・朝風英二
AtoZ運命のガイアメモリ、ガメラ2レギオン襲来、ベリアル銀河帝国、パシフィック・リム
・星アキラ
スパイダーマン2、ダークナイト、キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー
・堂上竜吾
E.T.、ホーム・アローン、グーニーズ、ジュブナイル
夢を見た。
景さんの夢だ。
仕事を受けた景さんが得意げにふんすーとしていた。
「英二くん、私こういうドラマのオファーが来たの」
ほほう。
大人役と子役のセット系オファーか。
特撮でも通常ドラマでも面白えやつだな。
30代の俳優と10代の俳優、20代の俳優と年齢一桁の子役……そういうのを組み合わせて、時間の経過を見せる手法だ。
大人が回想で学生時代の自分を振り返るシーンとか、特撮主人公が幼い頃の自分を思い出したりすんのに使える。
大人の子供時代を一話だけ出すだけなら、大人俳優と似た子役を探してくる助監督やプロデューサーの手腕が求められる。似てりゃいいだけだからな。
だが、長期に渡って何度も大人役と子役を組み合わせて画を撮るタイプの作品……たとえば烈車戦隊トッキュウジャー*1みてえなタイプの作品とか。
巌爺ちゃん達の舞台演劇における、嵐が丘*2とか。
ああいうのの撮影をする時は、かなり気を付けねえといけねえ。
何故なら、そういうのには大人と子供の役合わせが重要になってくるからだ。
大人は子役に合わせ、子役は大人に合わせる。
相互に動きの癖を打ち合わせておいて、互いに真似をして、子供時代と大人時代で同じ動きをして、繋がりを感じさせねえといけねえわけだな。
息を合わせる。
役と役でなく、人と人として普段から息を合わせなくちゃならん。
子役が前回の撮影でした演技を大人が受け止め、大人の演技を子供が自分の中で噛み砕き、自分の演技に反映していく……その繰り返しになる。
舞台演劇の世界とかで、時々子役が快活で元気な子供時代を演じ、大人が冷静で落ち着きのある大人時代を演じると、"特に理由もなく人格をコロコロ変えてるんじゃない"とか罵られる。
怖え。
いや確かに何の意味もなく子供と大人で性格ガラッと変わったら変だけど!
景さんが成長して芸幅増えて俺も鼻が高いよ……
「どっちの役ですか?」
「大人の人の学生時代を演じる役よ」
「いいですねー」
「私が役を掘り下げたら、大人の方の役の人の掘り下げが足りなくなって……
大人の方の俳優さんが心を病んでしまったわ。
大人役と子供役で並べると、否応なく二人の演技力が比べられてしまうのね」
「あれっ」
「どうしよう。
私の役の解釈と大人役の人の役の解釈が違うって気付いてなかったの。
役を掘り下げれば掘り下げるほど何か違う感じに……
知らなかったんだけど、こういう配役の場合って子供役は大人役より目立っちゃいけないのね」
「当たり前だろ」
おめーそういうところがまだ改善点として残ってるのが問題だって言ってんだよ!
