「はいどうぞ!こちら六名分となってます!」
セリカが顔を赤らめながら皿を一人一人に手渡してくる
彼はそれを受け取ると、まず机に置き観察を始める
湯皿の中には黄色の糸のような物が大量に詰まっており、浸かるくらいまで濁った色の液体が入っている
そこから上がる湯気と共に美味しそうな匂いが彼の鼻に入り込んでくる
思わず彼はゴクリと喉を鳴らす
美味しそうな匂い、見た目、…男は早く食べようとお椀を掴む
…が、食べ方がよく分からない
このままお椀に口を付けて飲むように食べては黄色の糸が食べれない
困ってしまい、ふと周りを見てみる
「ふーっ、ふー…」
「はむはむ、ずるずる…」
見てみれば、彼女達は2本の棒を巧みに使いこの食べ物を食べているではないか
掴んだり、寄せたりと職人芸のように扱っている
もしかしなくても彼女達は精鋭か…?
「旅人さん?食べないの?麺が伸びるよー」
…はっ
ホシノの声に引き戻しされた私は、彼女から一本の棒を受け取る
触った感触はどうも木製らしい、見た目は割れ目が真ん中にある感じだ
…これは、割って2本にするという感じか?
彼はそう思い両手で端と端を掴みあげ……
バキッ
「えっ」
そのまま、粉砕した
…間違えた、つい武器を持つ感覚で握ってしまった
パラパラとテーブルに元々1本の棒だった物が落ちていく
呆然としている彼に「仕方ないなぁー」とまた一本の棒を渡してくるホシノ
「…その、一回優しくやってみて?」
優しく、優しくか…
彼はその言葉を脳裏に反響させながら実行に映る
一挙一動を全て慎重にこなし、優しげに一本の棒を裂けようとさせる
今度は、上手くいった…片側に上の部分が寄ってしまったけれども
「ま、まぁまぁ!旅人にしてはよく出来てるよ!!!
ㅤ箸は外国人には使いずらいみたいだからね、あはは…」
ホシノからの慰めを受けながら彼は"箸"を持ち直した
綺麗に割れなかった部分が邪魔だが、また粉砕するのも良くない
それくらいだったらこのまま食べるのがいいだろう
私はそう思い慣れない得物を使いながら麺をすする
…美味しい
彼は一口食べた瞬間に思った
久しぶり…いや、初めてこんなに美味しいものを食べたかもしれない
今まで、特にロードランにこのような温かみのある食べ物は無かった…
彼はその1口に感動し、また一口、また一口と食べ進んでいく
「…目が輝いてる」
「あんな旅人さん、初めて見るかもです♪」
「初めて銃を見た時と似てますね…」
気づけば彼の手元の皿には麺が一つも存在していなかった
しかし彼はそんなことはどうでもいいと思い、今度は汁を啜る
…美味い
こってりとした美味しさ、あとから来る美味しさ…
何と美味しい食べ物であろうか、ロードランがまだあれば持って帰っていたところである
ともあれ持って帰って再現出来る人物が居るかと聞かれれば居ないのだが…
ともあれ、ここには数回通おう、美味い、もうそれだけで最高だ
「どう?美味しかった?」
とても、満足の出来る美味しさだった
また今度…いや明日にでも来ようと思う
「大将良かったね、とても美味しかったってさ!」
「おう!こりゃお客さんが増えたようだな!
ㅤまた来てくれよ!旅人さんよ!」
勿論だ
彼はそう言うとふらりと立ち上がる
それを見てホシノが声をかける
「あ、旅人さーん何処に行くのさ?」
ちょっとした散歩だ、心配はかけないしスグ帰る
「分かったよー、早くね」
あぁ
そんな会話をして彼は外に出ようとする
そこに大将が声をかける
「お客さん!代金はあちらの方と一緒かい?」
…うーむ、どうしよう
彼女達の話を聞く限り、懐事情が良くないらしいのだ
ほぼ部外者である彼の分を払わせるのも宜しくないことだろう
彼はそう思い、懐から1つの硬貨を取り出した
それを見て大将ほ思わず声を荒らげる
「そ、そりゃ金貨かぁ!?」
「金貨ァ!?」
大将の声…というより金貨というワードに反応してセリカが走ってくる
私の手にある金貨を奪うように取り上げ、眺める
「…ほ、本当に金貨だ…?」
幻を見るかのような目で金貨を見て、撫でたりつついたりしている
どうしてそこまでするのだろうか?こんなのなんの役にもたたないのに
「な、なんの役にも立たないィ!?」
「…旅人さん、アンタどこから来たんだ…?」
「今度聞く必要がありそうだねぇ、ノノミちゃん」
「そう、ですね…」
因みに、彼にとって金貨がゴミクズと同じくらいの価値なのはほぼ使い道が無いからである
なぜかと言えばロードランでは基本的にソウルが貨幣であるからである
ほぼ無限に貯めれる上に取り出しも楽、そして落としもしない
だからこそ金の硬貨なんぞなんの役にも立たないのである
それでもなお捨てられないのは人の世に帰りたいが為だろうか
なんとも馬鹿らしい話である
「…悪いが受け取れねぇよ、大層すぎて受け取れねぇ」
セリカから金貨を受け取った大将はそう言って彼に返してきた
彼にとっても絶対に要るものでは無いのでどうでも良いのだが…
まぁ、恐らくこことロードランじゃ価値もまた違うのだろう
ならば、こうはどうだろうか?
