「………」
カイザーPMCから帰還したアビドス生徒達の雰囲気はお世辞にも良いとは言えないものであった
少なくともいい気分では無いだろう…大量の利子が、返せるとは思えないほどの利子が出来てしまった
それをどうするのか…どうすればいいのか、悩んでいるのだろうが…
しかし、あなたは違った
あなたはアビドス高等学校へ帰る途中の砂漠で…とある物を拾ったのである
それはあなたにとって見覚えがあり…しかしそれ自体は知らないものである
あなたはその手に手に入れた"武器"を現す
見た目は普通のクロスボウ、しかしその上に血に錆びて歪んだ丸状の物が付けられている
試しに引いてみればガチガチとその丸い部分が動く…しかし矢が無いからか何も出ない
…あなたが手に入れたのはクロスボウ、しかも"この世界"のものでは無い
そう思わせたのはその原始的な見た目でも場所でもない
"連射クロスボウ"
"奴隷騎士ゲールの用いた武器"
"一対多を想定し、連射可能な改造クロスボウ"
"果てしのない旅と戦いにより"
"各所が歪み、血に錆びており"
"酷使により壊れやすい"
"戦技は「連射」"
"構えにより連射機構を起動し"
"そのまま通常および強攻撃で連射を行う"
…あなたには、こうして"読めた"からこそこの世界のものでは無いと断じた
そしてそこにある【奴隷騎士ゲール】なる人物も知らない…聞いたこともない、つまりロードランには存在しない人物だ
憶測で語るなら、これは未来のものなのだろう
ロードランから先の未来…そこでゲールという騎士が持っていた武器だった
しかし彼は倒れ…誰かに倒されたか行き倒れか…このクロスボウは地に落ちた
いつしか時が流れてこの世界に迷い込んでしまった…というのが顛末だろうか
さすれば他にも未来の武器は存在するのだろうか
ロードランにも連射クロスボウはあった、【アヴェリン】という三連射のクロスボウだ
しかし三連射以上の射撃が出来るクロスボウは無い
…未来の武器が見てみたい、一体何があるのだろうか
そして今あなたが持っている武器が存在するのか、しないのか…気になるものだ
○
「……どうしましょう、皆さん」
対策委員会部室、机を囲っている状況
最初にそう言ったのは奥空アヤネだった
あなたは部外者として…扉の横辺りで背を預けていた
これは彼女達の問題で、あなたには何一つ差し支えない
無関係な事柄だ…なんなら今すぐ帰っても良い
しかし、僅かながら存在するあなたの良心は返すことを許さない
ロードランでも見ない幼子が…大人達の理不尽に潰されそうになっている
お金という面倒な物によって無理やり押しつぶされて消えそうになっている
あなたはそれを黙って見過ごせるほど、人間性は無くなってはいなかった
彼女達に策があるなら協力するつもりだ、少なくとも…今は
「利子がこんなに……!?どうやって返せばいいのよ!?」
セリカからの叫びから始まった会議はまともなものとは思えなかった
そもそも相手の要求がまともで無いためこちらの意見もまともなものにはならない
シロコが一人でカイザーを襲撃する、とか何とか…他にも酷い意見が出た
しかし彼女達が暴力で解決したところで、世間はアビドスを良い目で見るものか
不死人であったからこそ、…だからこそあなたはそういった人の目は見知っていた
目に浮かび上がるダークリング、暗い魂の証、死ぬに死ねない死に損ないの証明
いつしか正気を失って同胞たる人間を襲う人でなしの化け物
…こちらとしては迷惑な話だった
"俺"は望んでいなかった、こんな体、不死の使命
普通に生きていた筈だった…家族に囲まれて生きていた筈だった
あの罵倒を知っているからこそあなたは分かっている
人はそういう生き物なのだと、親しき人が化け物になったら途端に態度を変えると…
そして周りの親しくも無い赤の他人も心無い言葉を言ってくると知っていた
そう思うとアビドスには大批判が来るだろうか
何も知らない無知な奴らの流れに乗った批判
今まで多額の借金を抱えていた学校への大批判
アビドス高等学校の生徒達からすれば腹がたってしかたない話になるだろうな……
「はーいそこまでー」
様々な事を考えていたあなた、そして唾を飛ばし合いながら口論していた彼女達の間に声が入る
それはこのアビドス高等学校の年長者である小鳥遊ホシノのものだった
彼女はゆるりとした顔を崩さずに仲裁した
「そこまでって、まだ何も終わっちゃいないわよ!?なにも!」
「ん、セリカの言う通り…何か対策を考えないと」
唐突な終了宣言にセリカはホシノに対してそう叫び、シロコも同調した
