アクタージュ原作者がこういったこと言ってくれるとちょっと奮い立ちますね……ね!
俺は『それ』を最初、理性的に、論理的に理解していた。
ただアキラ君は感覚的に理解していたんだろうなと思う。
俺は撮影というシステムを理で分解し、アキラ君は心で理解していた。
多分、心のスタート地点と、目指したもんの違いが理由だろうな。
俺は『完成品』という美しいものを目指し。
アキラ君は、共に演じていた人達を見ていた。
だから、『それ』に深く思うこともなかったんだろうぜ。
あれは、そう。小学校か中学校か、多分そんくらいの歳の時にした話だ。
「朝風君。僕らの撮る映画とか、その原型の舞台演劇とかって、総合芸術なんだって」
「そうですね。アキラさんの言う通りです。
テレビ番組や映画など媒体の違いもありますが、これらは芸術を総合したものなんですね」
「でもイマイチ、ピンと来ないな」
『総合芸術』の四文字でピンと来ない感性は、アリサさんは心底見下すだろうな。
あの人感性鈍い人をナチュラルに格下に見るからなあ。
しゃーねえ。
アリサさんがアキラ君の評価落とさないよう、ちっと補足しとくか。
友人が母親に何か言われて落ち込む姿とか見たくねえ。
「現代の演劇は、どうやって成り立ったと思いますか?」
「それは……誰かが思いついたからかな」
「そうですね。アキラさんのそれも正解です。でも、『総合芸術』なんですよ、あれは」
「?」
「音楽芸術家が、音楽を作り、発展させました。
絵画芸術家が、絵画を作り、発展させました。
彫刻芸術家が、立体を作り、発展させました。
歌手というものが、音楽に歌を付けます。
演者というものが、体の動きで何かを表現する技術を育みます。
服飾職人が作った服は、やがて舞台の上のきらびやかな服を作る技となります。
小説家、戯曲家と、『物語』を文字で作り上げる人間が現れ、舞台を作っていきます」
「……あ」
「先人の技術を習い、背景を書きます。
庭職人のように草花を彩り、舞台を作ります。
彫刻のように素晴らしい立体のスーツや木岩を作ります。
作った音楽を流し、合わせて用意した歌手が歌を歌い……
芸術の服が、芸術の背景の前を跳ね回ります。
そして、先人の技術に倣って、洗練された脚本の通りに役者が物語を紡ぎ上げます」
「総合、してる?」
「はい、まさにその通りです。
テレビで何気なく見る番組。
劇場で何気なく見る映画。
あれはですね、人類の積み上げてきた芸術の総まとめなんです。
人類がずっと作ってきた"素敵だと感じられるもの"の集大成なんですよ」
「ああ、だから総合芸術なのか!」
「はい。そこに『機械』という多くの先人の作った技術に詰め込まれたもの。
『カメラを使う技術』という多くの人達の研鑽と研究が詰まったもの。
照明、合成、特撮……多くの各分野の人達の技術が詰まったもの。
それらを更に総合した総合芸術こそが、テレビの番組や劇場の映画と言えるのです」
映像の構成要素。ああいうのは、感覚で理解ができる。
今の番組一つに流れる血脈に、何千年前の人間の技が、何百年前の人間の想いが、一体どのくらい流れてんのか想像もつかねえ。
宇宙のどっかに宇宙人がいても、地球の演劇やら映画やらと同じもんがあるとは思えねえ。
だってそうだろ。
演劇や映画は、遠い昔から"素敵なものを見たり聞いたりしたい"って思った人達が作った、数々の全然違う芸術が、奇跡的に全部一体化したようなもんなんだぜ。
特撮で言う、てんこもりフォーム!
地球人類史そのものみたいなこれが、他の星にもあるとは思えねえな!
