味方を自爆特攻させる気満々のクズ女 VS 激重ヤンデレ女 作:人間として終わってる人
「み、ミラさんのバカ!! 嘘つき!!」
魔獣を倒して開口一番放たれたセリフはそれだった。
ネルは目に涙を貯めながら私の体をポカポカと殴ってくる。
まぁ全然痛くないしむしろ気持ちいいぐらいだった。
「何もしなくていいって言ったじゃないですか……それなのに……」
ネルは涙でグチャグチャになった声でそう訴えた。
もうポカポカ殴るのは止めて、泣きながら私の体にピッタリ抱き着いていた。
多分無意識で抱き着いてるんだろうなぁ……。
私はネルのあまりのチョロさに感心する。
「ごめん……思ったより強くて……」
私は少し落ち込んだような声音で謝った。
そしてどさくさに紛れてネルの黒髪を優しく撫でてみる。
しかし、当たり前のように怒られないし、むしろ頭はピクピクと震えていた。
「わ、私……ミラさんがいなくなったら本当に行く場所なんてなくて……」
ネルは嗚咽混じりの声でそう呟いた。
その言葉に私は都合が良すぎて泣きそうになる。
なんて良い子なんだ……。偶然見つけて本当によかった。
森のど真ん中でネルが泣き止むのを待つこと数分。
やっとネルは私の体から離れ、顔を見せてくれた。
そこには見事に鼻水でグチャグチャなネルの可愛い顔があった。
「助けてくれてありがとね。ネル」
私はそんなネルの目を見つめながらそう言った。
ネルはその言葉を聞いて、恥ずかしそうに目を逸らした。
褒められるのはまだ慣れてないらしい。
「じゃあ帰ろっか」
「……はい」
差し出した私の手を掴むネル。
陰鬱とした森の中を、二人で手を繋いで帰った。
当初の目的はほぼ達成した。
実戦での魔法の使用、それに心酔度アップ。
控えめに言っても完璧だったね。
私は満足して今だけはネルの手の感触でもフニフニして楽しんでおくことにした。
*
初めてミラさんと会った時は少し怖かった。
何を考えているか分からない貼り付けたような笑みを浮かべるミラさん。
そんなミラさんが少し苦手だった。
でも、ミラさんは私の話を親身になって聞いてくれた。
それに冒険にも連れて行ってくれて……。
そのことを考えるとだらしなく頬が緩んでしまう。
いつの間にかミラさんの貼り付けたような笑顔が好きになっていた。
自信ありげな顔も、謝った時の顔も、頭に焼き付いて離れなかった。
こんなに優しい人に出会ったこと無かったから……。
「あ、あの……」
冒険の帰り道、私はミラさんを呼び止めた。
ミラさんは私のほうを振り返って、「なに?」と優しく笑みを浮かべていた。
その表情に心臓がドクンと跳ねる。
「怒っちゃいましたけど……初めて魔法を撃てました。ありがとうございます……」
私は深々とミラさんに頭を下げる。
言いたかったことが言えて少しホッとする。
いつも私は言いたいことを言えない性格だったから。
「ふふ、ネルは律儀だね」
顔を上げるとミラさんはやっぱり貼り付けたような笑顔で私のことを見つめていた。
夕焼けにミラさんの顔が照らされて、また心臓がうるさく鼓動する。
初めて会った時はこんな感じじゃなかったのに。
何かの病気にかかったみたいに体が熱を持っていた。
「そうだ。渡したい物があったんだ」
そんなミラさんを見つめていると、ミラさんは思い出したように何かを取り出す。
「はい、これ。プレゼント」
ミラさんは笑顔のまま赤い首輪を差し出した。
い、いや首輪じゃなくてアクセサリーだから確かチョーカーって言うんだよね。
あ、あれ……? でも紐が着いてる……。
少し混乱しながらも私はチョーカーを受け取った。
でもやっぱり勘違いじゃなくてチョーカーには紐が着いていた。
「付けてみて」
ミラさんの言葉に私はコクンと頷く。
初めて付けるアクセサリーだから勝手が分からない。
でも何とかバッチを開き、首に付けてみる。
冷たい金属の感触が首に伝う。
「すごく似合ってる。かわいい」
付け終わるとミラさんは私の首あたりに手を伸ばす。
そして、サワサワと首あたりを触り始める。
ゾクっと変な感触で体が跳ねそうになる。
でも、次第に少しずつ気持ち良くなってきた。
「ネルは飼い猫みたいだね」
ミラさんは嬉しそうな顔でそう言った。
ハッとして顔を上げると、ミラさんは当たり前のように首輪の紐を握っていた。
やっぱりこれって首輪なんじゃ……。
どうしてもそんな疑問が浮かんでしまう。
「ネルは……私が死にそうになったら代わりに死んでくれる?」
すると、ミラさんは満面の笑みで私にそう質問を投げかけた。
その目は冗談を言っているようには見えなかった。
言うまでもなく、私にはその質問の意味が分からなかった。
「えっ……そ、それって……どういう……?」
代わりに死ぬ? どういう意味?
私は何も理解できないまま、ただミラさんから送られる視線を返すことしかできなかった。
「ふふっ、冗談冗談。じゃあここで一旦さよならしよっか」
ミラさんは意味深すぎる発言を水に流し、そのまま私から離れようとする。
ただ一旦離れるだけ。
きっと明日も私はミラさんのパーティーメンバーとして一緒に活動できる。
でも、少し胸に引っかかるものがあった。
「わ、私、ミラさんの為なら……っ」
私は離れようとするミラさんの袖を掴んだ。
そして、さっき言えなかった答えを返そうとする。
ミラさんはそんな私に少し驚いたような表情をしていた。
「代わりに死ねます……」
私は振り絞るようにそう声を出した。
もう何も分からなかった。
実際、ミラさんの代わりに死ぬなんて想像もできない。
でも、もしその時になったら……私は多分……。
「そっか……ありがとう」
ミラさんは何故か少し寂しそうな顔をしていた。
ミラさんの求めてた答えじゃなかったのかな。
胸の引っかかりを無くすために引き止めたのに、余計引っかかりが増えてしまった。