続・大炎上したスクールフォト業界で勤めてたんだが、学校写真のカメラマンは本当にもう限界かもしれない
・はじめに
2025年3月は、スクールフォト業界にとって事故のニュースから始まった。
まず、栃木県のサトーカメラが、卒業式に配る予定だった卒業アルバムが、7つの学校において卒業式に間に合わないという事態が発生し、TBSや下野新聞が報道した。
50校中7校で間に合わず 卒業アルバムが卒業式までに届かなかった 栃木県の高校 インフル・コロナまん延で撮影スケジュールがずれ・働き方改革などで… | TBS NEWS DIG
そして埼玉の卒業アルバムの印刷業者のイシクラが、地元写真館から送られてきたデータへの不正アクセスを受け、個人情報が漏えいしたおそれがある事案が発生した。
https://www.ishikura.co.jp/news/386
2024年度は、スクールフォト業界にとって最後まで騒がしい1年となった。
・昨年の記事の反応
2024年3月に公開した当noteの記事は、自分で言うのもなんだが、世間で相当話題となった。
3月だけで、NHKさん、AbemaNewsさん(テレビ朝日)、北海道新聞さんが、4月にはAERA dot.さん(朝日新聞出版)が、そのあとも読売新聞さんなどで学校写真業界の危機の問題が取り上げられた。
Twitter(現・X)では、2度も「スクールフォト」がトレンド入りし、類似する形で「日当2万円」「学校写真のカメラマン」というワードも同様にトレンド入りした。
そして今、入学式のカメラマン募集炎上事案と、当noteの記事公開から1年が経過したが、業界に激震が走ったスクールフォト業界はどうなったのか。
なんと、業界は全く改善されていない。全くだ。
まず、3月、4月にスクールフォト業界が話題になったときの、業界内外それぞれの反応はTogetterにまとめたので、そちらをご覧いただきたい。
https://togetter.com/li/2331446
https://togetter.com/li/2390499
https://togetter.com/li/2356335
他のSNSでも以下のような意見が見られた。
「卒業アルバムを見て、胸がドキドキした。
息子の卒業式が終わり、体育館から教室に移動するときのこと。
窓からグランドが見え、すでに卒業生の集合写真の撮影がはじまっていた。
スクールフォトカメラマンが三脚に載せたカメラと学生の列を何度も行き来する。
顔が隠れないように指示を出しているのだろう。
天気は快晴。日射しが強く学生たちの目は細くなるだろうから、表情にも気をつかうことになるのか。
これは大変な仕事だ。
幼稚園から高校まで、子どもには親の仕事を聞かれたら「ライター」と答えなさいと徹底してきた。
まちがっても写真家などと言ってはいけない。学校行事の撮影を頼まれると厄介だからだ。
学内撮影でどういう点に留意すべきかはそれとなく想像がつく。ただ、それを確実にこなせる気がしない。プロなんだからちゃちゃっとやっちゃってください、と言われることが多いのだけど、プロの仕事はちゃちやっとでは済まない。やるからにはどんな依頼にせよ、しかるべき到達点を目指すことになる。
そんなわけで、カメラ好きのお父さんに徹した。
息子が持ち帰った卒業アルバムを開く。スクールフォトカメラマンの集大成といっていいだろう。
狭い校舎を広角で撮り、とても荘厳に見える。そうだよな、こういう撮り方になるよなと、なぜか胃がしくしくしてくる。コラージュレイアウトのページでは、写っている学生ひとりひとりが主役に見える撮り方をしている。また胃がしくしくする。
同じことをやれと言われたら、絶対にムリだ。
そう言えば、息子が高校一年のとき、入学式の集合写真が撮れていなくて、息子のクラスだけ撮り直したという話を思い出した。再撮影した集合写真に入学式の初々しさはなく、フツーのクラス写真になっていた。ひとクラスだけデータ破損したのか、レタッチか何かの作業で上書き保存を失敗したのか。もう考えただけで吐血しそうだ。
リテイクの許されない世界は大変だ。」
「ギャラに関しては、まぁどんな仕事でもピンキリはあるので、相場と言われている2万円/日が安いかどうかはその人の捉え方次第でしょう。というか、自分が代写カメラマンを勤めた35年前と変わってないギャラってどうなんだろう。」
「帳簿を見たら、91年から代写の撮影料は、変わってないので、純粋に撮影料の中身だけでは、やってられないだろう。
この報酬金額が上がらないのは、自分たちも元請しているスクールで、人手が足らない時に助けてもらうため、お出しするお礼の金額みたいな所もあり、お互いに助け合うが故に成り立つ金額なのだ。
良い悪いは、別にして、この辺り、本当に代写さんで食べていけるようにしてあげるというのは、難しいだろうと思う。
仮に年間200日の仕事があっても、それの2倍=400万円しか年商がないのでは、やっていける道理がないのだから。
いわば、バイトさんと変わらないのであって、使い捨て要員と言われても仕方ないと」
「不定期な仕事で、天候で中止も有り得て、ほぼ一日拘束される仕事でそれなりの技術、機材が必要で、日当2万って。こんなの誰もやらないでしょ。不足して然。日当3万以上が妥当じゃないかな。5万って言われても高くないと思う。
逆に言えばそれぐらいの日当払えないぐらいしか写真が売れないのなら、もうそういうのは需要が無いんですよ。どこも親が必死に写真撮ってますから。運動会も入学式も卒業式も。」
「撮影費が安いから、人が集まらない。日給2万円?お話にならないだろう。
例えば、シーズン中は日給8万円出せば人は集まる。請け負うカメラマンも機材など設備投資があるのだか
ら、2万円などでは割が合わないはず。割が合わない事はやらない方が良い。」
「フリーランスでカメラマンをしています。
