神々よ、ご照覧あれ 道化の再演を


メニュー

お気に入り

しおり
作:しが
▼ページ最下部へ


3/7 

喜劇役者たちの挽歌


無言更新失敗作者


「どわぁぁぁぁ!!コボルト数多いッ!!!」

 

ダンジョン、二階層────そこにベルは駆けていた。前世から得意だった逃げ足の速さを遺憾なく発揮し逃げていた。そんな彼を追い立てるのはおおよそ五匹のコボルト。上層の雑魚モンスターではあるが────初心者にとってはそれでも十分な敵になる。それが数を組んでくれば到底脅威である。

 

「兄さーん、やっぱり援護しましょうかー?」

 

「いいや手を貸さないでほしい!ぶっちゃけレフィーヤが魔法を打つとこの付近じゃオーバーキルを超えたオーバーキルになるからここは兄を信じて────どあっ────!!」

 

「そんなこと言ってもずっと逃げ回ってばかりじゃないですか!」

 

レフィーヤは自分に近寄ってくるコボルトを杖で沈めながら逃げ回る兄に呼びかける。レフィーヤは魔導師といえどLv3の第二級冒険者、この程度の階層ソロでも楽勝である。だが今回の目玉はレフィーヤではなく兄である。そもそも素人同然のベルが何故ダンジョンにもぐることを許可されているかはこのレフィーヤの同行が必須条件だからである。

 

 

「ううむ、しかし綴らずにはいられない『英雄日誌』…『ベル・クラネルはモンスターに物量で踏みつぶされそうになったが何とか切り抜けたのであった』…ごぱっ!?」

 

「兄さーん!!言った傍からタックル喰らってどうしたいんですか!!」

 

「ううむ、ボディに良いタックル…!さて!そろそろ真面目に狩りつくすとしよう!!」

 

ベルはギルド支給のショートソードを引き抜くと反転。走り無様に逃げ続けていたのとは対照的にコボルトの群れに突っ込んだ。重心を低く、貫くように。一体目の魔石を砕く。得意の敏捷を上手く扱い二体、三体と鈍いコボルトに捉えられずに斬り捨てていく。レフィーヤは兄の戦闘を見ていた。そしてつい先日まで戦いの素人であったはずの兄の戦闘に疑問を覚えた。

 

 

「…慣れすぎている…?」

 

既にベルは自分のスタイルを確立している。それは良いことなのだがつい何日か前まで一般人だった少年とは思えない。…そして思い当たるのはやはり今世より神も恩恵も無かった時代を駆け抜けた古代の前世。

 

 

「何、驚くことじゃない。レフィーヤ…この身が戦いの経験が無くともあの死闘は私の魂に刻み込まれている…我が好敵手とのあの決戦での戦い…精霊の加護…今となっては全てが過去のものではあるがその戦闘経験は本物だ」

 

喜劇のアルゴノゥトではまったくもって強い英雄とは言えないアルゴノゥト。それは本人も英雄の器ではないと認めるところでありだからこそ道化として英雄たちの道標になることを歩んだ。…だがそれでもそこには死闘があった。一人の喜劇を望んだ少年が何度死にかけようとも止まらず歩み続けた戦いがそこにあった。それは決して偽物ではない…つまりアルゴノゥト、否ベル・クラネルに刻み込まれた戦闘の記憶が今世でも遺憾なく発揮されている。

 

 

「ハッハッハ!!私TUEEEEEEEEEEEE!!!!ゴパッ!!!」

 

なお調子に乗っていたベルは腹部にコボルトのタックルを受け悶絶する羽目になった。

 

 

「だから油断大敵と言ったじゃないですかバカ兄さん!!」

 

 

後始末はレフィーヤが何とかした。

 

 

 

────

 

 

「ぜぇ…ぜぇ…綴ろう…英雄日誌…『ベル・クラネルは油断大敵という言葉を文字通りこの身で味わったのであった』…」

 

ぼろぼろになりながらもルーティンを忘れないベルの姿に憐みとか怒りとか通り越したレフィーヤは呆れた視線を送っていた。

 

「…まったく、戦闘の最中は集中してください、兄さん。今回は私があなたを支えるために来ましたけどこれからはそうも行かないんですよ。私もいつまでも兄さんに付きっきりというわけにもいかないですし…何より近いうちに遠征があるんですからお守りはいつまでも出来ませんよ」

 

「ハッハ後ろからザクリと刺しきってしまえばやられる心配もない楽な仕事ですよレフィーヤさん!楽勝楽勝!ボゴッ!!」

 

 

