ホシノが居なくなった
今朝起きて、携帯を見て分かった事だった
先生から送られてきたそれに直ぐさま私は最初の火の炉からアビドス高等学校へ飛んだ
対策委員会部室に入ってきてまず最初に見えたのは怒るセリカの姿
そして深刻そうな顔で手紙を見ていたシロコであった
私は彼女から奪うように手紙を取った
どうしてお前が居なくなるのか
どのような理由で私の前から消えるのか…それが知りたかった
そこには、以前から怪しい奴らに歓迎されていたこと
アビドス高等学校の未来のために…そいつらに会うということが書かれていた
また私宛に手紙があった
『…ごめん、旅人さん…こんな選択をしてしまって
ㅤ多くの友人を失っている貴方にこんな仕打ちをしてしまって本当に申し訳ないって思ってる
ㅤでも…もうこれ以外私には方法が思いつかないの
ㅤ先輩から受け継いだこの学校を絶対に失いたくない、でも…怪しくてもこれ以外方法は無い
ㅤ…自暴自棄ならないで、お願いだから……生き返るとしても、暴力に頼らないで』
ㅤ…………
あなたはそれを握り込み…深く息を吐いた
心の整理はできていない、いや出来るはずもあるか
またしても、またしてもあなたは友人と呼べるものを失った
ホシノは怪しい勧誘によって連れ去られ…居なくなった
何度もロードランで友人と関係を募ったとて…防げなかった
何も、変わっていない
ロードランの時から何も…何も変わっていないのだ
………そうか、そうであれば
悪いのはカイザーだろう?あの理事長なのだろう?
そして昔からホシノを勧誘していたその怪しい奴らが彼女にこの選択をさせたのだろう?
そうだ、そうに違い無いのだ
「っ、旅人さ───」
アヤネが声をかけようとした
しかしそれは無理だった、その瞬間…手紙は激しく燃え上がり、消えて無くなった
────彼は燃えていた
激しく燃えるのではなく、緩やかに…しかし熱を感じる程に燃えていた
その瞳には暗い炎が燃え上がり、見るものを圧倒した
ゆっくりと彼は出入口に向けて歩き始めた
「行ってくる、少し待ってて欲しい…すぐに終わる」
「まっ、待ってください!何をしに行くんですか!?」
「"アヤネの言う通りだよ旅人!どうするの!?"」
彼は彼女達を見ずに言う
酷く冷たくて感情を感じさせない声が返ってきた
「…全員殺す、カイザーPMC…いやカイザーそのものも、その怪しい人物も…
ㅤ全員全員全員…殺してやる、そうすれば…全部解決だ」
「えっ…!?」
彼の放ったその言葉は思考停止するには簡単なものだった
数秒誰しもが何も考えられなかったが…しかし直ぐさま正気に戻る
目の前の人物は、今まさに禁忌たる殺しをしようと言うのだ
「そんな事…!そんな事させるわけないでしょ!
