ベル・クラネルは暗く、沈んだ顔で大通りを歩いていた。
一歩、一歩、歩く度に心が悲鳴を上げる。
『異端児』の一件で翻った自分への評価が道行けば飛び交う。
心が軋む。黒く染まる。
そして不意に顔を上げると
そこが『オラリオ』でないことに気づいた。
「!?なんだ・・・・!?」
周りを見渡すと自分が死体が数多転がる広場にいる。
そして、こちらにゆっくりと近寄るモノがいることに気づく。
その姿は背中に小さな羽を生やした、人間とは思えないほどの巨躯の騎士。
歓楽街の一件で出会った『フリュネ・ジャミール』を彷彿とさせるその巨体から
斧槍が振り下ろされた。
「っく!?」
とっさに避けるも周りの死体に足を取られて転ける。
続く二撃目にベルはナイフを構え一か八か受け止めようと試みる。
騎士がその斧槍を高く掲げた瞬間。
「おああああああああああああああ!!!!」
獣のような雄叫びが頭上から聞こえ、上から降ってきた『何か』によって騎士の巨体が真っ二つに割れる。
「ふう・・・ふう・・・。見るに、貴公は『起きたばかり』といった風だな。間一髪であった」
改めて見ると、『玉ねぎ』を彷彿とさせるヘルムにでっぷりとした鎧を着込んだ騎士がいた。
「貴方は・・・?」
「む、これは失敬。私の名はカタリナの騎士、ジークバルト。使命を果たすため、旅するものだ。まぁ立ち話もなんだ。進みながら話そう」
そう言いながらベルの腕を掴んで立たせ、玉ねぎ騎士は背中をバシバシと叩く。
「見たところ、中々に『素質』がある。良い。旅は道連れだ。さあ、行くぞ。ガハハハッハッハ!」
玉ねぎ騎士と白兎が歩きながら、お互いの事情を簡潔に話していた。
「なるほど、となると貴公は気づいていたら迷い込んでいた。ということか」
「はい」
そうベルは素直に頷くとジークは考える。
「ふーむ。我々のような『火の無い灰人』とは違うが、『ズレ』から迷い込んだと考えるべきか・・・?ふーむ」
と癖なのか腕を組み考えだすジークバルト
「あの・・・」
ベルがおずおずと声をかける。
が、
「うーむ・・・使命があるわけじゃないしなぁ・・・うーむ・・・」
と聞こえていないのか唸りながらも考えるジークバルト
「あのぁ・・・」
ベルはおずおずと肩をつつくとジークバルトは我に返った。
「はっ!すまんすまん。考え事に耽ってしまった。まぁおそらくは我々と同じようにたまたま『ズレ』が重なったのであろう。大きなものを『狩れば』元の場所に戻るだろうて」
そしてジークバルトは快活な笑い声を上げる
ベルはそこで気づく。
ここは『霧の中』ではないかと。となれば、『霧の主』を倒せば戻れるのではないかと。
「一緒にいかせてもらってもいいですか?」
ベルのその申し出にジークバルトは大きく頷き
「もとよりそのつもりだ。さあこの先だ」
指をさすと、大樹の根のようなものが絡まった大扉がある。
ジークバルトはそれに手をかけようとするとピタリ。と止まった。
「ジークバルトさん?」
ベルが声をかける。
「どうやら大物のようだ」
振り向くと甲冑を着た巨大な犬のような生物が冷気を纏い、メイスを片手に佇んでいた。
「ベル。支援を頼む。貴公の体躯を見るに、あれと正面からは厳しいだろう。私がひきつける」
「お願いします」
その軽い打ち合わせに頷きあい。
ジークバルトは前に出た。
「何処の何者かは知らんが、このカタリナの騎士、ジークバルトには『使命』がある。話し合いで済むならそうしたいところだが、そうもいかんようだな!」
と背中の大剣を抜き放ち、切っ先を化物に向ける。
それに答えてか化物は咆哮をあげた。
「カタリナの騎士、ジークバルト。参る」
そして大剣を肩に乗せ飛び込み斬りかかる。
「うおおおおおおおお!!!」
化物の鎧の隙間に大剣が打ち下ろされる。
肉を裂く音が聞こえる。
化物はジークバルドをそのまま大剣を引き抜く前にメイスを横薙ぎにし、ジークバルドを捉える。
「『ファイアボルト!』」
ベルは咄嗟にメイスに向けてファイアボルトを放つ。
爆発により勢いを殺されたメイスが空を切る。
「ぬうん!」
それを見逃さずにジークバルトは大剣を一閃。化物の胸を大きく切り裂いた。
化物は後ろに跳躍し、大きく咆哮を上げた。
壁が、地面が、その化物を中心に凍っていく。
「ジークさん!」
「む、どうした」
「時間を稼いでください!ちょっと大きいのをぶつけます!」
そう伝えると隅に対比し、右手に力を込める。
ジークバルトはすぐさま動いた。
化物に向かって牽制と言わんばかりに大剣を巧みに操り、小さな傷を増やしていく。
それに気を取られて化物はジークバルトに飛びかかる。
股下を潜ってやり過ごし、懐から火炎瓶を取り出し投げつける。
しびれを切らした化物が咆哮をあげ、大口を開けて何かを溜める。
そこにベルは走り、その前に踊りでた。
「『ファイアボルト』オオオオオオオオオオオオオオ!」
溜めに溜めた魔力でのファイアボルト。
それをまともに正面から貰った化物は溜めた力を放出することなく、そのまま倒れ伏し、霧となった。
「終わったか」
ジークバルトはベルに近寄り肩をパンパンと叩く。
「さて、どうやら見たところ、ここまでのようだ。だが、少し待て」
ベルはそう言われて自分を見ると体に霧がまとわりついているのを感じる。
「座ると良い。勝利の後は祝杯だ」
と言いながら座るジークに続いてベルが腰を下ろす。
「貴公との出会いと、貴公の勇気と、そして我々の勝利に」
音頭を取りながら酒をベルに渡して掲げる。
「太陽あれ!ガハハハハハハ!!!」
そして酒のボトルをぶつけて一息に飲み干した。
続けてベルも一口飲む。
その味は神酒と見紛うほどに美味だった。
「さて、私は少し眠っていこう。祝杯のあとはそうと相場が決まっているからな」
そしてうつむき、腕を組み、寝る体制に入ろうとする。
ベルも自らの意識が、霧に飲まれていくのを感じる。
「ああ、そうだ。なにやら思いつめていたが、決して自分がしたことに後悔をしないことだ。後悔は迷いを産み、迷いは死に繋がる。己の使命を全うすることに疑問を持つなかれ。また会おう。小さき友よ」
思い出したようにそういったジークバルトの言葉は、ベルの心に太陽の温もりを再び灯した。
眼を開けると裏路地だった。目の前にはヘスティア達やロキ・ファミリアが見える。
意を決して歩を前にすすめようとする。
「ベル」
後ろから声がかかる。
振り向くと、見知った騎士がそこにいた。
「ジャックさん」
振り向き終わるのを確認したあと小さく頷き、ジャックは口を開く。
「自らの選択した道を正しいと思い続けろ。俺から言えるのはそれだけだ」
まるで、ジークバルトの言葉を聞いていたのではないかという言葉を告げてジャックは踵を返した。
「ありがとうございます」
変わらず暗い顔のベルだが、その顔に、迷いはなかった。