「俺は造形です。
俳優さんと同じことはできません。
音楽と同じことはできません。
ちょっと手伝う程度のことならできますけどね。
俺達は皆で違うことをしながら、同じものを目指してるってわけです」
「映画は総合芸術、か……深いね、この言葉は」
「ですね」
そうだぞ。
主役も脇役も、表舞台の俳優も裏方も、皆で力を合わせてんのさ。
「だから、一人じゃ撮れないんですよ。
天才一人で作れない映画ってものがあるから、『これ』は面白いんです」
アキラ君と話したことだ、忘れてなんかいねえ。
忘れたことなんてねえ。
周りに助けられる度、そいつを思い出している。
そんな思い出を抱えながら、俺は今日も作り続ける。
現在00:32。
デスアイランド七日目の撮影が始まる朝の挨拶まで、10時間も残ってねえな。
人が動く。
人が走る。
皆が助けてくれて、それでようやく仕事を間に合わせられる、それが俺だった。
「皆さん! 朝までに必ず仕上げますよ!」
「はい!」
「はい!」
「がんばります!」
俺が居ない間、皆が進めてくれたおかげで助かった。
"やる気があればできる作業"ってのと、"やる気があってもできねえ作業"ってのはある。
作成難易度と作成必要時間ってのは分けて考えなくちゃならねえ。
例えば、千羽鶴とかなら小学生でも作れるが、プロでも作るのに時間がかかる。
千羽鶴ならプロが徹夜するより、小学生一クラス分が作った方がはえーかもな。
俺が戻って来たところで、必要な時間が多いもんが丸々残ってりゃヤバかった。
そうなると必要になんのは技術じゃなく、人手と時間だからな。
その辺りも計算に入れて、黒さんが『人手と時間の要る単純作業』から優先的に片付けた方がいいとアドバイスしてくれてたらしい。
やるなヒゲ!
尊敬すっぞ!
ロボットが出て来る創作で例えるなら、俺以外の人達がパーツ作りや仮組みまでやってくれていて、後は最後に技術の要る本組みと最終仕上げだけだ! ってなってる状態だな。
移動時間も考えりゃ、残り六時間。
そんだけありゃあ十分終わる。
皆が作ってくれたミニチュアの構成要素を、俺が最後に完成品に仕立て上げ、微調整を加えりゃいい!
俺が"予定より速くたくさん木を作り終えてたことを褒めた人達"は、俺が抜けてる間も変わらずその技能を発揮してくれてたってわけだ。
有能。
分からないことがありゃ折を見て俺に聞きにくるのも好感触だぜ。
「朝風さん、島のこの部分、ここの空間って意味あるんですか?」
「ああ、そこは多分爆破すると思います。
実際に火薬仕込んで爆破するか、合成になるかは分かりませんが」
「爆……!?」
「島での撮影が全部終わり、CMや宣伝の撮影が全部終わってからになりますけどね。
もしかしたらもう使わなくなった島の引きの爆破シーン撮ろう、ってなるかもです。
爆弾の爆発シーンをリアルに見せるための一演出ってやつですよ。
俳優の近くで爆薬大爆発。
そしてミニチュアの中で小爆発。
二つの映像を繋げて、リアリティを出すんです。
それが提案されたら、以後追加の撮影もできなくなるので、俺は反対すると思いますが」
「ああなるほど、朝風さんはそっち側なんですね。
でもなんでそんな勿体無いことしようとするんでしょう。
ミニチュアは残しておけばまた何かに使えると思うのですが」
「残しておきたくないんですよ、きっと。
爆破すればそのミニチュアはゴミとして計上できますから」
「え?」
「こういうミニチュアとか、特撮スーツとか、そういうのって倉庫に保管してるんです。
でもスペースには限りがありますよね?
