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2025年4月20日日曜日

アランツァワールドガイド Vol.14 からくり都市チャマイ FT新聞 No.4407

おはようございます、編集長の水波流です。
杉本=ヨハネより預かりまして、今日配信するのは「アランツァワールドガイド」。
いよいよ「からくり都市チャマイ」の紹介です!

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聖フランチェスコ市で生物学の教鞭を取るカメル・グラント教授は、今は旅人として世界の主だった都市を巡っている。
カメルの横を歩くのはアレス・マイモロー博士。
旧友どうしがラクダに乗り、連れ立って旅をしているのだ。


◆時計塔。
街に入ったふたりはラクダを宿屋に預けて、徒歩で〈赤じゅうたん通り〉を抜け、中央広場へと向かう。
広場には古くて大きな噴水があり、その向こう側に四角い塔が建っている。
塔の下部は噴水とつながっており、その内側には木製の手桶が連なっている。時計が1秒を刻む動きに連動して、桶が噴水のなかに突っ込まれ、水を汲み上げる。水の入った桶は塔のなかばでひっくり返って、キラキラと陽の光を反射させながら噴水へと戻ってくる。
遊び心のある仕掛けである。
カメルとアレスは塔を守る番兵に通行許可証を示し、できれば塔の内部を見せてくれないかと頼んでみる。
すると、通行許可証とは無関係に、数枚の貨幣を支払うことで見学することができた。
時計塔の内側にはギッシリと歯車があって、1秒ごとに音を立てる。ガッチャン、ガッチャン、ガッチャン。
すべての歯車が連動して、同時に動いている。
生物のように精密だと、カメルは感じた。
らせん階段が上へと続いているが、そこを登る許可はおりなかった。


◆からくり制作の現場。
それからカメルは、チャマイにある大きな工房をいくつかまわる。
ゴーレムや銃器といったからくりを手がける現場を、見ておきたかったからだ。
運のいいことに、主だった工房のひとつが見学を許可してくれた。

「きまじめノーム工房」ではノームたちが、喧騒のなかで仕事をしている。
人間が乗り込める大型のゴーレムを作っている最中で、{ルビ:モノクル}片眼鏡{/ルビ}を着けた中年のノーム男性がカメルの肩を叩き、
「乗ってみてくれ」
と言う。
言われるままに乗り込み、請われるままに乗り心地や、視線の高さについて感想を答える。
「ふーむ。もう少し重心が低いほうが乗り手に恐怖心を与えないな。そうだ!」
突然の大声をあげて、ノームはガチャガチャとゴーレムを分解しはじめる。
はたから見ると異常なほど、彼らは集中している。カメルに対してどこの誰であるかを聞くことすら、しないのだ。
その没頭ぶりにカメルは、うらやましさすら抱いた。
「ここはゴーレムの工房だ。銃器の工房や時計造りの工房も、この街にはある」
見学を許可してくれた親方のノームは、そう教えてくれた。


◆水運業。
聖フランチェスコ市ほどではないが、チャマイの市内にも水流があり、水門によって管理されている。
赤錆川の支流が流れ込んでいて、その流れを活用した水運業があるのだ。
赤錆川は下流に行けばアリクララ湖へと出てポートス川となる。
アリクララ湖の湖畔にはイルフムという名前の町があり、ポートス川の河口には旅の開始地点である聖フランチェスコ市がある。
街なかでときどき見られる幅のある川を眺めながら、カメルはそんなことを考える。


◆エルダーベリー魔法学校。
「あなた! グラント教授!」
見やると白いローブを着た、黒髪の女性が立っている。落ち着いた表情とたたずまい。彼女の胸についた徽章が、この魔法学校の学長であることを示している。
「ティーボグ! 我が妻よ、久しいな」
ふたりは名を呼び合い、熱い{ルビ:ハグ}抱擁を交わす。
ティーボグ・マイモローはアレスの伴侶である。
ティーボグはカメルのほうを向き、同じぐらい熱い抱擁を交わす。
「グラント教授、よくお越しくださった! 道中、危険もあっただろう。無事でなによりだ!」
はつらつとした笑みを浮かべて、ティーボグはカメルの背を叩く。
世界の困難に対抗する魔法使いたちの頂点、七賢者。
彼女はその筆頭である。

ティーボグはカメルたちを、校舎へと案内する。世界一と名高い、エルダーベリー魔法学校だ。古い木造の校舎は廊下の床から柱まで、落ち着いた濃い焦茶色をしている。教室ごとに十人前後の生徒が、授業を受けているのが見える。
「少人数制なのだよ」
カメルの視線が生徒たちに向けられていることに気づき、ティーボグはそう言った。
「ええ。私の教え子も、十人に満たないクラス単位です」
カメルはそう答えながら、愛しい教え子たちの顔を思い浮かべる。