「それを油断大敵と言うのを忘れてちゃダメじゃないですかバカ兄さん!ダンジョンでの油断は本当に命とりなんですよ!死にますよ!」

 

「その拳の方で先に死にそうですレフィーヤさん…」

 

 

魔石を回収し、今日はこれでもう切り上げようとダンジョンを出ていく。そしてギルドで彼の担当アドバイザーとなった女性と落ち合うことになった。

 

 

「そしてベル・クラネルは今日もダンジョンから帰還するのであった…」

 

「そのハイテンションに付き合うのも今世でも続くと考えるとちょっと気疲れしそうです…」

 

 

 

「あ、ベル君。それにウィリディス氏。お疲れ様です」

 

ハーフエルフのギルド職員、エイナ・チュールだ。初心者冒険者のベルの担当アドバイザーとなった彼女に本日の成果を報告する。

 

 

「そうして私は恐ろしき魔物の群れを華麗に打ち破ったのであった…」

 

「油断してお腹に貰っていたじゃないですかバカ兄さん…剣の扱いに慣れているのは分かりましたけどダンジョンの中ではせめて喜劇を止めてくださいよ」

 

「ハッハッハ!めんご☆」

 

「…また拳落としますよ…?」

 

「ピッ」

 

 

エイナはじゃれあう二人を見ながら意外だなぁという面持ちだった。最初はあの【千の妖精】の兄と聞かされどんな男が来るのかと警戒していたがいざ現れたのは愉快で女好きで軟派な少年であった。どこか毒気が抜かれ、そしてこの危うい少年のアドバイザーになろうと心から誓ったのであった。

 

 

「でも、その通りだよベル君。君は上層の一番最初にいるだけ。そこら辺のモンスターに苦戦をしなくても5層、10層と重ねるごとにダンジョンはね、そういう初心者を食らって行くの。何度も言うけれども『冒険者は冒険しないこと』…ウィリディス氏の言う通りいつまでも君が上手く行くという保証はない、本当に肝に銘じてね」

 

「ああ!承知しているとも…魔物の恐ろしさは良く、知っているとも」

 

そう首肯するベルの表情はどこか苦々しい思い出を思い出しているか、かつての魔物の脅威を呼び起こしてるか何かは分からないが兎に角脅威という話には真摯で、真剣であった。

 

 

「そうです、同胞の方の言う通りでもあります。それに私は何度も言いますがロキ・ファミリアはこれから遠征なんです。もちろん兄さん一人をダンジョンに放り出すわけはないから先輩の冒険者と共に組むことにはなりますけど第二級冒険者(わたし)が付いているという事態はそう無いんですから本当に気をつけてください」

 

「…大丈夫、僕はそう簡単には居なくなるつもりはないよ。それに折角再会できたのにレフィーヤに会えなくなるのは寂しいから…そうだね、忠告通りに暫くは浅層で満足しているよ」

 

「…分かればよろしい、ですよ。兄さん」

 

 

「なんだか私いらなかったような…まぁいいか。とりあえずベル君、今日もお疲れ様。今度からはウィリディス氏じゃなくてほかの人と潜ることになるだろうけど報告と連絡は忘れずにね」

 

「…んんっ、うむ感謝するぞ、エイナ嬢。次なる私の英雄譚を紡ぐ時に!」

 

 

「…意識したら何でそうすぐに調子に乗るんですか兄さんは…」

 

まぁそこがかっこいいんですけどねとレフィーヤは決して言わなかった。言うとさらに調子に乗るのが分かりきってるからである。

 

 

ギルドを出た。あとはホームに、黄昏の館に帰還するだけである。これから数日はレフィーヤは遠征のための静養に充てるためベルの付き添いにはほかの先輩冒険者が同伴するということを話しながら歩いているとベルは木を眺める少女と子供たちのことが目に留まった。

 

 

「…兄さん?どうしたんですか?」

 

「…いや、あの木の上を見ている少女…美しい後ろ姿だなと思って…」

 

「本当に地面に埋めますよ…?」

 

「こわっ…じゃなくて木を見ていて何をしているのだろうと思ってね」

 

「確かに何もなさそうな木ですけど…あれ?」

 

 

木に近寄っていくと少女と子供たちの会話が聞こえてくる。

 

 

「お姉ちゃんどうしようか?」

 

「んー、どうしようかなあ、私じゃ届かないし…」

 

「猫さん弱ってる…」

 

 

そして完璧に近寄るとその全貌が分かった。木の上で子猫が身動きを取れなくなっていたのだ。それを見ていたのがこの少女と子供たちというわけだった。

 

 

「ってアレ貴女は…」

 

