モデルは「バナナ売りのおっちゃん」

店頭に自らが立ち、ソースを付けたチキンを焼いて、香ばしい醤油の匂いで客を引き付けようとするが、誰も寄り付かない。

「この顔じゃみんな怖がって近寄って来ないよ」と、吉田が見せたのはその当時の自分の顔写真だ。空手の師範らしく、今とは別人の強面の顔が映っていた。

ヨシダソースを売り始めた当時の吉田氏
編集部撮影
ヨシダソースを売り始めた当時の吉田氏

この顔とは真逆の、誰もが好きになるような愛嬌のある顔でないといけないと考えて編み出したのが、着物と下駄とカウボーイハットを身に着けた、変な東洋人の売り子キャラだった。予想通り、これが当たった。

「キャラクターのヒントは、僕の子供の頃に京都の路上で見かけたバナナ売りのおっちゃんを真似たんだ」と、吉田は笑う。

「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。何でこんな格好してソースを売っているのか。家では子供たちが腹を空かせ待っていまして。それも12人!」と、店頭で声を上げる。客が笑い声を上げ、さらに客を呼ぶ。すかさずソースをつけて焼いたチキンを差し出すと、試食した客の7割がソースを買っていった。

1日に売り上げた本数は最高400本。全米各地の店舗から声がかかり、実演回数は年間最多で3500カ所に上った。

店頭販売が当時めずらしいうえに、風変わりな東洋人が面白いジョークを言って売っているという話題性でメディアに取り上げられ、一躍時の人になった。

カウボーイハット、着物姿で「広告塔」となった吉田氏
写真提供=ヨシダグループ
カウボーイハット、着物姿で「広告塔」となった吉田氏

売るのは、商品ではなく「自分」

注目されるにつれて、やっかみの声もあったという。

「はしたない奴だ、日本の伝統文化を冒涜していると、日本人会から非難轟々。だから、着物と下駄よりも、バレリーナのチュチュとか、もっと派手なクレイジーな格好をしたよ(笑)。おかげで実演販売の依頼が殺到したけどね。自分自身や自分の文化を面白おかしく言うのは、ユーモアの基本。アメリカでは、人生も商売も目立ってなんぼの世界だからね」

裸一貫で始めた命がけのビジネスだから、周りの声も気にしない、恥も外聞も捨てた、と吉田は言う。

商品を売るのに一番必要なことは何か?と聞くと、吉田の答えは明快だ。

「商品が売れない、困っているという声を聞くけど、商品を売るんでなくて、自分を売るのや。僕はソースでなくて、ヨシダという自分を売っている。いかに相手に自分を好きになってもらって、つながりたいと思ってもらうかが勝負になる。あの人おもろいやっちゃと思われたら、こっちの勝ちや。必ずいいお客さんになってくれるはずや」