運動会は機材が痛むので、お受けできません。砂がレンズの隙間に入ってしまって、修理代が数万円かかりました。」
「また日給2万円の学校カメラマンが...て話がぶり返してるようですが、そもそも良くないのは無責任な募集であって、金額等はその人たちの関係性だし外野が口出すことじゃないんですよね。
つまり無責任の外部の批判はその業界を苦しめるだけですよと。まあでも静岡においてこの辺、何かできるかな…!」
「フィルムで撮っていた頃は『撮影してきました〜」って依頼先に渡して終わりでしたけど、デジタルになってからは大量に撮影する様になったので、仕分け作業までがカメラマンの仕事になってしまって、ギャラ半額って感じですよね。
身近でも学校写真を多く撮っていたフリーフォトグラファーが、『今のギャラで続けていくことはもうできない』と転職して就職してしまいました。
今日のyahooニュースにもありましたが、学校写真の日当って30年位前で都内12000~15000円で20年位前で20000円位のところが出てきておぉ!ってなって(その頃もこの日じゃやってられないみたいに言われたんですよ)、それから全然変わらないですからね。
自分は長く学校写真に携わり続けてしまったので、今更別ジャンルにはなかなか行けないのと、撮影という好きな事を仕事にして多少の貧乏はあんまり苦にならないので、体力が続くまで学校写真がメインになるでしょうね。」
「N市も5月に約70校の小学校が運動会を同日開催する日があります。
うちも10数校重なり、絶望的な状況でしたが、ありとあらゆるネットワークを駆使して、また、たくさんの皆様のご協力のおかげで、なんとかカメラマンの皆様を確保しました。
今回の記事ではカメラマンの立場のはなしですが、我々経営者側も大打撃です。
カメラマンの確保がなんとかなりそうな我々としても、県内外、広範囲からの協力をいただいているので、報酬以外に交通費・宿泊費等の出費が大変なことになっています。それでいて低価格競争を強いられ、ますます苦しい状況が続きます。」
このように悲鳴のような声が、業界の内外から聞こえてきた。
一方で、スクールフォト業界で働いている人のコメントとして、
「外野は口出しをするな」
「最近ヨソが騒がしい、あまり騒ぎ立てないでほしい。」
と、記事や世間の反応そのものへの批判をする方も多数見受けられた。
また、日本写真家協会に所属している写真館の方も「協会員だからこそ言えないことをよくぞ言ってくれた」という意見もいただいた。
この通り、スクールフォト業界は完全なムラ社会であると言わざるを得ない。
・学校カメラマン不足が加速している現実と、人件費の問題
そして、反応の中に貴重な証言が得られた。
どうやら、スクールフォトに携わる学校カメラマンの日当の報酬金額は、30〜35年前と殆ど変わっていないようなのである。
当然のことながら当時と現代ではお金の価値は異なるはずである。
そのため、暴力的な計算となるが35年前と比較をしてみた。
あくまで私は経済の専門家ではないので、ざっくりとした計算しかできなくて恐縮だが、最低賃金を基準に比較することとする。
東京都の最低賃金は1990年が548円。2024年で1113円。
つまり、最低賃金が2.12倍上がっている。
とすると、1990年頃の学校写真のギャランティが2万円だとして(そもそもそれが当時の適正価格かどうかは分からないが)、
単純計算で2.12倍して42400円。現代では消費税があるのでそれを含めると46640円。
当時と現代で異なるのは、フィルムからデジタルへの移行だ。
デジタルになってからはカメラなどの機材代は高騰しているし、撮影したネガフィルムをクライアントに提出すればよかった業務が、たくさんの写真の中から、失敗した写真のデータを削除するなどのセレクト作業も必要になる。
となると当然、そこそこ高性能なパソコンが必要になり、また業務に携帯電話だって必要なはずだ。
かかってくる経費も増えているし、当時より仕事量は増えている。
そのことから、学校カメラマンの当時の報酬と業務内容を現代の金額に換算すると、ざっくりだいたい5万円ぐらいの業務内容ではないだろうか。
もう少し時代を現代に近づけて、10年前の2015年の東京都の最低賃金を基準に比較してみよう。
2015年は907円、2025年は1163円。
おおよそ1.28倍。
当時、自分も15000~20000円の報酬をもらっていたが、10年後の今の価値に変換すると20000×1.28×消費税分1.1=28209円。
当時が15000円だとすると、現在の価値だと21120円。
しかし、現実はよくて税込み22000円。
やはり実質的に報酬は下がっている。
物価高、人件費増の世間の流れに全くついていけていない事がわかる。
一部、「うちは報酬を上げたぞ」という写真館が存在するが、報酬を2万円ジャストから2万円台前半にしたぐらいである。
おそらく報酬にかかる消費税分をプラスしただけかと思われる。
インボイス制度導入に伴ってきちんと消費税分支払うようになっただけで、税理士法人に勤務している方にコメントを貰ったところ、
「これは報酬を増額したとは言えない。消費税分の報酬を増額していないクライアントの場合は、実質的に支払ってるギャラを減額している。」ということであった。
一方で、一般の会社員の場合は「会社は給料とは別に健康保険や厚生年金を払っていて、経営者が払う人件費は給料のおおよそ倍かかる」という定説がある。
仮にフリーランスに報酬を20000円支払ってるということは、会社員の給料に換算すると日割り計算で10000円程度になると考えられる。8時間働いたら時給1250円相当。
つまり、全ての日雇いの代写カメラマンに対して、実質的に最低賃金の初任給の人と同等の金額しか払っていない、しかも機材は代写カメラマン持ちなので、長時間の撮影現場では、実質的に最低賃金を下回る現場が発生する可能性があるという考え方は暴論だろうか?