レフィーヤは少女に心当たりがあるのかそのエプロン服の少女を見て驚いていた、エプロン少女の方もレフィーヤの顔に心当たりがあったのかこちらも意外そうな反応をしている

 

 

「貴方は確か【ロキ・ファミリア】の【千の妖精】さん!」

 

「二つ名の方で呼ばないでくださいよ!…そういう貴女は豊饒の女主人の店員さん…ですよね?」

 

 

「知っているのか!レフィーヤ!」

 

「急に大声出さないでくださいよ兄さん…ロキがお気に入りの酒場があるんですよ、豊饒の女主人っていう店員の方で…」

 

 

「シル・フローヴァと言います。いつもお世話になっております。…この人はレフィーヤさんのお兄さんですか?」

 

「ええそうです、私の義兄で…」

 

 

「ベル・クラネルです!どうぞお気軽にベルとお呼びください。とても麗しきお嬢さん…そうだこのような出会いを祝してどうかこの後私とお茶でも…」

 

「出会い頭から口説くなバカ兄さん!!」

 

そしてそのナンパも妹からの拳で直ぐに地に伏したのだった。

 

 

「アハハ…仲がよろしいんですね…」

 

「このお兄ちゃんしんでるー」

 

「お兄ちゃんお姉ちゃんにあたまがあがらないんだー」

 

地面に伏したベルが子供たちに頭をつんつんとされているがその突っ伏した状態でベルは上を見上げながらこれは見捨てるわけにもいかないなと整理していた。起き上がるとレフィーヤもレフィーヤで何とか手が届かないかとか考えていたが…

 

 

「うむ、やはり私がやるしかあるまい」

 

「兄さん?」

 

「いやな、レフィーヤは昔からエルフでありながら木登りが苦手だったということを思い出して実に懐かしい気分に思っていたことだ妹よ」

 

「なっ…それはもう昔の話ですよ!…今も登れませんけど…大体エルフだろうと木登りできなくとも得はありませんよ!」

 

「だが今は出来ない方が損なのだろう…ともかくレディ方、ここは私、ベル・クラネルにお任せを…」

 

 

その木は結構な高さを誇る。ぶっちゃけ子猫がどうやって登ったのとか分からないことも多いが今はそんなことはどうでもいい。ベルは手始めに幹に足をかけるとそこからは身軽に登っていく。その見事な登りっぷりにレフィーヤもシルも思わずおおっーと感嘆の声が出た。

 

 

「いつの間にそんなに木登り上手くなってたんですかー兄さんー」

 

前世のアルゴノゥトは別に木登りの達人というわけではなかったのだが今はどうだろうかこれはもはや木登りの達人と呼べるほど身軽に登っていく。

 

 

「私が住んでたところド田舎だから木登りくらい出来ないと生きていけなかったんだー!!」

 

言葉を投げつつもベルは登る。そして子猫がいる高さへとあっという間に登り詰めた。

 

 

「ここの高さ結構あるから頼むから暴れてくれるなよ…いいか…いいか…絶対だぞ…」

 

 

超が付くほど慎重に恐る恐る猫へと歩みよるベル。そしてこれも恐る恐る抱き上げると下から歓声が上がった。ふぅと気を抜いた瞬間…ベキッと足元で嫌な音が鳴った。そう、ベルの体重に耐えられず枝が折れたのだった。

 

 

「どこかで予想はしていたがやっぱりこうなるのか────ッ!!!」

 

「って言ってる場合じゃないですよ兄さん!!」

 

 

ああもう地面に激突する、南無三。ベル・クラネルの冒険はここで終わってしまうのか。いいえそんなことはありません。

 

 

 

 

「【契約に応えよ、森羅の風よ。我が命に従い、敵対者を薙げ】…いいや薙いじゃダメだけど…【ゲイル・ブラスト】!(微小)」

 

 

そうこの程度で物語は終わりません。レフィーヤが出力を超微小にした風の魔法により落下時のスピードが軽減されベルは着地に成功したのでした。

 

 

「我ながら今の詠唱は過去最速でした…舌噛むかと思った…」

 

レフィーヤは一瞬で超高速詠唱したので息が切れている。一方ベルは助け出した猫をシルに渡していた。

 

「本当に貴女が世話を見るので良いのか?ロキ・ファミリアでも見れないわけではないのだが…」

 

「心配していただいてありがとうございます。でも大丈夫ですよ、今までも何度もやってきましたし…それにあなたにそこまで負担をかけさせられませんから。改めてお礼を言わせてください、ベルさん。あなたのおかげでこの子が亡くならずに済みました」

 