全員分をこの金貨で払うことにしよう
「…まぁ、それならいいぜ、先生も生活が苦しそうだしな」
「"いや、なんのことだか…"」
「俺には分かるぜ、アンタ生徒の為に大人のカード使おうとしたろ」
彼から金貨を受け取りながら先生と会話する大将
ふむ、人同士が会話している所など久しぶりに見たものだ
話を別の人に移されることはあってもこうした対話は見たことがない
やはりこのキヴォトスという場所は私の常識とは異なる場所のようである
彼は、そう思いながら柴関ラーメンの暖簾を潜り店の外に出たのだった
〇
その日、夜
彼は日が水平線に沈んでもアビドスの外を歩いていた
何せ太陽が沈み夜という現象になることさえ彼にとって新鮮な事であるのだ
ロードランに夜は無い、アノール・ロンドには偽りの空があった
だからこそ、彼にとって巡るましく表情を変える太陽と月は新鮮に見えたのである
そう思っていると、何かが震える感覚がした
なんだろうと思って懐からソウルを具現化する
手に現れるは、伝説のドラゴンウェポンの1つ
「月光の大剣」
ドラゴンの裏切り者、白竜シースの尻尾から生まれた武器
魔術の祖たるシースの魔力の結晶であり、彼が獲得するのに1番苦労した武器であろう
誰が言ったか、ハゲは後ろから攻められることに強いだったか
…ともかく、彼はその刃を天に掲げる
すると、美しい緑色の光が辺りに満ち溢れる
どうやらこの世界の月光に触れたことによりその力が溢れたようである
何事かと思ったがそこまで心配することでもなかったな
彼はそう笑い──────────
月光の力を、波として解放する
その三日月形の月光の波は、比較的近くにあった電柱にぶち当たり電柱がへし折れる
彼はまだやり切れていないと確信し装備を一新する
と言っても月光剣を黄金の残光に持ち替えるだけだが
「…いつから気づいていた?」
彼が草紋の盾を構えていると、声と共に女が現れた
口をマスクのようなもので覆い腹をさらけ出している女である
やけに軽装だ、あの服装とあの目…彼女は修羅場を潜っている
「まぁ、そんなことはどうでもいい
ㅤ抵抗するなよ、連れていくのが面倒になる」
彼女は鋭い目付きをしながら銃口を向けてきた
あの銃の形はシロコと同じような形をしている
恐らく連続的に鉛玉が飛んでくるタイプのものだろう
…ならば、ダッシュで近づくことは無理だ
で、あればどうするというのだ?
彼は、指輪を全て付け替える
「…!?消えた…!?」
その瞬間、彼の姿が掻き消える
まるでそこに居なかったかのように彼の姿は無くなっていた
突然の出来事に彼女は目を見開き銃口を辺りに向ける
「クソ、マダムから聞いていたが…
ㅤヒヨリ?奴の姿は見えるか?」
『わ、分かりません…!突然消えました…!』
『こっちもだよ、一体なんなんだアイツ…?』
辺りを警戒する
無線から仲間に聞いて返ってくるのは捕獲対象が消えたことのみ
一体どう言う事だろうか?