だからどこも結局、レンタルの倉庫を借りてそこに色々置くんですよ。
倉庫を借りる金が勿体無いと思ってる人、倉庫のスペースが残ってないことを知る人……
そして、そういう偉い人の下でその意向を反映する人。そういう人もいたりするわけです」
「ああ、なるほど……なんて世知辛い」
「使い途少なそうなものは保管したくなく、倉庫もレンタルしたくないのです」
「朝風さんが反対意見は出すと言いつつ、否定的に言ってないのはそういうことですか……」
「こういうミニチュアを保管しておく倉庫のレンタル費や維持費だってタダじゃないんですよ」
会社保有の倉庫だと土地代、施設代、諸々の税金と施設維持費、とか。
レンタル倉庫だと掃除にかかる手間にレンタル料、とか。
そんな感じに、"昔作ったものをずっと持っておく"ってだけで金はかかんだよ。
クソ面倒臭え。
元西映で現フリーの制作やってる山寸幸司さん*1が言ってたな、なんだっけ。
そうだ、『テトリス』だ。
フリーになったら、保有してた撮影用備品があんまりにも多くて、詰め込んでたらまるでテトリスだとか言ってたっけ。
今年レンタル倉庫借りてそこに荷物移したとか言ってたな、山寸さん。
個人倉庫に特撮セット用具とかギッチリ詰まってるとか。
面白い撮影企画があったらその企画のために倉庫の一角貸すよ、とかも言ってた。
やっぱいいよなレンタル倉庫。
金しか面倒がねえってのはいい。
俺も事務所の倉庫には相当な量の物しまってっからなぁ。
デスアイランドのミニチュアが最後に倉庫にしまわれるか、廃棄されるか。
俺にも分からん!
だが撮影までは全力を尽くし、最高の映像を撮ることに集中すべし。
後のことは後に考え、今は今やるべきことに集中しねえとな。
「ん?」
連絡だ。
スマホが震えるとちょっと身構えるな。
監督か助監督が助け求めてきたら、ってもしもを思うとクッソ怖え。
ん?
真咲さんだ。
めっずらし。
LINE番号教えといてよかったな。急用か?
と、思ったら。
俺が室内展示装飾用に縫い上げて、撮影現場に置きっぱなしだったドレスを来た茜さんの、顔真っ赤な写真が送られてきた。
え?
なんじゃ?
「……??? 綺麗だがどうしたんだコレ……」
ドレス着ると本当に綺麗だなとかそういう話は脇に置いといて。
なんだ。
どういう流れでこれ送られてきたんだ。
『本日の撮影でポカやらかしたアカネさんへの罰ゲームっす』
真咲ィ! 真面目に仕事してろ! いい写真をありがとよ! やるじゃねえか!
『ちなみに写真送るのは罰ゲームの中にはなかったんスが俺の自主的な努力というやつで』
何の努力だよ! よくやった!
とりあえず感謝の返信をしたところで、茜さんの方からメッセージが来た。
『無しや、今の無し!』
えー。
いやまあ恥ずかしいか、これ。
そりゃそうか。
『消せ! 消すんや! せんかったら絶交やからな!』
絶交は嫌だな。
消しとくか。
消しましたよ、と送信。
なーんか色々起きてんなあ、デスアイランド。
しかし良いもん見ちまった。結構集中して見ちまったが、そんくらいは許して欲しい。
「朝風さん、デスアイランドの方から連絡ですか?」
「いえ、ちょっとしたことです。手塚監督の時のように、折り返し電話しなくて良さそうです」
「あの、島の北東側の木の並びなんですけど……」
「ああ、あそこに気付きましたか。
そこは原作デスアイランドの方に設定があるんです。
下に色々埋まっているため、木の並びが変なんですよ。
置いてある岩の右二番目の木のあたりの裏を見ると、仕込みがあります。
ほら、そこにはこの木を植えてくれと指示しておいたところですよ。あそこです」
