ジャックはいつも通り篝火から『竈火の館』に戻ろうとしたが、
転送が終わった先、視界が明けた先は灰の砂塵が飛び交う廃墟だった。
背後には絶壁、その上に廃墟が見える。そして視線の先には灰の丘、周りを見渡すと、灰の荒野が『縦に』広がり、廃墟のような街並みが歪に歪みながら広がる。
「・・・まるで、『玉座』だな」
かつて、自分が何度も歩み、座った場所を思い出すような場所。
「ああ、二度と戻ってなどやるものか」
そう言いながら一歩、一歩と歩み続ける。
灰の坂を上りきり、風化した石の門をくぐったその先に
まさに、武器の墓地とも言えるほど、剣や槍が刺さった、火の粉が舞う花畑に囲まれた中心。
篝火とその前に座る人影。
焼け焦げたその鎧、朽ちた王冠のような兜。
それはこちらに気づき、ゆっくりと、立ち上がる。
火の粉が舞う。
薪の王―自然とジャックの脳裏に浮かんだその言葉に少し引っかかった。
「『成れの果て』が、正しい表現だな」
と、小さく独りごちる。
お互い、静かに構え
獣のような炎の咆哮が、灰を強く巻き上げた。
薪に火が灯るように、焼け焦げた剣が赤熱を帯びる。
それは大きく跳躍し、剣を横薙ぎに切り払う。
横転するように紙一重で回避をし、『煙の特大剣』を装備し、縦に振り下ろす。
その一撃が確かに入ったにも拘わらず、怯まずに真っ直ぐとこちらを見据えて斬りかかってくる。
横薙ぎ、袈裟斬り、突き。
熱波がそのまま斬撃となってジャックを襲う。
「ッチィ!!!」
ジャックは咄嗟に避ける。
本能が告げている。
ここは、自分がオラリオに来る前と同じだと。
距離を取り、『アヴェリン』を両手に持ち引き金を引く。
その全てが命中したのにも関わらず、それは跳躍し、剣を叩きつけていく。
咄嗟に『アヴェリン』を盾にするも吹き飛ばされる。
使い物にならなくなった『アヴェリン』をソウルに戻し、『ゲルムの大盾』と『煙の特大剣』を装備し、距離を詰める。
炎を纏った騎士が振るう炎剣を躱し、流し、受け止める。
連撃の隙をついて『煙の特大剣』を叩きつけては、守りに迅速に切り替える。
不意に騎士が距離を取り炎剣を地面に叩きつけると火花を散らしてそれの形が瞬時に変わる。
杖のような形状に変わったものをこちらに握る柄を向ける。
散弾のように撃たれる青い魔術の光弾がジャックを襲う。
「芸達者のようだな!!!忌々しい!」
毒づきながら転がるように避ける。
そしてそれはすかさず、槍状の魔力魂をジャックに向けて放つ。
彼はそれを突進しながら紙一重で避け、騎士に肉薄する。
その身体に『煙の特大剣』を力いっぱい叩きつける。
吸い込まれるように叩きつけられた大剣が鎧を伝い、地面を揺るがし、陥没する。
騎士はダメージを受けた様子もなく、杖状態の炎剣を地面に打ち付ける。
今度は曲剣のような形状に変化する。
ジャックは直感を働かせ、本能のままに後方に飛んだ。
先ほどまでジャックがいた場所に爆炎が巻き起こる。
「『大発火』まで使うか」
楽しそうな声でジャックは呟く。
騎士は火を纏った左手を自分の胸に叩きつけた。
それを見たジャックは徐に薬草を取り出し、兜の下の口に放り込んだ。
騎士が飛び上がり、こちらに向けて刃を振り下ろす。
回転するように切りつけた後勢いをそのままに横薙ぎに斬りかかるそれを一撃目を『煙の特大剣』の腹でいなし、二撃目を横にローリングをして躱す。
ジャックもローリングの勢いに任せて『煙の特大剣』を振り切るもギリギリのところをバク転で躱される。
単純な攻防の応酬だが、一般的な冒険者達の膂力ではないのでそれぞれが轟音と共に繰り出される。
ジャックは相手が自分の太刀筋に『慣れて』来ていると感じた。
明らかに避けるのがスムーズになってきている。
『煙の特大剣』を霧散させ、とある武器を取り出して斬りつけた。
騎士が急な戦い方の変化に対応できず、すべての攻撃を諸に受ける。
「ああ、『こいつ』は初めて見るのか。都合がいい」
『赤鉄の両刃剣』を回転させるように斬りつける。相手の攻撃も避ける動作と攻撃を一体化させた手馴れた動きで鎧を削り取っていく。
そうして削り取っていくうちに、騎士が強引に地面に曲剣を打ち付ける。
槍のように変化したそれを豪快にぶん回し、ジャックに距離を取らせる。
