私が『史上最強の哲学入門』を書いてベストセラー作家になるまでの話
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私は哲学入門書を書いている作家である。代表作は『史上最強の哲学入門』。初版が2010年5月、つまり今から15年前に書いた本であるが、現時点で40刷の累計25万部。今でも順調に売れ続け、おすすめの哲学入門書ランキングでは常に上位に名を連ねている。
実際この本のおかげで、「ベストセラー作家」と呼ばれるようになったし、私の作家人生において、まさに出世作であったことは間違いないだろう。
今回は、この本を書き、売れるまでの話をしようと思う。
■執筆当時の状況:失敗続きの人生
さて書いた当時、私はめちゃくちゃ貧乏だった。
もともとは東北大学の理系を卒業し、いわゆる大企業に就職していたのだが、職場は完全なブラック。深夜残業、休日出勤なんか当たり前だったし、そもそも「24時間働けますか?」のフレーズがテレビCMに流れるような、社畜が賞賛される時代であった。
「ヤバい……このままじゃ、忙しくて、気づいたら人生終わってそうだ…」
限界を感じた私は辞表を叩きつけ、キャリアを捨てて会社を去り、無職となるのだった。
とはいえ、無収入のままでは生きてはいけない。
そこで一発逆転を狙って、今までの残業で貯めに貯めまくった「貯金」を株式投資に全額つぎ込む。
しかし……。なんとそこで初めて買った株の会社が、その翌日に社長が夜逃げして紙くずになってしまう。
ついでに言うと、ネットで自分の株取引をリアルタイムで日記ブログに公開していたため、この失敗談がネット民に大ウケ。飲茶は一躍“有名人”となり、匿名掲示板では「市場最曲(しじょうさいまげ)の男、飲茶」というスレッドが数年にわたり盛り上がる始末であった。
※ちなみに株取引で失敗することを「曲げる」という。
とはいえ、無収入のままでは生きてはいけない。
そこで一発逆転を狙って、勢いでベンチャー企業を設立するも、仕事は全然なく、初年度から1000万円以上の赤字を計上。社員を数名雇っていたものの、自分は無給で働く日々であり、貯金は刻々と「ゼロ」へと近づいていくのだった。
■哲学ブログによる作家デビュー
そんな中、私は「哲学的な何か、あと科学とか」という哲学・科学の豆知識ブログを細々と運営していた。株取引で無駄に有名になっていたおかげか、「本を出しませんか?」というオファーが舞い込んできた。
これがきっかけで『哲学的な何か、あと科学とか』『哲学的な何か、あと数学とか』という2冊の本を出版。これらはブログの内容をまとめたもので、そこそこ売れたが、(この記事で述べたとおり)印税収入はお小遣い程度。「作家で食べていく」にはほど遠かったし、執筆もこの2冊で終わるつもりだった。
■転機となった謎の執筆依頼「コンビニで本出しませんか?」
そんな折、「マガジンマガジン」という出版社から不意に執筆依頼がくる。気が進まなかったが、暇だったし、本業もうまくいってなかったので、話だけでも聞いてみることにした。
「実は、わかりやすい教養本のシリーズを企画してまして、哲学についてはぜひ飲茶さんにお願いしたいんです。ちなみに、本はコンビニで売ります」
「え? コンビニですか?」
今でこそコンビニで文庫本が売られているのは珍しくないが、当時は斬新なアイデアだった。
「えっと、本は書店に置かれないんですか?」
「はい、うちはもともと、釣りやパズルなどの雑誌だけを作っている会社でして。一般書籍は作ってないんです。でも、出版不況を乗り越えるために、一発逆転、挑戦したいんです!」
世の中、一発逆転を狙ってもロクなことにならないと思うのだが、しかし、そもそもコンビニで本が売れるのだろうか? しかもコンビニと言えば、まさに資本主義の権化であり、売れない商品は容赦なく「即撤去」のイメージだ。実際、聞いてみると、「売れなければ、2週間で棚から消える」とのこと。
え、ちょっと待ってほしい! 哲学の本なんて、書くには膨大な時間と労力が必要だ。それがたった2週間で消える!? いやいや、ありえない。ハイリスクすぎる。
だが、編集者は自信満々だった。
「心理学や社会学の分野でも有名な先生たちが参加する予定です。これは絶対に成功しますよ!」
「わかりました……お受けします」
勝算はなかったが、とにかく編集が自信満々だったのと、暇だったのと、お金がなかったので引き受けることにした。
さて、執筆の依頼内容は、有名な哲学者を30人ほど紹介するような定番の、いわゆる哲学入門書だった。ようするに、ページをめくるたびに新しい哲学者が登場し、最後はデリダあたりで唐突に終わる、よくあるパターンの本。私が「カタログ本」と呼んでいるやつだ。(ちなみに、この手のカタログ型の入門書は、網羅的であるため、みんな一度くらいは買うが、たいていは途中で飽きて投げ出してしまう)
私は「これじゃ売れないだろう」と思った。だって、こんな本なら既に書店に山ほど並んでいるし、わざわざコンビニで買う必要がない。
■コンビニで売れる哲学書を考える
そこで一発逆転を狙って、編集者と一緒に「どうすればコンビニで哲学入門書が売れるか」を真剣に考えた。そして、次のような答えを導きだした。
インパクトのある表紙
まず、手に取ってもらわなければ話にならない。だから、有名な漫画家に表紙を描いてもらおう!哲学を「物語」として語る
ただ哲学者を羅列するのではなく、歴史や思想がつながる「一つの物語」として解説を展開する。これなら読者はページをめくるごとにワクワクできるはず!キャッチーなタイトル
ありきたりな「3日でわかる」「世界一わかりやすい」「一読したら一生忘れない」的な、読者に媚びるような軽薄な「入門書」のタイトルではなく、インパクト重視でガツーンとくるようなタイトルをつけるべき!