◆クァッククラックの脅威。
「屋上に行かないか。いい風が吹くんだ」
ティーボグの提案に乗って、3人は校舎の屋上へとおもむく。
屋上からはチャマイが一望できる。少し強いが、いい風だ。
歴史のある石づくりの聖堂や教会が、表通りに面して並んでいる。
それよりは新しい、からくり造りの工房がその周辺に建ち並んでいる。
博学なカメルはひとつの疑問を口にした。
「不思議だね。これだけ歴史ある学校なら、街の中央にありそうなものだ」
ティーボグの目の奥が、輝いた。
「エルダーベリー魔法学校は、最初から街の郊外に建てられたのだ。ふたつ、理由がある」
左手でピースサインを作るティーボグは、どこかかわいらしかった。
「ひとつは、街の権力からの距離だ。我々は【善の種族】を守るために、ここにある。チャマイに従属する組織ではない。経済的にも、自立しているのだ」
アレスはティーボグの中指にそっと手を添えて、その指を曲げて尋ねる。
「もうひとつは?」
「もうひとつは、街の外からの脅威に備えるためだ。チャマイはよくも悪くも、他の都市からは『孤立』している。東に赤錆川、南にアリクララ湖。西側には西方山脈、北には還らずの森。しかし、他の土地よりも危険が多い。還らずの森には吸血鬼が住まい、南のアリクララ湖ではクラーケンなどの大型クリーチャーが猛威を奮う。しかし、最もこの街の安全を脅かすのは、赤錆川の向こうからくるふたつの勢力──アリ人とトカゲ人だ」
アリ人とトカゲ人。冷たい血が流れる、2種類のクリーチャー。
「あの種族たちは定期的に、この街への襲撃を繰り返している。その多くは街壁に設置された『おおからくり』によって、撃退されている。これを管理するために、エルダーベリー魔法学校は郊外に建てられたのだ」
気持ちを刺激されて、「おおからくり」とは何か尋ねる。
「見るのが早い。来なさい」
ティーボグはそう言って、好奇心旺盛なラクダ人を街壁そばへと案内する。
そこには移動式の回転刃や、砲台といった巨大な防衛装置が備えられている。
「これらのからくりは優秀なノームの技師たちによって整備され、魔法学校の職員や教師たちによって、エネルギーを吹き込まれている」
カメルはティーボグを見る。自信に満ちた表情で、彼女はカメルを見返す。
「そう……これらのからくりは『自分で考えて動く』のだ。彼らは一種のゴーレムなのだよ」
カメルは声をあげそうになった。自律行動できるゴーレムの中央には、人格核がある。生きた市民の人格を写しとって、番犬のように使っているのか? 半永久的に?
「カメル、違うぞ」
カメルの盟友とも言えるアレスが気づき、この「非人道的な」行いの補足をした。
「全員、志願した者たちだ。戦いで命を落とした兵士や、引退後に亡くなった魔法学校の教師たち。彼らが死のまぎわにこの『寝ずの番』を志願してくれたんだ。自分が亡くなった後も、家族や友人、この街で暮らす人々を守りたいと願って……。尊敬に値する人たちだよ」
カメルはアレスを見やり、それからティーボグを見た。
「それで、彼らがこの苦行めいた、敵を監視する日々にうんざりしたらどうするんだ?」
ティーボグは興味のない話に応じるときに見せる、事務的な顔つきになる。
「彼らが望めばいつでも『終わらせる』ことはできる。あるいは、ゴーレム剣士として前線に復帰した戦士もいたな。退屈な見張りよりも、戦いが性に合っていると言って」
それを聞いて、カメルの気持ちは少し安堵した。


◆還らずの森。
魔法学校が街の北東部に位置する理由はもうひとつあると、ティーボグは言う。
チャマイにとってのもうひとつの脅威……それは還らずの森に住む吸血鬼たちだ。
彼らはその高い身体能力を活かして、夜陰に乗じて街壁を越えようとするという。
「おそらくは監視をくぐり抜けて、チャマイに潜入した者もいるだろう。長期的にみれば、アリ人たちよりも彼らのほうがよほど恐ろしい。都市内に潜伏して、狡猾に仲間を増やして、いつか……。」
ティーボグはそれ以上を語らず、屋上から一望できるチャマイの街並みを指差した。
「私は古いものが好きだ、この街が好きだ。研究によれば、生命ノードの放射を浴びた私は、エルフよりも長い寿命をもっているらしい。すでに数百年を生きてきた私は……私の心は年とともに輝きを失った。かつてそうだったような新鮮な驚きを、心に抱くことはもうない」
なんと答えたらいいか分からず、カメルは黙っている。
「だが、この街は私が若かった頃を思い出させてくれる。私にとって本当に価値あるものは、魔法の神秘でも、【善の種族】たちの{ルビ:あんねい}安寧でもない」
ティーボグはアレスに視線を向ける。
「アレス、あなたへの愛と、この街だ。あとは、6人の賢者たちの行く末だな。アルキア。ユア。イルホーキ。ザスカル。オルヒ。アローシェ。みんな優秀だが……不完全な弟子たちだ。欠けているところよりも、持っているものを数えるほうが早いだろう。秀でた魔法の才以外には、ほとんど何もない者ばかり」
そう言ったティーボグはクルクルとおどるようにまわり、楽しそうな声で笑う。
「だからこそ、私たちは何かを成すことができる。他に依りどころなどなく、お互いをかけがえのない仲間だと、知っているから。この命が尽きるまで、私は戦うよ」
彼女がそんな風に感情をあらわにするのを、カメルは初めて見た。


◆堕落都市へ。
伴侶であるティーボグとの再会を果たした盟友アレスは、ポロメイアからはじまった長い旅をこのチャマイで終える。
カメルとアレスの、別れの時が近づいていた。
「気をつけて行けよ」
「ああ、ありがとう」
惜別の情は尽きなくとも、それぞれの道を行く時は来る。
カメルはラクダに乗り、いつまでも見送る2人の友人をときどき振り返りながら、やがて前だけを向き、進んでいく。
古く、美しくたたずむチャマイの街をあとにして。


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↓「アランツァ:ラドリド大陸地図」by 中山将平
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