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27年間失踪していた母親をTikTokで見つけました

お母さんのこと、好きですか?

私はそんなに好きじゃありません。

私を産み落とし、ひとつの命としてこの世に放ってくれた事実には感謝しています。
そのことを思えば、私はそれなりにいい人生を歩んで来られたと言えるでしょう。

ただ、母に感謝できることと、母のことを愛せるかどうかはまったく別のお話だと私は思っています。

母は、私を産んでから27年間失踪していました。
この記事は、私が母親をTikTokで見つけるまでの記録です。

「好きじゃない」し「嫌いじゃない」母に思っていたこと

母のことを「そんなに好きじゃありません」と言える人間の胸中。
そこには憎しみや怒りとかいった激情が渦巻いていそうなものですが、そのような感情は私の中に殆ど存在していません。

私を捨てたという事実から「好きじゃない」のです。
でも、感謝をしているから「嫌いじゃない」のです。

パッとしません。
だって母を好きになろうにも、嫌いになろうにも、獲得できる情報が少なすぎたのです。

私は生まれてすぐの頃から父方の祖父母の家で育ったのですが、母方の親戚とは「絶縁」していました。
文字通り、完全に、縁を絶っていました。当然、母の情報はひとつも私の耳に入ってきません。
生まれてすぐに祖父母の家に転がり込んだため、私に母の記憶もまったくありません。どんな声だったか、どんな表情をしていたか、どんな態度の人だったか、評価項目はすべて空欄です。

私が知り得ている母の情報といえば彼女の名前と、「私を産んだこと」と「私を捨てたこと」、あとは三枚ほど残っている写真に写った顔のみ。美しい人でした。美しい人だったから「嫌いじゃない」と思っていたのかも。

ともあれ、母に関しては、それなりの歳になるまで「まあ知っても知らなくてもいいや、私の人生かなり幸せだし」と思っていました。
能天気。馬鹿でもある。しかし、かなり幸せな人生を送っているという現在がないと、能天気にも馬鹿にもなれないので、幸いでした。

かなり幸せな人生を送っている自分のことは、今結構好きでいられています。

「私は何者から生まれたのか?」という袋とじ

人生が続くといろいろ考える機会、ありますよね。かなりアバウトなことを言いました。

でも、あると思うのです。
歳を重ねたから、年上の兄姉と腹を割って話す機会を設けてみよう、とか
二十歳になったから、お酒を飲むあの先輩と改めて話してみたい、とか
アラサーという節目で、改めて自分のルーツを辿りたくなった、とか
四十歳に近くなってきたから、結婚や老後の人生を考える、とか
ありませんか?

私はアラサーという節目で、改めて自分のルーツを辿りたくなりました。

短いけれど、約三十年。
二十七年間生きてきた人生、いいことも悪いこともいろいろありました。

でも、その、いいことも悪いことも体験した「私」は、一体何者から産まれたのか?
私のルーツである人間は、どのような顔でどのように喋り、動くのか?

約三十年生きて、私はそういう人生のブラックボックス的な部分が気になって仕方なくなりました。

袋とじです。
人生にずっと袋とじがあるのです。

何度も何度も読み返している本。その本のページをパラパラと捲ってみると、数ページ分、ぴったりと糊づけされている。何か鋭利な武器、例えば鋏やナイフでも持ってこない限りは、決して開くことはない。何か強い衝撃がなければ、その、閉じられたページを見ることは叶わない。

それが私にとっての「母」でした。

私は、袋とじを開けてみたい。
開けて、見てみたい。
母のことを、知ってみたい。

二十七歳になった私を襲った、強烈な欲求でした。

知らない人間を自力で探すには、100万円(以上)かかる

さて、人探しの能力に長けているわけではない人間が、人探しをします。
家族(父)から情報を募る、というのは、いろいろあって最終手段です。
まず、自力でどこまでできるのか、やってみました。