実際、生活が成り立たないということで、廃業する学校カメラマンが後を絶たなくなってきた。
・発注者側の写真館の問題
つまり、現代において本来5万円程払わないといけない業務の内容に対して、30年以上20000円程度の報酬のままでやってきたスクールフォト業界。
それに加え、加速する少子化、追い討ちをかけるように入札制度と値下げ競争、そして写真のプリント代などの原価はこの数年で2倍になっていたりする。
だからと言って、少子化が急激に進んでいる現状は変えられないので、これは元請けである写真屋も売上が減っていることから、無い袖は振れない。
出生数は2015年で100万人。2024年で70万人。
なんと3割も減っている。
お客さんである子供の数は、小学校の場合は卒業する12年前には決まるので、2036年ごろにはこのままの売上で行くと、業界の大きさが3割にシュリンクすると考えられる。
突然12歳の子供が生まれるなんてことは、自然の摂理から考えてもあり得ないのは明白だ。
そして皮肉にも、少子化でお客さんが減って困っている写真屋やカメラマン側が、自らは子供を作れないほど経済苦であるパターンもよく見かける。
ということは、これまでのビジネスモデルは通用しない、もう既に崩壊寸前なのではないか?
スクールフォト業界全体が悪循環に陥っている。良くなる要素が全く無い。
・発注側の写真館の意見。
「運動会で5,000枚撮るのは、下手な鉄砲も・・・のカメラマンです。1,500~2,000枚が多いです。
昨年5月末の土曜に運動会が集中し人手が足りず、私は東京ですが北海道から人を呼びました。
運動会は5月下旬の土曜と10月の体育の日近くの土曜、学芸会は11月後半の土曜、そして入学式・卒業式が同じ日に集中して人が足りなく、その確保に一年中気を使います。本来は日程をずらして欲しいですが。入卒だけでも午前午後に分けてやってくれればと思います。
ウチは周りより日当は上げています。私がもらっていた立場の30年前は15,000円くらいで、今は2万円代前半です。」
「お金は大事で重要なのは分かるけど、ずーっと学校写真を続けている、続けられている学校カメラマン達は、代写さん方を含めて、心の置き所が、先ずは「お金」ってなってない。
お金を稼ぎたいから、写真を売るってスタンスじゃない。
それこそ、綺麗事って言われるけど、お母さんやお父さんの代わりに写真を撮ってあげて、思い出を残してあげて、それを買っていただけるってスタンスだと思う。
企業相手で1カットうん十万じゃない、一般のお母さんお父さん、それこそ、語弊あるけど、シングルで一生懸命に子育てしてるパパママに対してだから、そんな額にならない!
だからと言って適当にパシャパシャでイイなんて訳じゃない!
過酷、重労働、低賃金・・・かもしれないけど、
「心」からの仕事だからイイんじゃない!
だからこそ、だからこそ、だ・か・ら・こ・そ、
"覚悟、を持とうって言ってるのよ。」
後者は完全に根性論である。
覚悟を持って仕事をして、キャリアアップ、生活水準の向上が見込めると考えた上での発言だろうか。
また、完全に不法行為だとわかっている悪質な業者の例を見てみよう。
こちらは京都の卒業アルバムの業者だが、カメラマンに対し源泉徴収をせず報酬の支払いを行おうとしている。
国税庁に確認したところ、写真撮影の報酬において源泉徴収する場合としない場合が存在する。
それは、Webに使用する目的で撮影し、写真を印刷しない場合→源泉徴収不要
写真を印刷、紙面等に使用する目的での撮影の場合→源泉徴収必要
ということだった。
この業者は京都にある卒業アルバムの会社である。紙媒体である。
そのため、源泉徴収漏れをわざと行っているものと考えられる。
ちなみに、写真の銀塩プリントというのは厳密には「印刷」ではなく、原理的に「現像する」という行為になるが、この場合は源泉徴収されるのか否かという疑問が生まれる。
ここも国税庁に確認を取った。
答えは、写真の現像プリントする場合の撮影報酬に対しても、源泉徴収は必要。
現像された写真は「紙」なので、それに対する業務の報酬は源泉徴収されるということであった。
話がそれてしまった。他にも写真屋より悲惨な現実を聞いた。
昨年、埼玉から京都・奈良への中学生の修学旅行の学校行事があった。40人×5クラスが3日間京都・奈良を回る行事だ。
しかし、カメラマンを首都圏で確保できなかったため、大阪のカメラマンが現地受けすることになった。
関西在住のカメラマンに委託するということは、新幹線代と宿泊代などの経費がかからないという大きなメリットがある。
ということは、単純に人件費と地元の交通費だけで良い。
22000円×3日+交通費。ざっくり7万円の外注費用としよう。
京都での宿泊費約2万円や、新幹線の団体往復運賃約3万円程度の経費を浮かせた。
にも関わらずだ。
以上の条件で修学旅行の3日間の撮影を写真販売にかけたとしても、カメラマン外注の経費で、修学旅行単体では赤字だという。
かといって、卒業アルバムに修学旅行の写真が無いという自体はありえない。
つまり卒業アルバムでの売上があるためなんとか黒字にしているだけであって、修学旅行にカメラマンが行かないほうが利益が出るという、恐ろしい事実が判明した。
他にも、2クラスで44人の小学5年生の社会科見学の撮影で、行き先が2つの工場見学という場合。
企業の工場の場合、工場見学といえど機密が多いので内部は撮影禁止だ。つまり撮影可能な時間は少ない。
だが、契約している学校から「社会科見学の撮影をお願いしたい」と言われると、学校との関係性から断ることが非常に難しい。
やはり撮れ高は少なく写真販売だけでは人件費だけで赤字なので、やはり結果的に現場に行かないほうが利益が残るということになる。
これはもうビジネスではない。ボランティアだ。
ビジネスモデルが破綻している。