「おお……あの辺私達も作ってたんですが、よく覚えてますね」
「集中して見たものはそうそう忘れませんよ。頭の中に写真みたいに保存されてます」
「……黒山さんも同じようなこと言ってました」
「俺の場合はあの人の真似なんですよ。あっちがオリジナルです」
デスアイランドの仲間の近況を見て、気合がみなぎった。
気がする。
02:12。
いい感じだ。
進捗悪くねえぞ。
『30日に720の仕事を終わらせろ』より、『1日に24の仕事を終わらせろ』より、『5時間で5の仕事を終わらせろ』って言われる方が緊迫感と焦りが出る。
飯食ってる時間でさえ、無駄な時間費やしてるように感じるからな。
緊迫して焦ると、手元が狂う奴も出て来る。
逆に「時間を区切ってもらえると、その時間だけ頑張ればいいと思えるから全力で集中できる」って人もいるから、ここは向き不向きだな。
その辺のスタッフ個々人の向き不向きは、粗方見極めて黒さんや柊さん達にも伝えてある。
おかげで仕事の割り振りもサクサクだ。
俺が手が離せない時でも簡易の指示なら黒さん達が出してくれる。
うーわ楽。
予定されてた制作会社じゃなく、スタジオ大黒天が代理で来てくれてて助かったわ。
と、思ってたんだが。
「エージくん、コンテの決定稿ってない?」
「コンテの完全完成稿ですか? まだないですね」
はて、コンテと来たか。柊さんは求める立場だよな、そう言われてみりゃ。
しっかし睡眠時間削ってまで長時間ハードな作業続けてると、どんな美人でも化粧が落ちてクマが見えてきて美人度下がるもんなんだが。
この人常時美人だな。
容姿が良いのもあるが、タフなんだ。良いこったぜ。
タフな美人は、作業の現場じゃ頼りになる。
「コンテあったら、もうこのミニチュアは仕上げでいいと思うんだけどね」
「あれ、コンテ無いと駄目ですか?
前に予定されてた制作の人は、ミニチュア完成してからコンテ切るって言ってたんですが」
「やり方次第かなあ。
そこの制作って、ちょっとの粗は気にしなかったんじゃない?
ただ私の場合、コンテ切って一回撮影しないと、予想外の粗が見えないと思うから……」
「あー」
こだわりってやつか。
いやでもそうだな。
俺もコンテが完全に完成してからの方が、ミニチュアの完成度は上げられる気がする。
柊さんの言う通り、コンテ決定稿切って、それの通りに一回撮影して、そっからミニチュアの調整してみた方が万全か。
絵コンテは映像の設計図だ。
カメラにどういう画を映したいかを走り書きし、画面の絵の構図、そこで流れるBGMやSEなんかを設定し、映像を絵で雛形に起こすもんだ。
仮面ライダーとかなら、コンテは用紙とシャーペン一本ありゃあ十分描けるもんだな。
OP描いて、撮りたい展開描いて、合成素材の構図を描く。
んで他のスタッフが更にそこにメモ書きしたりすんだよな。
仮面ライダーのコンテは大体そんな感じで作られてるってえわけだ。
でも今はコンテねえしなあ。
書ける手塚監督とかも島だし。
ねえもんをねだってもしかたねーだろ。
ん、黒さん?
「エージ、ちょっと待ってろ、絵コンテ書いてやる。
どうせこのミニチュア使うシーンなんざ本編と宣伝の一部だろ。
テレビCM分と、ネットCM分と、映画館の予告分でいいんだな?」
「え、いいんですか? 撮影の後に手塚監督か助監督に描いてもらおうと思ってたんですが」
「おう」
「ではすみません、お願いします黒さん。
出来上がったら手塚監督とプロデューサーの方に送って申請しますね」
よっしゃ助かる!
黒さんの絵コンテならどこに出しても「これがあるならこれ使おう」ってなるぞ!
