「…ごめん、その……」
なにも、問題無い
謝ってくるホシノに彼はポツリと返し、胡座をかいた
今現在二人はあの場所から移動してアビドス高等学校の篝火に胡座をかいていた
あれから赤子のように無くホシノを慰めるのは大変だった
何とか泣き止ませることは成功したものだがね……
兎も角彼は人間性を得、生者に戻っている
みずみずしい肌が戻るその様子を信じられないような目で見られたが、問題無い
「…旅人さんは」
少しの静寂の後、彼女は口を開く
しかしそれを言うのがはばかられたのか舌が止まる
言いたくないならば、言わなければいい
貴公にとってそれは辛いことなのだろう?
「……その、貴方は何処から来たの?
ㅤそのレイピアに付いた血は?一体何者なの?」
少し間を置いて、彼女は聞いた
一体お前は何処から来たのか、この血は何か……そして何者なのか
彼は少し空を見上げた後、息を整えて言った
私は、ロードラン……神々の地から来た旅人だ
この剣に付いた血は私の道を邪魔した者の血
そして……私は、不死人だ
「……神々の、地?不死人……?」
深い説明が必要なようである
彼はそう判断し、深く息を吸い込んだ
ロードランにある……神々の話を、するべきだ
あの、老婆の語りを
古い時代、世界はまだ分かたれず霧に覆われていた
そして、そこには灰色の岩と大樹と、朽ちぬ古龍ばかりがあった
だが、いつしかはじめての火がおこり
火と共に差異がもたらされたのである
熱と冷たさと
生と死と
─────────そして、光と闇と
…そして、闇より生まれた幾匹かが火に惹かれ……王のソウルを見出した
最初の死者、ニト
イザリスの魔女と、その娘たち
太陽の光の王グウィンと、彼の騎士たち
……そして、誰も知らぬ小人
それらは王の力を得、古龍に戦いを挑んだのである
グウィンの雷が、岩のウロコを貫き
魔女の炎は嵐となり全ての古龍を襲い
死の瘴気がニトによって解き放たれた
そして、ウロコのない白竜、シースの裏切りにより
支配者たる古竜はついに破れた
……火の時代の始まりである
─────だが、やがて火は消え……暗闇だけが残る
今やまさに火は消えかけ、人の世には届かず。夜ばかりが続き……
人の中に、呪われた「ダークリング」が現れ初めて居たのである
○
「……それが、ロードランの歴史?」
「間違いは無い……遠い、場所……いや、昔の国だ」
古風な語りに飲まれかけていたホシノは、息を飲んで口を開く
彼の口から放たれたその伝承はあまりにも眉唾なことであり、デタラメと言われても信じられる物であった
そのうえ聞いてみれば今よりも昔、ということでは無いか
「神々が存在し、生きていた時代……私はそこに居たのだ
ㅤ不死人としての使命を完遂させる為に。」
「……使命?」
使命、と大層なことを彼は言う
最後の語りを聞けば大体の事が予測できるような、気が……
ホシノはそう思いながら彼に対して続きを促す
「使命は……そう、金を鳴らしその使命を知ること
ㅤそして私は……グウィネビアより、人の世を終わらせることを伝えられた」
「人の世を、終わらせる……!?」
彼の使命は、人の世を終わらせること
それが神々のお達しということにホシノは驚愕していた
……その世界の人々が、何をしたというのか
「……貴公、勘違いするなよ
ㅤ決して悪いことでは無いのだから」
「…え?」
唖然としていたホシノに彼は言う
その瞳には冷たいものが宿っている
「言い方が悪かった……はじまりの火が消えかけている事が伝承にはあったな?」
「そうだね……暗闇だけが残る、とも」
ホシノの言葉に彼も頷く
古い伝承に、あの老婆が言った言葉にはそれがあった
「私の使命はそれを継ぎ、火の時代をまたもたらすこと……だったか
ㅤ火の温かさは安心するものだろう?それが消えては困るということだ」
「……そういう、こと」
確かに、目の前の篝火は心に響くようなあたたかさを持っている
なかったら困るし、……何より寒くなってしまう
もしくはかの時代も同じような気持ちだったのだろうか
……それは、それとして
「貴方は、どうやって火を継いだの?」
「……火継ぎか」
彼は空を見上げ、ほぅ、とため息をついた
その声には少し懐かしい物を思い出すような、感傷に浸るような感覚が含まれていた
数秒した後、彼は言った
「自分が薪となり、燃えるのだよ
ㅤ次の時代の為にね」
それを聞き、ホシノは驚愕する
火を継ぐこと……それは、自分が薪になること
決して頭の悪く無い彼女はそれがどういうことなのか直ぐに察する
…火を継ぐ、となど聞こえの言いように言っているが……
「…ッ、それって!」
「あぁ、貴公の思っている通りだろう」
それは次の時代の為に生贄になれと言っているようなものでは無いか
「私は焼かれた、そのはじまりの火を継いでね」
当たり前のように死んだと、彼は言う
それが理解できなくてホシノは震えていた
あまりに、彼の死に対する執着が薄い、薄すぎる
……どうして銃を持っている人達に剣と盾で突っ込もうと思う?