そして、運動会や入学式、卒業式などの局所的な繁忙期は、スクールフォト専門のカメラマンだけでは足らないため(そもそも1年前のスクールフォト募集炎上事案の原因はここにあるのだが)、他分野が専門のカメラマンをかき集めることになるが、スクールフォトに不慣れなカメラマンが低報酬で付け焼き刃な技術で撮影したとして、商品としてのクオリティを安定して担保することができるだろうか。
繁忙期、他分野のカメラマンの方を紹介しようとしても、「報酬が安すぎてスクールフォトの案件を受けられない。」と断られることは、いろんな人を紹介してきた私も経験している。
写真業界に限らず、「フリーランスの報酬=そのフリーランスの業務での市場価値」と考えた場合、人材の市場価値を無視した過酷な現場の低報酬での依頼は、お願いすること自体がそもそも失礼にあたり、申し訳なくて依頼することが出来ない。
ただ、普段報酬の高い業界で活動しているカメラマンは、スクールフォトを撮らせたら写真のクオリティが低い場合が多い。
普段は専門ではないスクールフォトを撮っていないから当たり前だ。
なので、雇う写真屋側の感覚としては、「高い報酬を要求するカメラマンほど下手くそだから、どうしてもじゃないと発注したくない。」というものになる。
「報酬が低くて過酷な撮影現場のカメラマン」と、
「高い報酬を与えるほどのクオリティに達してないため、
報酬を出し渋る発注者」
という対立構図が出来上がってしまう。
傍から見れば同じように見えるカメラマンの仕事でも、業務内容がBtoBかBtoC、プロジェクトによって動く金額の差や、業務で関わる人間の性質、コンプライアンス、ガバナンスが業界にそもそも存在するか否かなど、あまりにも業務内容に差がありすぎて、持ち合わせている常識、見えている世界は大きく異なる。
前回書いたnoteに、カメラマンの激しいヒエラルキー問題を取り上げたが、基本的に「混ぜるな危険」なのである。
そもそも、自分がnoteに書いた記事もAERAさんの記事も「構造的ビジネスモデルの欠陥がある」という指摘をしているのに対し、元請けの写真屋は「報酬を上げろ」という風に捉えていて、論点の視座が異なるので、それだと解像力の低い理解にしかなっていない。話はかみ合わないのも無理はない。
ところで、2025年2月下旬にカメラのキタムラのグループ企業であるラボネットワークさんのセミナーに参加し、社員の方に前回のnoteの感想を聞いたのだが、
「あのnoteの記事は、学校カメラマンの社会的地位を下げるものだった。その程度のカメラマンが学校に来て撮影していると思われるのが懸念される。学校写真のカメラマンの社会的地位がもっと高くしていきたい。」
とのコメントであった。
ここにきてその感想では、学校写真業界の人材不足などの現実に対する危機意識があまりにも無いと言えそうだ。
先ほど、学校写真の世界はムラ社会だと指摘したが、この業界は学校写真以外の余所の世界を知ろうとしない。毎年の事なので、仕事のやり方を変えようともしない。
低いなりに安定しているから、このままが良い。
「お願いだからヨソがかき回さないでくれ」と考えている人も多いようだ。
ただ、カメラマンがどんどん学校写真から離れていって、数多ある写真業務の中でも下に見られているという現実は残念ながら事実である。
現時点の問題点をきちんと検証しなければ、早ければ数年で受注者も発注者も共倒れになる。
学校写真のカメラマン不足は、変化の努力をしてこなかった業界の自業自得である部分は大きい。技術のあるカメラマンの人口多いときは成功してたけど、減ってくれば首が絞まっていく。
・卒業アルバムの入札制度の弊害
前回も述べたが、公立の学校においては卒業アルバムは業者は入札によって選定される。
学年によって業者が全て違うという場合も多い。
酷いケースをいくつか紹介しよう。
・入学式
入学式の時点で卒業アルバムの入札業者が決定していない場合(埼玉県などの学校で頻発している)、入札資格のある業者がカメラマンを派遣する。業者が決まっていないため、複数の業者がカメラマンを手配し撮影に行かせる。しかし、入札される業者はひと学年につき1社である。
入札で選ばれなかった業者は、人件費を出しても1円たりとも収入が得られないことになる。
・体育祭(運動会)や文化祭
中学校や高校などで学年ごとに卒業アルバムの業者が違う場合、その業者ごとにカメラマンがやってくる。
1学年を2人で撮影する場合、その学校にはカメラマンが3学年分で6人注ぎ込まれることになる。
自分の担当学年の撮影以外の時間は待機である。繁忙期なのに実に人材の無駄遣いである。
これも入札制度で学年ごとに業者が違うことが影響している。
・学校カメラマンの意識や目標
去年、話題になった影響で、良くも悪くもスクールフォト業界は注目された。
皮肉なことだが、「話題になったとしても、あの記事を読んでこれから学校カメラマンになりたいという人は増えないだろう。なんてことをしてくれたんだ。」という意見も散見された。
ところで学校カメラマンは、何故、学校カメラマンをやっているのだろうか。
多くの場合、若い人は広告などのアシスタントを並行しながら、生活のために学校の撮影を並行して行っている。
ゴールとして学校カメラマンを目指す人は本当に数が少ない。
そして徐々に広告や出版などの別ジャンルの撮影で売れていくと、安くてキツい学校の撮影から離れていってしまう。
つまり、カメラマンのキャリアアップを考えたときに、「学校カメラマン」はゴールではなく通過点にすぎないのだ。
全ての人がそうとは言えないが、この記事を書いている私とて、別ジャンルのカメラマンを目指して写真を始め、あくまで別ジャンルの仕事だけではまだ生活が安定する段階までいっていないため、学校カメラマンをやっている(ただし、学校カメラマンとして受けた仕事はきちんと行う。仕事自体は好きだし、手を抜くのはプロフェッショナルではないからだ。クライアントに文句を言われないような写真を納品している自負はある)。
