悠々とした歩きと、ガシャガシャと音を立てながらの走り
両者の接近は対照的でまた違ったものであった
まるで双方の性格を示しているかのように、全く違う。
「…!」「…ッ」
斬撃
手に持つ大剣の炎を燃やしながらの切りつけ
ガギィンと耳障りな金属を鳴らしながら剣槍とイナシやガードを繰り返す
それはもはや潰し合いと言っても過言でない程…激しかった
「…!」
右から左への斬撃、引いての力の込めた突き刺し
"化身"は身の丈を超える大剣を重々しい音を立てながら振るっている
時にその手に太陽の光の槍を持ち、杭として叩きつけることもある
熾烈な連撃、殺すべき目の前の対象に対して一切の慈悲を持たない行動
しかしホシノはそれらを悠々と回避、もしくは弾きながら反撃を繰り出す
まるで相手の一撃一撃が分かっているかのように全てを回避していく
帯電した剣槍による刺突、斬撃、重撃…そのどれもが化身の硬直や攻撃の隙をついて突き刺さる
普段の飄々とした性格が嘘のように、先程まで倒れていたのか嘘のように────彼女は攻撃を叩き込んでいく
「……っ!」
化身は自身の攻撃が全て避けられ、反撃を食らっている事に気付く
このままではジリ貧だ、このまま同じことを続ける訳にはいかない
そう思った彼はバックステップをして後方に移る
ホシノは悠々と剣槍の刃を下に向けて歩いていく
自身の目の前の敵は敵ですら無いかのように、悠々と
化身はゆっくりとその手に太陽の光の槍を持つ
ジリジリと帯電したそれが勢い良く空に向かって投げられる
「あれは……あの砂漠の時の────」
空に向かって投げられたそれは黒い雲を生み出した
稲妻迸るそれがぐんぐんと広がっていき、そこから無数の雷が降り注ぐ
ホシノがアビドス砂漠のカイザーPMCに対して使用していた奇跡
元を辿ればそれは最古の奇跡から派生したソレだ、使えない訳が無い
空から無数の雷がホシノに向かって降り注ぐ
「……」
「……っ!」
それが当たる前に…ホシノは嵐を操り瞬速で化身に接近する
そして空中から帯電した剣槍による刺突
"化身"はそれによって吹き飛ばされる
先程までの"化身"による無双具合が嘘のような光景
目の前の歴戦の存在に対して"化身"の反撃は少しも通用しなかった
起き上がった"化身"は近づいてきていたホシノに対して太陽の光の槍を杭として叩き込む
油断していたのか、それとも"わざと"なのかホシノはそれをモロに受ける
しかし彼女は僅かな怯みすらしない
それどころかその手に更に太い太陽の光の槍を顕現させ化身に向けて叩きつけた
"化身"のそれよりも遥かに大きな振動、離れて救護中の先生すら転んでしまいそうな衝撃波
「……っ!」
「……」
フルフェイスの兜に顔を隠しているが、それでも分かる憤りのような感情
それに対して能面のような顔で静かに剣槍を構えるホシノ
先に動いたのはホシノだ
その刃に嵐を纏わせ、ぐわりとそれを振るう
嵐の衝撃波のようなものが扇状に放たれ広がっていく
化身はそれを真正面から切り裂き、続けざまに放たれた一直線の嵐による衝撃波もローリングにより回避する
そしてそのまま流れるように走りながらホシノに対して大剣による突きを放つ
その瞬間、目の前が炎で覆われる
突然の出来事に彼はとっさに後ろに回避する
炎を切り払うよう大剣を振るう……が、そこ先にホシノの姿は何処にも無い
「!!!」
「……」
辺りを見渡そうとした瞬間、化身の脇腹に剣槍が突き刺さる
そのまま彼は頭上に掲げられ…オレンジ色が混じった雷に打たれる
そのままゴミのように投げ捨てられ地面を転がった
ジャキリ、と嫌な音が響き渡る
"化身"は呻くような亡者の声を漏らしながら、灰として消えてゆく
「……」
灰のような者が完全に消えた時、そこには旅人の姿があった
胸が上下しておりどうやら気絶しているだけのようである
何故か分からないが、1度死んだ筈なのにその体は干からびてすら居ない