ㅤカイザーに喧嘩を売るなんて…!ヘイローが無いアンタならすぐ死ぬわよ!?」
「"そうだね…しかも殺しなんて、絶対だめだよ"」
「………ハハ、そうだった…そうだったな………」
あなたは彼女達の言葉に乾いた笑いを漏らした
なんだ、そんなことかと…嘲笑するように
「この世界では殺しは禁忌だったな、そうとも…この世界の者である君達にとってはな」
「……え?」
彼は続ける
「…ロードランという国は、場所はもう既にこの世には無い
ㅤ遠い昔の国であり、お話だ……もしかすれば次元すら違うのかも知れんな」
「それは……」
彼の言っている事に理解が追いつかない
先生とアビドス生徒がそう思っている間にも彼はそれを続ける
「それに…死ぬ?それがなんなのだ、死んだとて干からびた姿になるだけで何の問題もない」
「な、何言ってるの……し、死ぬのよ?2度と、2度と会えなくなるのよ!?」
セリカはそう叫ぶが、彼の反応は素っ気のないものであった
先生はそこで何か致命的な勘違い…もしくはすれ違いをしているような感じがした
何か、価値観が違う人と話しているような………
「二度と?ハッ、笑わせてくれるものだ───"不死人"であるこの私に対して…死ぬなどと
ㅤどうせあの篝火からまた立ち上がるのみだ、…どうせ、生き返る」
「"……は?"」
「どういう、こと…?何を、言ってるの…?」
先生は、いや、アビドス高等学校の全員は彼の言うことを理解出来なかった
目の前の人物が言っていることを理解出来なかった
しかし、彼は言った
「何かおかしいと思っていたら、そうだ、ホシノ以外には言っていなかったな
ㅤ私は不死人、呪われた死に損ない…幾ら死せど蘇り、正気を失って…いつしか亡者となる化け物
ㅤ───死なないのだよ私は、何度でも、何度でも何度でも何度でも………蘇るのだから」
誰もが言葉を失い、ようやく理解し始める
そして同時に…今までの身体を捨てるような攻撃方法に納得する
自身の体を顧みないこの攻撃は…不死故のそれであり、彼の旅路で必要だった物
ファンタジーな世界から来たソレは…心のどこかでかっこいいと思っていたらそれは、何かを"殺す"為の動きだった
思えば彼の旅路に立ちはだかるのがドラゴンだけな訳が無い
そして、彼の言う不死人は呪われた、やら化け物だと言っていることから察するに…恐らく良く思われない存在なのだろう
「……何と罵っても構わない、慣れている
ㅤだからこそ、邪魔しないでもらいたい」
「"…待って、君がホシノの為にまたその手を汚すのは違うよ
ㅤ彼女も望んでない、きっと…きっと手紙にも書いてあったんだろう?"」
カイザーを、カイザーそのものを潰さんと歩き始める旅人に…いや、"不死人"に対して先生は言った
不死人は先生が心優しく…少なくともロードランには居ない聖人のような心を持つ者だと、分かっていた
だからこそそのような事を言うと、自分を止めると分かっていたのだ
「…止めないでくれ、貴公」
しかし、それであっても…彼は進もうとする
どうしてでも……彼は止まらないようだった
「……ん、行かせない」
「…」
シロコが扉の前に立ちはだかる
岩のような武器を振り回す不死人とて、キヴォトス人の握力には敵わない
ヘイローの加護によって、不死人の武器があまり通らないのは皆知っている
通じるには通じるが、瞬間的な火力では劣ってしまうのだ
「確かにそうだな、私の力では簡単に貴公達にねじ伏せられるだろう」
「"……"」
だが、と彼は"黄金の残光"を取り出した
「………ッッ!!!」
「甘いのだよ、死を"手段"とする者の前でそれはな」
彼は躊躇いも無く、首を掻き切った
○
「……うぇ?」
目の前で、人が死んだ
なんの躊躇いもなく首を切り、死んだ
「えっは、?」
自身の顔に生ぬるい液体がかかっていることが分かる
そして、彼の後ろにいる皆が絶句している顔だと言うのも…分かった
ぐしゃり、と膝を崩す音が聞こえる
彼の体から灰のような物がパラパラと落ちていく
「ま、まって…」
彼の力が抜けて、ぐったりと顔が俯いていく
その喉元から垂れていく血が、床を汚していく
縋るように、シロコはその体に手を伸ばす
しかし、それはただ…灰を掴むだけだった
誰もが言葉を失っていた
それも仕方ないことだろう、彼女達とって処理しきれない情報が多すぎた
彼が不死であること、死を一種の手段としてしまう程死んでいること…
それは死が禁忌であるこのキヴォトスで異様な事だった
………だからこそ
「"……止めないと"」
「…っ!そう、ですね!先生!」
「あのバカを止めないと…どれだけを血を流すつもりなの……!」
だからこそ、キヴォトスの外から来た先生はこの状況に即座に判断を下した
慣れている、という程死を見ている訳でも、見た訳でもない
しかし…キヴォトスの人よりは、子供達よりは…情報処理のスピードは早かった
彼はタブレットを持ち、即座に行動する事にした
「…っ!?アビドス自治区に攻撃が!」
「こんな時に…!」
しかし、まるでそれを止めように…アビドス自治区に攻撃が開始された