社会人はどのジャンルの仕事をするにしても、キャリアアップ、生活水準の向上、人生のステータスの変化を考えているだろう。
しかしながら、スクールフォト業界は一生報酬が上がらない世界。
キャリアアップしようにも天井が見えている。
売れっ子になりたければ元請けの写真屋になるしかない。
また、学校写真は個人情報の塊だ。写真は作品として、実績として外に出すことは極めて難しい。
私の師匠は「うちのところで学校を撮ってた連中は、みんな頑張って育てても、他のジャンルの撮影の仕事で売れちゃって巣立ってしまう。めでたいことではあるんだけれど。」と言っていた。
巣立つというのは学校写真ではなくて、鉄道写真家、報道カメラマン、広告写真家、スポーツ写真系のメディア、物撮りだったりスタジオ撮影、メディアや動画など、学校以外の撮影の仕事で生計を立てられるようになって、徐々に学校の撮影の割合を減らしてしまうことだ。
みんな恩義を感じてるので、運動会の時とかは戻ってきてくれることもあるが、学校の撮影自体を断ることに決めた自分の仲間もいる。
また学校写真に仕事の比重を置きすぎると、学校以外の依頼がきたときに既に学校の仕事が入っていると受けられなくなるという問題から(他の仕事がギャラが高い、或いは他に撮りたい仕事があるなど、理由は様々だが)、カメラマンとしての自分の市場価値を高めようとしたら、どうしても学校の仕事を減らしてしまう。
雑誌などののカメラマンは参入の間口が狭く、もともといたカメラマンの席が空かないとその席に座れないし、席の奪い合いのときに学校の仕事が入っていたら障害になる。
フリーランス側が学校写真の仕事を受けた影響で、他の仕事が受けられず収入が減ったということはありがちだが、なんとか学校撮影を含めて2つの現場をはしごした事例もある。
・あるカメラマンのとある1日
①
・7:30-14:30 横浜で入学式撮影をして元請けの写真屋の事務所に行って即納品。報酬は2万円で、遠方でも関係なく交通費無し。
・16:30-17:30 移動して浦和で求人広告の撮影。3万で交通費あり。
②
・9:00-16:30 鎌倉にて遠足 17000円+交通費。
・18:30-21:00 メディア主催のイベント取材。30000円+交通費。
保護者からの売上で成り立つBtoCの職業と、企業からの売上で成り立つBtoBの職業という大きな違いがあるがが、 フリーのカメラマンの負担度、拘束時間の長さ、失敗できない緊張感の有無などに対し、ギャランティは反比例している。
それでは「ギャラの高い仕事だけをすればいいじゃないか!」というのはよく聞く話なのだが、そのキツイ仕事を避けられて人材不足に陥っている。
報酬の相場もそうですが、学校写真屋は学校以外の写真業種にも関心や知識を得た方が、理解度が高まってお互い幸せではないか。
学校写真の世界だけだと、井の中の蛙だ。
・クリエイティブとは真逆の世界
カメラマンは本来、クリエイティブな職業であるという問題だ。
出版社の編集者さんやライターさんなどと話す際に、ほぼ100%聞かれる質問がある。
「君はどんなカメラマン(or写真家)になりたいの?
どんな写真が撮りたいの? どんな作品を作っているの?」
そもそも、カメラマンの「個性」を含めて見られている。
無難な写真をきちんと撮れるスキルを備えている前提で、「個性」を求められる。
一方、スクールフォトのカメラマンはその性質上、全員を平等に撮影するというのが基本であるし、各カメラマンの癖を平均化しないといけない。
とある1人の代写のカメラマンだけものすごくハイクオリティな写真を撮影、販売すると売上は非常に伸びた。
しかし、そのハイクオリティな写真を撮れるのは特定の外注カメラマンだけで、他の人が真似できるものではない。
そのため「来年も同じような写真を撮ってほしい」という顧客の要望に応えられないため、できる限り他の人でも代替可能な、個性がなく無難で売れる写真を求められる。
つまり、カメラマン目指す先と、提供する商品の方向性が間逆である。
学校写真をメインでやりたい人じゃなく、もっと別の写真を撮りたいフリーの人にとっての学校写真は、あくまで生活するための職業として割り切らなければならない。
そのため、「学校写真で生きていく!」という目標意識がある人以外は、カメラマンとして成長する中で、学校写真は通過点になってしまう。
元請けの写真屋さんにとっては非常にしんどい話だが、相手の意識を理解しない事とミスマッチ自体、不幸の元だ。
・学校カメラマンの人材不足に対して解決策はあるのか
学校カメラマンの人材不足に対しては、報酬を増やせば人は集まる。
小売のコストコやIT製造業のTSMCは、アルバイトに対する時給をその地域の水準より相当高くして募集したところ、地元商工会議所は抗議をしたという話あったが、給料の高い仕事に人が集まることは当然のことだ。なぜなら「収入=自分の社会人としての市場価値」だからだ。
では、学校カメラマンが人材不足だから、無理してでも高額な報酬を与えて技術を教えて育てるとしよう。
しかしながら、人材を育てて増やしたところで非常に大きな問題がある。
急激な少子化だ。
子供及び写真を購入する保護者、つまりお客さんの数は減る一方だ。
現状、若手のカメラマンが殆ど補充されない影響で、引退したいカメラマンが引退できず、カメラマンの平均年齢は上がっていく一方なのだが、 お客さんは少子化で減っていくので、一時的に一人あたりの仕事量は増えている。
ただ人材不足だからといって、今若くて技術のある学校カメラマンを増やそうとすると、将来少子化で仕事が減った頃には人材がダブついてしまい、廃業する人が結局増えてしまう。
少子化に対して共同通信の記事を引用しよう。
「子ども、ほしくない」半数超 ロート製薬調査、4年目で初」
ロート製薬は1日、妊活に対する意識調査「妊活白書」2023年度版を公表した。