ここまで考えて、編集さんはすべてに賛同してくれた。じゃあ、問題はどの漫画家さんにお願いをするかであるが、これには悩まなかった。私が格闘技漫画「グラップラー刃牙」の大ファンであり、もともと私が書いていたブログに以下のような「バキの入場シーンを哲学者でやる」というパロディネタをやっていたからだ。
哲学の聖地、東京ドーム地下議論場では、
今まさに史上最大の哲学議論大会が行われようとしていた……。
徳川「史上最高の『真理』を知りたいか―――ッ!」
観客「オ―――――――――!!!!」
徳川「ワシもじゃ、ワシもじゃみんな!!」
「全選手入場です!!!!」
神殺しは生きていた!! 更なる研鑽を積み人間狂気が甦った!!
超人!! ニーチェだァ――――!!!
近代哲学はすでに私が完成している!!
ヘーゲルだァ――――!!!
冥途の土産に『真理』とはよく言ったもの!!
達人の問答が今 実戦でバクハツする!!
ギリシャ流産婆術 ソクラテス先生だ―――!!!
哲学者こそが地上最強の代名詞だ!!
まさかこの男がきてくれるとはッッ 哲人王プラトン!!!
デカカァァァァァいッ!!!!!! 説明不要!!
哲学界の大巨人アリストテレスだ!!
真理はオレのもの 邪魔するやつは火かき棒で思い切り殴るだけ!!
20世紀最大の言語哲学者 ウィットゲンシュタイン!!
(中略)
以上32名によって、テツガク大議論大会を行いますッ
観客「アリガトォオオ」
観客「サイコーだ~~~~」
観客「アリガト―――ッ」
このページを編集者に見せると大爆笑。「いいですね! これを本の冒頭に載せれば、いい見せ場になりますよ。じゃあ、表紙は『刃牙』の板垣恵介先生にお願いしましょう!」という話になった。
そして芋づる式にタイトルも決まる。
せっかく刃牙の人にお願いするんだから「哲学者同士が論を戦わせ、最強を目指す」ような熱い感じにしよう、そして俺は市場最曲の男……、
そうだ――『史上最強の哲学入門』だ!
「これしかない!! 入門書なのに“史上最強”!」
編集者も「最高です!これなら絶対に目を引きます!」と大喜び。しかし、最大の課題は売れっ子漫画家である板垣恵介先生が引き受けてくれるかどうか。編集者はやたら自信満々だった。
「任せてください、すぐ連絡します!最悪の場合、刃牙のアシスタントさんに“刃牙風”に描いてもらうことも考えてますから!」
この軽いノリに少し不安を覚えたが、編集者の勢いに押されて任せることにした。
ところが案の定、問題が発生。どうやら「アシスタントでもいい」的な発言が板垣先生に失礼なニュアンスで伝わったらしく、先生を怒らせてしまったのだ。
そして、編集者から衝撃の一言。
「すみません、めっちゃ怒ってます。それで、その飲茶ってやつを連れてこいッ!って言われました~(涙)」
「えええええええええええーーーー!!??」
こうして、私は板垣恵介先生の仕事場へ向かい、直接交渉する羽目になったのである。(続く)



コメント
2「一発逆転」5回も出てくる超ポジティブさ。板垣恵介先生と併せて大好物('◇')ゞ
>>ページをめくるたびに新しい哲学者が登場し、最後はデリダあたりで唐突に終わる、よくあるパターンの本。私が「カタログ本」と呼んでいるやつ
この表現がすごいしっくり来ました笑
そして続きが気になる‥