「う、うへ…なんじゃありゃあ…」
「"皆!大丈夫!?"」
光が晴れた先、ホシノは構えていた盾からひょっこりと顔を出す
かの【ソウルの奔流】を受けた盾は僅かに青く焼け焦げている
それどころかかなりの衝撃のせいで盾ごと剥がされそうになった
あまりの火力、あまりの衝撃波
『ノ、ノノミ先輩とセリカちゃんがなぎ倒されました…!』
そして凄まじい射程
遠距離から援護をしていたノノミとセリカをその奔流でなぎ倒したのである
ほぼ直撃だったのだろう、2人は吹き飛ばされ倒れたまま動かない
現状、動けるのはホシノとソラール、ジークマイヤーだけだ
「"強い…!"」
「流石旅人って感じ、…どうもそれ以外も居るっぽいけど」
"化身"は何も答えない
何も言わずに目の前の対象を叩き潰すのみである
そう言わんばかりに、またしてもガキィンッ!と凄まじい音がして杖が炎に包まれる
「次は………!」
ホシノがそう呟いて目を細めた瞬間的、目の前を刃が通り過ぎる
それに気づくと同時に追撃の連撃が向かってくる
展開していた盾を収納して背中に回してそれらを回避する
「早い…!」
その刃は曲がっており、東洋の刀を思わせる
しかしそれは刀と言うには少し反りすぎている
それはかの世界で曲剣と言われていたカテゴリの武器
素早い連続攻撃に切り傷からの出血という追加ダメージを与える武器
避けきれた筈の攻撃だが、ホシノの頬に僅かな切り傷が生まれる
彼女はそれを拭いながらショットガンを構えた
曲剣モード、その戦闘スタイルは緩急の凄まじさとトリッキーさ
その手に持つ曲剣モードの螺旋剣による素早い斬撃攻撃
目で追うのがやっとという速さの攻撃速度を連続的にしてくるのだ
ソラールが勇猛果敢に突っ込み、直剣を振る
しかしそれ以上のスピードで曲剣が振るわれてソラールはよろける
『………!』
その後ろからジークマイヤーが現れ、その手に持つツヴァイヘンダーを叩きつける
"化身"はそれを見てまるで体操選手のような動きをして後ろに回避する
先程まで単純なローリングなどしかしなかった"化身"とは思えない軽快な回避
「…なんか嫌な気持ちだよ、それ」
後ろに回避した"化身"はぐるりと前ローリング
そこから体を回しての曲剣による回転攻撃
素早い動きに3人は防戦を強いられる
「そこ────ぐぶ!?」
「"ホシノ!"」
僅かな隙を見つけてショットガンを叩き込もうとする
そんなホシノに対して"化身"は指を鳴らす
すると彼の手からゴウと炎が巻き起こる
もろに食らった彼女は吹き飛ばされながらも何とか気絶しないように耐え切る
「…あれは、確か呪術か」
ホシノは口の中に溜まった血を吐き出しながらショットガンを低く構える
彼女が体制を立て直す間にソラールとジークマイヤーがカバーするように攻撃を叩きつける
化身は数回の攻撃を回避してやり返した後、2回あの体操選手のような柔軟な回避で後方に退く
そして、その手に炎を宿す
燃え上がるそれを勢いよく胸元に叩きつけた
ゴォンと鈍い音がした次の瞬間"化身"は赤いモヤのような物が体中から昇っていく
「…何を…?」
「"ホシノ!あいつの脅威力が一気に跳ね上がった!"」
「ッ…!自己強化か…!」
使いし技は【内なる大力】
本来ならば一定時間攻撃力上昇の代わりに僅かなダメージを継続的に受けてしまうというもの
しかし目の前の化身はそのようなデメリットを負いはしない
そう言わんばかりに、彼は手を広げ苦しむように痙攣する
「…ッ!あれは…!」
ホシノはその構えを見たことがあった
銀行強盗、仕方なくやってしまった人生初の犯罪
そこでの撤退時、旅人が使っていた呪術…!