姿だけ見れば、先生のような成人男性のようだ
「たび、びと……」
ホシノはようやく自我を取り戻したかのように瞳が揺れる
大切な人を見た彼女は膝をつき、そのままバタリと倒れた
緊張が解け、安心感が出てきたのだろう…そのまま彼女は眠ってしまった
「………終わっ、た?」
その様子を見て、先生は呟くように言ったのであった
〇
凄まじい戦闘であった
目の前て起きた出来事に対して先生は純粋にそう思った
指揮なんてそんな事ができるほどの隙はあの間には無く、逆に指揮をすれば足でまといになる程だろう
「…でも、ようやく君は止まったね」
倒れた旅人を抱えながら、先生は言った
死を手段としてしまう程死んだ不死人、放っておけない危ない人
君が子供でなくても、生徒でなくても関係ない
助ける必要があるから…私は君に手を貸そう
そう、思った時であった
「…っ!?」
"何か"が、来た
私はそれを見た瞬間───ピクリとも動けなくなった
なぜなら、目の前に暗黒が存在していたからだ
言うなれば宇宙にあるブラックホール、何もかも吸い込みそうな暗黒
黒よりも深い、光を全て吸い込みそうな───圧倒的な黒
「…………」
数秒、私はそれを見つめていた
ピクリとも動かないソレを…ずっと、凝視していた
「…?」
何かが聞こえた
鈍い、あまりにも鈍い音が聞こえた
なんの音なのか私には分からなかった
「…また……」
その鈍い音は一定のペースで聞こえてくる
少し休んで、叩きつけて…また休んで叩きつけて…
そんな、ペースだった
今思えばその暗黒に僅かな光が見えた気がするのだが、その頃の私にそんなことは分からないだろう
アレは僅かな…例えるならば、深い絶望の中で見える線のように細い光であったからだ
「おおぉうりゃぁぁぁあッッッ!!!」
勢いの良い声
それと共に"ソレ"は切り裂かれた
中から切り裂かれたそれは無念の声のような物を虚空へ消えていく
何となくではあるが、あれはああなっても生きている気がした
…本当にそうであると知ったのは、かなり後になるのだが
「……え?」
「ぜぇ、はぁ……はぁ」
現れたその戦士は重厚な鎧と大きな大剣と大盾を持っていた
息を荒らげているあたり、相当あの中で暴れたらしい
…いや、疲弊具合からして暴れる以上のしている気がする
「えと、大丈、夫?」
先生は少し驚きながらもそう聞いた
異界からの戦士にそう質問できたのは、彼女の頭にヘイローがあったからだろう
少なくともこの世界の生徒にはヘイローがある、つまり彼女も生徒なのだ
彼女は、私の質問に対してひぃん、と言いながら言った
「水が、欲しぃよー……」
〇
その後は、端的に言えば大変だった
何と"化身"とホシノによる戦闘…もっと言えばアビドス組とソラール、ジークマイヤーと戦っている所から……が誰かに撮影されておりキヴォトスの掲示板に載せられてしまったのだ
転載と転載を繰り返されたそれは何万回と見られトレンドにも乗る程のものであった
モモッターの話題も、モモチューブの話題もかっさらった動画
その戦いぶりはあまりにも人のそれでは無かった
無かったからこそ───人を魅了したのだろう
その後処理には手間がかかり、先生はリンと共に協力して火消しにかかった
その元凶たるあの王……ここでは呼称として【王たちの化身】とする……であった旅人はあっさりと目を覚ました
ホシノに抱きつかれていることの理由がよく分からず困惑していると言う
そして件の動画を見せたのだが…どうもあの時には記憶が無かったらしい
それよりもホシノの変化に驚愕していたようであった
なんたって…彼女の体は火を宿しているのだ
精密検査を受けたがそれの治療法、それどころか原因すらも分かっていない
それが周りを燃やさないこと、本人に痛みも何も無い事…のみしか分からないのだ
「なんか不便だけど…これはこれでいいかも?」
…と、彼女が言うくらいなのだから大丈夫だろう
尚あの時に使っていた剣槍であるが、何故か消えなかった為彼女の手元にある