そんな夢を見て、飛び起きた。
事務所のソファーで飛び起きる。
窓の外に朝日が見え、テレビの画面には再生終了したDVDのメニュー画面が表示されていた。
テーブルの上には飲み物、空の食器、お菓子のゴミなどなど。
右を見ると、同じようにソファーで映画を見ながら眠りこけていたアキラ君が、俺の横でくかーっと寝息を立てていた。
「はっ、夢だったか……」
やっぱ景さんのレベルアップは急務だわ。
ゲームで言えばLV1のキャラ、それもダメージ計算時のみLV100分のステータス数字を加算するっていうタイプのLV1だもんな。
『凄い演技をする人にまだ改善点がいくらでも残ってる』って凄えことだと思うわ。
まるで、磨いてない最高級の宝石の原石だ。
巌爺ちゃんに倣って言えば、そいつを指輪にするまでの一工程が俺の仕事になるか。
隣のアキラ君を見る。
まさか、アキラ君が景さんにああいう憧れを持ってたとはな。
少し、話をした。
アキラくんは景さんのスターズオーディションの時に審査側で参加していて、その時に景さんの演技を最初は理解できず、けれど理解したら圧倒されたらしい。
「彼女は本物だ」「僕と違って」
「母さんを思い出す」「憑依型の極致だ」
「朝風君とは前に話に出したっけ? 夜凪景さん」
少しずつ、夜凪景の影響が、この業界に現れてる気がする。
今はまだ小さな波紋だ。
桶の中に放り込まれた小さな石程度の波紋。
だが、この夜凪景っていう石は徐々に大きくなっている。
いずれは大きな波紋となり、桶も何もかも破壊して、海に落ちて何もかも飲み込む大津波になっていくことは間違いねえ。
「……んん」
「おはようございます、アキラさん」
「顔洗ってきまーす……」
「どうぞどうぞ」
俺の事務所で、映画見ながら二人して寝ちまったのか。
まあ俺達どっちも仕事後だったしな。
髪飾り作りながらアキラ君待ってた時間に俺が寝ちまってても何らおかしくなかったか。
あぶねえあぶねえ。
と、インターフォンが鳴った。
「よーっす」
あれま堂上さん。
「おはようございます、堂上さん。今日は何用ですか?」
「いや、映画三昧やってるって聞いてよ。俺も今からオフだったからさ」
遊びに来たのか。
いらっしゃい。
……こういう時俺の事務所がスターズの事務所と近いってのは、俺の家にスターズの同年代が遊びに来やすいって特徴になってて、なんとも言えんな。
「そういや俺なんか仕事の話しようとしてたんだが忘れちまった」
「重要なことですか?」
「いや、そうでもないやつだった気がする。
お前この仕事来ねえ? って誘おうと思ってた」
「俳優に誘われても俺が参加できるわけじゃないですよ?」
「大丈夫だろ。手塚監督だったし」
あー。
それならありそうな気はすんな。手塚さん使う人間にこだわりが極端にねえし。
なんだろうか。また漫画原作ドラマあたりか?
「俺15時くらいには事務所出ますから、それまでにしましょう」
「おう。店員のオススメの映画適当に借りてきたぞ」
どさっ、と堂上さんがDVDをテーブルの上に置く。
これに加えて、百城さんが渡してくれたやつと、俺が事務所に置いてるやつ。
この時間からだと、映画見るのに使える時間は5本分か6本分くらいか。
髪飾りは予想以上に良い出来になった。
これから新作作ってもこれを超える出来にはならんな。
……なんでこんな良い出来になったんだ、と自分でも不思議に思うレベルだ。
後はまったり時間潰してから百城さんの午後仕事に合流して、髪飾りを渡そう。
百城さんが東京に戻って来んのは16時より前だってスターズ事務員が言ってた。
「そういえばお二人は、子供役として大人役と組んで、二つの時代の描写やったことあります?」
「あるな」
「あるよ」
「苦労しましたか?」
「いんや、俺の場合は特にそういうのなかったな。
年上の方の動きの癖をよく見て自分でも真似すりゃよかったし。
あと、基本いい歳の役やれるくらいの年齢まで芸能界にいる人は経験豊富な印象あるわ。
つまり俺より基本演技が上手い。
だからか『上手くやらないと』って年下側の俺が気張らなくていいというか」
「そうだね。
僕らが子供役をやる時、僕らの方の演技が格下なのが問題にならなくなる。
普段は『隣の俳優と比較して下手』は致命的だけど……
大人役と比較して使われる時だけは、それが未熟・年下・子供感の強調になるんだ」
うーむ。
やっぱスターズは強いな。
ちゃんと自分の考えを持って、他役者の演技や呼吸に合わせて、理詰めでちゃんと演技ってもんを語れてる。
理がねえのに感情の再現力と他者を自分の世界に引き込む吸引力だけでなんとかなる、景さんとは根本が違うな。
