全校児童19人。里山の小学校に響いた入学式の拍手と、“地区の願い”とは【館山市】
館山市神余(かなまり)地区にある神余小学校は、2024年に創立150周年を迎えた学校です。今年4月、2人の新入生を迎え、全校児童は19人となりました。2026年度から、小規模特認校の「分校」として存続されますが、2027年5月までに児童数を36人確保するなどの存続基準を満たさない場合、2028年4月には、本校(房南小学校)に統合されることになっています。
神余地区の人たちも参加した入学式の様子とともに、小学校存続に向けて活動をしている人たちに聞いた現状をお伝えします。
地域の人たちも参加する、心温まる入学式
山に囲まれた盆地にある神余地区で、満開の桜が咲き誇る入学式当日の朝、2階建ての木造校舎に、地域の人たちが集まりました。2人の新入生が6年生と一緒に入場し、上級生、教員、来賓、地区の住民たちの、温かな眼差しと音楽に合わせた手拍子で、新入生を迎えました。
「温かく、元気な心を大切にしましょう。安全な生活を心がけ、大切な命を守りましょう」などと、小松校長が新入生に話し、上級生に対しては「期待や不安な気持ちを覚えていますか?」と問いながら、気軽に声をかけてあげるように促していました。
来賓の片桐総合区長は、存続の危機を迎えている神余小学校を踏まえ「お2人がこの場所で卒業できることを、心から願っております」などとあいさつしていました。
神余小学校では、保護者だけでなく地区の住民全員がPTA役員になって、積極的に学校行事に参加しています。PTA会長は、「校庭の大きなカエデの木のように立派に成長してください」と、学校のシンボルツリーであるカエデの木に触れて話しました。この木は樹齢150年以上といわれていて、保護者や児童たちが手入れをし、保護に務めている大切な木です。
上級生たちは、「一緒に鬼ごっこをしましょう。一輪車もがんばりましょう。私たちが何でも教えます」などと、一人一人が大きな声で語りかけ、全員で「一年生になったら」を歌いました。
2人の新入生は小さいながらに、「起立」「礼」などの号令に合わせてきちんと行動をしていました。
新入生と卒業生
校歌斉唱したとき、一番後ろの席に座っていた私の隣にいた男の子が、堂々と歌いあげていました。声をかけると、今年卒業したばかりの卒業生でした。1年生のときから神余小学校に通っていたという彼に、小学校の思い出を聞くと、「いっぱいある」と即答。そりゃそうです。ここで過ごした6年間の思い出を、一言でなんて言えなくて当然でしょう。
2年生と4年生に兄弟がいるということで、お母さんと2人で参加していた彼。「(どこの子も)みんな家族みたいな感じだから」と、サラッと言うお母さん。来られるときは、積極的に学校行事に参加しているそうです。
新入生の親御さんにも話を伺いました。なんと、7人兄弟の下から3番目の子の入学式で、去年、仕事の都合で静岡から移住したというご家族でした。
近隣の方が毎年、手作りのくまのぬいぐるみを新入生にプレゼントしているらしく、大きなぬいぐるみを抱えて校舎から出てきた新入生の2人。「緊張した」と、はにかみながらも、しっかりとした口調で教えてくれました。
地区の核となる存在がなくなれば……
来賓の方々に声をかけると、みなさん「神余かえでプラン委員会」のメンバーでした。40人ほどのメンバーで、神余小学校の存続に向けて、学校の魅力をSNSやブログで発信したり、チラシをつくったりしてアピールしています。来年度から、館山市在住の児童が希望すれば、学区に関係なく神余小学校に通うことができるようになりますが、それだけでは条件の36人を確保するのは難しいので、積極的に移住・定住にも力を入れています。
現状、来年度入学予定の新入生は2人。卒業予定が2人でプラスマイナスゼロ。なかなか厳しい状況です。神余かえでプラン委員会のメンバーは、切実な心境を語ります。
「神余小学校は、地区の核となる存在です。郵便局もない、JA(農業協同組合)もない神余から小学校がなくなってしまったら、何の公的施設もなくなってしまう。父兄の年代が、祭りや消防などに携わっていて、学校がその求心力になっている。学校がなくなれば、行事もできなくなる」
神余地区の祭りでは、200年以上の歴史を持つ市指定文化財「かっこ舞」を継承して、地元の高校生が舞を奉納しています。レクリエーション大会は、地区の住民がみんなで参加する運動会。PTAが手がけている広報紙「かえで」は、「第45回全国小・中学校PTA広報紙コンクール」で奨励賞を受賞しています。プール開き前には、児童、職員、保護者らがみんなでプール掃除に汗を流します。大切な地区の子どもたちを見守り、地区全体で協力し合って学校を支えているのです。
思い出話に花が咲く
およそ70代、60代、50代の神余小学校卒業生が3人いたので、当時1クラス何人くらいいたのか聞いてみました。先輩からそれぞれ、26人、23人(全校児童およそ180人)、13人(全校児童およそ70人)だったとのこと。昔は小中一緒だったそうですが、これらは小学校のみの人数です。そこに中学生と地区の人が加わった運動会は、今と変わらない運動場がすごい人でにぎわったといいます。3人共通の思い出は、野ぶきの収穫。
「GWの休みのときに、山に入って野ぶきの収穫をした。漬物屋が買い取ってくれるんだよ」
「リヤカーとかで、一家で300キロとか採ってたよな」
「1キロ20円くらいだったか?ちゃんと入金されてた」
「他人の山にも行って採ったりしたけど、子どもがすることだから誰も怒る人はいなかった。教室の前に野ぶきが山積みになっていたのを、今でも思い出すよ」
と、蘇る記憶を楽しそうに話す3人。
現在、神余小学校が置かれている状況は厳しいものがありますが、少しでも神余小学校に興味を持った方や、こういう学校に通いたい、子どもを通わせたいと思った方は、ぜひ神余かえでプラン委員会までお問い合わせください。
取材協力:神余小学校、神余かえでプラン委員会、神余地区のみなさま