流石になんの対策もせずに終わる…というのも良くないと思っているのだろう
「みーんな頭に血が上っちゃってまともに思考できてないんだよ〜
ㅤ…少なくとも、今は皆休むべきだと思うんだよね」
彼女はそう言いながら両手を机の上に置いた
あなたもホシノが言っていることには賛成だった
外野から案を聞いていて思うが、どれも感情任せであり後始末でメンツが潰れるものしかない
今は十分に休息をとって明日まともな案を出す方が良いと思える
「だから、今日はかいさーんってことでね」
あなたはそれを聞いて黙っていた
何も言わずに、あなたはそこに居続けた
○
皆帰って行った
文句をブツブツ言いながらも明日の為に…休むことを選んでくれた
でも1人だけ帰らなかった、たった一人だけ
今も尚出入口の横に背中を預ける1人の男
みんなが帰ったを確認して、私は声をかけた
「…それで、何か用かな…旅人さん」
「どこに行こうというのだ、貴公」
私は最初にそれ聞かれて心臓を掴まれたかのような気持ちになった
彼には退学届けやなんやらについてはバレてない筈だ
それなのに…何故か私が居なくなるような発言をしたのだ
「どこに行くって…別に、どこにも行かないよ私は───」
「その目は嘘だ、何度も見た…死地に赴く…死にに行く顔だ」
それは、その感覚は…私達には分からない物だった
退学届けなんてやわなものでは無かった、そんな生易しいものでは決してなかった
「やだなぁ、私が死にに行くわけないじゃんか…あはは…はは」
誤魔化すように私は言った、嫌な汗が垂れているような感じがした
彼はここで初めて顔を上げた───さっきまで、ずっと俯いていたその顔を
その顔は、能面のようだった
その瞳が、その瞳の中の火が滾るように燃えていた
「っ…」
「私には多くの知り合いが居た、男、女…年齢から職業まで様々だ
ㅤ様々な成約を結び仕え、その神の為に戦うこともあった
ㅤ色んな名前で呼ばれた───多くは貴公だったが…友として慕う者だって、仲間と呼ぶものも居てくれた」
彼は私から目を離すことなく続ける
あっけからんと、まるで当たり前のように───
「全員死んだ、正気を失って亡者となって…全員襲いかかってきた
ㅤ…中には実の娘に動かなくなるまで殺されたやつも居たし…太陽の輝きに憧れ、しかし手に入れることが出来ずに私に殺された者も居た
ㅤ仕えるべき神は不死の使命の為に殺すしかなく……私には何も残らなかった」
「………」
私はそれを聞いて想像してしまった
もし、先輩が…そう、あの時の旅人さんみたいに干からびた姿となって正気を失って襲ってくる
何回名前を呼ぼうと…何をしようと返ってくるのは暴力だけ
私はそこで彼の旅が決してファンタジーのような夢物語で結成されていることではない事に気付いた
仲間と共に協力してドラゴンやらの強大な敵を倒す…そういう訳では無かった
その世界は…ずっと、想像よりも穢れていた
「ホシノ、私はお前の事を良く思っている
ㅤ…初めてなんの疑いも無くお前に背中を預けることが出来ると思っていた
ㅤ────しかしなぁ」
彼はそう言って、私に近づいた
ゆっくりと…しかし確実に歩み寄り私の目の前で歩を止める
「……お前はどんな形で私に刃を向けるのだ?
ㅤ正気を失った亡者としてか?それとも誰かの制約の元か?」
彼はそう言うと、私の肩に手を載せる
乗せられたそれは僅かに震えていて…能面のような彼の顔とは正反対の感情が乗せられていた
彼は何度も殺したのだろうか、それとも殺されたのだろうか
そもそもとして彼にもう人間らしいそれはあるのか…
死せど生き返る存在が………そう思うのか
「…もうしたくない、亡者になった者の介錯など──あんなの、もう沢山だ」
それは、彼の本当の本心だったのだろう
誰にも打ち明けることの出来なかった…本心なのだろう
「…やだなぁ、私は正気なんて失わないよ…旅人さんと違って不死人でもないから、さ?」
「…………ははっ、そうだったな…君は不死人じゃなかった」
彼は乾いた笑い声を漏らすと、私に背を向けた
そのまま歩き出したそれは…どうしても嫌な思いしか心に湧かなかった
親しき人が敵になる、そしてそれを殺さなければならない
人間性を確実にすり減らす…普通に生きていれば恐らく無い経験
私はロードランでの旅を聞くことが怖くなっていた
彼が受けた裏切り、欺瞞、友人殺しを聞けば…少なくとも輝かしい旅はなかったのだと…私に思わせた
「…はっ、何言ってんのさ…私」
聞くことが怖くなっていた?何を馬鹿なことを言っているのだ
…もう、聞くことは無いのだ
恐らく、一生も