ダンジョンに周回した不死がいるのは間違っているだろうか?


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作:Saturdaymidteemo
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01


「何?鍛えてほしい、だと?」
「お願いいたします」

ジャックが眉を顰めながら目の前にいる狐人の少女の頼みを復唱すると綺麗に三つ指をついて少女は懇願する。

「あー・・・うー・・・む」
ジャックは唸る。

目の前にいる狐人はとてもじゃないが戦闘要員としては数に数えることが出来ない。一般的な非戦闘要員と変わらないステータスをしている。

流石のジャックもそんな無垢純白のなんの経験もない者を1から育て上げるのは初めてであった。

「鍛えるのは構わないが、まず体力づくりからになる、ぞ?」
「はい、構いません。ご指導ご鞭撻をお願い申し上げます」

こうして世界を滅ぼしかねない最強の不死監督の吹けば倒れる狐人の少女の特訓が始まった。



「では、まず基礎体力を鍛えていこう。走るぞ。コースは私が隣についてナビするので自分のペースで走るといい」
「はい!」
元気良く返事をする動きやすいようにズボンと上着を着た春姫。

鍛えるにしても基礎が無ければ話にならない。
そう至ったジャックはまず少女と体力づくりを始めることにした。

そうして走り始めて2分後。
「へ・・・へひ・・・はひ・・・」
とても苦しそうに走っている少女の姿を見てジャックは『早歩き』をしながら冷や汗を一筋垂らす。

まだ200mである。『オラリオ』を走るから『竈火の館』の敷地内を走るにジャックがナビを切り替えたのは言うまでもない。

「少し休憩しよう」
その言葉を聞いて少女は崩れ落ちる。

ジャックは鈴を取り出して

「『回復』」

と、鈴を鳴らし回復呪文を唱えてやる。
身体の疲れは癒されたが、火照った身体はそのままで少女は一度も貞操を捧げていないとはいえ元娼婦の名残が見える艶めかしい吐息を吐きながら座り込んでいる。

「身体の熱が引いたらまた走るぞ」
「はい!」
と少女が元気に返事をすると共にジャックは天を仰いだ。
そうして走っては死にかけのような息遣いとなる狐人の少女の御守は夕方まで続いた。




夜、ルナールの少女を連れてヘスティアの元へ彼は訪れた。
「ああ・・・とうとう春姫くんがジャックの毒牙に」

と茶化す主神にジャックは
「誰も毒牙とやらにかけた覚えはないんだがな?」
と首を傾げた。

「本気でいってるなら一発・・・いや本気でいってるんでしょうね」
ジャックが見るとどこかげっそりした様子の小人族の少女がいた。

「で、春姫くん。こいつに何かされなかったかい?怖い目に会わなかったかい?」
「はい、とても熱心に、優しく、手取り足取り教えてくださいました」
と言いながらはにかむ少女の反応に信じられないモノを見る目でジャックを見る。

「なんだ」
「なにも。さ、そこに寝ておくれ」
再び首をかしげる彼を手で退出を促して主神は少女に指示する。

ステータス更新が終わった後、彼女は目を見開いた。
サンジョウノ・春姫
力:I 9→10
耐久:I 32→34
器用:I 15
敏捷:I 26→30
魔力:405

「ま・・・まともだ・・・!」
と、言った。
「こうして見るとリリはどんな無茶苦茶をされたのか分かりやすいですね。」
と、女性故部屋を退出する必要もなかったリリがそれを覗き込み遠い目をする。

コンコン、とノックが聞こえる。
「終わったか?」
「うん、珍しいいいいいいいいいいいいくまともだね」
と質問に対する返事と共にジャックが入ってくる。

だが、本人はどこかシュンとしていた。
「どうした?」
ジャックが声をかけると春姫は顔を上げた。
「わたくしには、無茶苦茶を、していただけないのですか?」

傍から聞いたら犯罪チックなその言葉はジャックを困らせるには十分だった。
「そこのリリはお前よりだいぶ長く冒険者をしている。お前はその下地作りから必要だと思ったんだ。心配しなくてもお前がベルの隣に立てるようになるまでは面倒を見る。信じてくれないか?」
と、しばらく考えた後自分の考えを打ち明けた。

「え?リリミノタウロスに真っ二つにされたと思ったら時間が逆戻りするような形で回復させられたりしたんですけどあれって下地かんけ「ッフ!」ゴハァ!」
リリが異議を申し立てようと捲し立てると綺麗に鳩尾にパンチを貰ってそのまま沈む。
鈴を取り出してリリを回復しながらジャックは春姫に

