「はああああああああああ!」
ただ我武者羅に敵を屠り続ける。
先日の一件以降、ベルは『強くなりたい』という決意を新たに、ダンジョンに篭り修行をしていた。
「ふう・・・」
一息をつき、彼はふと懐にある骨片をなぞる。
ジャックに、潜るのならば持っていけ、ホームの篝火に飛ぶようにはしてある。と言われ、持たされた帰還の骨片である。
命の危機に瀕した時、咄嗟にコレを砕ければホームに帰還できる。
強すぎる命綱だ。と、胸中で呟き、ベルは一息をつき、周りを見渡す。
ソロで挑むダンジョンは16階層まで進んでいた。
そして、下の階層に降りる空洞の隣に、奇妙な細道があるのに気付く。
気になって覗いてみると、道が続いていた。
「・・・いってみよう」
力への渇望がそうさせるのか、ベルは一歩、また一歩と慎重に道を進んだ。
そうして進むと開けた場所に出た。
そこは。
「・・・は?はい!?」
一面の森、と、左手の坂の奥に門が見え、正面には一見協会のようなものが見える。
後ろを咄嗟に振り返ると
「嘘だ・・・」
後ろには道が続いていて、小さな門のような洞窟状になった雑木林。その道が霧で塞がれていた。
そして背後からひたり。ひたりと足音が聞こえる。
振り返ると、巡礼者のような格好をした『なにか』がそこにいた。
顔が白骨化しているのではと勘違いするほど痩せ細り、薄汚いローブを纏ったそれは
ベルの顔を見るなり叫喚し、自らを火打ち石とナイフで火だるまにし、突進してきた。
「!!!うわああああああ」
ベルは咄嗟に横にローリングし、飛び込んできたそれを躱すとそれに構えなおそうとした。が。
それは爆発し、焼け焦げた痕のみがそこに残った。
「・・・とりあえず、先に進もう。出来る限り情報を集めて、ジャックさんに報告するんだ。」
そう、決意を口にして左手に同じような薄汚いローブの亡者が数人いた事にギョッとしながら気づかれないように、静かに小教会の門を潜った。
そしてその先には。
二人、人影が見えた。
「おや?」
そのうちの一人が声を上げて気がつく。
声の質からして、女性だろう。
「やあ、こんなところで会うとは。同じ不死・・・いや、この感じは違うな。私はアストラのアンリ。君は?」
と、問いかける。彼女にベルは安心したように口を開く。
「ベル・クラネルといいます。不死ではないです。オラリオというところで、冒険者をしています」
と、自らの経緯を説明した。
「なるほど。その話を聞くと、ここ『深みの聖堂』の主を倒さないことには終わらなさそうだ」
アンリは納得したように頷き。指を立てる。
「なら、こういうのはどうだろう。君もそれなりに腕が立つようだし、私達と一時的にパーティを組んでここを攻略しないか?」
願ってもない申し出にベルは頷き
「ぜひお願いします。ところで、その人は?」
と先程から壁際であるのに壁に持たれずに腕を組んで仁王立ちしている。黒色の鎧の男に視線を移す。
「ああ、紹介が遅れた。彼はホレイス。寡黙だが、誠実な戦士だ」
そう言うとホレイスは腕組を解き、武器を携えて小教会の出口に歩きだす。
「さあ、出発といこう。君の家族とやらも心配しているだろう」
ベルはその後をしっかりとついていった。
「あそこからいけるだろう」
と、アンリは先程無視した坂の門を指差す。
「手前の亡者は3体。それをまずは処理しよう。いくぞ」
アンリはそう言うや、ホレイスとほぼ同時に突貫した。
ホレイスがハルバードを、アンリが直剣を亡者の背中に突き刺す。
ベルも躊躇いながらももう一人の亡者の背中に刃を突き立てた。
そして3人が同時に武器を引き抜いた瞬間、背後から叫喚を上げながら火達磨の亡者が突進してきた。