「アッハッハ!人助けに理由などいらないでしょう!しかもそれがあなたのような絶世の美少女のお願い…それがどうして断れましょうか…!」

 

 

「もう、とてもお世辞が上手いんですね。とにかく本当にお二人のおかげで助かりました。今は店に戻りますが改めてお礼がしたいです。ぜひ店に…豊饒の女主人にお立ち寄りください」

 

シルは深々と頭を下げ、去っていった。ベルは最後までその美貌に心捉われながら何かに感激していた。

 

 

「ううむ、こうなって来ると綴らずにはいられない英雄日誌…『ベル・クラネルは美人女店員と懇意の仲になることに成功した…』…何か視線が怖いですよレフィーヤさん…?」

 

「ふーんだ、知りませんよ。私が命の恩人なのにほかの女の子に現を抜かしているクズ兄さんなんて」

 

「なんか…ほんと、ごめんなさい…」

 

 

 

────

 

 

「…本当に綺麗な魂。なんて透き通っている色…いいえ、形なのかしら…」

 

 

妖艶な女神はその言外に欲しいと言っていた。だが焦りは禁物とも言っていた。

 

 

「でもそうね…物語には試練が必要よね。ああ、見せてほしいわ。その理不尽であなたの魂はどのように変ずるか…それともそのまま澄んでいるのか…」

 

 

そして女神は謡う。その少年の物語の行く先を。だが女神とは残酷だ、欲しいと言っておきながら試練を与える。

 

 

 

「ねぇオッタル────」

 

「…はい」

 

 

 

「【英雄】には試練が必要よね。だからあなたがその試練────用意して頂戴。あの喜劇に沿ってそうね────英雄の最初の相手には雄牛の化け物こそふさわしいわ」

 

「…貴方の御心のままに」

 

 

女神の気まぐれな悪意が動き出す。それは冒険者になったばかりにはまだまだ若い少年には理不尽なほど釣り合わない試練。それが、どうしてか早く少年に牙を向こうとしていた。

 

 

 

 

────

 

 

【ロキ・ファミリア】の主要陣が遠征に行ってから二週間ほどたった日───ベルは今日も主神ロキにステイタスの更新をお願いしていた。

 

 

「ほい、更新できたで。はーっ、ホンマに早熟の看板に偽りなしやな」

 

共通語に訳した紙をベルに手渡した。まだたった二週間である。二週間でありながらベルのステイタスは異常に上がり続けていた。

 

 

ベル・クラネル lv1

 

力 C645

敏捷 B704

耐久 D550

器用 B700

魔力 I0

 

 

「なんやねん、二週間でBって。舐めとんのか」

 

「ハッハハッハ!至って真面目だからこそその評価辛-イ!!」

 

 

「…まぁええわ。それよりもベル、今日もダンジョン行くんかいな?」

 

「勿論だとも。私が自分の限界を目指している。Lv1でどうして止まっていようか…」

 

「ホンマに限界知らずやな…けど、まぁ神からのお節介と思って聞いておき、何でもスキル頼りじゃホンマにピンチの時に死ぬで。…気をつけぇ」

 

「…分かっています、神様」

 

 

 

 

そしてギルド。ここ二週間で顔なじみとなった先輩冒険者と合流し…と思ったが

 

 

「ふむ…今日はサポーターの彼はいないのかい?」

 

「ああ、アイツか。あいつは腹に特大の爆弾抱えてるから今は【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院にいるよ。だから荷物持ちはいないから今回はそんなに持ち帰りは出来ないが腕試しくらいならばまぁ問題は────」

 

 

先輩冒険者はそう言い終わる前に、一人の巨大な荷物を持っている犬人の少女が話しかけてきた。

 

 

「冒険者様方────サポーターは必要ではありませんか?」

 

 

 

その出会いこそ運命。物語はまだ序盤だというのに何という加速度、何という急展開。ああ、どうしてこれが原典通りと言えようか。しかし道化は踊るのです、この迷宮都市でもその身を以て喜劇を体現するため。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ったく、何で俺が試し斬りに付き合わなくちゃならないんだよ、椿」

 

「そう釣れないこと言うなヴェル吉。さっきから試したくて体が疼いてるんだ────この未開拓領域で見つかった錆びた剣…一見ゴミのように見えるがわかる。…こいつはとんでもない業物だ。それこそ神が降臨する前…古代の代物だ、何でこんなもんが未開拓領域にあったのか…不思議なもんだ」

 

 

3/7 



メニュー

お気に入り

しおり

▲ページ最上部へ
Xで読了報告
この作品に感想を書く
この作品を評価する