18~29歳の未婚男女400人のうち「将来、子どもをほしくない」と回答した割合は55.2%に上った。
この設問を開始して以来上昇が続き、4年目となる今回初めて半数を超えた。
ただ、子どもを望まない人で「授かれる可能性を残しておきたい」とする回答も一定数あった。
調査は23年12月に4日間、インターネット上で実施した。男女別では、男性が59.0%で6割に迫り、女性は51.1%だった。初回の20年度調査で子どもがほしくないと回答した男女の割合は44.0%だったが、ここ3年で11ポイント超上昇した。(引用元 共同通信)
元となったロート製薬の記事はこちらである。
そもそも子供を欲しくない人、子供を作らない選択肢を取る人が増えている。
私の周りの場合だと、結婚しても子供を作らない選択をしている人の方が半分以上を占めるのではないだろうか。
特にキャリアアップを目指す女性は「子供は欲しいけどキャリアアップの足枷になる方が嫌だ。」と考える人も多い。
言ってしまえば、お客さんになってくれる人は今後増えないので、撮影の絶対数も増えない。
ただ、現時点でこれだけ「カメラマンが足りない、どうしよう」ってなっているのに、「若手を使い捨てせず、育てる」事へのノウハウがない。
これまで写真屋がカメラマンをきちんと育ててきた事がない、カメラマンの自主的な努力によってなんとか人材育成が成り立っていたので、その発想も出てこない。
中小の写真屋が個人事業主であるカメラマンを育てるという事に対し、「誰が育成コストを負担するの?」という考え方もあるにはあるのだが、知人のデザイナーは「こうなった以上、業界のみんなで育成するんだよ!」と一刀両断していた。
・写真の販売価格の問題
昨年秋に、以下のような投稿がなされた。学校写真の値段が高い。これに対し、Twitter界隈が話題になり、決して高くはない、むしろ安いなどのコメントが数多くついた。これについてはTogetterで各コメントをまとめたので見ていただきたい。
https://posfie.com/@tripperdriver/p/D4MhNXR
・無関心を貫く広告フォトグラファーたち
昨年投稿したnoteの記事は、スクールフォト業界の現実が衝撃的だったのか、写真業界を超えてバズってしまい、相当話題になった。
ところが、スクールフォト問題に対し無関心かつ無反応だった人が極端に多いジャンルがあった。
広告写真業を営むフォトグラファーだ。
どの広告フォトグラファーもスクールフォトに対しほとんど話題にしない。
その事自体に不思議に思ったので、日本の広告写真業界において重鎮と呼ばれる方に訪ねたところ、こう見解を述べた。
「そもそも、昨年のスクールフォトの問題は炎上するほどのことなのか?
写真でお金欲しいのなら、そのレールに乗れば良いだけ。
広告系の人は自分の価値を上げる事と、名前を売り出す事しか興味はない。
だから、スクールフォトを見る事も、意見する事もない。
いかに、自分の写真を高く売るか。自分の技術、感性を磨くことか。
広告写真家は、上しか見ない。」
この方はスクールフォトを下に見ているというわけではないが、そもそも全く見ていない。
また、別の広告写真業を営む方は、
「1枚100円で売る写真ってなかなかモチベーション上がらないかもですよね、、 、単価千円でもいいから、臨場感が伝わるL版ではないA4でも耐えられる、例えばポカリスエットとかの奥山由之さん風のなら欲しいのかなと。」
と、学校写真の全員平等に撮影するという特殊性をなんら理解していないコメントを発した。
スクールフォトを営む人からすれば、これらの方々に反感を買う方も大勢いるであろうが、広告写真の方々はスクールフォトの世界の人間とそもそも戦っていない。
同じ写真といえど、大学病院の医者と、地方の開業医の歯医者ぐらい違う。
解像度が低いコメントが出るのも致し方ないだろう。
スクールフォトは、どこに誰と行って、どう過ごしたか、そういう思い出を第三者目線で淡々と記録する仕事だ。
そして、いい写真だからたくさん売れるわけでもない。オーダーメイドに近い商品だ。
また前述した通り、保護者のお財布は増えるわけではない。
・下請法違反・フリーランス新法違反の疑い
ところで昨年11月よりフリーランス新法が施行された。また、以前より下請法というのが存在するが、その中に以下のような禁止項目がある。
・「買いたたきの禁止」
買いたたきとは、下請事業者の給付の内容と同種または類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めることを言い(下請法4条1項5号)、親事業者(元請け)が下請事業者と下請代金の額を決定する際に買いたたきを行うと下請法違反となる。
ブライダルフォト業界が概ね日当2〜3万であるところが多く、出版社は概ね最低でも3万円以上。
ところがスクールフォトは報酬が多くて22000円程度。
カメラマンヒエラルキーに記載した通り、スクールフォト業界は安くて長時間拘束でハードである。
ということは写真業界を一つの物差しで見た場合、スクールフォトは業界全体で安く、スクールフォト事業者に関わる事業者の全てが「著しく低い下請代金の額を不当に定める」に引っかかる可能性がある。
その中でも以下の業者は圧倒的に報酬が少ない上、他の不法行為があるため、社名を実名で、かつ実際の資料を引用し公表する。
・千株式会社(はい!チーズ)
(以下、機密情報につき社外秘と表記がされてあるが、下請法やフリーランス新法の買いたたきの可能性がある項目であることから、法違反の重大性、社会性、被害の内容などを考慮し公表する。
また、不正競争防止法違反の営業秘密の侵害にも当たらないと、専門家から見解を貰っている。)
千株式会社(はい!チーズ)だが、カメラマンの報酬をこのように規定している。年に1度査定があり、カメラマンのランクを上げるということだが、よく見て欲しい。
