文字デザイン、危機か好機か 第2回

日経デザイン5月号特集「文字デザイン、危機か好機か」の第2回は、キャッチコピーの改行位置が話題となったサントリージン「翠(SUI)」の交通広告。その意図を考察したコメントがSNSに続々と投稿され、賛否両論を巻き起こした。商品のリニューアルを伝える広告で、違和感のある文字組みが採用された理由をひもとく。

SNSで話題を集めたサントリージン「翠(SUI)」の交通広告。杉咲花のビジュアルを前面に押し出しながら、コピーも伝わるように、文字の書体はリニューアル前の広告と同様、あえて一般的な明朝体を選定。より豊かでふくよかになったおいしさのイメージも感じられるように、太さや長さなどを調整したという(画像提供/サントリー)
SNSで話題を集めたサントリージン「翠(SUI)」の交通広告。杉咲花のビジュアルを前面に押し出しながら、コピーも伝わるように、文字の書体はリニューアル前の広告と同様、あえて一般的な明朝体を選定。より豊かでふくよかになったおいしさのイメージも感じられるように、太さや長さなどを調整したという(画像提供/サントリー)

 「このすっきり、人生変わっちゃうかも。」

 2025年2月にスタートした、サントリージン「翠(SUI)」の広告で使用されているキャッチコピーの一つだ。同商品は24年12月に商品とパッケージのリニューアルを実施。それに伴い、25年2月から俳優の杉咲花を起用した新しい広告キャンペーンが始まった。

 SNSで話題になったのは、電車内のドア横に掲出されるB3サイズの交通広告。キャッチコピーは、杉咲花の写真の横に縦書きで、「このすっきり、」「人生変わっち」「ゃうかも。」と3行でデザインされている。

文字デザイン、危機か好機か

 物議を醸したのは、この2行目の最後が「ち」で改行され、3行目が「ゃ」から始まっていたからだ。この改行に違和感を持った人が写真付きでSNSに投稿。それが拡散されて賛否両論が巻き起こり、改行の意図を推測したり、考察したりする人たちも現れた。

 広告コピーの改行位置というニッチなテーマだが、関心を寄せる人たちが一定数存在し、SNSでは発話のきっかけにもなる。文字デザインやグラフィック広告の可能性が顕在化されたとも言えるだろう。

 SNSでは「話題づくりのためにあえて違和感のあるデザインにしたのでは」といった声も少なくなかった。しかし、アートディレクションを担当した、デザイン会社WATCH(東京・中央)アートディレクターの浜辺明弘氏は「あくまでもコピーを最適に見せるためのデザインだった」と話す。

WATCH代表/アートディレクターの浜辺明弘氏。広告を中心としたアートディレクションの仕事に携わる。最近の主な広告の仕事は、サントリー「BOSS 宇宙人ジョーンズシリーズ」、UNIQLO「LIFEとWEARシリーズ」など(画像提供/WATCH)
WATCH代表/アートディレクターの浜辺明弘氏。広告を中心としたアートディレクションの仕事に携わる。最近の主な広告の仕事は、サントリー「BOSS 宇宙人ジョーンズシリーズ」、UNIQLO「LIFEとWEARシリーズ」など(画像提供/WATCH)

瞬間的に目を引くポイント

 浜辺氏は広告をデザインするとき、最初に考えることは「何をシンボルにすべきか」だという。「コピーやマーク、ビジュアルなど、シンボリックに表現すべきものは、広告の内容やテーマによって異なるが、共通して果たすべきことは瞬間的に目を引くこと」(浜辺氏)

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