目を開けるとそこは、洞窟だった。
周りを見渡すと後ろに異形のような人が腫瘍のようなものがびっしりと張り付いた箇所に佇んでいる。
こちらに気づいたそれは顔を上げ、口を開いた。
「ああ、ああ。新入りかね?」
快楽に微睡んだような声色で話しかけてくるそれは所々が腐りかけている。
「珍しいことだ。随分と久しぶりのことだ。けれど君。喜びたまえ。此処こそが、我ら忌み人が探し求めた安息地。冷たく優しい絵画の世界、アリアンデルさ」
そう言いながらも腐った腫瘍のベッドに寝転がり始める。
「・・・だから君も、早く探すといい。ずっと甘く腐っていく、君の寝床をね・・・」
「帰るべき場所がある。腐るわけにはいかないな」
そう短く返してジャックは踵を返した。
外に出ると見渡す限りの銀景色。
雪原の中、ぽつりと『篝火』があるのが見えた。
『篝火』に火を灯し、まずは自分が『オラリオ』に帰れるかどうかを確認する。
一瞬だけ、50階層の『篝火』へ転送して、元の雪原へ戻る。
「まずは安心といったところか」
そう独り言ち、周りを見渡す。
すると、一つ、雪に埋もれた死体を見つける。見ると大きな槍に貫かれて絶命している。
そして、それが行方不明になった『オラリオ』のならずものであることを確認する。
彼はすぐに臨戦態勢になり周りを見渡すと、亡霊のようにふらふら彷徨う人影を見つける。
それはこちらを補足すると同時に右手に持っている槍をこちらに投擲してきた。
それを難なく避け、地面を蹴り、距離をつめる。
『敵』はどこからともなく槍を再び取り出し、今度は突きを繰り出す。
それを紙一重で避け、『栄華の大剣』で一閃する。
真っ二つにされた敵は灰のように体が霧散し、ソウルとなり、ジャックに取り込まれる。
「これではっきりした」
ジャックは短くそう呟く。
ここは間違いなく、『自分がいた世界』と同じ規則の下成り立っていると。
そして、静かであるはずの雪原に雪が踏み沈む音がする。
振り返ると先ほどの同じ敵が数体ゆらりゆらりとこちらへ歩んでくる。
「まるで幽鬼だ」
そう短く評し、ジャックはその幽鬼達に向かって突進する。
まずは盾持ちの刺突をローリングで回避し背中を串刺し。
そのまま持ち上げ、真後ろで今にも斬りかかろうと振りかぶっている松明と剣を持った幽鬼ごと両断する。
視界の隅、槍を振りかぶって投げてくる幽鬼を槍をローリングでかわし、前屈姿勢から飛び上がり、幽鬼を両断する。
その両断した幽鬼の先、小さな崖になっているであろう先に森が見える。
ジャックは無言でそちらの方角へ進むと地面が割れ、落下する。
幸い大きな段差程度の崖だったのでジャックは上手く着地した。
そして、探索しようと足を踏み入れた瞬間、
遠吠えが聞こえる。
見ると白狼の群れがこちらに肉薄してきている。
そして、飛びかかるタイミングを一匹、また一匹とずらしながら四方八方から波状攻撃をしかける。
冷静に大剣をぐるりと回転斬りの容量でぶん回した後、両断しきれなかった狼の達の一撃を両断した狼の方向へローリングして回避する。
すかさず地面を蹴り飛び上がり切り上げ、空中で回転し勢いをつけてそのまま地面と共に叩き切る。
残った一匹が後ろに飛び退いた後、遠吠えをする。
それに呼応するように遠吠えが複数木霊する。
一匹、また一匹と白狼がどこからともなく現れる。
先ほどと違って警戒するようにジャックの周囲をぐるぐると回る。
ため息をつくと後ろから不意に一匹が飛びかかる。
半身をずらしてそれを避け両断。
それ合図に狼達が一斉に襲いかかった。
ジャックは右手に『北のレガリア』を装備し、『栄華の大剣』と合わせて横なぎに薙ぎ払う。
2匹が巻き込まれ死亡する。
次に転がるように他の一撃を回避し、振り向きざまに呪術の火を熾す
「『封じられた太陽』」
同じあたりに着地した狼達は漏れなく燃え尽きる。
鎧についた雪を払い、一息つく。
「『昔』なら10回は死んでたな」
と、苦笑交じりに呟いた。
「さあ、次は何が出る。久しぶりの『冒険』といこうじゃないか」
そう言いながら周辺を探索する。
と火の粉のようなものがこちらにふよふよと寄ってきているのが分かる。
「!」
ジャックはいち早く駆け出し、それと似たような火を灯している木の下に行く。
「『発火』」
燃やされた木は断末魔の叫び声をあげてもがき苦しむ。
それに呼応するように周りの木々が動き出した。
「ッチ!」
舌打ちをしながら『火の玉』片っ端から同じような挙動をする木々に投げつける。
全て『処理』した後、周りを見渡すと腐乱した膿が広がる場所を見つける。
そこにいる蠅のような見た目をしたナニかが二匹いる。
