味方を自爆特攻させる気満々のクズ女 VS 激重ヤンデレ女 作:人間として終わってる人
「ということで新メンバーのエイラちゃんです」
いつもの練習場でネルにエイラを紹介してみる。
入ったのはクソザコ治癒士。育て甲斐のある可愛い治癒士だ。
私は自信満々にエイラをネルに見せつけた。
エイラは不安そうな顔で落ち着きなくキョロキョロと視線を動かしていた。
「………………え?」
すると、ネルは唐突に杖を地面に落としてしまった。
カランと軽い音がして、時間が止まるみたいに沈黙が流れる。
え? なにこの空気。
新メンバーとか入るの苦手なタイプ?
二人だけだと流石にパーティー活動が不安だとネルも思ってるはずなんだけど。
「ネル? 大丈夫??」
私は固まったまま動かないネルに言葉をかける。
しかし、それでも動かず硬直しているネル。
あ、あれ……?
少し嫌な予感がした。
「あの、私……邪魔ですか?」
エイラはネルの反応を見て私の方を不安そうな目で見つめてくる。
まぁそうだよね。私も全く分かんないし、どうしたらいいんだろう。
と、とりあえずエイラを安心させとくか。
「ま、まぁネルは人見知りだから緊張してるんだよね?」
私は何とか沈黙を打ち切ろうとそう言ってみる。
これで反応がなければ、マジでやばい気がする。
「……その人はミラさんの何なんですか?」
ネルから繰り出された初めての言葉はそれだった。
ん? どういうこと?
私はわけもわからず、とにかく言葉を絞り出すしかなかった。
「エイラはパーティーメンバーだよ? ネルと同じだけど……?」
私はそう言いながらネルの顔を覗き込んでみる。
ネルの表情は全くの無表情で、そこからは何も読み取れなかった。
ただ前髪に隠れた瞳は少し濁っているような、瞳の中の光が消えているような……。
「私と同じ……」
ネルは杖を落としたまま、どこかへ走り去ってしまった。
ん? え? え?
私はあまりの衝撃で全く動けなかった。
呼び止めることもネルに何かを謝ることもできなかった。
「あ、あの……? ミラさん?」
エイラはただその様子を見て困惑していた。
「あっ、うん。なんか……嫌なことでもあったのかな」
私は衝撃を受けたまま曖昧なことを言ってしまう。
もう何も分からなかった。
ネルの心は読めているつもりだった。
でも、今は全く読めなかった。
「ま、まぁとにかくパーティー活動は明日からだから。よろしくね」
「は、はぁ……そうですか」
私もエイラも困惑したまま、今日はお開きになってしまった。
最悪だ……。色々考えてたのに。
この後ご飯にでも行って、エイラの心酔度上げもしたかったのに。
私は思考がまとまらないまま、エイラと別れてしまった。
*
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい……。
二人と離れてからようやく事態を理解した気がする。
まぁ理解できたのは今までの努力が水の泡になりそうなこと。
原因は未だに分からないまま。
原因が分からなければどうしようもない。
いやでも、できることならあるはずだ。
適当に甘い言葉をかけまくって、なんか自己肯定感を上げまくればネルも許してくれる気がする。
これでダメならネル抜きでやるしかないか……。
そのことを考えると気分が落ち込んでしまう。
あんなに優秀な爆弾、もう手に入らないかもしれないのに。
日が落ちて、もう夜になっていた。
ネルの住んでる場所は分からない。
でも、忘れて行ったこの杖を拾いに来るはずだよね。
私は練習場でネルを待ち構えた。
予想通り、夜になってからネルは姿を現した。
暗闇でネルの表情は分からない。
でも、とにかく話をするしかない。
「ネルー!」
私はネルに向かって手を振る。
「っっっ!!」
すると、ネルはビクッと跳ねるとそのままどこかへ走り去ろうとする。
やばい! 逃がしたらダメだ。
私は全速力でネルを追いかける。
うん、めちゃくちゃ足が遅かった。
全速力で追いかけたはいものの、歩いても追い付いたんじゃないかと思うほどネルの足は遅かった。
私はネルに追い付き、手を掴む。
しかし、今までにないほど強い力で手が振り払われる。
やばいやばいやばいやばい。完全に拒絶されてる。
頭の中がグルグルと混乱する。
私は必死になってしまい、ネルにタックルをかましてしまう。
ドサッと私とネルは地面にダイブする。
そして、私はネルに覆い被さる体勢でネルを捕まえた。
「ネル? どうして逃げちゃうの?」
私はネルの両手をがっちり掴み、そう尋ねた。
月明かりに照らされてネルの顔が見えた。
ネルは真っ赤に瞼を腫らして、長時間泣き終えた後だと分かった。
というか今も少し泣きそうな顔をしてる。
「嘘つき……私だけでいいって言ったのに……」
ネルは私から視線を逸らしたまま、震えた声でそう言った。
え? ん?
そんなこと言ったっけ??
い、いや絶対言ってない気がする。
まぁそんなことはどうでもいい。ネルの中では言ったことになってるらしい。
それなら適当に言い訳でもしよう。
「ごめん。でもパーティーに治癒士は必要だから」
「そ、それは分かってます……でも……っ」
ネルは今にもボロ泣しそうな掠れた声で訴える。
やばい泣かせる。いやもう泣かせたんだった。
「い、一番はネルだから! 一番大切なのはネルだから……ね?」
私は必死そうにネルにそう言い放つ。
するとネルはふるふると震えながらも私と目を合わせてくれる。
「ミラさん……私たち、本当に付き合ってるんですよね……?」
ネルは縋るような震える瞳で私にそう問いかける。
「ん?」
付き合ってる??
私はネルの言葉を理解できなかった。
え、付き合ってるってどういう意味??
私は訳も分からないまま……と、とにかく何か言わないと。
「う、うん。そうだね。多分……」
私はとりあえず肯定しておいて、とにかくこの話から離れようと口を開く。
「そうですよね……私そのことが不安で……うぅ……」
ネルは私の言葉に安心したようで、ボロボロと涙を流し始める。
安心したのに泣いちゃった……。
私はネルが泣き止むのを待つしかなかった。
とりあえず昨日掃除に使った布でも渡しておこう。
「と、とりあえず杖……」
めちゃくちゃ微妙な空気の中、私はネルに杖を渡した。
それを受け取るネルの顔は、前回の森以来のグチャグチャでなんか笑えた。
「ミラさんは勇者なんですよね……それなら他のパーティーメンバーも入れなきゃいけないって分かってました……それなのに」
ネルは地面を見つめ、少し落ち込んでいた。
「こんなに面倒臭い魔法使いなんて嫌ですよね」
ネルは自嘲するように笑みを浮かべる。
「そ、そんなことないよ。ネルの個性だからね」
私はとりあえずネルの頭を撫で撫でして、落ち着かせる。
ま、まぁこれで一件落着なのか??
それとも事態は解決してるように見えて深刻なのか?
私は未だに困惑したまま、それを出さないように笑顔を浮かべる。
「明日は一緒に来れる?」
「……はい」
私の問いにネルはコクンと頷いた。
良かった……。パーティーから抜けるなんて言わなくて。
私は内心めっちゃ安心した。