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広末涼子さんめぐる騒動の背景にあった事情ー仕事と子育てをめぐる現実とは

篠田博之月刊『創』編集長
広末涼子さん釈放を大きく報じたスポーツ紙(筆者撮影)

 広末涼子さんの逮捕騒動は4月16日に本人が釈放されて収束しつつあるが、一連の騒動の背後に何があったのか、週刊誌などが様々に報じている。この事件は一般に思われている以上にいろいろな問題を提起しているように思う。

当初の報道のあり方には様々な批判が…

 基本的には交通事故なのに、広末さんが逮捕されたことで、一斉に犯罪者扱いの報道がなされたことや、逮捕後も勾留が続いたことには多くの批判がなされている。

 そもそも逮捕されたのは、事故後広末さんが病院で看護師の脚を蹴ったりしたことで傷害容疑とされたのだが、その後の家宅捜索の容疑は危険運転障害だった。広末さんのパニック状態に警察は薬物の影響を疑ったらしいのだが、障害容疑で逮捕して危険運転障害での捜査を進めていったことが法的には問題だと指摘する法曹関係者もいる。薬物の容疑が晴れてからも勾留が続いたことも、かなり無理筋で、今回の一連の騒動は、警察のいささか強引な捜査と、その警察の意向に引っ張られる形で報道が展開されていくという、従来から批判されている構造的な問題が大きく影を落としているのは確かだ。

 その問題については、4月13日、私が東京新聞とこのヤフーニュースで指摘した。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/19ed89d79d56665e88a08e5ae3cfe292e8721318

広末涼子さんめぐる騒動と報道への大いなる疑問。パニックの背景にあった事情とは…

 その後、朝日新聞が16日に「俳優逮捕報道、人権への配慮は 取り調べの様子や余罪の可能性に言及、危ぶむ声」という見出しで一連の報道を検証する記事を掲載した。記事中でこういう指摘がなされている。

容疑者逮捕を伝える各局のニュース動画はユーチューブにもアップされ、数十万回から200万回以上再生されたものもあった。

 元裁判官で冤罪(えんざい)事件を研究している西愛礼(よしゆき)弁護士は「逮捕後の様子を『挙動がおかしい』などと報じれば、素行不良のように印象づけて裁判官の判断に影響を与えるリスクがある。違法薬物の影響まで示唆する報道もあり、冤罪や名誉毀損(きそん)のおそれがある」と指摘する。

 西弁護士は「臆測を交えて面白おかしく印象づける報道をもとに世間の風潮が一方向に傾いている。『知りたい』『面白い』に重きが置かれ、法や人権がないがしろにされている」と危惧する。》

 同様の指摘はネット上でも様々な論者によってなされた。

そのうえで背景にいったい何があったのか

 さて、そういう指摘を踏まえたうえで、残された問題は、警察が不審に思った、広末さんのパニックや奇異に見えた行動はいったい何だったのかということだ。交通事故を起こしたことからくるパニックだけでなく、事故を起こす前のサービスエリアでも、見知らぬ人に「広末で~す」と話しかけたり、異様な行動が見られたという報道が当初からなされていた。広末さんが精神的に不安定な状況にあり、それが事故につながったのではないかという見方だ。警察が疑った薬物といったことでなかったとすれば、いったい背景に何があったのか。

 その問題について詳しい報道がなされているのは『週刊文春』4月24日号「広末涼子を蝕んだ『本当の事故原因』」だ。

『週刊文春』4月24日号(筆者撮影)
『週刊文春』4月24日号(筆者撮影)

 それによると撮影中の映画をめぐって監督の降板などトラブルが起きており、事故前日にも広末さんとプロデューサーの話し合いがなされて彼女のシーンの撮影が延期になったという。その結果、彼女は撮影地の奈良から帰京することになり、その帰路で事故が起きたというのだ。

 その主演映画は『おんおくり』というタイトル、骨髄バンクをテーマにしたもので、不倫騒動からの復帰作として幾つか出演のオファーがあったなかで、そのテーマから広末さん自らが選び、出演を承諾したものだという。