母の名前でネット検索してみます。
情報、出ませんでした、無念。

次。

「興信所 東京 おすすめ」とかで検索します。

「もう、そこの段階?」と思いましたか?
もう、ここです。自力で探すとなるともう、こうです。

検索結果に表示された、無料相談OKの興信所に電話をかけてみます。

「はい、〇〇探偵社です」
「すみません、名前しかわからない母親を探したいのですが」

「はあ」という、ため息と納得の間くらいの返事をされたのを覚えています。
こういう「名前しかわからない人探し」の相談はごまんと来るのでしょう。電話口の先にいる担当者は慣れた口調で、続きを話します。

「まず費用でいいますと、わが社はミニマム40万円から依頼を承っております。40万円がスタートラインです。そのスタートラインから、ご依頼主様がお持ちの情報を組み合わせて、お探しの方に接近していく。ご依頼主様がどの程度の情報をお持ちか、そこが費用を抑える鍵になります」

オチが読めた気がする。でも、聞きます。続けてください。

「お名前や戸籍から辿れる情報しかわからないとなると、お持ちの情報はほぼゼロに近い評価になります。まずは、ご家族等から情報収集をされることをおすすめします。でも、どうしてもお名前のみから探してほしいとおっしゃるならば、探偵派遣費用や人件費、調査費用その他諸々含めて100万円以上——」

わかりました、すみません、私が悪かったです。大変申し訳ございませんでした。

実際には「そうですか、検討してみます。お忙しいところありがとうございました」と担当者の方に告げ、電話を切りました。

母のことはめちゃくちゃ知りたい。知りたいけれど。
「袋とじ」ごときに100万は、使いたくないなあ。

電話を切った後、すぐに思ったことでした。

話が早い父

自力で探すにせよ、興信所を頼るにせよ、何にせよ今以上にたくさんの情報が必要ということがわかりました。

父と私の関係は、さほど悪いものではありません。
ですが、母のことなどまあ、話したことがありません。
気まずいですよ。現段階、27年も前から絶縁している人物のことを、改めて根掘り葉掘り聞くなんて。
だから、自力で探せたらそれに越したことはないなと思っていました。

けれども、一度動き出した「知りたい」という強い欲求の前に、気まずさなど敵いません。
やっぱり、母のことを父に聞こう。
興信所との電話を切って、十分後くらいには父に連絡していました。LINEを介して、メッセージを送信します。

「久しぶり。母親のこと知りたいんだけど、知ってることとか、わかる情報があったら教えてくれない? 興信所に頼もうにも、名前だけだとやっぱり全然情報が足りないから、できる限りのことを知りたいの。もし良ければご協力、よろしくお願いします」

突然こんなことを言って、断られやしないだろうか。
少なくとも父方の親族たちの間では、母の存在や彼女の話はタブー視されていた。
「あんな女のことなんて追うな」と叱られるかもしれない。
そうだよなあ。実子がこんなにも、なにも知らないくらい、縁がもうないのだものなあ。

父からの返事を待つ間、かなりドキドキしていました。
スマートフォンが震えました。
父からの返事。私は、恐る恐る送られてきたメッセージに目を通しました。

「いいよー」

いいよー、でした。
そうだ、この人、あんまり細かいこととか気にしない人なのでした。

「俺が覚えてることと併せて、いろいろ調べてみる。なにか分かったら教えるから待っててー」

おまけに話が早い。ありがとう。
ぬるいテンションの父の厚意に甘え、私はだらだらと父からの沙汰を待つことにしました。

100万円が浮くかもしれない文字列

二日後、父からメッセージが届きました。

「僕が知っている情報として、君の母親が十年位前に運営していたブログがあります。僕が離婚した後の記録が書いてあるものです。それを元手にいろいろ調べてみました」

ブログ。
父はそんなものを知っていたのか。
それだけでも随分、興信所の費用が浮きそうだ。
いいねえ。

「そして、そのブログのアカウントIDで検索したらTikTokアカウントが見つかりました」

TikTok?!