最上位プラチナ+ランクのカメラマンでも17600円しか貰っていない。
また、そのランクに属するカメラマンはほぼ存在しないという話である。
そして委託約款には以下のように書かれている。
第6条(カメラマンの従事不能、違背事由及び違約金等)
・カメラマンは、以下に定める違背事由が生じたときに、以下の違約金が発生するものとします。また、下記違約金の支払いをもって損害賠償請求を免除するものではなく、弊社に損害が生じた場合はカメラマンはその損害の一切を賠償するものとします。
(1)カメラマンが弊社に納入した写真データにピンボケ又は被写体ブレなどが認められ、弊社が販売目的で写真データを掲載することが著しく困難な場合は、カメラマンの報酬は発生しない。写真データの2分の1以上にピンボケ又は被写体のブレなどが認められる場合は、金7,000円。
ピンボケ又は被写体ブレなどが写真データの2分の1未満であるときは、金2,000円。
(2)写真データの一部が欠落している場合、又は写真データの一部が破損していて当該データを掲載することができない場合は、金2,000円。
(3)カメラマンが弊社に納入した写真データに色彩の異常(暗色、黄色、赤色など)又はカメラマンに事前通知した撮影指示に従っていない写真があり、弊社においてそれらの写真データを掲載することが不適切であると判断する場合は、金3,000円。
(4)プログラムの一部について写真撮影がなされていない場合又は行事の参加者の一部しか写真撮影しておらず参加者を満遍なく写真撮影していない場合は、金3,000円。
(5)弊社がカメラマンに対して撮影すべき写真の総枚数を事前に通知した場合において、カメラマンが撮影した写真の枚数がその総枚数に達しないときは、金1,500円。
(6)カメラマンが第8条第1項に違背して主催者側の意図又は要望に沿う写真撮影をしなかったことにより、弊社が主催者側から苦情の申し出を受けたときは、金1,000円。
(7)撮影の事前準備及び撮影時のカメラマンの所作について、弊社が主催者又はイベント参加者から苦情の申し出を受けたときは、金1,000円。
(8)第5条第4項に該当した場合は、金2,000円(弊社は、カメラマンの遅刻によりイベント開催状況の一部を写真撮影することができず、イベント主催者からクレームを受けたときは、カメラマンに対し、損害賠償を請求することができるものとします。)。
(9)「カメラマンマニュアル」に記載されている写真データの納品方法を遵守しなかったため、弊社がカメラマンに対し、納品された写真データについて問い合わせをしなければならなかった場合は、金500円。
(10)「カメラマンマニュアル」に記載されている写真セレクト又は写真データの納品方法を遵守しなかったため、弊社がカメラマンに対し、再度マニュアルに従った作業を行ったうえで写真データを納品することを求めたにも関わらず、カメラマンが弊社の要求に応じなかった場合は、金5,000円。
(11)「カメラマンマニュアル」に記載されている写真セレクト又は写真データの納品方法を遵守しなかったため、弊社が主催者又はイベント参加者から苦情の申し出を受けた場合は、金2,000円。
(12)カメラマンが写真データを第三者に流出させてしまった場合,流出させてしまった写真データのイベント毎に、カメラマンは弊社に対し,違約金として100万円を支払うものとします。
(13)カメラマンは、弊社の事前の承諾なくイベントの主催者又は責任者等に対し、イベントの写真撮影をカメラマンが自ら受託する旨、もしくは弊社と同一又は類似の事業を営んでいる法人を紹介又は斡旋する旨の営業をしてはならないものとし、これに違反したときは、写真撮影に関する契約が成立したと否とを問わず、弊社に対し、違約金として100万円を支払うものとします。
(14)カメラマンは、第5条第2項の連絡を怠ったとき(カメラマンは、イベント会場に到着したときは、集合時刻までに弊社が定める方法(現着報告)を実施するものとします。)は、違約金として1,500円を支払うものとする。
(15)⑦の納品義務(弊社の許可がない限り着替え中等による下着が見えている写真や、女児の上半身裸、男児女児共通で下半身裸の写真 は、如何なる場合でも撮影してはならないものとします。万が一意図せず撮影してしまった場合はその場でデータ削除し、納品時は確実にセレクトで除外して納品するものとします。)に違反し、弊社においてこの義務違反が確認されたときは該当写真1枚につき違約金として10,0 00円を支払うものとする。
・弊社が主催者又はイベント参加者からカメラマンの所作又は対応について苦情の申し出を受け、弊社において主催者との契約関係を維持することが困難となるおそれがあると判断し、主催者に対して弊社の従業員が謝罪せざるを得ない状況に至った場合は、弊社は、カメラマンに対し、カメラマンの報酬及び交通費の全額を支払わない。
驚くほどの違約金のオンパレードである。なんと最大100万円の違約金を支払う事を規定に書かれている。
フリーランス新法の禁止行為、報酬の減額(あらかじめ定めた報酬を減額すること)に違反することは当然だが、こうも堂々と記載するとは思い切ったものである。
・フォトクリエイト
契約前の説明に以下のような文面がある。
「■自主的なテスト撮影について ※スポーツ撮影希望の方向け
当社では、販売写真の撮影スキル把握のため、また、撮影から納品までの一連の流れをご理解いただくことを目的として、新規契約カメラマンの皆様には、「自主的なテスト撮影」をお願いしています。
このテスト撮影はあくまで自主的なものであり、決して強制するものではありませんがこちらにおいて良好な撮影内容、スムーズな納品状況をご提示いただくことにより、当社は当該のカメラマンさんに対し、以降の撮影依頼の判断材料といたします。
詳細は契約締結後にメールにてご案内いたします。」
