利用者を「あいつらはくず」 生活保護窓口の闇、役所内からの証言も

編集委員・清川卓史

 約10年間で生活保護利用者が半減、母子世帯は13分の1に激減した群馬県桐生市

 荒木恵司市長は3月28日、市職員による「申請権の侵害」が大きな要因だったと認め、利用者や相談者に「耐えがたい苦痛や不利益を与えた」と謝罪した。

 市長が謝罪したのは、約1年にわたり市生活保護行政の問題を検証してきた専門家による第三者委員会の報告書を受け取った後のことだ。報告書は「生活保護法違反」「組織的不正」「規範意識崩壊」などを厳しく指摘した。

 再発防止に向けた第三者委からの提言を受けて荒木市長は、窓口相談の録音、利用者からの苦情を受け付ける窓口設置など、踏み込んだ対応をとることを明らかにした。

 報告書に大きな影響を与えたと思われるのが、市民から寄せられた証言の数々だ。

 第三者委は今年1月に情報提供を募り、集まった100件を超す証言の概要を3月半ばに公表した。他部署の市職員からも複数の情報が寄せられていた。

 生活保護利用者について「ろくでもねぇ」「あいつらはくず」と言ってはばからない職員がいた▽保護係の職員による恫喝(どうかつ)、罵声は日常茶飯事で、他課職員でさえ聞くに堪えない内容だった。しかし誰も注意せず、制止しなかった(いずれも市職員からの証言)――。

 事実なら人権侵害と言わざるをえない深刻な窓口の実態が、数々の証言から浮かび上がった。

 一部を紹介する。

■利用者・家族からの証言

 ◆保護を受けようとしたとき、子どもを児童相談所に預けることになると言われたが、児童相談所にその話をすると市役所がおかしいと言っていた。

 ◆子ども4人を抱えた母親。保護を受けて半年ほどで、半強制的に保護を打ち切られることになった。その際、CWから「子どもを養えないということだから、児童相談所に子どもを預ける」などと暴言を受けた。

 ◆2週間に1度、生まれたばかりの子どもを連れて窓口に出向き、家計簿を提出して、保護費を取りに行っていた。家計簿が1円でも合わないと怒鳴られた。眼鏡を購入した際に、「これは税金ですよ」と怒鳴られた。ケースワーカー(CW)が家を訪問した際、勝手に冷蔵庫を開け、「どんな生活しているんですか」と言われた。

 ◆県内の他市の高校へ子どもが通学していることについて、CWから「遠くの高校に通うのは、頭がおかしいのでは」と暴言を言われた。

 ◆障害児を抱えるひとり親。介助などで定職につけず、自分も精神障害があることをCWに話した。児童手当や障害者手当をやりくりして生活している状況を伝えると、CWは笑いながら、働いて得る収入がないことを馬鹿にする態度をとった。ひたすら、すみません、と謝った。

 ◆母子世帯で、週に1度の分割支給だった。家計簿を提出し、レシートも提出させられて、1円単位で管理された。子どもの卒業に合わせ、貯金をするように指示された。

 ◆母子世帯で県外で生活保護を受けていた。桐生市へ転居して生活保護申請をしたが、CWから前のところに戻るよう圧力をかけられた。さらに家族全員の顔が見たいと言われ、子ども全員を窓口に連れていくことになった。

 ◆自宅訪問の際、CWが勝手に冷蔵庫を開けて「卵が4個も入っている」と言った。その後申請が却下された。

 ◆高齢の父の家のエアコンが真夏に壊れ、購入資金がないことを相談した際、「十分に保護費を渡している。自分で購入するように。熱中症になったら救急車を呼んでください」とあしらわれた。

 ◆週に1度、レシートをつけて家計簿をCWに報告していた。生理用品の購入を知られるのは嫌だったし、レシートのない自販機で飲み物を買うことさえなじられ、苦痛だった。

 ◆CWが自宅を来訪し、「保護が長く続いているから、生活保護を切る」という話をされた。理由も説明されなかった。

証言続々

群馬県桐生市が設置した第三者委員会に寄せられた証言の数々。記事の後半では、市職員や福祉関係者からの証言も紹介しています。

 ◆CWからは、レシートを週に1度持参、市役所に来るときはYシャツにネクタイ、革靴で来るようにと言われていた。ひらがなや漢字の書き取り練習をさせられた。

 ◆実父の生活保護申請の際、泣いて窮状を訴えたが、CWが「泣いても意味がない」と言って申請にいたらなかった。再度窓口に出向いてようやく申請用紙を交付された。CWから呼び出されたときに通路で、大声で「なぜ父が生活保護になったかわかるか、社会性がないせいだ」と怒鳴られた。

