介護施設で相次ぐ事故 利用者が施設を訴え、600万円の賠償命令も
介護保険制度ができて25年。介護サービスの利用者は、制度創設時から3倍超に増えた。一方で、介護施設で事故が起き、利用者側が施設側に損害賠償を求めて訴えるケースもある。施設側の過失を認める判決も出ているが、関係団体からは慎重な判断を求める声が上がっている。
2024年版の「厚生労働白書」によると、介護保険制度が始まった00年4月、介護サービス利用者は149万人。23年4月には、約3・5倍の524万人となった。
利用者が増えれば、施設内で起きる事故のリスクも高まる。
公益財団法人・介護労働安定センター(東京)の分析では、14~17年に厚生労働省に報告された重大な介護事故276件のうち、介護施設で最も多い事故は「転倒・転落・滑落」だった。全体の65.6%(181件)を占めた。
こうした事故では、施設側の責任が問われるケースもある。
福岡地裁小倉支部は、ショートステイの利用者が移動時に転倒して死亡した事故をめぐり、施設側の責任を認めて480万円の賠償を14年に命じた。東京地裁は、トイレ内での転倒事故で施設側に約607万円の支払いを命じる判決を19年に出している。
高齢化が進むなか、同様の訴訟は今後も増える可能性がある。
「現場実態に合った判断を」
一方で、施設側の責任を厳しく問う司法判断が続けば、介護施設でのケアのあり方に影響するとの懸念も強い。
全国老人福祉施設協議会など11団体は、23年に出した共同声明で、裁判所に対して、介護・医療現場の実態に合った判断をするよう求めた。
声明では、多くの要素が絡んで起きる介護現場での転倒事故の確実な予測は極めて難しく、人員が限られる中での施設側の対策には限界があると指摘。裁判官が「理想的な現場」をもとに現場に沿わない「机上の検討」で責任の所在を判断すると、「介護現場の萎縮や混乱を引き起こす」と警鐘を鳴らしている。
【ジャッジ 暮らしのトラブル、司法判断は】
介護施設での転倒事故や、ネットオークションでの出品トラブル、ご近所とのいざこざ――。法廷に持ち込まれた身近な問題に、裁判所はどんな結論を出したのか。朝日新聞デジタル版の連載で随時、配信しています。
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