「どうして……」
生きているの?……そう言おうとした口は途中で閉じてしまう
質問しようと思ったものの…その考えが途中で消えてしまったからである
恐らく、聞けば自分は戻れなくなる…絶対に
「……旅人さんは、昔の人ってこと?」
「遠い昔のこと…ふむ、恐らくここキヴォトスの遠い昔だろうな」
「……ここの昔!?」
何気なく発言する彼にホシノは驚愕した声を漏らす
彼遠い国の旅人だと自身を名乗っていたのである
しかし、彼の話が本当とするなら……
そう思っている彼女に対して彼は言う
「最初の火の炉で私は焼かれたからな
ㅤ……そこで目覚めたのだよ、この時代に」
「…そこは、アビドスの砂漠に?」
彼は頷いた
ここアビドスの砂漠に最初の火の炉はある
彼はそこで目覚めたのだから
……というより何故生きているかということは彼自身の疑問であるのだ
本来ならばとっくの昔に灰となり、生きてはいない
ただ火の薪として燃えているだけであったのに……
……もしくは、自分は灰だというのか
燃えて燃えて、燃え尽きたとて燃え切らない残骸が、私だというのか
そんなことは無いで欲しい、と彼は密かに思う
暗い顔で、ホシノは彼を見た
「……勘違いするなよ、貴公
ㅤ私は今を気に入っているのだ…少しは、休みたかったものでな」
それはそれとして、最後の火継ぎの際に殺していなかった者達はどうなっているのだろうか
次の時代に己の技や術を残せたのか……
しかし、最初の火の炉があるアビドスでさえ誰もロードランの術も技も知らない
それどころかロードランの伝承すら伝わっていないのである
……それ以前に、神々が恐れた人の世が訪れているのである
彼女達が頭に浮かべている物は、人から外れた故に出現したものか
まぁ、どうでもいいものか
そう思った彼は、少しため息をついた
「悪い話をしたな、貴公」
「え、……いや、悪くは……ないとは言えないけど」
「だろうな……詫びとして…何か……」
懐をまさぐる彼、えっと驚愕するホシノ
ロードランで常識が錆び付いていた彼にも物で詫びるという常識は消えていなかった
……大抵詫び品がゴミだったりするんだけども
そして、迷った後に彼は懐から武器の鍛治箱と楔石の欠片を取り出した
「……貴公の武器を鍛えてやろう、見た限りちょっと壊れかけじゃないか?」
「うへへ……よく気づくね、私も気にしてたのに」
「ついでだ、先程いい銃を手に入れたついでにな」
サオリから奪ったアサルトライフルを取り出して彼は笑う
明らかなカスタムをされたそれに眉を顰めるがまぁいいかと考えることを放棄した
鍛治箱からトンカチ等を取り出して楔石を持ち直す
ホシノからショットガンと盾を受け取り、まずショットガンを強化することにした
まず、ソウルを手に纏い楔石の欠片を刻む込むようにトンカチを……
奮った時、楔石が弾かれてしまう
……どうやら、違ったようである
強化とひとえに言っても使用するべき素材は楔石だけじゃない
その武器と楔石が上手く適応しなければこうして弾かれるのである
この場合はそもそもの素材が違うか、欠片程度では強化出来ない時だ
次にデーモンの楔を取り出しショットガンに当ててトンカチを振るう
また、ガキンと弾かれた
これも違う、……じゃあ、竜のウロコか?
……これも違う……なら、これか
懐から光る楔石を取り出し、ホシノの
そしてそのままトンカチを振り下ろした
……今度は拒絶される事なくショットガンに楔石が刻み込まれる
どうやら当たりを引いたようである
彼は口角を上げながら次の光る楔石を当てハンマーを振り上げる
火花を上げながら、ホシノの
「……」
ホシノは目の前で起きる光景に目を奪われていた
ソウルによる、人ならざるものが鍛え上げられる己の武器
その心は恐れと畏敬の念が半々だろうか
ホシノの
彼女もまた、己の愛銃の一通りの動作を確認する
「……うわぁ、油も挿して無いのにヌルヌル動くね
ㅤ一体、どういう技術って……聞いてないし……」
彼はホシノに
これもまた、光る楔石が素材のようである
アサルトライフルにソウルを纏わせ、光る楔石を刻み込んでいく
元は使い込まれて錆びや塗装剥げが激しいサオリのライフルだったが、彼はついでに修理する
アストラのアンドレイから修理箱と鍛治箱を購入していて良かった、と彼は思った
無ければ素の状態で扱わなければならなかっただろう、昔の英断に感謝である
そう思いながら、彼はアサルトライフルを強化したのだった