 ◆自分は知的障害だが、申請のとき「生活保護も知らないの?」などと言われ、馬鹿にされたと感じた。

 ◆CWから、カウンターを乗り越える姿勢で怒号を受けて、精神的な苦痛を受けた。

 ◆毎日ハローワークに行くようにいわれ、それがなければ支給は止めると言われていた。CWの指示は絶対で、それに必ず従うように言われた。家計簿をつけなければ支給を停止する、税金で養ってもらっているのだから常識だと言われた。

 ◆弟が保護をうけていた際に、CWから非常につらい対応をされ、保護をやめさせられ、その後医者に行くこともできず55歳で亡くなってしまった。

 ◆骨折で入院中、CWから「いつまで入院しているんですか」と言われ、治療中だったが退院せざるを得なかった。

 ◆交通事故で入院。退院後の通院ではタクシーを利用するが、保護費からその費用が出してもらえなかった。

 ◆理由もなく、飼い猫を飼ってはいけないとCWから言われた。

 ◆息子が生活保護を受けていたが、職員から援助できないのか聞かれた。余裕がなく援助不可と伝えたが、何も援助できないのかとさらに聞いてきた。たまに弁当を持っていくことがあると伝えたところ、職員は「1日200円くらいにはなる」と言い、1カ月に6千円ほどの食品を息子に渡していることになってしまった。

 ◆単身の父親がホームレスのような生活状態(栄養失調、電気ガス水道が止まっている)だと知り、生活保護申請のために窓口に行ったが、家計簿をつけるように言われて申請とならず、再度窓口に出向いたが、「家族で支えあって」と言われて申請にいたらなかった。

 ◆税金滞納の相談を税務課でした際、保護申請を勧められた。保護の窓口で相談したが受け付けてもらえず、私物を売って1日1食しか食べられない暮らしを続けざるをえなかった。

 ◆家族全員が保護を受けていないと受けられないと言われ、申請に至らなかった。

 ◆2週間に1度1万4千円ずつの分割支給をすると言われ、そうしないと保護は受けさせないと言われた。

 ◆収入申告の書類のなかで、自分で申告したことがないのに、月6千円分の米の仕送りが母からあるという記載がなされていることがわかった。母が届けたこともないのに、その旨の母の扶養届があることもわかった。実体のないこの扶養届のために毎月6千円が減額されていた。

 ◆生活保護を受けるには自宅から出て遠方の施設への入居が必要で、そうしなければ申請はできないと言われ、やむなく従った。持病があったところ、遠方の施設に入居したため通院交通費がかかることになったが、保護費からこの費用が支給されない。

■市職員からの証言

 ◆保護係の職員による恫喝、罵声は日常茶飯事で、他課職員でさえ聞くに堪えない内容だった。しかし誰も注意せず、制止しなかった。

 ◆生活保護利用者について、「ろくでもねぇ」「あいつらはくず」と言ってはばからない職員がいた。

 ◆生活困窮者自立支援制度の利用者で生活保護が必要になることを保護係に相談しても、就労ができるというだけで相談自体に乗ろうとしない。保護を申請させないという意識が強く必要な人が利用できない状況が作り出されていた。

 ◆特定の職員が怒鳴っているのが、よく聞こえてきた。これは周知の事実だと思う。

■福祉関係者からの証言

 ◆要支援2となった高齢男性のため、デイケア利用のケアプランを立て、CWに提出したが、「お金がかかるから認めない」として、デイケアを受けさせてあげられなかった。その後その男性は亡くなった。

 ◆精神障害者の方の申請に同行したが、相談支援専門員である私に対し、CWが「適当な仕事をするな」といった侮辱的対応をしたほか、「申請はここでは受け付けられない」として申請を受けなかった。

 ◆保護申請の付き添いで窓口にいた際、生活保護利用者と思われる人に対し、CWが「俺だって頑張ってるんだから、お前だってやれるだろう」と大きな声で高圧的な態度をとっているのを見た。