そのリーチを生かして確実にこちらの間合いの外から攻撃してくる。
盾を取り出し、いなしながら近づこうにも、確実に距離を取りながら攻撃をしてくる。
常に死と隣り合わせしているような感覚を覚えながらもジャックは口に笑みを張り付けて突進する。
得体のしれない充実感が身体を満たす。
「ああ、そういえば」
思い出したように彼は呟いた。
「『こっち』に来るまで、久しく全身全霊で生き残るために足掻くということはなかった!!!」
吠えながらも、相手の轟音を立てながら襲い来る突きを躱し肉薄する。
オラリオの誰かが見ていれば誰もが口を揃えて言うだろう。
神話の戦いを見ているようだと。
振る剣が、槍が、辛うじて見える速度でありながらもそのどれもが必殺の一撃として繰り出される。
そしてそのどれもが致命傷に至らない。
そういったやり取りを10合ほど続けた時に状況が動いた。
ジャックが鈴を前に突き出す。
「『絶頂』」
短く唱えたそれはジャックの身体の中にある。自分以外のソウルを根こそぎ持っていき、生命の力を捻じ曲げる圧縮された闇の塊を叩き込む。
相手が怯んだのを見て、『まだ取り込んでいないソウルの塊』を砕き、自分の内にソウルを補充する。
「『闇の踊り』」
反撃に転じようとしたそれを衝撃波で吹き飛ばすと同時に5つの巨大な闇が襲う。
そしてさらにソウルの塊を砕き、『煙の特大剣』を取り出し両手でそれを握りしめる。
砕いて補充したソウルが大剣を纏うと刀身に罅のような赤熱と黒炎が纏わりつく。
キイィィィンと刀身が熱による振動を起こす。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
そのままジャックは、火の化身に、それを水平に振りぬいた。
振動による音と熱波がそのまま剣の軌道を延長するように伸びる。
まともに受けた敵が吹き飛ばされ膝をつく。
ジャックはそのまま両手で『煙の特大剣』を両手で地に足をつけたそれに叩きつける。
かつて自分が何回も仕留めた、煙の騎士が振るったその技を。動きを完全に自分のものにし、敵を討たんと何度も叩きつける。
ついに、その猛攻に耐え切れず、煤だらけの騎士は吹き飛ばされ転がる。
倒れて動かないのを確認し、ジャックはそれが座っていた篝火に近づく。
振り向くも、騎士は動く気配が無い。
ソウルになる気配もない。
ただ、じっと首だけをこちらに向けている。
「よそ者は帰れとでも言いたそうだな」
肩を竦めて篝火に触れ、自分の帰る場所を思い浮かべる。
「俺はお前のようにはならない。なってたまるものか」
そう吐き捨て、ジャックは篝火に飲まれた。
「とまあ、久しぶりに危なかったぞ」
「君は本当に突拍子もなく神を不安にさせるね!?」
ヘスティアは頭をがしがし掻きながらジャックを睨みつける。
「帰ってきたんだから、問題ないだろう」
そうぶっきらぼうに答えると彼はヘスティアを一瞥する。
「・・・なんだい?」
怪訝な顔でヘスティアはジャックの顔を覗き込む
兜で見えないその表情。兜の隙間からどんな目をしているのかすらも分からない。
「・・・なに、本当にやりたいことを見つけただけだ」
そう短く答える。
「教えてくれないかい?」
何時になく真摯な眼差しをジャックに向けるヘスティア
その目は紛れもなく、我が子を見る目だった。
「・・・いつ、『戻されるか分からない』」
その言葉に肩を強張らせる。
「だから、少しでも残そうと思う。私がここにいたという証を。例え貴方が私の前からいなくなるのが先であっても、確かにここにいたという証左を残したい」
ジャックは静かに伝え篝火にアイテムなどを出し入れする作業に戻った。
「できるさ」
ヘスティアは短くそう言った。
「なにせ、僕の眷属なんだからね!」
笑顔でその背中に根拠もない理由を付け足した。
「ああ、私がここにいるのは、間違いでないと証明してみせるとも」
そう振り向かずに彼は兜の下の穏やかな笑顔を決して気取られないように答えた。
「ところで、ベルが帰ってくるのが遠征にしては遅くないかね?」
「そういう不安を煽るようなことを言わないでおくれよ・・・」
決して空気を読まずに、締まりが悪い問いかけをする自分の眷属に、彼女はげんなりしながら注意した。