が、ホレイスが誰よりも早く前に出て、亡者を円盾で飛び込んできた瞬間に弾き飛ばした。
「な?頼りになるだろう?」
「はい」
自分のことのように胸を張るアンリに微笑みながらベルはうなずき返した。
坂を登りきり、門をくぐると、悪寒が走る。
地面から亡者が這い出てくる。
が、様子がおかしい。
「!ベル君。あいつらの口をよく見てみろ」
促されるままに見ると
「うっ」
気分が悪くなるような光景があった。
口に蛭がこれでもかというほど蠢いていた。
「ベル君。君と私の獲物だとあれの餌食になりそうだ。駆け抜けるぞホレイス」
凛とした宣言にホレイスは無言でハルバードを横薙ぎに切り払って湧き出てきた亡者を一掃した。
それを皮切りに弾けるようにアンリとベルは駆け出した。
ホレイスの後に続いて、蛆を口に溜めた亡者達を無視しながら全力で駆ける。
「どうやら正解のようだ。奴ら、肉体と思考が朽ちていて走れないようだ」
と、アンリが言いつつ、も指を指す。
ベルは見やると石造りの道が見える。
その先に目をやると顔が強張った。
蛆亡者の腹から食い破るように上半身のみ人型を象った蛆が蠢いていた。
アンリとホレイスも気づいており、一線交えようと盾を前に構えて走っている。
「『ファイアボルト』!」
咄嗟にベルはその蛆の塊に向けて火炎魔法を放つ。
すると蛆には効果抜群だったのかもがき苦しみながら溶けていった。
「よくやった!」
アンリは声をかけつつもその足を止めずに道を突っ切る。
すると、整備された庭園墓地のような場所に出る。
蛆人がふらふらとしている中、奥に奇妙な人影があった。
大きな曲剣を二振り携えたボロボロの衣服に身をまとったそれはこちらを確認するなり突進してきた。
回転するように襲いかかるソレにアンリは身体を滑り込ませて、その両腕を盾でいなす用に真上に弾き飛ばした。
見事な『パリィ』に亡者が尻餅をつく。
そこにアンリがすかさず素早く袈裟懸けに斬りつける。
流れるような技に、ベルは目を見張った。
それを知ってか、アンリはこちらに一瞥し、
「私もやるだろう?」
と茶化した。
「さぁ、そこの蛆達がいつ襲ってくるかもわからない。先に進もう」
そう言い、足早に進む。
階段を登りきり、左手に大きな建物が見えた。
「さあ、行こう」
そのまま道なりに進むと大きな門がある場所につく。
アンリは確認するように門を押すがびくともしないのを確認して辺りをゆったりと観察する。
ベルもあまり離れないように辺りを探ると、
「あ、あそこいけるので・・わああああ!?」
指を指した先から弓矢が飛んできたので咄嗟に避ける。
アンリがそっとその方向を確認すると、高台のようなものの上から弓を携えた亡者がこちらに矢をつがえ、構えているのが見えた。
「任せてくれ。カバーを頼む。」
そうアンリは言うと盾を構えて突貫する。
ホレイスとベルはその数歩後ろを駆けた。
すると、アンリが通り過ぎた瞬間に、両脇の手すりにぶら下がっていたのか、亡者達が這い上がってきた。
ベルは右側の亡者を。ホレイスは左側の亡者を蹴り落としてアンリの後に続く。
アンリは矢を盾で弾き、その手に黒い火炎瓶を握りしめて、思いっきり弓を構える亡者に投げつけた。
全身が燃え、もがき苦しみ、亡者が高台から崩れ落ちた。
「さて、ベルくん。確かにこっちで合ってるようだ」
安全を確保してなお警戒しながらアンリは顎で示すと、木の板と瓦礫で道ができていて、大きな建物の屋根裏へ続く道がそこにあった。
アンリとホレイスの後に続いてそこを渡るベルは先頭の二人が通った後、亡者がその後ろをナイフを構えて突っ込むのが見えた。