「ID教えて!」
私は脊髄反射で、父にIDを要求しました。
「でも、僕は初めてTikTokを見たけど、少なからず衝撃を受けたよ。君もショックを受けてはいけないと思うし、よく考えた方が」
「いいから!絶対に絶対に絶対に教えてほしい!」
「ええ……まあ……そこまで言うなら……」
私の勢いに、父は動揺していました。
でも、父は優しい人です。母のTikTokアカウントのIDは、すんなり送られてきました。

送られてきた淡白な文字列を、私はまじまじと見つめました。
このIDの先には、もしかしたら100万円が浮くほどの情報があるかもしれない。
袋とじを数ページ、あるいは全ページ読めてしまうかもしれない。

しかし、27年失踪していた人間にしては詰めが甘すぎないか?ブログで使っていたIDをそのままSNSに引き継ぐなんてあり得るか?そんな都合のいいことがあるのか?
でも、まあ、細かいことはいいんだよ。
早く、早く、早く早く早く見たい。私をこの世に産んだ人間の様子を。

私は高鳴る胸の鼓動を抑えつつ、TikTokアプリを開き、検索ボックスに母のものというIDを入力して、検索ボタンをタップしました。

クネクネと踊っている母親がいました。

DMも公開していました。

配信の真っ最中でした。

生きた母を、リアルタイムで見ることができました。


あの、たった三枚ぽっち残された写真の面影がある。重加工だけど。

私はこのとき、本当の「小躍り」というものをしました。
スマートフォンを片手に、「きゃーっ」と声を上げ、その場でステップを踏んで踊りました。
母親のTikTokアカウントを見つけたのが、自宅で良かったです。
例え外だったとしても、私はきっと同じ行動をしていたでしょうから。

ヤッター!ばんざーい!ばんざーい!
袋とじが、開いた!

人生でも類を見ない「快感」のような「達成感」のようなものを、この日、私は全身で感じました。

100万円が浮いた

27年間失踪していた母親をTikTokで見つけました。

この記事に記すのは「見つけた」ところまで。
私のことをよく知る方は「お前は見つけるだけでは済まないだろう」と思っていらっしゃるでしょう。
その通りです。

私は興信所に頼めばかかるはずの、100万円を浮かせました。

TikTokのDMで母と連絡を取り、食事に行きました。
食後に母とチャラ箱のクラブへ行きました。

クラブ?

初めて顔を合わせる以前に、母からクラブに行かないか、と誘われました。
普通、産んだ後27年会ってなかった娘を、クラブには誘わないものです。
でも、五十歳でTikTokをヘビーに(配信まで)やっている人間が、まともなわけがないでしょう。
幸か不幸か、母は普通ではありませんでした。

そんな普通ではない母との、新たなエピソードはいくつかあります。
袋とじは、思っていたよりも何ページも、何十ページもありました。
そのページのお話は、また別の機会に。

母のこと、好き? 嫌い?

私は異常な人が好きです。ですが、常識がなく、他人に迷惑をかける(かけがちな)人は嫌いです。
なので、母のことは「好き寄りの嫌い」になりました。

「好きじゃない」し「嫌いじゃない」ときのような、薄ぼんやりとした感じよりはいいんじゃないでしょうか。

母という存在を、愛せなくても全然いいと思います。

そのことがわかっただけでも、大きな収穫でした。

母、ありがとう。

母をTikTokで見つけて、本当に良かった。

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  • 9本

コメント

1
にこり
にこり

似たような立場の人間です。
ただし、私の場合は母が亡くなってから、相続の連絡が来て母のことを知りました。
そこからはもうめちゃくちゃ大変で、借金をどうするかが厄介すぎました。種違いのきょうだいにコンタクトをとれるかどうか役所に聞かれたりもしました。見ず知らずの役所の担当者に自分の収入や貯蓄の状況も根掘り葉掘り聞かれました(これ自体は事務的に必要なことなので仕方ないですが)。
手続きには多少のお金も時間もかかりましたし、何より死んだ人に文句を言えないのが辛かった。
なので…お母様がご存命の間に、そのあたりの話をしっかりすることをお勧めします。縁切ってますと言っても法的な相続権はあるので、放棄するにも手続きがいります。もちろん借金がなくてもです。財産一つ一つ取り決める必要があります(横転)
きっとお母様は波乱万丈な人生を歩まれているでしょうから、投稿者様との親子関係を証明するための謄本の取り寄せからすでに大変な手間になることが想像できます。
すみません、眠たいコメントをしてしまい…他人事とは思えず失礼しました。

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27年間失踪していた母親をTikTokで見つけました|Alien0124s
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