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虹色百話~性的マイノリティーへの招待
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第74話 LGBTに優しいトイレ、ってなんですか?

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トランスジェンダーらが感じるトイレの困難

 毎度毎度、他紙の報道からで申し訳ありませんが、「LGBTらに優しいトイレ 東京五輪に向け都が計画」という記事がありました(朝日新聞2月26日付)。東京五輪に向けて東京都が整備する都立会場に、車椅子利用者も使える多目的トイレより少し小ぶりな「男女共用トイレ」が設置されるとのこと。「心と体の性が一致しないトランスジェンダーを中心に、性的少数者(LGBT)にも優しいトイレだ」と書いています。

 そこで先日、東京都庁の都民情報ルームで、この記事のもとになった都の発表があったのか調べに行ってみました。この件に直接言及した発表資料はなく、ルームを通じて聞いてもらったオリンピック・パラリンピック準備局でもわからないとのことでした。朝日新聞の独自取材によるものでしょう。このトイレが「性的少数者(LGBT)にも優しいトイレ」というのは、都の担当者がそう説明したのか、記者の評価なのか、主語がないのでこの記事だけからははっきりしません。都に、性的少数者がトイレに困っているという認知や解決への意欲があるなら、歓迎したいことですが……。

 ということで、きょうは性的マイノリティーとトイレについて、考えてみたいと思います。

 性的マイノリティーへの取り組みの代表格として、学校でも職場でもよく上がるのがトイレ問題。しかし、トイレ問題とは誰の問題なのか、もう少し丁寧に考える必要がありそうです。

 先述の記事も見出しで「LGBTらに優しいトイレ」と打っていますが、LGBT全体がトイレに困っているわけではありません。私はゲイですが、トイレには特段の困難を感じてはいません。

 少し脇道へそれますが、最近、メディアが 性的マイノリティーをすべてLGBTという言葉でくくってしまう ことに、当事者からは疑問や批判の声があがっています。性的指向にかかわるLGBと、性自認にかかわるTの問題はそもそも別であろうし、LGBでもそれぞれ固有の課題もあります。そこを飛ばして「LGBTらに優しいトイレ」とは、かなり大胆な表現ではないでしょうか? しかし、LGBTがだんだん認知されてきたこともあって、メディアによる「LGBT活用」は止まりません。

 さて、本題です。一般的な男女別トイレでは、現代の規範でその性別だと他者から認識されるような外貌をしていないと入りづらかったり、入っても他の利用者から排除されたりということがあります。男が女性トイレへ入ると、「ヘンタイ!」扱いは避けられません。

 これがトランスジェンダーの人たちだと、たとえば自認は女性なのだけど、ホルモン治療の有無や生来の骨格などさまざまな理由から、見た目があまり女性的でないと、女性トイレを使うことが困難となります。さらに、現在、訴訟係争中の経産省職員のトランスジェンダー女性は、諸事情により戸籍変更手続きができないところ、見た目は女性的にもかかわらず、戸籍が男性であることを理由に 女性トイレの使用を上司により禁止された といいます。

 一方、見た目にもまったく男性化しているトランス男性が、陰茎造設をしていなくて「立ち小便」がしづらく、とかく個室がふさがりがちな男子トイレが使えない、かといって女性トイレを使うわけにもいかない、という話もあります。

 また、自分の性別に釈然としないXジェンダーといわれる人たちも、性別で指定されたトイレ利用に困難を感じるともいいます。

 こうしたことから外でのトイレ利用を抑制してしまい、トランスジェンダーで 膀胱(ぼうこう) 炎や便秘などの「 排泄(はいせつ) 障害」を経験している割合が高いとの指摘もされています。

全室個室化・トイレの男女共用で解決可能?

 トイレの困難を解消する方法はあるのでしょうか。私など「自認する性別のトイレを使ってなにが悪い。トランスプライド!」などと無責任に言いたくなりますが、新宿二丁目の公園の男子トイレで女装子(じょそこ。女装する人へのゲイ間での愛称)が化粧直しをしてあたりまえの価値観は、世間とは多少ズレがあるようです(苦笑)。

 私たちは子どものころから、トイレは男女別と思い込んでいます。学校を通過するなかで「隠されたカリキュラム」によって、公共の場所のトイレは男女別であり、それが正常なのだ、と学習しているのでしょう。

 しかし、トイレをすべて個室化し、性別にかかわりなく、だれでも利用できる場所とすれば、この問題はほぼ解決するのではないかと思うのですが、いかがでしょう? 個室には大小あっていいでしょうし、男女用の間仕切りの壁をなくして合理的に配置できれば、便器の数もいまとそれほど変わらないかもしれません。逆に劇場のトイレのような、女性用ばかりが混み、男性用はそうでもない状態が平均化されたりしないでしょうか?