「たあああああ!」
ベルはその亡者を蹴り飛ばし、足場から押し出した。
「ありがとう。なかなかいいパーティになったな」
為す術もなく落ちる亡者を見届けた後、アンリは静かに感謝とここまでで抱いた感想を述べた。
そして瓦礫の橋を渡りきり、屋根につくや否や小さな小人のような亡者が身の丈の2倍はある大剣を持って襲い掛かってくる。
三人は冷静にそれぞれ対処する。
そして、更に先を進むと、
「!危ない!」
アンリはベルに迫っていた矢を剣で叩き落とす。
ベルが方向を見やると、弓を携えた亡者が2体、火矢を構えてこちらに焦点を合わせている。
ベル達は、その亡者達が構える広場、まで、屋根をつたい、飛び降り、冷静に対処する。
そしてベルはホレイスとアンリがそれぞれを片付けたのを見た後、何かが視界の端に映った。
見やると、3体目の弓兵がこちらに矢をつがえていた。
「危ないっ!」
そう言いながらベルは咄嗟に、ナイフを亡者に投擲した。
頭に見事に突き刺さった亡者が崩れ落ち、灰になる。
ベルがナイフを拾うのを確認して、アンリはサムズアップしながら、
「助かったな。お互いに」
と言った。
気恥ずかしげにベルは鼻の頭をかき、次に行くべき道を見やる。
「アンリさん。あれ」
奥を指差すと、僧兵のような大きい体躯の亡者がこちらを睨めつけながら階段を守っている。
「ああ、話し合いの余地はなさそうだ。あと、今までの道の例に嵌めると罠の臭いがする」
と、僧兵と自分たちを挟む場所に建物の入口のような物が見える。
「今度はホレイスが先頭を頼めるか?」
アンリはホレイスに声をかけるとホレイスは無言でベル達を背に駆け出す。
ホレイスと僧兵亡者がぶつかったのを見て、
案の定建物の屋根から2体、建物から1体小人亡者がホレイスに踊りかかった。
「『ファイアボルト』!」
ベルは屋根から飛んできた1体を魔法で弾き飛ばし、ナイフで建物から出てきた小人にナイフを閃かせる。
「シッ!」
アンリは跳躍し大上段から最後の一匹を両断。
そして、ホレイスが僧兵を横薙ぎに真っ二つにするのはほぼ同時だった。
そして
「まだ来る!」
奥から先程庭園にいた二刀流の亡者が2体、こちらに向けて突進してくる。
アンリとベルは飛び出し、
それぞれの曲刀をもう片方の亡者へ弾き飛ばす。
受け流した力も相まって勢い良くそれがそれぞれの肩に突き刺さる。
ソレを見て二人はきれいな動作で首を刎ねた。
そして、その瞬間、脇から火達磨の亡者2体がこちらに突進してくるのが見える。
まだ、態勢を整えていない二人の前にホレイスが立ちふさがる。
そして亡者の一人をハルバードで付いた後、もう片方を掴み投げ飛ばした。
「ありがとう。ホレイス」
軽くアンリが礼を言うとホレイスは一瞥し、返事とばかりに手甲に残った火の粉を払った。
そして先に進むと大きな扉が見えた。
アンリはそれを押すと、大きな音を立てて扉が開く。
「いこう」
短く声をかけて一行は中へと進んでいった。
中に入ると左手に通路が見える。
アンリ達が進もうとして、不意にホレイスが彼らの襟首を掴む。
「わっ」
「むっどうしたんだいホレイス」
訝しみながら振り向く二人にホレイスは無言で上を指差す。
二人が指された方向に目を向けると。
天井にびっしりとなにかがへばりつき、蠢いていた。
「スライムか・・・」
「ここのスライム怖すぎませんか・・・」
ベルがゲンナリした様子で呟くと、何を言っているんだと言わんばかりにアンリが首を傾げる。
「物理攻撃が不定形故通りにくく、下手な獲物だと消化液によって溶かされる。これほど厄介な敵はそうそういないよ」
