真夏の暑さも通り過ぎて、夜には少し肌寒いくらいで段々と秋を感じるようになってきた。
そんな中で私は目の前の大きな水槽を眺めていた
「綺麗…」
横に目を向けると、そう呟きながら同じ水槽を眺める先生がいて。ついその横顔に見惚れてしまう。
その視線に気づいたのか先生がこっちを向いて、「何?」というように眉毛を上げてくる。
いつもの可愛くて笑顔な印象じゃなくて、先生には意外とドライなところもあった。
周りに愛想を振りまいてるかのように見えるけど、どこか一線を引いているような。
そんな先生の知らなかった所が、どんどん見えてくる度に私の心はもう大きすぎるくらいの愛を先生に抱えていた。
誰かに恋なんてするのは初めてだから尚更。
それは私にとって嬉しいことであると同時に、未知で、この大きすぎる感情はどうなってしまうんだろうと怖くもあった。
2人の関係が決定的に変わったのは、多分あの日
先生の唇に初めて触れた日。
初めてでどうしていいか分からないままに自分の感情をぶつけた子供すぎる私に、先生は大人だった。
不安な私を包んでくれて、受け止めてくれて。
その日を境に私たちは暇さえあれば保健室で飽きることなく触れ合うようになった。
なのに、幸せなはずなのに。
先生と触れ合う度に心が痛くなるのはなぜだろう。
その答えは、本当は自分でも知っているはずだった。
キスする度、先生の肌に触れる度
自分との圧倒的な経験値の差を感じてしまうからだ。
頭では分かっていた、こんなに可愛い人が初めてなわけがないってことは。
でもそれを自身で体験してしまうと、少し堪えた。
「_____夏鈴ちゃんっ」
『あ 、 ごめん』
「もう、ぼーっとしすぎだよ~」
そう言いながら私の手を取って前へ歩いていく。
先生はどんな時も不安な表情は見せない。
それでいい、こんな経験値が浅い私の大きすぎる感情なんて、知らないままでいい。
そんな事を思いながら、繋がれた手をしっかりと掴んだ
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水族館を出ると、もう辺りは薄暗くなっていて
少しひんやりとした風が肌を通った
「さむっ… 」
そうやって分かりやすく両手を擦り合わせてこっちを見てくる彼女に、思わず笑ってしまう。
お望み通りに手を取ると、先生は照れるように笑った
「夏鈴ちゃん」
『何?』
「好きだよ」
そう照れながら言う先生が凄い可愛くて。
人気の少ない夜の住宅街で、先生を力いっぱい抱きしめた。 その存在をちゃんと確かめるように。
『私も好き』
そう言うと、先生の抱き返す力が強まった気がした
私たちはお互いに好きだと言い合うけど、決してその先の言葉は口にしなかった。
言ったら何かが終わってしまう気がしたから。
怖くてそれは口にできなかった。
今は隣にいれるだけでいい。
ただ先生と一緒にいて、他愛もない話をして笑って、たまにキスできればそれでいい。
名残惜しかったけど、ずっと抱き合うわけにもいかず、背中に回した腕を解くと、また手を繋いで歩き出した。
歩いていたら、独り言を呟くように先生が口を開く
「そろそろ大学の勉強しないとだね。」
確かに、もうこの時期はみんな参考書とにらめっこする日々を送っていた。
私も一応志望校は決まっているし、模試の判定もまあ悪くはない。
『うん』
そう言うと、先生が顔を上げてこっちを見てきた
その瞳が、いつもとは違う、何かを訴えかけてきてるようだった。
『どしたの?』
「ううん、なんでもないよ~」
そうやってまた笑顔で歩き出す彼女だけど、
不穏な空気を感じざるおえないのはなぜだろう__________