しかもCMの出来も予定以上に良くなるぜ。
何せ黒さんが書いた絵コンテだからな。適当にやっても質は高えはずだ。
こいつぁデスアイランド成功要素になってくれそうだ……最高だな。
「エージくん、私の方をなんで見ないの?」
「俺は柊さんの絵、好きですよ」
「私は何も言ってないよ」
「絵っていうのは、そこに込められた魂が重要なんですよ。俺の信条です」
「エージくんも墨字さんも絵上手いし綺麗だけど、私ド下手だもんね……」
「柊さんは美人だからセーフ、セーフです。
ほら、美の総合値でセーフラインに入ったみたいな」
「美の総合値とか生まれて初めて聞くレベルの造語をありがと。あー、多芸な人はいいよねえ」
柊さんがちょっとふてくされている。
美人というより、少し子供らしい、可愛らしい表情の動きだと、そう思った。
自分にできることをすりゃいいんだよ。
それが制作だろ。
さて、撮影進めるか。
03:20。
「エージ、出来たぞ」
「え、めっちゃ速いですね……黒さんどうなってんですか」
「短時間しか流さねえCMとトレーラーにんな時間かからねえよ。
ましてや俺の映画でもねえのに、そんな悩んで最善なんか目指すと思うか」
「ごもっともです」
はっえーなぁ、オイ。
仕事速えだけの雑な仕事ならぶっ殺すぞ、と一瞬思ったが。
そもそもこの人がそこまで低レベルなもん出してくるわけがねーわな。
と、思いつつ、絵コンテを拝見し。
俺は、息を呑んだ。
「―――」
なんだ、これ。うわっ、分かるやつには分かるやつ。
分からなくても、分からないなりに出来の良さが伝わってくるやつだ。
カメラワークと画の作り方が尋常じゃねえ。
忌避される奇抜さがねえのに、新鮮さを鮮烈に感じさせられる画面の構図。
この絵コンテの通りに撮影して、予定されてるCMや本編の引きのシーンに組み込めば……作品自体のレベルが、ワンランク上に行くぞこれ。
手慰みでこんなレベルのもん出してくんじゃねえよ……血が騒ぐだろうが。
ちょっと疲労でボケてきた頭が、完全に覚醒するだろうが。
もう絶対に、ほんの僅かにでも手が抜けなくなっちまったじゃねえか。
「いいですね、これ」
「じゃあ俺はちょっと見回りしたら寝る。夜凪の弟と妹が俺より先に起きたら起こしてくれ」
「はい。ありがとうございました」
おう勝手に寝ててくれ、おやすみ。
まあしゃあねえな、ちみっこ達もとうにおねむの時間だ。
しっかしなあ、十時間かけても仕事終わらなくて徹夜してる人もいりゃあ、こうして一時間ちょっとありゃ最高の仕事して寝始めるオッサンもいる。
要領ってやつは肝要だと思い知らされるぜ。
今まさに徹夜してる俺が言うのは本当になんだけどな!
絵コンテのデータ送って、スターズ事務所にいたプロデューサーから一発OK出たところで、この絵コンテが本採用って前提で話を進め始めた。
手塚監督の性格はよく知ってる。
自分より偉い人の命令には逆らわんのがあの人だ。
事務所に先に話通しとけば、朝監督が起きてそこで話通るだろう。
手塚監督と黒さん知り合いだったはずだし、そこの話通るのもスムーズそうだ。
……スポンサーに数時間前まで振り回されてた俺が、今は監督振り回す立場にいるってのが、もうなんか世の複雑さを自己証明してるみてえだな!
しかしこの時間までプロデューサー事務所にいたな。
スポンサー入れ替わりのアレの件の残業だろうか?
プロデューサーも大変そうだ。
黒さんの絵コンテを何度も読み込み、それを参考に軽く試し撮りしてくれた柊さんの映像を参考に、ミニチュアを調整していく。
「どう? 海の反射調整できた?」
「ちょっと表面を削って
海の表面は波ですからね。
波の形状は、特定の角度から当てられた光を、どの方向に反射するか、になります。
仮面ライダーとスーパー戦隊のマスク加工の応用*2で少し光の角度を調整しました」
「うん、いいね。
海面の光の反射がいい具合にミニチュア感を消してる。
さっき撮った時はほんの僅かに光の反射が見るのに邪魔になってたけど……それももう無い」
「よっし!」
「私の仕事は大体これで終わりにしてもいいけど、エージくんはまだやる?」
「もうちょっと調整しながら、質を上げて行きたいと思います。
想定してたミニチュアのレベルには、まだちょっと届いていないので」
「そっか。じゃ、私も最後まで手伝うよ」
「ありがとうございます!」
集中。本気で集中。周りの声が聞こえなくなるくらいに、集中。
「墨字さんは、本当にもう……エージくんのこと考えてます?」
「考えてるぞ。こいつが俺達みたいな人種にとっての幸せってやつだ」
「そういうもんですかね」
「本気で夢中になれるもんなんて、世の中の大半の奴が見つけてねえんだ。
俺達みたいなのはそいつらよりずっと幸せだろうし、ずっと恵まれてんだろうよ」
「エージくんが道を踏み外したら、って時々心配になるんですよ、私は」
「事あるごとにそれだな、お前らは。アリサのババアとかもすぐそれだ」
いやーいいもん見た。
あの絵コンテ見てから、疲れ切ってる体に心の力が漲って仕方ねえ。
HPが残り1になっても『HPを10消費する』スキルを何度でも使えるみてえなアレ。
パワーが湧いてきやがるぜ。
こいつがモチベーション、ハイテンション! 気力が体力の枯渇を凌駕してやがる!