と、アンリが指を立てて説明する。
「じゃあ僕が・・・」
とベルがファイアボルトの準備をしようとしたとき、それをアンリが手で制した。
「魔法は温存したまえ。ここは『これ』をつかう」
と言って霧が収束したと思うとどこからともなく火炎瓶が10本ほど足元に出現する。
それを屈み、ベルに4本ほど手渡す。
「ベルトにでも携帯しておきなさい。スライムがここだけとは限らないだろう」
と、言いつつアンリも3本ほど腰のベルトに携帯し、残りの3本を思いっきり天井に投げつけた。
勢い良く着弾した火炎瓶がスライムの身体を通して火が広がる。
天井にへばりついていたスライムがぼとぼとと耐えきれずに落ち、それらが燃え尽きる。
「さて、行くとしよう」
廊下を突き当たりまで進むと、左手にリフト、右手に出口が見える。
その出口は右手に通路が続いているのが見えていて、中央が大穴のように開いている。
その中心にとんでもないものが見えた。
「ゴライアス・・・!?」
「巨人か。厄介だな」
二人がおそらく通ったものに圧倒的な体躯で襲いかかるであろう巨人に注目していると、
ホレイスがまたも指を指す。
その方向を見ると、対岸に出口のようなものが見える。
そしてそのままホレイスは指を左上に動かすと、矢を携えた亡者が見張りをしているのが見えた。
「なるほど、あそこがゴールで、妨害ありの命がけの徒競走。といったところか」
アンリは茶化すように、それでいて真面目に呟いた。
「ベル、あの巨人がこちらに狙いを定めたら、顔を目掛けて火炎魔法を、続けて私が『これ』をこの入口に捨てる。効くかは分からんがな」
と、青く光る髑髏を取り出した。
「それは?」
「誘い髑髏、奴ら異形や、亡者にとってはこいつは私達と同じ不死に見え、より組み伏せやすい対象にも見えるのか、誘われるようにこれを攻撃するところからそう呼ばれている」
そう言いアンリは入り口を見据える。
「作戦は決まった。途中襲われた場合、相手にするのではなく全力で躱すことを念頭に置こう」
3人は頷き、ホレイスが一番先頭に立つ。
ホレイスが開始の合図と言わんばかりに弾けるように飛び出す。
ベルとアンリもソレに続く。
やはり、巨人はこちらが外に出たのを確認するやこちらに狙いを定めて拳を振り下ろしてきた。
それを間一髪で全員回避すると、ベルは巨人の顔目掛けて火炎魔法を放った。
「『ファイアボルト』!」
直撃した火炎は一瞬巨人の視界を塞ぐように燃えた。
アンリはその瞬間に誘い骸骨を投げ捨てる。
復帰した巨人が反撃と言わんばかりに誘い髑髏が落ちている場所へ拳を振り下ろした。
駆ける駆ける駆ける。
正面から、亡者が火達磨になって突進してくるのを、ホレイスは物ともせず、盾で吹き飛ばしながら進む。
飛んでくる火矢をアンリが叩き落とす。
ベルが二人の死角をカバーしながら走り抜ける。
巨人が振り向きざまに腕を薙ぎ払いながら、ようやくこちらに狙いをつけたときには、3人は対岸の入口に到着していた。
「よし、早速降りよう」
アンリは上手く行ったと頷きながら階段を降りて進む。
小さな礼拝堂のような場所に出る。
ベルはその祭壇で宝箱を見つけた。
「ベル、わかってると思うが」
「ええ、罠ですよね」
「いや、それだけじゃないんだが。そうか。ベルは見るのは初めてか。ふふふ、ホレイス。やるぞ」
ホレイスは頷きまったく訳の分からないベルを置いて宝箱に近づく。
「え、アンリさん。罠だとわかってるのに」
「ああ、これは正確には『罠』ではない」
そう言いながら、剣を思いっきり宝箱に振り下ろした。
ザシュ!