「信じろ」

と言った。
春姫は熱くもないのに汗だくになりながらプルプルと首を縦に振るしかなかった。





そうして一週間ほどが経過した。
サンジョウノ・春姫
力:I 15
耐久:I 50
器用:I 15
敏捷:I 42 
魔力:405

「それにしても見事に脚関連だけが伸びてるね・・・徐々にだけど。」
と言うヘスティアにジャックは頷く。
「ああ、狙い通りだ。少なくともベル達の隣に立つには最低限体力はいるからな。敷地内を1周できるようになった。大きな進歩だ」
と言った。

「これがどのような成果を生むのでしょうか」
と、春姫が純粋な疑問から呟いた。

「魔力があり、それを捻出する技があってもあまりにも体力が無ければ精神疲弊を起こす前に魔力を捻出する過程で体力消耗して倒れるのがオチだろう。まずはそこを克服したかった。今ならば大丈夫だろう」
そう言ってジャックは巻いてあるスクロールを2枚ほど春姫に渡した。
「それを読んでみろ」

言われた通りにスクロールを開くとそれぞれの文字が青く光って浮き上がり春姫の身体の中に入っていった。

「これ・・・グリモアじゃ!?」
と驚くヘスティアにジャックは首を振る。

「おそらくこちらのものとは違う。が、問題なく使えたようだ。使い方は分かるな?」
と春姫に聞くとコクコクと首を二回縦に振る。

「それでは、外で実践だ」








「さあ、私に向けて撃ってみろ」
外にてジャックがそういい、春姫と対峙する。

春姫は頷くと、ジャックが用意した一見何の変哲もない杖を構える。
「『ソウルの槍』」
そう唱えると先端から魔力の塊が槍となってジャックに襲い掛かった。

ジャックはそれを金翼のレリーフが彫られた青色の盾で大空へ弾き飛ばした。
「どうだ?精神疲弊を起こさない程度ならあと何発撃てそうだ?」
満足気に頷いた後、ジャックは春姫にそう言った。

「あと1発、が、限度、だと思います。」
息を大きく切らしながら春姫はそう答える。

「では、息を整えたらもう一つのほうも撃ってみろ」
春姫は頷き、しばらく休憩した後、杖をジャックに向けた。

「『乱れるソウルの槍』」
唱えた瞬間、無数の魔力の礫が杖からジャックがいるほうへ発射され続ける。

ジャックはそれを岩のようにそびえ立つ銀色の大盾ですべて受け切った。
「こちらはどうだ」
聞くと春姫は杖にもたれかかりながら

「先程の『ソウルの槍』の疲れからか、もう撃てそうにありません・・・」
と答えた

ジャックは大きく頷き近づいた後春姫をひょいと持ち上げる。
「ひゃ、あ、あの」
顔を真っ赤にしながら春姫が慌てる。

「もう歩くのも疲れているだろう。部屋まで運ぶぞ」
と、まるでカバンのように春姫を担ぎ上げて、館に戻った。







後日、春姫は再び走り込みをしている。
庭を一周したあと、その場にへたり込む。

ジャックはいない。
今日は用事があるそうだ。
「ふう・・・ふう・・・」
汗をかきながらへたり込んでいると

頬に冷たい感触がする。
「ひゃ・・・ベル様?」
見るとベルが水を入れたコップを此方に差し出しながらそこにいた。

「お疲れ様」
笑顔でそう労うベルに尻尾を嬉しそうにパタパタとしながら春姫はコップを受け取るのだった。



ベル・クラネル。

【ヘスティア・ファミリア】の団長とも言える彼は今、久しぶりに一人でダンジョンに潜っている。

 

ヘルハウンドの群れを全て一掃する。

次に飛びかかってきたアルミラージ達を素早く切り刻む。

そうして敵を一掃した後、一息つく。

そして手ごろな身を隠せそうな岩場を見つけたので身を隠しながら休む。

 

「ふう・・・」

水筒から水を口へ流し込む。

 

周りに気を回しながら彼は思う。

自分より遥か先にいる。『剣姫』を。

そしてさらにその先にいる自分の同僚を。

 

「頑張らないと」

そう短く言うと彼は立ち上がり、再びモンスターを求めさまよった。

 

そうして狩りを続けること1時間ほど

 

