松たか子 彼方のわたし
松たか子さんが撮りおろしの写真とともに、心のうちをつづる連載フォトエッセーです。
初回の今日は、ちょっと近い「彼方」の記憶から始めてみようと思う。
昨年の八月から十月。「Q : A Night At The Kabuki」(野田秀樹演出)という舞台に出演していた。東京に始まり、ロンドン、大阪、台北、という長丁場であった。それぞれの場所に記しておきたい思い出はたくさんあるが、その中でも、ロンドンの初日は忘れ難いステージだった。
エリザベス女王の国葬の翌日、我々キャストはロンドンに着いた。翌日と翌々日に舞台稽古をして、その夜初日を迎えるという、なかなかハードなスケジュールだった。そのうえロンドンは三ステージのみだったので、ジェットラグから立ち直る前に機上の人となったような、何だか夢のような時間だった。
そう、ジェットラグ、時差ぼけ。特にロンドンには苦い思い出がある。中学一年生の時に、初めて海外旅行に行ったのがロンドンだった。九時間の時差のことなどあまりわからずに飛行機に乗った私は、(わ! 映画が観(み)られるの!? リモコンの裏側、わ! ゲームもできるの!?)と完全に浮かれ、約一週間ほどの滞在期間ほぼずっと眠気と具合の悪さに悩まされた。それでも、初めて観たウエストエンドのミュージカルには眠気も吹っ飛んだし、素晴らしい経験であったことには間違いない。
そして昨年、自分なりに気を…
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