その上もうひとつ…あの時無かった筈の曲剣があったのである
旅人はその二つに触れて…やがて呟き始めた
その武器の因果、その武器にある物語を
竜狩りの剣槍
"神代の竜狩りの武器"
"十字槍の原型であり、剣と槍の性質を併せ持つ"
"竜狩りの戦神であった頃から"
"ずっと変わらず無名の王の手にあり"
"彼が引き継いだ、大雷の力を帯びている"
"戦技は「落雷」"
"剣槍を大きく天に掲げ"
"離れた敵の頭上に激しい落雷を呼ぶ"
嵐の曲剣
"嵐の竜の力を帯びた曲剣"
"古竜の同盟者たる無名の王は"
"生涯、嵐の竜を戦場の友とし"
"竜が倒れたとき、そのソウルを己のものとした"
"神代では、それは戦友の習わしであったのだ"
"戦技は「竜巻」"
"大きく回転しながら刃に嵐を纏い"
"またその勢いのまま、強攻撃でその嵐を叩きつける"
その二つは、恐らくどちらとも元の持ち主のものであったのだろう
元の持ち主の名前は、【無名の王】と呼ばれていた者
旅人はその物語を読んだ時、とある指輪を持って「そういう事か」と呟いていた
そして、おもむろに旅人はこう呟いた
「ホシノ、お前は"無名の王"の成れ果てなのだろうな」
その言葉は、誰にも届くことは無かった
…そして、これらの出来事を越えることも起きてしまった
「…ただいま、ホシノちゃん」
「…ユ、メ先輩?」
あのブラックホールのような存在を切り裂いて現れた戦士
別の病室に隔離していた筈の彼女が、いつの間にかホシノと旅人の病室に来ていた
また異界の戦士かとアビドス組や仕事の為に居たリンが思っていると、彼女がおもむろに兜を脱いだのだ
検査を任せっきりにしていた為、見ていなかったが…中身はあどけない少女だった
少しやつれていたが…それでも純粋さを思い出させるような顔
切断されたアホ毛に長い浅葱色の髪の毛
それは、どうもホシノの先輩だったらしい
2人は抱き合って共に涙を流していた
後日知ったことであるが、先輩…梔子ユメはホシノとの喧嘩の後砂漠で遭難したらしい
キヴォトス世界ではそのまま行方不明となり死亡判定、ホシノは残された盾だけを見つけた
その間ユメはどうなっていたかと言えば、どうも旅人の世界に飛ばされていたようだ
しかも───一度砂漠で死亡したことにより不死人に成ってしまった
あの世界に鏡など無い、歩きに歩き、服は擦り切れてボロボロになった
その先でようやく会った人に化け物と呼ばれるのだ、彼女の心情は察せられる
その後は不死院という場所に閉じ込められ…そこからは旅人と同じような旅をしたようだ
…もしかすれば、旅人世界のパラレルワールドという奴だろうか?
多分そうなのだと思うが…どうなのだろうか
彼女のその後であるが、アビドス2年生として在学する事になった
籍はアビドスが辺境だったのもあって処理がされず、無くなっていなかったらしい
…なので日数足らずON単位無しで2年生かららしい
というわけで、かつての先輩は後輩となり、後輩は先輩となっていた
今も普段通り生活しているようだがセリカが目の前やフィッシング詐欺に引っかかりそうになるとグレートソードを持って叩き潰しに行こうとしているらしい
善悪がロードラン基準になっているそうなので、修正中のようだ
───あぁ、そうそう、ロードランといえば彼を忘れてはいけない
あの後の旅人は少しアビドスに挨拶をしてどこかに旅をしに行った
少なくともこのキヴォトスの何処かだろう
他の不死者であるソラールとジークマイヤーもまた、旅に出たと言う
餞別なのか、シロコに対して【黄金の残光】を渡していた
私たちの分は!?とセリカが怒る前に彼は居なくなっていたのである
しかし、たまには顔を見せるようにと言っているので校庭の篝火から顔を出すこともあるかもしれない
しかし、彼は今や使命にも何にも囚われない旅人である
自由に生き、自分のやりたいことをして生きるだろう
それが、彼であるのだから