延長か、終了か──。3月末で期限を迎えた共生バンク側への借地契約について成田国際空港株式会社(NAA)が選んだのは、わずか8カ月の延長だった。決定の背景には、責任を回避したい当事者たちの思惑が透けて見える。いったんはプロジェクト中止という事態を回避した「みんなで大家さん」だが、集めた2000億円の先行きは不透明なままだ。
本誌が3月号で指摘した「みんなで大家さん」の成田借地問題。その帰結が明らかになったのは国会の場だった。
4月2日の衆議院 国土交通委員会に参考人として出席したNAAの田村明比古(あきひこ)社長は、共生バンク(本社:千代田区)の「GATEWAY NARITA」プロジェクト(以下、成田PJ)に関する借地契約を更新し、今年11月末まで延長したことを明らかにした。
問題の借地契約は成田PJ用地の約4割、18万m2に関するもので、この3月末に期限を迎えた契約が延長されなければ、工事が停止する可能性も懸念されていた。延長後の借地期限である11月は、成田市が共生バンクに与えた開発許可の期限と同じ。NAAは、いわば地元行政に判断の責任を委ねる形で、問題を先送りにしたわけだ。
1500億円超を集めたシリーズ成田を筆頭に、約3万8000人から総額2000億円を超える投資マネーを集めた「みんなで大家さん」は、ぎりぎりのところで踏みとどまったことになる。
行政処分の経歴は不問に
そもそも、なぜNAAは成田PJのようなリスキーな開発に対し、土地を貸したのか。本誌が実施した情報公開請求や訴訟記録の精査、そして2月末から4回にわたった国会質疑からは、同社が成田PJの計画当初から関与し、支援してきた実態が浮かび上がってくる。成田借地問題を巡るこれまでの主な経緯を、下の表に示した。
まず目を引くのは、2020年9月、NAAが共生バンクとの借地契約を締結した際の不適切な対応である。共生バンクは2012年と2013年、子会社が運用する「みんなで大家さん」事業に関して重要事項の不記載や資産の過大計上を指摘され、最大60日の業務停止命令という重い行政処分を受けた経歴がある。
NAAが国の100%出資を受けた公益企業である事実と、2000億円を優に超えるという成田PJの事業費、さらに、その失敗が多数の一般投資家を巻き込む可能性を踏まえれば、田村氏以下、経営陣の判断がその妥当性を問われるのは明らかだ。
こうした疑問に対し、NAAは、「行政処分については共生バンクではなく、そのグループ会社に対して与えられたもの」として不問に付す。さらに、国会質疑では「成田PJが不動産特定共同事業法(不特法)スキームに基づいて資金を調達する計画とは知らなかった」という驚きの発言も飛び出した。プロジェクト全体の実現性や、「みんなで大家さん」事業自体の是非は関知しない、とのロジックを展開しているのだ。
NAAは契約締結にあたり、行政に提出された資料に基づいて独自に借り手の資金計画を審査したとする。ならば、その審査は適正だったのか。
共生バンクグループは2018年1月、成田SPCを通じて外部から112億円の出資を受けることをウェブサイトで発表している。しかし、同社は翌年3月の発表でこれを訂正。出資額は想定していた金額の約半分、54億円にとどまった。契約締結の1年半前の出来事であり、意図的にせよ過失にせよ、見過ごすにはあまりにも重大な公表事実だと言えよう。
実態は「二人三脚」
一連の発言に通底するのは、成田PJは市や県が認可した計画であり、NAAは地元の要望に応じただけだ、との態度である。だが、そもそも、NAAは本当に受動的な立場と言えるのだろうか。
成田PJの土地は市街化調整区域に立地するため、開発許可申請の前に、都市計画法に基づく地区計画決定が必要。それには、地権者の権利面積を対象に、3分の2以上の同意が条件になる。NAAは2017年12月、共生バンク側の求めに応じて、地権者として地区計画に同意する旨の書類を成田市に提出している。つまり、遅くとも借地契約締結の3年近く前には、共生バンクの計画にゴーサインを出していたわけだ。
同社の栁瀨健一代表は、2014年に成田の土地に「めぐり会った」ことを著書の中で明かしているが、開発用地の4割を保有する大地主であるNAAとの間に、構想初期からの協議が存在したと考えるのが自然だろう。
両社については、契約締結後にも密接な交流が続いていたことがうかがえる。今年4月2日の国会質疑では、NAAの役員と成田市議、共生バンク側の担当者が、折に触れ面談を繰り返してきた事実が判明している。本誌が把握する範囲では、2023年3月、成田を舞台にした「日本版フードバレー構想」について3者が協議した例がある。
会談の詳細な内容は不明だが、その後5月に事業者が発表した大幅な工事スケジュールの延長、および9月に最初の満期を迎える借地契約の更新に向け、レールを敷く狙いがあったものとみられる。これとは別に、田村氏自身も2023年7月、共生バンクの栁瀨代表が出席する会合に参加した。当日は「挨拶した程度」としながらも、その事実を認めている。
なお、仮に今回の契約延長により、造成工事が今年11月の期限内に完了したと仮定しても、プロジェクトの行く手にはさらなるハードルが待ち構える。共生バンクグループが大阪府、東京都との行政訴訟において提出した不動産鑑定評価書の記録によれば、2026年4月から、両社の間で建設工事を目的とした50年間の事業用定期借地契約の締結が予定されているという。