と、宝箱とは思えない肉を切り裂く音が聞こえた。
すると、
スクッっと宝箱から『手足』伸びて立ち上がった。
「な、なんだこれ?!!??!?」
「ミミック、まぁ魔物というわけだ」
そう言いながらホレイスとアンリはミミックが行動する前に攻撃を畳み掛ける。
為す術もなく斬殺されるミミック。そして―
倒したミミックが霧のように消えた後、そこに、黒い箱を思わせる本のようなものが現れた。
「なんですかこれ?」
理解が追いついていないベルが首を傾げる。
「これは点字聖書だな。うーむ。ベル。君が持っていくといい」
と、こちらに点字聖書を投げる。
「あ、はい」
ベルは魔石回収用のバッグにそれをしまう。
「さて、気を取り直して先にすすもう」
さらに下に降りるとまたも礼拝堂に出た。支柱にぶら下がっていたであろう小人がこちらに向けて飛びかかってくる。
ホレイスとアンリはソレを真っ二つにする。
その時ベルは奥から騎士のような甲冑を来た者がメイスを振り上げてこちらに突進してきているのが見えた。
ベルは咄嗟に戦士と対峙する。
戦士は容赦なくメイスを振り下ろす。
ベルは身体を滑らせるように相手の二の腕に左手を弾くように殴り飛ばした。
勢いをそらされて尻餅をつく戦士に、ベルは甲冑の合間にナイフを落とした。
吸い込まれるように刺さったナイフが効いたのか、騎士は霧となって消えた。
「やるな、ベル」
アンリが後ろから声をかける
「あれも、亡者なんですか」
「ああ、間違いない。我々不死は、『終わる』とどうあれ見境なく人を襲いだす。ああはなりたくないものだ」
と肩を竦める。
さらに3人が先に進むと先程、巨人と戦った大きな広間の下に出た。
巨人が動かずに、静かに獲物を待っているのが伺える。
明らかに先に進むための階段が巨人の足元にある。
「ベル。駆け抜けるぞ」
3人は同時に駆け出して、階段へ我先にと飛び出した。
巨人は足元の3人めがけて足を振り下ろすが、それを器用に避けていく。
3人共階段を登りきると、大きな礼拝堂にたどり着いた。
そして、正面に騎士を模した戦士が二人こちらに突進してくる。
「今度は私達の番だな」
アンリとホレイスは二人で戦士に躍りかかる。
アンリは大剣の騎士の大上段を軽やかなローリングで避けながら後ろに回り込む。
そして、腰辺りの繋ぎ目に背後から剣で貫いた。
同時にホレイスがメイスの戦士を持ち前の豪腕で横から真っ二つにしているのが見えた。
「すごい・・・」
ベルはアンリの紙一重の技を学ぶように見ていた。
「ははは、そんなに褒めてくれるな。さあ、いこうか。多分この奥だ」
と、アンリは礼拝堂の祭壇の奥を指差す。
そして三人は礼拝堂の奥の大きな門のような場所に霧がかかっているのが見える。
「さあ、準備はいいか?」
アンリがベルに聞く。
「いつでも」
そう短く応えたベルに満足したように頷き、3人共霧をくぐる。
そこには
ボロボロの修道服を着た集団がそこにいた。
十数人にも登る何人かががこちらに目掛けて一斉に青白い魔弾を放つ。
ベル達はそれぞれ散開してそれを避け、各々が集団に向かって突進していった。
ベルが短剣を一閃し、的確にその首を刎ねていく。
ホレイスが獲物をぶん回しながら突進し、跳ね飛ばしていく。
アンリが盾で杖を持った魔道士のような者を盾で仰け反らせ、斬り伏せる。
そしてしばらくして気付いたようにベルが叫ぶ
「数が減らない!?」
そう。減らないのだ。
首を刎ねても地面から次々と生えるように復活する。
ベルは一旦距離を取り、それらを見渡す。
集団の中に一人、赤い光を纏った個体を見つける。
「はあああああ!」
直感のままに、その個体の首を跳ねると、
赤い光がその死体から逃げるように抜けてベルから離れた別の個体に移った。
「アンリさん!赤く光ってるやつを!おそらく本体です!」
「でかした!!!」
アンリが周りの信者を薙ぎ倒し、赤く光った個体を真っ二つにする。
また同じように別の個体に移る。
が、ホレイスが移ったと同時にその個体を串刺しにする。