 「化粧直ししながら女子トークができない」とか、「男女が居合わせることで女性が暴力事件の被害者となりうるのでは」とか、異論は出そうですね。暴力は現在もあることなので、別の予防策が必要でしょう。

 とはいえ、全室個室化・男女共用はやはり理想論でしょう。現実的にできることとして、都が計画したように性別にかかわりなく誰でも使える個室トイレを増やしていくことは、よいことだと思います。車椅子を使う以外にも、介助者のいる人や動作に時間のかかる人、オストメイト(人工肛門・膀胱造設者)や幼児連れの人など、さまざまな人がこうしたトイレを必要としています。そのなかに性的マイノリティーの一部の人も含まれるでしょう。

 みんなで使うものは、一人でも多くの人に使いやすく。トイレはそのことをわかりやすく教えてくれます。

トランスジェンダー専用トイレならいりません

 各地の公共施設で、こうした「多目的トイレ」とか「だれでもトイレ」と呼ばれるものの取り組みが広がっています。そのことを歓迎しながらも、私には少し気になる点もあります。

LGBTに優しいトイレ、ってなんですか?

 同性パートナーシップ証明で先駆けた東京・渋谷区役所のトイレに、写真のようなイラスト(ピクトグラム)が掲げられていて、ネット上で物議をかもしたことがあります。左上の、男性・女性と見えるピクトグラムの中間に、それぞれのイラストから半分ずつ合成したようなシルエットに6色の虹色を配したイラストが見えます。これは、なんなのでしょうか?

 言葉で名指さないで、イラストでわからせるからピクトグラムなのでしょうが、私にはこれが何を指すのか、実際にはよくわかりません。トランスジェンダーを表象したものだとすると、「え、これでいいのかな?」と違和感を覚えたのは事実です。そもそもトランスジェンダーは、生まれ持った性別でこそありませんが、男性であり女性であって、中間の性ではないでしょう。男女を超越した、いわゆる「第三の性」として捉えたいと思う人もいますが、このイラストが自分を表象するものと感じられるのでしょうか?

 渋谷区を擁護していえば、この不思議(?)なイラストは、欧米でトランスジェンダーを表すイラストの一例であることは確かです。今回はもう触れる余裕がありませんが、トランスジェンダーのトイレ使用にも 牽引(けんいん) 的役割を果たしてきたオバマ政権が、ホワイトハウス内に設置した「gender-neutral bathroom(性的に中立的なトイレ)」の入り口にも、男性・女性を示す絵とともにこのイラストも付け加えられていたといいます( こちらの4節目参照 )。また、渋谷区のこうした表示を歓迎し、「性的マイノリティーの可視化に役立つ」と支持するツイート等も見かけました。

 ただ私見を述べれば、このイラストは日本では認知もなく、わかりづらいうえに(当事者からも「レインボーあしゅら男爵」との声)、なんだかトランスジェンダー専用トイレを作り、囲い込まれたようです。このトイレは車椅子が出入りできます、パウチが洗えます、おしめ台があります……など機能を表示するならいい。でも、トランスジェンダーの人はこちらをお使いください、といわんばかりの表示に、どこか根源的な違和感がある。「個室トイレをご用意くだされば、あとは必要な人が選んで使いますから。選択の主体性はこちらに持たせてください。それ以上のお気遣いは無用です」。私はそんな気持ちなのです。

 配慮するって、難しいですね(笑)。

トイレマーク、あなたはどれを選ぶ?

 香川県という「地方」を拠点に、20年来の活動を続ける性的マイノリティーの当事者団体「PROUD」があります。そのPROUDさんで、2015年にどんな性別の人でも使えるトイレのマークを募集しました。112点の応募作品から2次審査に残った11作品が こちら に掲載され、一般からの投票が呼びかけられました。

 みなさんは、どんなマークに投票しますか? 投票結果の発表は こちら です。

 お友だちとも選び合い、結果を比べてみてはいかがでしょうか?

永易写真400 永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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