なんか深夜テンションになってんな俺。
疲れてんのか? いや、疲れてるけど疲れてねえみてえに頑張れてる状態か。
へっへっへ、限界がねえみてえだ。
もう周りの声も、LINEの音も聞こえる気がしねえぜ!
「決めんのはエージだぞ。
どんな映画を撮るかの自由も、どんな人生を生きるかの自由も、邪魔すんのは良くねえ」
「そりゃそうかもしれませんけどね」
「『幸福の正解』も、『人生の正解』も、『映画の正解』も。
たったひとつの正解以外は認めねえ奴は、絶対どっかでコケるぞ」
「エージくんが好きなことやってるのは分かるんですよ。
横顔見てると楽しくて楽しくて仕方ないってのも分かるんです。
でも、なんというか。
弟がゲームに嵌って毎晩徹夜してて、体調が心配になる気持ちってこういうのなのかなって」
「姉か、お前は」
「姉じゃありませんよ。
家族じゃないから、エージくんは私達の忠告あんま真剣に聞いてないんじゃないかな」
「はっ、こいつがそんなタマか。
家族の忠告もお前の忠告も同じだろうよ。
お前がした忠告はちゃんとこいつの頭の中に入ってるはずだ」
「だといいんですけどね」
柊さんが飯抜きを許さない人であってくれたおかげで、助かった。
じゃなきゃ、とっくに脳味噌動かすガソリンが尽きてたかもしれねえ。
まだ俺の体には、脳味噌を動かすガソリンが残ってる。
あ、そうか、この絵コンテ。
イマジナリーライン*3の魔法か?
後で人を撮った映像を差し込むと超映えるやつ!
なら、ここの木を調整して……うおお、ぐっと良くなった。
やっべー。
黒山監督のパワーに引っ張られて、俺の頭も良い発想が浮かぶ状態になってやがる!
良いぞ、俺今調子良いぞ。
残り時間フルに使って、ミニチュアのクオリティ上げられるだけ上げてみるか!
「こういう世界に居させていいのか、こんなところに居ていいのか、不安に思ったりもします」
「お前怪物映画の冒頭で主人公の言うこと信じず食われて死ぬババアみたいなこと言ってんな」
「なんで墨字さんはそんな的確にムカつく言い回しができるんですか!?」
あー楽しい!
やる気がありゃ睡眠時間の不足も体力の枯渇も関係ねえな、こりゃ!
06:36。あー、終わった!
疲れて、眠くて、もう死にそうだ。
だが、とてもいい気分だ。
楽しかった。他の人達も皆、なんだかんだやりきった達成感を覚えてたっぽい。
これで上が働いた時間の分の給与払ってなけりゃいわゆる『やりがい搾取』だろうが、タイムカードの通りに金が払われることは確約されている。
皆がタイムカード提出して、俺がハンコ押せばいいだけだからな!