 ◆金銭管理団体が金銭管理をしている生活保護利用者(週に7千円)がいたので、毎月未払い分があることや、本人が金銭管理できることを伝えたことがあった。しかし金銭管理団体の職員は、「葬式代を貯金してあげている」と話し、金銭管理を続けた。

 ◆高齢夫妻で持病があり就労不能の状況だったが、保護申請をしようと窓口を訪れても「なぜ働かないのか」「親戚に面倒をみてもらうように」と強い口調で言われ、申請にいたらなかった。

 ◆税滞納のため自宅を公売されホームレスになった人が、生活保護の申請に出向いたが、「住所がないと申請できない」「施設に入所して、そこで保護を申請するように」として、他市所在の施設見学を案内された。

 ◆生活保護利用中の世帯の夫が逮捕されたことをきっかけに、連絡もなく保護が打ち切られたようで、同居の配偶者が生活できない状況になった。警察官とともに保護の再開を要請したが、「悪いことをした人の家族は保護を受けられない」という理由でどうにもならなかった。CWが「税金の無駄」などと恫喝をしたため、妻の手が震えるほどになり、追い返された。

■そのほかの市民からの証言

 ◆(生活保護担当の)職員と思われる人が、職場ではない場所で、どこの家が生活保護を受けているとか、生活保護の申請に来たなどと話し、生活保護を利用する人を挙げて早く死んだほうがいいという話をしているのを聞いたことがある

 ◆外国籍の人に対して、職員がすごい声で怒鳴っていた。怖くてしっかり見られないほどだった。

 ◆生活保護利用中の病気の知人を送迎して同席していた時、家計簿の計算間違いに対し、「計算もできないのか」とCWが罵声を浴びせたので、さすがに私が苦情を言った。他の職員も借金の取り立てのような態度や口ぶりで、とても市役所の職員とは思えないひどい対応だった。今でも許せない。

 ◆生活保護の担当職員が窓口の男女に向けて、「てめぇら」「ふざけんじゃねーぞ」「さっさと仕事しろや」などと大声で怒鳴りつけている場面をみた。驚き、不快だった。

※「桐生市生活保護業務の適正化に関する第三者委員会」の資料から作成

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この記事を書いた人
清川卓史
編集委員|社会保障担当
専門・関心分野
認知症・介護、貧困、社会的孤立
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    岩本菜々
    (NPO法人POSSE代表理事)
    2025年4月21日6時30分 投稿
    【視点】

     市役所で、職員から突然暴言を受けたり、人権侵害をされるというのは、通常であれば考えられないことです。  こうした想像を絶するような問題行為が長らく隠蔽され、問題になってこなかった理由の一つに、ケースワーカーと受給者の間の圧倒的な力関係があると考えられます。  ケースワーカーは、保護の受給にあたって受給者の生活を事細かに把握するほか、指導指示を出し、指導に従わなかった場合に保護を打ち切る権限も持っています。(制度上は、担当ケースワーカー一人の独断で決められるわけではありませんが)  ケースワーカーが受給者の「生殺与奪の権」を実質的に握ってしまっているために、声が上げられなかった受給者は多くいたと考えられます。  1年以上にわたって支援団体らが地道に問題を明らかにし、責任を追及してきたことで、証言が集まるようになりつつあります。こうした取り組みによって、権力関係を変容させていくことが重要です。

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    藤田直哉
    (批評家・日本映画大学准教授)
    2025年4月21日8時37分 投稿
    【視点】

    これはちょっと、ひどいですね……。普通、見出しが煽情的で、中身の記事はそうではないというのがネット記事では多いのですが、これは逆で、中身の記事の方が本当にひどいものでした。 ここで体現されているのは、20年以上前から続く匿名掲示板やSNSなどで書かれ続けてきた生活保護叩き、自己責任論的な福祉ショービニズム、シングルマザー批判などのミソジニーであるように思います。職員の中にそのような思想の持ち主がいて、その思想が行動に影響を与えると、このような帰結が起こるということなのでしょうか。どれほど多くの生命や健康にダメージを与え、不必要な苦痛を発生させたのでしょうか。シングルマザーになったり、生活保護を申請するに至る人たちの中に、決して本人の責任とは言えない不幸な境遇である者たちがいることを、少しでも想像しなかったのでしょうか。 ネットでよく見かけるこのような「思想」が、もし多数派になれば、これを「問題化」することも困難になるのでしょうか。そのような世界はとてもおぞましいもののように感じました。

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