そろそろ帰ろうかと思ったところにふと目を引くものを見つけた。

 

霧である。

 

入口を覆うように、靄がかかったそれに息を飲む。

「ジャックさんに伝えないと・・・!」

急いで戻ろうとした、が、さらに奇妙な『者』を見た。

 

バケツヘルムに太陽を象った鎧、肩を覆う緑色の布地がアクセントとなって特徴的であるそれ。

そして太陽を象った盾。そして一見何の変哲もない長剣を携えた騎士が霧の前に立っていた。

 

「む?」

騎士が気配を感じ取ったのかベルのほうへ振り向いた。

 

「おや、これは。奇遇。君も『この先』へいくつもりかな?」

と、騎士がそう聞いた。

 

「いえ、この先は十中八九危険ですから、この霧のことをよく知っている人に伝えようかと」

と、ベルが正直に答えると

 

「ほう。そうか。それは時間を取らせて申し訳なかった。では私は失礼しよう」

と言って霧を潜ろうとする。

 

「え?ちょ、その先は危険ですよ」

と慌てて呼び止める。

 

「知っているが?こう見えても、それなりに修羅場は潜っているつもりなんでなウワッハッハッハ」

と快活に笑う騎士。

 

「は、はあ・・・」

となんともやりにくそうにベルは生返事を返す。

 

「ふーむ。なら、貴公。ついて来るか?もちろんタダでとは言わない。これを」

そう言って大きな白いろう石を手渡される。

とても見たことのあるそれにベルは目を見開いた。

 

「それを使えば、世界のズレを飛び越えて同じような境遇の者を手助けすることができるものだ。同時に、持っていれば逆に助けてくれるものも感知できる」

 

そう言って騎士は盾を備えている方の手で手招きする。

「さあ、何をボーっと・・・おお、そう言えば名を名乗るのを忘れていた」

騎士は一礼をした後、ベルに向かって手を差し出した。

 

「太陽の騎士、ソラールという。太陽のように熱い男を目指している。1度初心を見失ったが、我が友に助けられた後、こうして再び旅をしている。よろしく頼む。ハッハッハ」

騎士は笑いながらベルの手を無理やり取ってぶんぶんと振り回した。

 

 

 

 

結局、ベルは霧を潜ることになった。

霧を潜り、しばらく進むと、光が差し込んだ。

 

そして開けた場所に出た。

目の前に広がっているのは城壁、というのが正しい表現だと感じた。

そして所々が燃えている。

 

「このような場所に出るとは。何が起こるか分からんな。この世界は」

ソラールはそう言いつつものしのしと前進する。

 

すると左右の瓦礫が爆発し、中からやせ細った腰巻のみをつけた、男性か女性かすら判別がつかない人のような者が5体ほど、折れた剣を掲げながら突進してきた。

 

「二人任せたぞ。ベル」

そう言うとソラールは3人のほうへ突進する。

それを見たベルも咄嗟に2人に突っ込む。

 

一人が飛びかかり、斬り下ろしてきた。

その飛びかかりを柄部分に腕を入れてそのまま弾き飛ばす。

 

パリィ。

 

ジャックが使ったその技をベルは血を吐くような特訓で体得していた。

そしてヴェルフ謹製のナイフを勢いに任せて突き立てて、後方から走ってきている者へ蹴り飛ばす。

直撃してもなお、ひるまずに、死体を弾き飛ばして突進してくるそれに向かって手を突き出す。

 

「『ファイアボルト』!」

 

手から発せられたその火はなにも身に着けていない敵にとっては効果抜群だった。

もがき苦しんだ後、その場に崩れ落ちた。

 

「うむ、なかなかやるじゃないか。ベル」

見るとソラールが血の付いた剣を襲って来た者の腰巻で拭い捨てながらうなずいていた。

「いえ、それほどでも」

恥ずかしそうにベルははにかんだ。

 

「さあ、奥の霧まで行くとしよう」

 

そうして進み城門らしき場所の前で止まる。

門らしき場所は特大の霧に覆われており、その前には巨大な槍が突き刺さっていた。

 

ベルは足が震える。

以前ついていったときのような大物が出た場合、彼と自分だけで対処できるのか。

そう言った不安が脳裏をよぎる。

 

「なに、緊張するな。なんとかなるさ」

それを察したソラールは緊張をほぐすようにベルの背中を小突いた。

 