残業に金を払わん構図を作る気はねえぞ、責任者の俺は。
「じゃあ俺、これからデスアイランド撮影七日目に参加してきます」
「移動中に少しは寝ろよ」
「はい。皆さんお疲れ様です! ゆっくり休んでください! ありがとうございました!」
皆が口々に、呻くように俺に返答してくれる。
つーか一人たりともまともな言語発してねえ。
サンキュー皆。
夜通しフル稼働で力貸してくれて助かった。
徹夜でマラソン続けたようなもんだよな。だけどおかげで完成したぜ。
デスアイランド撮影終わったらまた改めて礼しに戻って来るからよ、またな。
「電車と船に揺られてるだけで寝ちまいそうだ……
いかんいかん……
今変なとこで寝落ちしたらどこに行っちまうか分かんねえぞ……」
今、俺が運転したら確実に事故る。
だから電車とか駆使して移動しようと思ったんだが、ヤベえ、予想以上に消耗してる。
寝るな、寝るなよ俺。
よし、船乗った。
……ん?
いや、待てよ。この船は本土出発で島到着の一本道。
到着したら船の人が起こしてくれるな。じゃあ寝ていいか! よし寝よう。
誰か俺の睡眠邪魔したら海に沈めて藻屑にしてやんぞ、じゃあおやすみ。
って、仕事の電話ー。
ウルトラ仮面の仕事の電話だ。
クッソ、無視すると後で俺に直球のツケが来るやつだこれ!
はいはいもしもし。
『それで、ここはC案ですね』
「こんなのでどうでしょうか。今没にしてた企画案送りました」
『いいですね。あ、星アキラ君、どんな感じですか?』
「いい感じに演じてますよ。今のところは順調に見えます」
『怪我しないようにちゃんと見張っててくださいね。
ウルトラ仮面撮影チームからすれば、アキラ君を守ってくれそうなのあなただけなんですから』
「はい、肝に銘じておきます」
『こっちとしては心配なんですよ。
スターズ主催って、芸能事務所主催ってことじゃないですか。
安全管理もどの程度のものなのか怪しいもんです。あ、そうそう、こっちで今日ですね……』
電話で一通り話し終えた頃には、島に到着していた。
やっべ。
眠い。
疲れた。
結局寝れなかった上に、黒さんの絵コンテに対する興奮でドーピングして滅茶苦茶無茶してたせいか、ドーピング切れた体がドチャクソ重え。
いけねえ。
これ宿泊施設まで辿り着けるか?
「こんな感じかなあ、って思ったんだよね」
ん? 誰だ?
やべっ、疲れ目で離れたところに目のピントが合わねえ。
頭の中身がぼやけてて、思考が上手く動いてねえ。
「英二君ってさ、他の人はそうじゃなくても……
私の着信とかLINEとか見逃すことってめったに無いよね。
『大丈夫?』って聞いても、嘘言うこともあるから本当にあてにならないけど。
『大丈夫?』ってLINE送って気付いてないようなら、大丈夫じゃないってすぐ分かる」
あ。
天使がいる。
あ、違え、天使じゃなくて百城さんだ。
「フラフラだね。ご飯食べた?」
「はい。美味しかったです……って、何故ここに」
「友達を迎えに?」
「そんな暇な人じゃないでしょう、あなたは」
「暇じゃなくても時間を作るのが友達ってもんじゃないかな」
言うなあこいつ。
寝不足テンションなせいで泣きそうだぞ。
いっけね、クラクラしてきた。
眠い。
寝てる?
誰かに支えられた? 受け止められた? 抱きしめられた? 俺は倒れた? 安心した?
なんで今、疲労困憊で寝不足だった俺の体を立たせていたはずの、俺の心の緊張が、一気に消えたんだ?
なんで、今俺は安心して、俺の体から緊張は消えたんだ?
駄目だ。
眠い。
「お疲れ様。ゆっくり休んでいいよ。大丈夫、私がいるから」
囁かれて、もっと安心して、もう俺の頭は八割がた寝ていた。
あー。
安心する。
親に愛されて大事にされてる小さい子って、こういう気持ちなんだろうか。
暖かい。
心安らぐ。
なんだか何もかもどうでもよくなって、このまま夢に落ちて行きたくなる。
「安心した?」
ああ、なんかよく分からんが、とても安心する。
とっても、心地良い。
「たまには英二君の何もかも、私に委ねちゃっていいんだよ。私はちゃんと預かるから」
暖かい。
体が何かに包まれて暖かい。
心が何かに包まれて暖かい。
そのまま、俺は眠りに落ちた。
そして、俺は跳ね起きる。
「やべえ仕事あんのに寝ちまった!」
起きる。
時間すぐ確認。
00:48。日付は既に変わっている。寝過ぎだー!?