そう、彼女が思っていた時である
「……!!!上か…!?」
空より、一つの影が飛び降りてくる
その気配を感じ取り彼女は即座にそちらを見る
そこには鈍く光る刃が一つある
「クソ…!」
即座に回避、彼女のいたところをグシャンと大きな音が響く
体制を立て直し銃口を向ける
そして、彼女…錠前サオリはその姿を見る
「お、お前は誰だ…!?」
そこには、青いスカーフを身につけた騎士が居た
しかしそれは騎士というには余りにもおぞましい姿である
何故ならばヘドロのような黒い汚れが至る所に付着している
その上鎧はよく見ればボロボロであり、まるで悪魔が鎧に憑依したかのようである
元は誇りの象徴であったであろうスカーフや兜の房もヘドロのような物に汚れている
ソレは、ゆっくりと顔を彼女に向ける
低い唸り声を上げながらこれまたヘドロに汚れた大剣を構える
「ええい…邪魔をさせて溜まるか…!」
彼女の銃口が火を吹いた
〇
変装は成功である
体に打ち付けられる銃弾を感じながら彼はゆっくりと進んでいく
先程、付け替えた指輪は「霧の指輪」と「静かに眠る竜印の指輪」である
「霧の指輪」は装着者の存在感を薄れさせ敵に見つかりにくくなる効果がある
存在感、というより装着者そのものが半透明になるのである
これで単純に見つかりずらくなる、ロードランでも割と使った、特にニトに
そして「静かに眠る竜印の指輪」である
ヴァンハイムの竜の学院に密かに存在する裏の魔術師達が付ける指輪
その指輪を装備すると装備者の出す音を全て消し去るのである
効果を見てわかるだろうが、この2つの相性は最高である
故に暗殺者達が好む指輪なのである…まぁ、あんま見たこと無いが
そして、装備したのは「アルトリウスの鎧」と「深淵の大剣」である
どちらも深淵に濡れ、汚れている
大剣は彼のソウルから錬成した物だ
この剣は最後まで主と共にあり、故に深淵に飲まれた
使用者の人間性によってその威力を増す深淵の武器と成り果てている
彼は先程一時撤退した時、30個程の人間性を取り込んだ
軽く振ってもキヴォトスの人間は死にそうだが、どう見ても彼女達は彼を殺す気である(主観)
こちらもまだ死ぬ気は無い
大剣を低く構え、前転。
そのまま体重を思い切り大剣の先に乗せて叩き付ける
「ッウ!?」
それを見てサオリは即座に回避する
それをまともに受ければ死ぬ、と理解したからだろう
回避して硬直した直後の彼をサオリは銃撃する
……ヴゥ
「怯まない!?化け物め…!」
そして言い忘れていたが、今装着しているのは「狼の指輪」と「鉄の加護の指輪」である
「狼の指輪」は深淵歩きアルトリウスのもの
かの騎士は強靭な意思により決して怯まず
また、大剣を振るえばまさに無双であったという
「鉄の加護の指輪」は伝説の騎士王、レンドルの指輪である
装着者に鉄の加護を与え物理への防護力を高めてくれる
かの騎士王レンドルの逸話はかなり多いらしく巨大な竜の爪ですら彼を十分に傷付けられなかったそうだ
であるならば鉛玉など傷が付くはずもない
彼はまるで亡者のような呻き声を上げながら大剣を振るう
近くまで接近していた彼女に対して片手で瞬足の回転斬りを見舞う
2回振ったことを一回振ったことだと勘違いする程のスピード
「ぐぅぅぅ!?」
…!
このままなら殺り切れる
彼は思ったがどうやら彼女は殺しに慣れていない
もしかしてキヴォトスの耐久力に慣れすぎて一般人には銃口を突きつけるだけで降伏するとでも?
嘲笑しながら彼が大剣を叩きつけようとした時である
轟音と共に何かが飛んできた
直ぐにローリングし、彼はそれを避ける
地面に当たったそれは轟音を辺りに撒き散らしながら爆発する
「大丈夫?リーダー」
「…」
「すまない、ミサキ、姫」
爆風から顔を上げると、人数が増えていた
どうやら相手は団体のようであった、彼は思わず舌打ちをする
「…彼…彼だよ、アレ」
「…そうだな、ターゲットの声がした」
どうやら、今のでバレたようである
彼はまた舌打ちをして装備を全て元に戻す
リカールの刺剣を逆手に構える
それを見て、サオリは警告する
「抵抗するな、死にたくないならな」
そうか
彼は一言呟くと走り始めた
盾を構えながら走る彼は思った、最初からこうすりゃ良かった
1番手っ取り早く
そう思っている彼は───────頭から脳髄を撒き散らしながらもんどおりうって倒れたのであった