君と、A列車で行こう。

旅行などで訪問した場所に関することを綴るブログ。鉄道などの交通に関することが多めです。主にX(旧twitter)では書きにくいような長文を書きます。当面は大阪・関西万博がメイン。かつてはシミュレーションゲーム「A列車で行こう9」のことをメインに書いていました。

【大阪・関西万博】毎日新聞の「大屋根リング最上段に点字ブロックなし」という記事について

大阪・関西万博会場の大屋根リング。高さ12mの回廊と、20mの高さに登るスロープがある(2025年4月18日撮影)

大手新聞の記事がデマの発生源になった

4月19日の朝、万博に行くことを楽しみにしながらいろいろニュースを見たりしていたら、とても気になった記事がありました。

mainichi.jp

読めなくなるかもしれないので引用させていただきます(記者名は省略)。

 大阪・関西万博の大屋根「リング」の上で、全盲の私は驚き、途方に暮れた。進行方向を線状で示す誘導用の点字ブロックをたどり、1周2キロの回廊を歩いた。すると、誘導用が敷いていないところに行き着いた。

 高さ約12メートルにある回廊は枝分かれし、高さ約20メートルの最上段につながるスロープがある。手前には、注意を促す点状の警告用のブロックが、通路を遮るように並ぶ。その先に誘導用は敷かれていない。目の見える同行記者に教えてもらうまで気付かなかった。

 リングが円状であること自体が、全盲の私にとってはバリアーに感じる。自分が今、どの辺りを歩いているか分からないのだ。回廊の手すりに点字表示はなく、音声案内も聞こえてこない。

 (略)世界最大級の木造建築物であるリングも「多様でありながら、ひとつ」というメッセージを発信する。13日に開幕した万博は、障害の有無を超え、誰もが一緒に楽しめる空間にすべきだ。その想像力が主催者には「あと一歩」足りないのではないか。

この記事を見た瞬間、これはまた新しいデマが生まれるなと直感しました。

会場に行ったことがない人が、この記事を読んで、何を問題にしているのかを理解できるとは思えません。

そして危惧した通り、「バリアフリー対応が不十分」という形で注目され、万博協会の落ち度とか、維新の人権意識の問題だとか、大屋根リングの設計者の藤本壮介氏の設計ミスとか、いろんな批判が飛び出してきました。

最近、特に万博に関して発生するデマというのは、切り取られた画像や断片的な情報は事実であっても、その若干の事実に大量の嘘がくっつくことでデマになる、というものです。

「大屋根リングが重さで歪んでいる」というデマも、もともとは、一部の梁が斜めになっていること(それ自体は事実)を気にした人が、疑問としてポストしたに過ぎませんでした。

そこに「重さで潰れて歪んでいる」とか「地盤が沈んで歪んだ」とか誤った解釈があれこれくっついて拡散していったのです。

デマが生まれて拡散される過程では、メディア(特にゴシップメディア)とSNSの結託という状況も見られています。

SNSの一部で流布している何かしらへの批判(それが誤解に基づくデマであっても)を、ゴシップメディアなどが裏付けもなく拾い上げて記事にし、それがポータルサイトで配信され、SNSで引用されることでさらに拡散されていく、という構図です。

今回は、そうしたデマと対峙し、言論を正常化するために大きな役割を担うはずの大手新聞が、デマの燃料にしかならないような記事を発表したという点が衝撃でした。

で、下のようなポストをしたら、とんでもなくバズってしまいました。

こんなのでバズって欲しくはなかったです。

上のポストにも一部書きましたが、万博会場は、大屋根リングの上(高さ12m)も、リング下の通路も、会場内の主要な動線にも点字ブロックが整備されています。

点字ブロックが写っている写真(2025年4月16日、18日)

もちろん、会場をくまなく調べ回ったわけではないし、もしそこに一部で不備があるのなら批判されてしかるべきだと思いますが、この記事は、そういった主要な動線ではない、リング上でさらに高い20m地点に登るためだけのスロープに、点字ブロックがないという話です。

つまり、点字ブロックは一通りは整備されていて、そのことで誰も批判されるいわれはないということを前提にして、万博の理念を踏まえてさらに進んだ整備をしてほしかった、という趣旨であるはずなのです。

改めて大屋根リングの上を確認してみたら、記事とはちょっと違っていた

万博会場で休憩中、上のポストがえらいバズってしまっているのを見て、実際に大屋根リングに登って改めて状況を確認しました。

そうしたら、上のポストをした時に認識していた状況とはだいぶ違っていたので、次のパビリオンの予約時間までの間にいろいろと考え直していました。

最初は、下の図のように、高さ20mに登るスロープは主要な移動経路から外れてしまい、トイレや、地上との移動に支障をきたすため、あえて何も整備していないのではないかと思っていたのです。