これも、フリーランス新法の禁止行為、不当な経済上の利益の提供要請(金銭、労務の提供等をさせること)に該当する。
また、報酬についても金額が明らかに低く、買いたたきに該当する可能性がある。
・株式会社学校写真
やはり、明確に減給基準を設けている。ギャラなしという記載もある。
以上大手3社の明らかな不法行為を公表したが、業界大手がこの有り様である。ガバナンスはどうなっているのであろうか。
そして、
・「役務の成果物に係る一方的な権利の取り扱い」
基本的に契約書も何もない場合が多いが、契約書を結んでいる場合、「著作権譲渡、著作者人格権の不行使の契約」という項目がトラブル防止のために存在する。
現実的には個人情報の塊なので、学校写真に対して著作権侵害など発生するリスクは非常に少ないが、とはいえ著作権は譲渡していない限りカメラマンのもので、譲渡していたとしても権利関係は一方的にならざるを得ない。なのに報酬が少ない。
・「取引条件の一方的な設定、変更、実施」
こちらも、基本的には写真屋が一方的に報酬を決めている事がほとんどである。値段交渉をしている例は殆ど見受けられない。平等という観点から報酬は全員均一価格である事が多いが、これも実は下請法に違反しがちな項目である。
・「下請代金の減額要請の禁止」
これを違反している写真屋は、大手中小問わず存在する。自分の経験だが、写真の仕上がりに難癖をつけて7割報酬を削減する写真屋に遭遇した事がある。
他のカメラマンにも聞いたが、その写真屋の常套手段らしい。
以上はフリーランス新法、下請法の明確な違反である。
企業の規模から、公正取引委員会の担当ではなく中小企業庁の担当になるが、買いたたきをされたなど、下請法違反の被害にあったカメラマンは、以下のフォームから是非とも通報して欲しい。
フリーランス・事業者間取引適正化等法の違反被疑事実についての申出窓口
ただし、フリーランス新法や下請法の禁止項目にきちんと違反しているかを確認しないと、違反行為がなければ、公正取引委員会や中小企業庁は動かない。
また、違反事例が複数ないと公的機関は情報として記録するにとどめ、実際に指導までは行わない。搾取されたと感じたひとは是非通報して欲しい。
・褒められない、やりがいの問題。
ある日、自分の撮影の現場でクライアントが写真のチェックをした際に「写真がとても良いです!」と褒められた。
ふと気がついたことがある。
学校写真の世界は、そもそも全員を均等に撮れるのがマストであって、ちゃんとした写真が撮れない人は下手ではあるのだが、上手い写真や売れる写真をいくら撮っても、クライアントである写真屋やその顧客である保護者から、「褒められる」ことがほとんどない。
逆に、写真が下手ならクレームはすぐに来る。
また、学校写真で評価を得て信頼されて仕事が継続的に来るということはあれど、仕事を褒めらない、褒められたとしても喜ばれるだけで、報酬も上がらない、キャリアアップにもならない。
いくら生活のために働いてるとは言え、これではカメラマンが仕事において何をモチベーションにすればいいのか?という事に気がついてしまった。
・改善しようとしている写真屋の取り組み
新潟の西脇写真館さんが行っている取り組み、それが「総合的な学習の時間」で卒業アルバムを生徒に自ら作ってもらうというカリキュラムだ。つまり教育の一環にしてしまおうという斬新な発想である。こちらに関してはNHKが取材をしているので、そちらを参照していただきたい。
https://www.nhk.jp/p/ts/X67KZLM3P6/episode/te/3P8JMV6499/
他にも卒業アルバムの入札業者選定が値段以外、写真の内容なども見て、先生などが業者を決める地域の写真屋は、きちんと上質な写真を撮影するよう努力をしている。
・フリーランスのカメラマンの目指す先の話
まとめに入ろう。
あくまで自分の周りの経験談と一般論だが、元請けの写真屋がきちんと認識すべき事がある。
フリーのカメラマンは目標・目的があるからフリーランスを選んでいるのだ。仕事を選ばれている以上、選ばれるような職種にならないと、もうフリーのカメラマンはスクールフォトを選んでくれない。
逆にフリーランスのカメラマン側も、きちんと元請けの写真屋の立場を理解し、元請けの利益になる仕事を提供し、そのために考えなければならない。
一般の会社員の場合、「所属する会社の名前を背負って仕事をしている」わけだが、代写でも「あの写真屋から来た」って看板を背負っている。
もし高品質のブランドと長年の信頼を築き上げていた場合、代写は元請けの委託なので、元請けと同等の高クオリティの仕事を求められる。
元請けの写真屋からよく聞く愚痴として問題にあがるのが、代写のカメラマン側が「自分の仕事に自信がある」としても、撮影した写真をチェックせず、実は低クオリティなカットをそのまま納品してしまうケース。これが非常に多い。
これを一般の仕事に置き換えると、「商品を出荷時に検品をしていない」ということだ。
代写が下手な写真を量産した、つまり不良品の発生率が高かった場合には、元請けの写真屋側に悪くて低品質なイメージを植え付けるわけで、検品しないのは製造業としてはありえない話だ。
本来、フリーのカメラマンも、元請けの写真屋も、写真のプロである以前に社会人のはずだ。
技術云々の前に、社会人であれば、本来持って然るべきビジネスマナーや一般的な社会常識、接客業としての顧客対応、人と人の仕事であれば人間性と信頼性、自分の仕事に責任を持って対応するという意識、などなど。
クライアントやその先のお客さんを満足させるのは当然だが、自分の仕事の成果はクオリティは、そもそも自分の納得いく基準を満たしているか?
これは、誰もが常々意識しないといけないことだと思っている。
もちろんこれは、自戒も兼ねて。



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