そう思い返していた彼女の記憶通りの技が発動する
ぶわりと煙幕のように、しかし触れればたちまち対象を毒にしてしまう霧が放たれる
あれに長く触れていてはキヴォトス人の肉体であろうと毒になってしまうだろう
それを知ってか知らずか、…はたまた不死人故かジークマイヤーとソラールは気にせずに攻撃を続けていた
「いやぁ、良くあの中をスイスイ行こうと思う─────おぉいっ!?」
ショットガンで援護しようにもな、と思っているホシノに対して火球が飛んでくる
毒霧の中からすっ飛んできたそれを彼女は何とか回避する
「どうやって私を狙ったのさ!?というかなんで投げたのさ!?」
どうやってホシノを狙ったかはさておき、離れていても油断ならないと彼女はため息をつく
それと同時に毒の霧がどんどんと晴れていく
「"良し!ダウンした!やって2人とも!"」
どうやらひたすら切り続けていた2人によって"化身"がダウンしたようだ
そのチャンスを逃す訳には行かない、私も早く行かなくては
急ぐ気持ちは片膝をついている"化身"が見えた瞬間に更に増加する
一発叩き込んでやる、そう思って化身に接近していた時であった
ガァン、と鈍い音がした
『………!』
「え?」
目の前でジークマイヤーがよろけていた
そのツヴァイヘンダーはあらぬ方向に逸れており、一目で弾かれたことが分かる
それをしたのは………"化身"
ダウンして攻撃しているジークマイヤーの攻撃に合わせてパリィをしたのである
がら空きになっている彼の腹部に曲剣が突き刺さる
そのまま剣ごと持ち上げられ、ゴミのように投げ捨てられた
ジャキリ、と嫌な音が辺りに響き渡る
それと同時にどんどんジークマイヤーの体は消えていき…最終的に何も居なくなっていった
「…流石に限界、か」
蓄積したダメージもあったのだろうが、
これで戦力は2人になってしまった…かなり不味い状況である
しかしここで止まる訳には行かない、このまま野放しにしたら何をするか分からない
旅人の「全員殺す」という意思がもしかしたら「この世界の全てを殺す」という物になっているかもしれない
だからこそ今止める、彼を引き戻す為にも
「私は君を連れ戻すよ」
ショットガンを腰に回して彼に肉薄する
曲剣状態の螺旋剣が振られ、私の体を切り裂く
私はこの程度の痛みじゃ止まらない───止まれない
ぐっと握りこんだ拳に僅かに雷が走る
私は、君を連れ戻す
死に損ないの亡者であったとしても
古い時代の王であり、その時代の亡霊だとしても
君は、君は…私にとって大切な人なのだから
その思いを込めた【雷の杭】が、化身に直撃した
〇
王たちの化身が膝を崩す
その曲剣を地面に突き刺して、息を荒らげるような動作を取る
「"…まだ、倒れないのか"」
先生はその姿を見て呟いた
化身の動きに諦めの兆しは一切無い
初めから目の前の障害、敵を打ち破ることに全力を注いでいる
…その激しさは、あの旅人に通じるものがある
しかしまたそれよりもまた無慈悲な気が────
先生がそう思った瞬間"化身"が立ち上がる
「"ホシノ!警戒して…!"」
「分かってる…!」
その螺旋剣に炎が宿る
轟々と燃え盛るそれはどんどんと伸びていき…背丈を超える大剣と化す
その炎は"化身"すらも包み、ちりと空気を焼いていく
"化身"はその炎を気にしない、意識するに値しない
やがてその炎は更に燃え上がり────
「─────…ッッ!!」
目の前で、炸裂した
その予想よりも凄まじい爆発にホシノ達は巻き込まれる
ホシノは体制をすぐさま立て直すがソラールは少し起き上がるのに時間がかかった
「………」
化身は、ゴウと空気を切り裂きながら大剣を低く持ち直す
その立ち姿は先程までの者とは違い……"集合体"、ではなくただ1人の個人のソレに見える
ホシノはそう思いながら"化身"の攻撃を誘う
─────そうして、中距離に近づいた彼女に化身は飛びかかった
「…っ!」
ジャンプ切り
空中に飛び上がり、大剣を構えている姿を見てホシノはほぼ勘でそれを避けていた
しかしそれでも熱気が僅かに肌を焼いて…まるで日焼けのような痛みが走る
「お返し、だよ!────あがっ!?」
「…!…!!……ッ!!」
回避してからのショットガン
しかしそこで様子見せずに引き金を引いたのが彼女の間違いだった
まるで野球選手のバッティングポーズのような構え
そこから振るわれたまず一撃目にホシノはかち上げられる
「ぐべらっ、ごへっ、むがっ」
二撃、三撃、四撃と休みなく放たれる剛撃にホシノはサーカスのマラカスのようにかち上げられる
そしてようやく地面に叩きつけられた瞬間、彼女の視界は白──白色と思える程のオレンジ色の爆発が巻き起こる
「あがぁっっ!!」
「"ホシノッッ!…っ、ソラール!ヘイトを引いて!"」
その爆発は最後の一撃と言わんばかりに地面に思い切り突き刺した大剣からのものであった
致命傷共呼べる連撃を最終段まで受けた彼女はごしゃりと嫌な音を立てて、動かなくなる
先生はすぐさま彼女の名を呼び……指揮をソラールに飛ばす
彼はその直剣に雷を纏わせると盾を構えながら突撃していく
"化身"はホシノに追撃しようとせず向かってきたソラールに対して大剣を振るう
「"ホシノ!ホシノッ…!"」
傷が深い、頑丈なキヴォトス人とは思えない程の怪我である
その制服も炎と螺旋剣の刃によってところどころ壊れている
その目は開かない
「"起きてくれ……ホシノ…ッ!"」
先生がそういった時、ジャキリと嫌な音がした
そちらを見てみればソラールが片膝をつき、そのまま消滅していく光景が見えた
その大剣に付いた血を払うかのように大剣を軽く振った化身はゆっくりと先生に対して歩みよってくる
「"っ…、頼む…ホシノ、起きてくれッ……!"」
先生は祈った
その祈りは、果たして誰かに届いたのか
はたまたそうで無かったのか分からない
彼の懐にある─────【大人のカード】が光りだす
「"………ホシ、ノ?"」
「……」
ガァン、と鈍い音がする
それは化身と戦っているソラールの出した音で、また違うものだ
それよりも、先生にとって何よりも大切な生徒の姿
先生が見た先にある彼女の姿は、また違ったものであった
バチバチと、帯電する槍と剣を合わせたかのような槍
そしてその身に纏う轟々と吹き上げる風
まるで昔の神のような…しかし恐らく名も無き神であるソレの力を宿している
彼女はゆっくりと剣槍を低く構える
その体に、ボゥッと炎が宿った