そしてそのまま獲物をぶん回して投げ飛ばす。
また赤い光が抜け出す。そして今度は地面に埋まっていった。
しばらくすると、先程とは違う服装の亡者が地面から這い出てくる。
その中心に王冠を身に着けた一際装飾が目立つ個体が現れた。
「ホレイス!」
アンリは声をかけ、取り巻きの亡者に突っ込んだ。
ホレイスは他の亡者を片っ端から処理している。
そしてアンリはちらりとベルに一瞬顔を向けた。
ベルは弾かれるように、中心の個体に向かって必殺の一撃を溜める。
手が白く輝いていく。
ダガーで取り巻きを最低限斬り払い、中心にいる司祭に向けて、手を翳す。
「ファイアボルトオオオオオオオオオオオオ!!!」
その一撃は吸い込まれるように司祭に直撃し、その体を消し飛ばした。
それと同時に、周りの亡者達も、霧となり霧散した。
「やったな、ベル」
肩を労うように叩いてアンリがサムズアップする。
「あはは・・・わっ」
後ろから強く叩かれたので振り向くと、ホレイスが無言で頷く。
「っとと、そろそろお別れのようだな」
アンリがベルを指差す。
ベルは自分の姿を確認すると、自分の姿が徐々に薄れていっているのを確認する。
「また会おう。友よ」
アンリは軽く手を振り、ホレイスももう一度頷く。
「はい、必ず」
ベルはしっかりと頷いて目を閉じ、流れに身を任せた。
目を開けるとそこは、【ヘスティア・ファミリア】ホーム、『竈火の館』だった。
ジャックが丁度ソファで寛いだ姿勢でそこにいた。
「ベル、帰ったか」
そう短く、手を上げて出迎える彼に、ベルは
「はい、無事帰りました」
と答えた。
「骨片を使ったのか?」
「いえ――それが」
そうして彼は自らの口で事の顛末を語る。
そしてジャックは聞き終えた後、口を開く。
「聞いたところ、『深みの聖堂』という場所には聞き覚えがない。ドラングレイグではないようだな」
と言った。
「そうなんですか・・・」
「が、おそらく『私の元の世界』と関わりがあるのは間違いないだろう。ベル。よく無事に帰ってきた」
そう労う彼の言葉にベルははにかむ。
そしてふと思い出したようにベルがバックパックを漁る。
「そうだ。ジャックさん。コレ、『点字聖書』っていうらしいですけど、読めますか?」
そう言って彼に手渡す。
そして彼はその点字を黙々となぞり始める。
「・・・なるほど、ベル」
静かにベルを見据える。
「これを、他の『点字が読める者』に渡さなくて正解だったな」
と、彼は言った。
「どういうことですか?」
「本来、こういった類のものは、お前が使ったというグリモアの役目を成している。が、こういったものを使って学ぶ奇跡魔法を学ぶ際、何かしらの奇跡の物語を刷り込まれるのだが、これは、まずい。私でなければ狂気に堕ちる暗く、陰惨な物語だ。」
静かに彼はベルを見る。
「学びたければ教えてやる。が、後悔をすることになるが、どうする?」
そう言ってジャックは点字聖書を手で弄び始める。
「・・・『それ』を誰の手にも渡らないように、管理してくれますか?」
「承知した」
ジャックは頷き、『点字聖書』を篝火から『底なしの木箱』を取り出し、それに閉まった。
「そうだ、ベル」
思い出したように彼はとあるものを取り出して投げつけた。
取って見るとソレは指輪だった。
禍々しいデザインのそれはさながら『刃』のようだった
「つけておくと良い」
そう短く言うと、彼はそのままアイテム整理を始めた。
「ありがとうございます。――絶対に、強くなります。期待に応えられるように。」
ベルは静かに礼を言う。
「そう気負うな。さあ、『冒険から帰ったら』主神にステイタスを更新してもらえ。私と違ってベルにとっては死活問題だろう」
そう言ってベルのほうを向かずに手を振る。
照れ隠しのようにベルには見え、ベルはクスリと笑い、自分の主神にステイタスの更新を頼みに行く。
「そのうち、結晶魔法のスクロールを取ってうっかり使わないか心配になってくるな。まったく」
ジャックは、ベルが出ていった後、そう独り言ちた。