そしてソラールと横並びに霧の前に立つ。

「いくぞ」

 

入ると、真っ暗な空間に出る。

余りにも視界が悪い。

 

不意にソラールがたいまつをつけた。その瞬間。

「避けろ!」

2人は何かが飛来してきたのを感知し、左右に避ける。

ソラールがたいまつをそちらに向けると

 

無数の盾が寄り集まり、隙間から槍が生え、さらにその奥に黒いスライムのようなものが蠢いている。

 

「散開するぞ。死ぬなよ!」

そうソラールは言い地面を蹴った。

 

飛んでくる槍を掻い潜りながら盾の化け物の前に躍り出る。

そして、左手に雷を発生させて、槍のように形作ってそれを投擲する。

 

そしてダメージがはいったのか、スライムの盾が一つ削り落ちた。

が、空いた隙間を埋めるようにそれらは蠢いて再び隙間が埋まる。

 

そして再びソラールに向けて槍を雨のように飛ばす。

ベルはそれを見てまずは視界の悪さをどうにかしようとした。

そしてソラールがたいまつを持って走り抜ける中、柱にたいまつが据えられているのを確認する。

 

「『ファイアボルト』『ファイアボルト』『ファイアボルト』!」

ベルはそれを自分が持てる火の魔法で撃ち抜いた。

すると部屋は明るくなり、敵がはっきりと見える。

 

「ベル!でかした!」

ソラールはそう言い雷の槍をスライムの盾の隙間を縫うように投擲していく。

その度にスライムが1体、また1体と脱落していく。

 

それを見てベルも何かないかと探す。

あまりファイアボルトを連発すると精神疲弊を起こして逆に窮地に陥りかねない。

 

すると、隅に、ボロボロの騎士の死体を見つける。

そしてその手元に火炎瓶らしきものが3本ほど転がっていた。

 

槍を避けながらそこまで行き、火炎瓶を全てひろう。

そして自らが灯した柱のたいまつで導火線に火をつけながらスライムに投げつけた。

 

燃える油をその身に受けたスライムたちは瞬く間に消えていく。

 

集まっていては全滅すると判断したのか5体ほどになったスライムがそれぞれ分裂する。

 

「なるほど、後ろががら空きだったのか」

確認するように背後を斬りつけて薙ぎ倒していくソラール。

 

「はあああああああああああああ!」

負けじとベルも散らばったスライムの背後を素早くとり、1閃、2閃とナイフを閃かせる。

 

そして最後の一匹を倒すと、辺りを漂っていた霧と化したスライム達のソウルがソラールの中へと流れ込む。

 

「おお、終わったか。っと」

ソラールは何かに気付いたような素振りを見せる。

 

次第にその変化にベルも気づく。

彼の輪郭がどんどんブレていってるのだ。

 

「どうやら、ベル。貴公とはここで一時の別れの様だ」

そう言うとソラールは懐から骨を一つ、此方に投げつけた。

 

それを掴んだのを確認するとソラールは頷く。

「それは『帰還の骨片』という。砕けば、お前の『ホーム』に帰れるだろうさ。見たところ、まだ戦士としては未熟。が、末恐ろしく、輝かしい素質を持っている。胸を張って、主に報告するといい。また、会いたいものだ」

そう言って彼は手を振りながら輪郭がぶれきったと思ったらその姿が霧散した。

 

「ありがとうございます。また会いましょう。ソラールさん・・・!」

短い間だったが、背中を預けられたベルの胸には憧憬とは別の、太陽のような温かくも、心地のいい熱が灯っていた。

 

 

 

 

ベルは『帰還の骨片』を使うと、ジャックの自室の篝火に転移した。

ジャックはベルが『不死』になってしまったのかと一瞬慌てたが

経緯を説明されると

 

「そいつは、確かに、『ソラール』と名乗ったのか・・・?」

と半ば信じられないといった風に問うた。

 

「はい。短い間でしたが太陽のように温かい人というのが十分に伝わる人でした」

そう言うベルに対して、ジャックは顎に手を当てて

 

「まさか生きているとはな。なら『火継ぎの勇者』も・・・?」

とブツブツと独り言ちた後、ベルに向き合い。

 

「また、会った時は今からやるポーズをしてみるといい。なに、一見ふざけたポーズだが、あやつには挨拶のようなものだ」

 

そう言ってベルにかつて、『太陽の後継』と呼ばれた者達の間で挨拶とされてきたポーズを教えたのだった。




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