一連の国会質疑を受けてなお、NAAは契約締結に踏み切ることができるのだろうか。
自己責任論も飛び出す
成田PJの経緯を巡っては、一義的に、許認可の権限を持つ成田市や千葉県に責任があると考えることもできる。それでも、NAAがその責任を一段と厳しく問われているのは、国交省の幹部出身である田村氏を筆頭に、事実上、同省の航空行政の一翼を担う組織だからだ。
一方の国交省は、NAAを通じて成田の土地利用の実態を詳細に知ることができる立場にある。同省はまた、金融庁と共に不特法の運用を管轄している。いわば、今回の問題を一手に引き受けるべき立場にありながら、事態の悪化を止められないのはなぜか。
一連の国会質疑を経て透けて見えたのは、航空行政と不動産・建設行政の間に横たわる深い溝と、官僚、政治家の保身である。中野洋昌(ひろまさ)国土交通相は一連の質疑の中で「土地の貸し付けに瑕疵(かし)があったとは考えていない」とNAAを擁護。さらに、淡々とした口調ながら「投資は自己責任」と言い放った。
不特法ファンドに関しては、「みんなで大家さん」以外にも、複数の事業者で元本の償還遅延といった問題が報告されている。こうした事態を受けて、国交省は3月28日、「一般投資家の参加拡大を踏まえた不動産特定共同事業のあり方についての検討会」の設置を発表した。公表資料では、あくまで情報開示の充実といった前向きな議題を掲げるが、その本音は別のところにあると見た方がよさそうだ。
本誌が伝えてきたように、国交省では昨年10月から、全国の不特法事業者を対象にした一斉調査に乗り出している。3月末の借地更新を控えて、共生バンクへ厳しい質問を投げかけたNAAの姿勢転換についても、同省の強い意向が働いたと考えるのが自然だろう。
表裏の立場を使い分ける国の姿勢を見るにつれ、頭をよぎる事件がある。2001年に問題化し、被害者1万7000人、被害総額1100億円に上った大和都市管財事件である。この事件では、監督官庁であった大蔵省(現・財務省)が会社の不正に対して適切な措置をとらず、漫然と免許更新に応じたとして、司法の場で国がその責任を問われ、被害者への賠償を命じられた。
問題の先送りはもはや限界に来ている。
【国会質疑要約】国とNAA、一体で責任を否定
〇成田借地契約について
【NAA】 空港建設の経緯を踏まえ、地域との関係を大切にする立場から借地契約を締結した。千葉県と成田市の許可申請に使われた事業計画や資金計画を当社としても確認の上、経営会議で承認している。契約はあくまで造成工事に関するものであり、NAAは最終的な事業計画全体に同意しているわけではないので、その責任は負わないと考える。なお、2024年6月の行政処分は賃借人の共生バンクではなく、そのグループ会社に対して与えられたものであり、借地契約の解除事由にはあたらない。不特法に基づく資金調達計画があることは知らなかった(田村明比古社長)
【議員】NAAは土地造成工事のためだけの借地契約と説明するが、事業全体の実現可能性を見ないまま契約するという判断があり得るのか。工事が現在のペースで進むと、あと2年経っても、全体の計画に対する進捗度は3%弱にしかならない。共生バンクはこの事業で1500億円、他の事業も合わせると約2000億円の出資金を集めており、豊田商事事件の規模に匹敵する。事業者との面会実績なども踏まえると、NAAは決して地元から要望があったから貸したという受動的な貸し手とはいえず、成田PJの事実上の当事者として大きな責任がある(各氏)
〇不特法の運用について
【国交省】投資商品である以上、自己責任が原則。投資家は、事業者から開示される情報を十分に確認し、商品に不明な点がある場合には投資を見合わせるなど慎重に判断することが重要だ。事業者には資金の分別管理に加えて、対象不動産の価格算定方法、利害関係取引の有無、損失の発生要因などの開示義務を課すことで、投資家保護を図っている。その監督実務は書面や事務所での聴取が中心なので、都道府県レベルで対応することには合理性がある。国交省と金融庁は、監督留意事項の通知や技術的助言などを通して担当行政庁を支援していく(中野洋昌国交相)
【議員】 消費者委員会(内閣府傘下の専門家組織)や日弁連は、不特法による悪質業者の参入を強く懸念してきた。現状はまさに懸念していた通りになっており、規制緩和を主導した国交省が自己責任論を唱えるのは矛盾している。現行法はポンジスキームが入り込む余地があり、せめて金商法なみの規制強化が必要だ。また、地方や海外の不動産を扱う事業者が増え、都道府県庁の監督能力を超える例もみられる。現状では、例えば福岡県内の施設で問題が発生しても、事業者の本社所在地が大阪府にあれば府知事の監督責任が問われる。制度としていかがなものか(各氏)
【注】 田村氏と中野大臣は2月27日 衆議院予算委員会 第八分科会(質問者:立憲民主党 尾辻かな子議員)、3月19日 国土交通委員会(同)、4月2日 国土交通委員会(質問者:無所属・有志の会 緒方林太郎議員)に出席。加えて4月3日 消費者問題特別委員会(質問者:立憲民主党 大西健介議員)を反映した。上記はその要約。議員指摘は複数の発言を総合
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