 ところが『週刊文春』の記事によると、当初の監督 I 氏から撮影前に突如、M氏という別の監督に交替。このM氏と広末さんは最初からソリがあわなかったという。記事中で関係者がこう証言している。

「演出を巡り、広末とM監督は激しい議論になり、撮影が止まった。怒った監督は『俺は降りる』と言い出し、現場は大混乱になったのです。プロデューサーも頭を抱えていました」

「仲裁に入ったプロデューサーが広末とM監督双方と話し合いを行い、監督の降板が決まりました。広末とプロデューサーの間にも溝が生まれかけましたが、本音をぶつけ合ったことで円満な関係に戻った。彼女のシーンの撮影は延期となり、一旦、東京に帰ることになったのです」

 事故が起きたのはその帰京の途中だった。映画撮影の現場でかなり深刻な問題が起きていたわけで、広末さんにかなりの精神的ストレスがあったことが事故の遠因だった可能性が高い。そもそも当初運転していたのは、同乗していた男性で、その人物が腰痛のため、途中で広末さんに運転を交替。その後、事故が起きたというのだ。

泊まり込みの映画撮影と子育ての両立という問題

 映画撮影をめぐる問題はそのほかにもいろいろあったらしい。広末さんは育児と仕事の両立を重視し、「関東近郊での撮影」「泊りはなし」といった約束をスタッフと交わして出演を受けたのに、実際は舞台となる奈良市の全面協力で撮影が行われることになって、現地泊まり込みが続いていたという。

『女性自身』4月29日・5月6日合併号によれば、広末さんが7日に帰京したのは、翌8日に一番下の子の始業式があったためではないかとの関係者のコメントも載っている。また10日は長男の誕生日だった。実際には事故を起こして、その10日に自宅に警察の家宅捜索が入るという不幸な事態になったのだった。

 不倫騒動で前夫のキャンドル氏と別れ、3人の子どもを育てながら昨年からタレントとしての活動を再開した広末さんが、子育てと仕事の両立で、大変な日々を送っていた。その復帰第一作の映画撮影でゴタゴタが起きるという状況で、広末さんに心労が重なっていたのは確かなようだ。

『女性セブン』5月1日号によると、事故が起きた時同乗していた男性は13日、SNSにこう書いていたという。「報道やニュースを見てるととても悲しくまた悔しい気持ちになっています。結果にはなぜそうなったかの理由が必ずあります」。

逮捕当初の広末さんを犯罪者扱いした報道は、彼女の置かれた状況などを知らないまま一方的になされたということへの思いを表明したものだろう。

 ちなみにこの記事の見出しは「広末涼子『理想の母子家庭』という呪縛『生まれてこなければ』長男の嘆き」だ。広末さんに「理想の母子家庭」という呪縛がのしかかり、「多忙なときに、長男から『子供より仕事が大事なのかよ』『おれなんて生まれてこなければよかった』と言われ、ショックを受けて女優の仕事を辞めようと思ったこともあるそうです」という知人のコメントが紹介されている。本当に長男がそんなことを口にしていたかどうかはこの記事からは確証を得られず、この見出しはかなり誇張があるのではという気もするが、いずれにせよ3人の子育てと仕事の両立がとても大変だったろうことは想像がつく。

 そういう状況に置かれながら、何か問題が起こると容赦なくバッシングがなされるという、今回の事態には、この社会で女性が置かれた状況をめぐる考えてみるべき多くの問題が内包されているように思う。釈放されて警察署を出た後、車の中で広末さんが笑っていたなどという話がネットで取りざたされていたが、ほっと一息ついた瞬間に彼女が笑っていたことをそういうふうに取りざたすること自体が、この社会の空気を反映している。

 広末さんの事務所は16日にホームページに見解を発表。本人に精神的に不安定な状態がみられたことを認め、治療と健康回復に努めていくとしている。広末さんの早期の回復と仕事復帰を祈りたい。

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ありがとうございます。
月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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