戻る可能性はあるだろう。

山本芳久・東京大教授(キリスト教学)

 フランシスコ教皇について、よく語られるように、「リベラル派の代表」とだけ表現してしまうのはあまりに単純すぎる。

 彼がインタビューで、ラテン語で教皇を意味する「ポンティフェクス」の語源が「橋を架ける」という意味だと話していたことが印象に残っている。教会内での女性の地位向上や同性カップルへの「祝福」を認めるといった改革は、分断が進む社会の中で弱い立場の人たちに橋を架け続けた。

保守とリベラルの間にも橋

 「教会は野戦病院であれ」とも語った。安住して待つのではなく、こちらから出向いていって傷ついている人の心を癒やすことをめざした。伝統を軽視したわけではない。「伝統は動いている」という神学者の言葉を引用し、伝統が新たな解釈に常に開かれていることを強調し、保守とリベラルの間にも橋を架けた人だった。

 今後、コンクラーベと呼ばれる教皇選挙によって新たな教皇が選出されることになる。これまでにも有力な候補の名が挙がることはあったが、フランシスコ教皇のように予想を裏切る人が選ばれることも多かった。

 フランシスコ教皇のような人物が出てきた背景には現在の社会の分断がある。保守派とのあつれきがあったとも報じられているが、分断が進む中での橋渡しや異質なものとの共存はキリスト教の本質でもある。具体的な政策に異論があったとしても、フランシスコ教皇が作った和解の精神は今後も受け継がれていくだろう。

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この記事を書いた人
山本逸生
国際報道部
専門・関心分野
格差、事件、労働