病気や災害、自殺で親を亡くした子ども、障害などで親が働けない子どもたちを支援する「あしなが育英会」が資金不足に陥っている。月3万円を給付する高校奨学金には2024年度、過去最多の3487人から申し込みがあったが、給付できたのは1538人にとどまった。
支給を受ける高校生も、家庭状況は厳しい。育英会の調査では、税金などを引いた後の可処分所得は全世帯平均の半分にも満たないという。
高校授業料の無償化が進んでも、それ以外に教科書代や交通費、部活動と出費はかさむ。育英会は「一人でも多くの子どもに奨学金を届けたい」と4月19、20、26、27日に各地で街頭募金を行う。奨学生で大学3年生の金井優佳(かない・ゆうか)さん(20)は街頭に立つ覚悟を語る。「私と同じように親を亡くした子どもたち、親に障害がある家庭の子どもたちに進学を諦めてほしくない」(共同通信=松本智恵)
▽苦しい生活
遺児家庭や親が障害者の家庭の生活実態を把握しようと、あしなが育英会は2024年10月、高校奨学生の保護者にオンラインと郵送で調査を行った。
対象者3536人のうち、回答を寄せたのは2334人。内訳は母親82・0%、父親10・7%、祖父母5・3%などで、シングルマザーが多いことがうかがわれる。年齢は40~50代が8割を超えた一方、70代も4・1%いた。
就業状況を見ると、働いているのは71・3%。働いている人のうち、正規雇用は25・8%にとどまり、契約社員や派遣社員、パートやアルバイトといった非正規雇用が61・3%を占めた。
年収から社会保険料や税金を差し引いた可処分所得は低く、高校奨学生世帯の平均は187万8千円しかない。
国の調査では、2022年の可処分所得の全世帯平均は405万8千円となっており、比較すると4割ほど。全母子世帯平均と比較しても低いとの結果だった。
そうしたことを反映して、アンケートの自由記述には保護者の悲痛な声があふれた。
「病気で働きたくても働けなく、貯金もなく、毎月300円しか残らない生活をしています。男の子4人、女の子1人、祖母を養っていて、何一つ旅行も連れて行ってあげることができないです。誰にも助けてもらえず、必死に毎日、子どもがいるから生きています」(岐阜県・40代の母親)
「昇給と物価上昇が比例していない。どんどん苦しくなっているのに将来の不安要素は増す一方です。食費も減らしたいが、食べ盛りの子どもはいるし、親も健康でいるためにはしっかり食べておかないといけないし。工夫しても物価上昇には勝てません」(東京都・50代の父親)
▽風呂に入る気力も…
今回の調査では、経済面だけでなく、時間的余裕や相談相手の有無といったことも尋ねた。そこで浮かび上がったのは、経済的貧困にとどまらない状況だ。
高校奨学生の40~50代の母親を、一般の40~50代の母親と比較すると、睡眠や食事といった生活に必須の時間が十分に取れておらず、仕事や通勤、家事に拘束される時間は長かった。悩みを相談する相手がいないと回答した人も20・5%に上った。
自由記述にはこんな声がある。
「パートなのに家のことが終わったら22時。朝も6時に起きているのにバタバタ。仕事に行っても休み時間に子どもの金銭管理や行政に相談、病院の予約、子どもとの連絡。帰ってからも書類が山積みで、風呂に入る気力もなくなったり、洗い物そのままで寝たり」(宮崎県・40代の母親)
「夫がいないことは精神的に不安定になる。子育ての不安などを相談したり、会話する相手がいないことが寂しい。子どもには自分しかいないのだと考えると責任の重さを感じる」(福島県・50代の母親)
「(相談を)できる人はいないというより、相談する時間をゆっくり取れないです。だからといって時間があれば心を開いて相談できる場所があるかといえば、ないです」(京都府・40代の母親)
あしなが育英会の村田治(むらた・おさむ)会長代行は「経済的な貧困が時間的な貧困、さらには社会的な孤立にもつながっている」と指摘する。今後は、保護者同士がつながることができる交流会の開催といった支援策を考えていきたいとしている。
▽進学を諦めてほしくないから
こうした状況にあっても、奨学金をもらえた世帯は、経済的にも精神面でも少しは負担が軽減されているだろう。より深刻なのは、同様の状況にありながら、奨学金をもらえない高校生が大勢いることだ。
近年の物価高を反映してか、奨学金の希望者は年々増え、2024年度は過去最多の3487人が申請した。しかし、給付できたのは1538人。採用率は過去最低の44・1%になってしまった。
物価上昇が経済的に苦しい家庭に追い打ちをかけている現状で、そうした家庭の高校生をなんとか救いたいと、あしなが育英会は2025年度の高校奨学金の枠を500人ほど増やすことにしている。
ただ、それには今まで以上に大勢の人の善意が必要だ。
あしなが育英会は、毎月一定額を3年間寄付してくれる人を募集する「高校生応援あしながさん募集キャンペーン」を4月から始めた。
そして、4月19日(土)、20日(日)、26日(土)、27日(日)の4日間、47都道府県の約120カ所で奨学生らが街頭募金を行う。
4月に大学3年生になった金井優佳さんは、街頭に立つ奨学生の一人。父親が難病となりフルタイムで働くことが難しかったため、高校生の時からあしなが育英会の奨学金を利用している。
高校奨学金は所属した剣道部の道具や教材の購入などに当てた。教員を目指して大学に進学した金井さんは「毎月の奨学金がなければ、友人と部活動に打ち込むことも、大学に通い将来の夢に向かって頑張ることもできなかったと思います」と振り返る。
だからこそ、記者会見でこう訴えた。
「申請しても支援を受けられずに取り残されてしまう状況があります。私たちはそうした後輩たちや保護者の方々を見捨てたくはありません」
「私と同じように親を亡くした子どもたち、親に障害がある家庭の子どもたちに進学を諦めてほしくない。この活動に、私は大学生活の全てをささげる覚悟で取り組んでいます」
そしてまっすぐな瞳で呼びかけた。「声を上げることすらできない子どもたちの代弁者として、私は街頭に立ち続けます。もしお見かけの際には、ぜひ私たちの活動にご理解とご協力をいただければ幸いです」
街頭募金の実施場所は「あしなが学生募金」のウェブサイトで確認できる。