福島県内の公立小中学校にある体育館の冷房設置率が1.5%にとどまり、全国平均の18.9%を大幅に下回っている。授業や部活動に加え、災害時は避難所として使用される体育館の環境整備は重要性を増しているが、教室と比べ設置費や電気代がかさむなどの課題も多い。近年の猛暑で熱中症リスクが高まる中、新年度を控え、子どもや避難者の安全を守るための対策は急務だ。
設置5市町のみ
文部科学省の本年度調査(昨年9月1日時点)によると、小中学校の体育館に冷房を設置していると回答した県内自治体は田村、伊達、古殿、楢葉、大熊の5市町。普通教室については東京電力福島第1原発事故後に設置が進み、設置率は99.6%と高い水準にあるものの、体育館では設置が進んでいない現状が浮き彫りとなった。
5市町のうち、田村市は本年度、市費451万円を投じて市内全13校の体育館に可搬式冷房機(スポットクーラー)を導入した。市教委の担当者は「近年の温暖化に伴う気温の上昇や、いくつかの学校から要望もあり、必要性を感じたため導入に踏み切った」と話す。
「避難所」は補助
文科省は本年度、避難所に指定されている公立学校の体育館を対象に、空調整備への補助金を新設した。冷暖房の設置費や断熱材確保のための工事費を7千万円を上限に2分の1以内を補助する制度だ。
補助制度を追い風に、一部自治体では空調設置に向けた動きが出始めた。福島市は今後4年間で、小中学校などの体育館にエアコンを整備する方針で、新年度はまず、避難所に指定している小中学校10校の体育館に設置する。ほかにも複数の市町村が整備の検討に入っている。
ただ、補助要件の一つである空調効率を上げるための断熱性の確保が設置への障壁ともなっている。同省は空調を入れる前段階となる断熱工事の補助メニューも設けたが、学校数が多い都市部などでは全校への導入には費用も時間もかかるため、実現が難しいケースが少なくないという。
事故契機に予算
冷房設置率は本県を含む東北各県で軒並み5%以下の中、山形県は49.5%に達し、最も高い東京都の88.3%に次ぐ水準を誇る。
同県では2023年7月に起きた下校中の女子中学生が熱中症で死亡する事故を受け、県が23年度の補正予算に約3億円を計上。中学校体育館に可搬式冷房機を導入する市町村に対し、半額を補助する独自の制度を取り入れた。このため全県で設置率が上がった。
本県で昨年4月29日~10月6日に熱中症とみられる症状で搬送された7~17歳は114人に上り、このうち3割以上に当たる39人が教育機関で発症した。ゲリラ豪雨や線状降水帯など温暖化に起因した災害も増加する中、子どもたちはもちろん、体育館に避難を余儀なくされた住民の命を守るための対策は不可欠だ。財源確保など課題は多いが、隣県で起きた事故は決して人ごとではない。