なんでこんなに寝たんだ俺!?
普段から寝すぎねえように睡眠時間計算してんのに!
なんでこんなに安心してぐっすりクソ長時間寝てんだクソ野郎か俺は!
もうデスアイランド撮影八日目じゃねえか!
「私、英二君ほど仕事が生きがいの人って見たことないわ……」
「あ、景さん」
ん、あれ? 寝る前の記憶だと、百城さんと会ってたような……あれ、景さんだったっけっか……駄目だ、寝起きに記憶探ると記憶が曖昧で適当になる。
「お腹空いてない? おにぎりあるけど食べる?」
「あ、いただきます」
あ、めっちゃ腹減ってる俺。
なんだかんだ20時間くらい何も食ってねえのな俺。
……!
うまっ!
美味いぞこのおにぎり!
「景さん、このおにぎり作った人を褒めてあげてください。
めっちゃ美味いですよこれ。
味も良いんですが、焼き明太子の具合がめっちゃ俺の好みです。
作った人は天才的な人か、愛情が隠し味とかのたまう人か……
ともかく、めっちゃ美味しいです。できれば沢山お礼言いたいくらいですね」
「……ん。そのおにぎりを握った人は、英二くんにそう言われて喜んでると思うわ」
「って、そんなこと考えてる場合じゃないですね。
撮影どうなりました?
俺がほぼ一日寝ちゃってたみたいですみません。
撮影に不備は起きてませんでしたか?
二日も離れていたのに、その上一日も寝てて、もう本当に申し訳ないです」
「特には何も起こってなかったと思う。
手塚監督が皆に事情を説明してたわ。
皆、英二くんを心配してた。お疲れ様、ルイとレイのこともありがとう」
「何もしてませんよ俺は。
強いて言えば撮影所に居る許可を出したのと、二人のご飯代出したくらいです」
本当にちょっとしたことしかしてねえからな。
礼言われることは何もしてねえって。
「でも、私は……」
「あ、そうです。母親の話とかする約束でしたね」
話逸らし。
約束してたことだし、まあいいだろ。
景さんはキョトンとして、俺の真意を見抜くように俺をじっと見て、呆れたように微笑んだ。
「もう夜遅いけど。お話する?」
「景さんの明日の仕事に響かない程度なら、いくらでも」
その時、俺は。
友達に対し心を開き、無防備に自分の内面を見せ、気安い友人に心の距離を詰める時の景さんの表情ってやつを、初めて見た。
とても素敵な表情だと、素直に思えた。
「私は、私の知らない私を知りたい。
まだ知らない私を、私の中に見つけたい。
それと同じくらい、私の友達の……私の知らない英二くんのことを、知りたいわ」
「そうですね。俺も友人のことを、もっと知りたいと思います」
じゃあそうだな。
俺から、色んなことを話していくか。
「俺の母親は、結構優しいところもあったんですよ。あれは、ある夏の日のことですけど―――」
楽しい時間だった。
お互いを知る時間だった。
俺はベッドの上で体を起こして語り、景さんは椅子の背もたれを前にして語る。
親しい友のように語り合う。
月が空で少しばかり動くまでの間、俺達はつまらないことから自分にとって大切なことまで、色んなことを話して、その夜を過ごした。
関係ない話なんですけど、猫って他の猫が確保した餌を横取りするんですよね。
猫の多頭飼いの時は必ず忠告されます、猫による餌の横取り。猫の餌の奪い合い。
いや何も関係の無い話なんですけどね。
原作が14話ラストで3日目終了、15話が12日目、16話が18日目、19話で夜凪撮影最終日に入るのでぼちぼち独特な日数経過ペースになっていきます。
撮影8日目。
予定日数8/30消化。
四週+二日で構成されるデスアイランドが、二週目に入ります。