最初に認識していた大屋根リングの構造のイメージ

しかし、大屋根リングに上がって改めて確認してみると、高さ20mに登るためのスロープは、勾配の中にいくつか平らな踊り場が設けられていて、勾配があることを示すための警戒ブロックが置かれていたのです。

現場で確認した構造のイメージ。スロープ上にも適宜警戒ブロックが置かれていた

大屋根リング上のスロープ出入口部分。通路には誘導ブロック、スロープ出入口には警戒ブロックが置かれている。

スロープの中間の踊り場部分。勾配になる手前に警戒ブロックが置かれている

このスロープ中間の警戒ブロックのことは毎日新聞の記事にも書かれていなくて、私も存在しないと思い込んでいたのです。

逆に言えば、スロープの上にも警戒ブロックがあるということは、視覚障害者の利用を実は想定しているということです。それなら、なぜこの通路に誘導ブロックを置かないのかという疑問が出てきます。

これに関しては、万博協会に確認するのが早道だと思います。せっかく毎日新聞はマスメディアとして取材する権限を持っているのだから、なぜ誘導ブロックがないのかちゃんと取材して記事にしてくれていたら、私も悩まずに済むのです。

なので個人的な推測ですが、以下の2点から、視覚障害者向けの誘導路という設定にはしていないのではないかと思います。

  1. 上記の図の通り、スロープ側に進むとトイレや地上との昇降には遠回りになってしまうため、誘導路としては適切ではない可能性がある。
  2. 点字ブロックの大きさは基本的に1辺30cmほどのため、上の写真で分かる通り、この通路の幅は2m40cmほど。誘導ブロックは、いろいろな基準を見ている限りでは通路の端から60cm程度(ブロック2枚分)離す必要があるため、通路の中央近くに敷くことになる。
    点字ブロックには、車いすやベビーカーが通行しづらくなるといった問題点もあり、この通路幅ではブロックを回避して通るのが難しいので、誘導ブロックの設置は適切ではない可能性がある。

大屋根リング上では、点字ブロックQRコードは見当たらなかった

なお、この毎日新聞の記事では、他の問題点を指摘しています。

リングが円状であること自体が、全盲の私にとってはバリアーに感じる。自分が今、どの辺りを歩いているか分からないのだ。回廊の手すりに点字表示はなく、音声案内も聞こえてこない。

リングが円形であることには万博の理念を表現する意図があるので、視覚障害者の利便性を理由にデザインを制限するのは適切ではないと思います。ですから、別の形でフォローする形になるはずです。

万博会場では、適宜点字ブロックQRコードを設け、専用アプリで読み取ることで現在位置や進む方向を知ることができるシステムを採用しています。

www3.nhk.or.jp

万博会場にて、点字ブロックに設置されたQRコード(2025年4月19日)

ただ、このQRコードは今日、大屋根リングの上をほぼ一周してみた限りでは、リングの上の点字ブロックには設置されていないように見えました。

トイレ前、エレベーターやエスカレーターの前など、主要地点にQRコードを設置すれば、「リングを歩いていてどこにいるのかわからない」という問題への対応になると思います。この辺は改善した方がいいと感じました。

こういうことも、ちょっと調べればわかることなので、毎日新聞の記事の中で具体的に書いてもらえたらよかったのですけどね。

まとめ:マスメディアがデマの発生に加担してどうするの

言いたいことはこれに尽きます。

SNSを中心に拡散するデマに対抗できるのは、マスメディアの圧倒的な取材力を活かした、事実に立脚した報道しかないと思います。そのために膨大な数の記者を抱え、優越的に取材できる権限を持っているはずなのです。

この記事であれば、

  1. 万博会場全体のバリアフリーの対応状況や、大屋根リングの上の点字ブロックの状況、枝分かれするスロープの構造など全体を俯瞰できる情報をまず提示する
  2. スロープが視覚障害者の移動上必須ではないこと、でも20mの高さまで行けることは視覚障害者にとっても意味があることを説明する
  3. なぜスロープに誘導ブロックがないのか、リング上の点字ブロックQRコードがないのかを万博協会側の見解を取材して掲載する
  4. できれば中立的な配慮ができる専門家の見解を載せる(都合のいい発言を引き出すための専門家ではなく)

これぐらいやっていたら、あらぬ誤解を招く恐れもなく、バリアフリーというのはどこまで対応すべきなのかという具体的な問題提起にもなったはずです。

別に「マスゴミ」とか呼びたいわけではないのです。デマが横行する世の中を正すために、マスメディアの仕事をきちんとしてほしい。それだけを願っています。