「『火の玉』」
そっと火球を投げつけ絶命したのを確認すると、その中心にあるスペルが書かれた書物を手に取る。
「ほう、こんな術があるとはな」
そういい、懐にしまう。
そこから先に続く坂を見るが、『霧』に飲まれていて先が見えない。
それを見るとジャックは反転し、逆方向へ自分が落ちた崖沿いに歩き始めた。
しばらくすると、先ほどの『木』がいくつかあったので燃やして処理すると
先ほどの幽鬼達が密集している地帯を見つける。
「『封じられた太陽』」
ジャックは躊躇なくそこに特大の大火球を叩き込み、その全滅した跡を見る。
すると、幽鬼達のいた中心に魂のように漂うものを見つける。
それを回収し、彼は無言で右手に『幽鬼のジャベリン』を現出させる。
それを手ごろな木に投げつけると、同じように右手に同じものを現出させる。
「これはいい」
そう短くうなずき、『幽鬼のジャベリン』を霧散させ、来た道を戻り、探索を続ける。
すると、特大の遠吠えが聞こえた。
見やると、ひときわ大きな白狼がこちらにとても生物とは思えない速度でこちらに突進してきている。
「まるで伝承の『シフ』のようだ」
そう呟き、その突進を紙一重で回避する。
回避をしながら、弓を取り出し、大きな矢を射る。
的確に白狼の後ろ脚二本を撃ち抜き、悶え苦しむ。
そして遠吠えを上げるとそのまま身体が霧散し、消えた。
おそらく逃げたのだろう。
「にしても、『一週目』か『二週目』のようだな。これは」
さきほどから思っていたことを口に出すことで、確認する。
そして、狼が消えた跡に、微弱に火が灯った篝火が鎮座している。
それに手を触れると声が聞こえる。
【灰ならざる者、招かれざる者、絵画に挑む意味はなく、資格もなし】
そうはっきりと脳裏に声を刻まれ、意識が遠くなる。
気が付くと、元居た廃墟に立っていた。
見やると廃墟の『篝火』が消えている。
彼はため息をつき
「久しぶりの冒険が、中途半端とは。それはそれで残念なものだ」
と独り言ちた。
【ヘスティア・ファミリア】ホーム、『竈火の館』の篝火に戻ったジャックは主神ヘスティアに詳細を報告。その際、手書きでレポートを纏めた。
「ああ、そうだ。久しぶりにステータス更新を頼む」
そうジャックは言い、鎧を解除し、寝転がる。
ヘスティアは無言でステータスの更新をはじめた。
ジャック Lv5
Slv838
生命力:99
持久力:99
体力:99
記憶力:99
筋力:99
技量:99
適応力:99
理力:99
信仰:99
鍛冶:EX
戦技:EX
【楔打つ者】
篝火作成スキル
篝火の最大作成数は冒険者レベルに依存する
篝火最大作成数8
【深淵歩き】
ソウルを消費するスペルのコスト無料化
【霧の獣】
武器を制作する際、エンチャントに強力な補正
ソウルを所得する際、20%の所得ボーナス
亡者にならない
『北のレガリア』を装備している際、攻撃力と敏捷に限界以上の補正
前から随分と更新をしていなかったせいか発展アビリティが何故か2つ、発現スキルが一つ増えているのを確認する。
ヘスティアは胃薬を一つ飲んだ後、それをジャックに報告する。
「そうか。にしても増えた3つ目のアビリティは、かなりありがたいが、こいつにピンポイントに関係するのが、引っかかるな」
と、『北のレガリア』を取り出して見せてそういった。
「僕は君みたいな規格外を何人も抱えてる身にもなって欲しいよ。普通の冒険者、そろそろ一人くらい来てくれないかなぁ」
と胃を抑えながらどこか遠い目で諦めたようにヘスティアは呟く。
「少し、発展スキルも確かめたいので、一品こさえてヘファイストスに見てもらうするか。槍でも打つとしようか」
「ふざけんじゃないわよ」
ヘファイストスは青筋を立てて目の前の化け物に吐き捨てた。
「あんまりな言い方だ、で、どうだ?」
「前回と違って、本気で打ったものを鑑定してもらいに来たのは素直に私としては勉強になることが沢山あるわ。でもね」
そこで彼女は言葉を切る。
【ヘファイストス・ファミリア】に顔を出した目の前の悪魔はあろうことか本気で一本打ったので見て欲しいと言ってきたのだ。
『前回』の物を考えて、鍛冶屋として興味ないとは口が裂けても言えないので渋々受けたところ。
「『不壊属性』でいて切れ味が落ちない。かつ『常に雷を纏った』二対槍なんて聞いたことも見たことも無いわよ。常識はいい加減何をしているのかしら。私を胃痛とストレスによる神経痛諸々で殺す気なの?」
曰く、『雷のドランの双槍』を丁寧に相手に返しながらそう言った。
「というか、神の恩恵の発展アビリティに『鍛冶』がついたとか言った時点で嫌な予感しかしなかったわよ。ええ。というか『ウチ』でも、ゴブニュのところでもないのに発展アビリティが鍛冶って何?貴方別の鍛冶神に取りつかれてないかしら」
悪態をつきまくる彼女にジャックは首を傾げながら
「で、鑑定結果は?」と短く聞いた。
「これ以上ないほどの一等級、いえ『特等級武器』といったほうがいいわね。鑑定書に追記しとくわ」
と乱暴に書きなぐってこちらに鑑定書を投げ渡してくる。
「で、そんなものを作って世に売り出して私たちを経済的に殺す気かしら?『深淵歩き』さん」
たっぷりの皮肉を込めて言う彼女に
「いや、まぁこいつは色々世話になった奴に向けて作ったものだからな。塩を送るついでに渡してやるさ」
ひらひらと手を振りながら彼は踵を返した。
「・・・・・・いや、タダでプレゼントする代物じゃないっていってんでしょうが!!!!!!何考えてるのよ!?っていうか鑑定書もセットってことは私がGOサイン出したみたいになっちゃうじゃない!!!ゲホッコホッ」
後ろから断末魔が聞こえたのをジャックは適度に『いつものこと』として無視し、その場を後にした。
「で、僕のところにそれを持って来たと」
『苦笑い』
これ以上ないほどの苦笑いでフィンは言った。
「前回の『魔物狩り』の件もそうだが、多少迷惑をかけた。故にこれでよければ詫びになるだろうかと思ってな」
そう言う彼にフィンは、真面目な顔でその双槍を見る。
それを無言で手に取り、型を確認するように槍を振るう。
そして最後に藁人形に渾身の突きを入れると、黄金色の雷が藁人形を消し炭にした。
無言でそれを置いていたテーブルに丁寧に置くと口を開く
「・・・これは、強すぎるよ。僕が持つには」
と言った。
「もちろん、僕用に作ってくれたからか、『これ以上ないほど』しっくりくる。ただ、これを使ったが最後、『これ以上はない』と思ってしまう。そしてそれが限りなく遠いところにあって、これを持ってダンジョンを潜ったが最後、『これ以外の物』が握れなくなってしまうと思うくらいには、強すぎる。僕ではとてもじゃないが価値をつけて払えない」
と、フィンは申し訳なさそうに言った
「なら、『それ』を使って『それ』に足る男になってみせろ。代金はいらん」
ハッと顔を上げるフィンの前には『英雄』がいた。
「貴様の夢は他から聞いたが『バルゥム』一族の復興なんだろう?なら『それ』に足る男にでもならんとそれは夢でしかない。それに一族の復興だけじゃない、地位とは確立してからどうするか、が大事だ。なら、そこを『終着点』にするなという枷にもなろう」
そう言って彼は立ち上がり、帰っていった。
フィンは目の前に置かれた双槍をじっと見つめる。
そして一人、誰も見ていない中、誰にも見せないような鷹のような眼で口を開いた。
「まったく、僕をここまで焚きつけたのは、君が初めてだ」
そこには、『団長』としてではなく、理想へ向けて餓鬼のように走る一人の『冒険者』がいた。
ギルドに『レポート』を出し終えた後、ジャックはギルドから出て、じゃが丸くんの屋台に一直線に向かう。
「お、ジャックさん!いつもありがとうね!」
少し年をいった店番の女性がそう言う
「じゃが丸君、小豆クリーム味、5つ」
「4つ分しかもうないんだよ。他はどうだい?」
「ではそれと、普通のじゃが丸くんを6つほど」
「あいよ」
こなれた手つきで小豆クリーム味を5袋、通常の袋を6つほど用意して、大袋に入れて手渡す。
「まいど!」
こうして、ジャックは決まって大量にじゃが丸くんを購入することで知られている。
彼はその異常性から畏怖の対象として見られがちだが、憧れる者もまた、少なくない。
アイズ・バレンシュタインや最近レベル4となったベル・クラネルも利用しているということでじゃが丸くんの屋台は売り上げが右肩上がりになっているとのこと。
小豆クリーム味を一袋開けていると、視線に気づく。
見ると、見たところ冒険者であろう小人族がこちらを見ている。
視線に気づいたのか小人族の身体がびくりと跳ね、おずおずと近づいてくる。
「あ、あの!」
勇気を振り絞って声を上げる少年を静かに見つめる。
「大ファンです。『勇者』と同じくらい、憧れてます!頑張ってください」
そう言って、頭を下げてくるその小人族を見てジャックは無言で肩をたたく。
顔を上げるとそこには指甲があった。
「昔、使っていた古い方だ。折れない心で、前に進むといい」
そう言ってジャックはじゃが丸くんを食べながらその場を後にする。
小人族は呆けたようにその場から動かず、ずっと彼が去った方向を見つめていた。
『勇者』と同じような憧憬が彼を動かし遠い将来、『