理が無いのを弱点と見るか、理が無くとも強いことに驚くべきか。
黒さんがどう育てるかで最終完成形はずいぶん変わりそうだ。
……いや、それは俺も同じかもな。
黒さんは俺を基本放置だが、時たま俺の能力を確認してる。
景さんの仕事に合わせてたら、俺もいつかは黒さんに率いられる一人になるのかもしれん。
それはそれで悪くなさそうだが、今のところその気はねえ。
「で、何見る?」
堂上さんがスルメをかじりながらソファーに腰掛ける。
とりあえず紅茶を入れてやって、と。
「順番的には次は『ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国』*3ですね」
「はっ、なんだウルトラマンかよ。
そんなガキっぽいのとっくに卒業してるっての。
まあお前らに合わせて見てやるけど……
俺を面白いと思わせられるなら、鼻から紅茶飲んでやるよ。ありえねえけどな」
視聴開始。
視聴完了。
「うわぁ……なんだこれ……めっちゃ良かった……」
おい鼻から紅茶飲めよ。
「舐めてたわ、ウルトラマンだって舐めてたわ……いい作品じゃん英二」
「鼻から紅茶の件は免除して差し上げますね」
「お、おう」
しょーがねーなー。そんなに絶賛されちゃあな。
「というか日本だとこういうのあんま撮らねえよな。なんでだろ」
「日本は昔スター・ウォーズの後追いでSF映画ブームが来ましたが、製作では失敗が続きました」
「ああ。それで及び腰になったのか」
「単純にそれだけって話でもないですけどね」
ベリアル銀河帝国のあらすじはこうだ。
突如、ウルトラの星を襲う主人公・ウルトラマンゼロを模した激強ロボ・ダークロプスの軍隊。
ウルトラマンゼロは光の国の全エネルギーを受け取り、移動に使用し、このロボを送り込んできた遠い宇宙へと並行宇宙移動を行う。
だがそこは、ウルトラマンがまともに生きることすら困難な、ウルトラマンのエネルギーになる光が存在しない宇宙だった。
蹂躙される宇宙。
侵略するベリアル帝国。
主人公・ゼロが出逢う仲間達。
ゼロに残されたエネルギーは、三分間の変身たった三回分。
宇宙を丸ごと一つ支配し、ウルトラマン達の宇宙にまで侵略を始めた悪のウルトラマン・ベリアルに、ゼロは果たして勝つことができるのか……?
そんな感じ。
王道の話の仕立てに、宇宙を西から東へ旅するSFファンタジー感、変形ロボの仲間、燃える炎の宇宙海賊、鏡の星の二次元人、滅ぼされた国のエメラルドの体の姫、ウルトラマンと一体化した惑星アヌー人……とにかくSF。
大人からすれば痛快娯楽で、幼い子供からすれば子供向けの絵本の宇宙の旅にも見える。
ウルトラマン界の傑作だな。
あと、作品オリジナルの登場キャラが多く、主人公のウルトラマンゼロもシナリオの中心で掘り下げられるのはこれが初めてなんで、ウルトラマンの入門の一つに使いてえところだ。
ジード*4の予習にもいいしな。
「つーかあれ浜田*5くん?」
「浜田くんだと思う。僕の目にもそう見える」
「ウルトラマンやったとか聞いたが、ウルトラマンやってたのは昔からだったか……」
「浜田さんは今でもウルトラマン好きですよ」
浜田さんは今だとインタビューとかイベントで『ウルトラマンジャスティス*6が好きなんですよ!』とかうるせえくらい言ってるが、いつああなったんだろう。
あの人ベリアル銀河帝国の時のインタビューでちょこっと言ってたけど、10歳の頃は確かウルトラマンノアが好きだったはずなんだが。
だから岡田聖*7さんが当時ラメ入りのウルトラマンノアのソフビ人形を浜田さんに贈ってたんだもんな。
まあ浜田さんはウルトラマンコスモス*8を子供の頃に繰り返し見てたって話だから、思い出のウルトラマンだってことでいいだろう。
「英二、アキラ、あのエメラルドの体を秘めたエメラナ姫ってヒロインだけどさ……」
「王屋*9さんですね」
「王屋さんじゃないかな」
「うわあ、マジか。俺ちょっとビビってるぞ」
「大概売れてますからね。
去年の映画主演四本、ドラマの主演二本、アニメの主演一本ですし。
ロッテやコカ・コーラのCMとかCMの仕事もガンガンやってましたよ」
「そりゃベリアルも倒せるわ」
なんてこと言うんだ堂上。
「つか……あのベリアルの声……」
「そうだよ! 何やってんだあの人!?」
なにやってんだろうね。
「つかいい演技してるな……
"悪い台詞言ってなくても声だけで悪役に聞こえる"って才能だろ。
声質だけで『悪』を表現してんだから。俺こんなの知らなかったぞ……」
「堂上さん真似してみます?」
「いや駄目だな。
声での表現に特化した声優に並んでる宮白さんがおかしいだけだ。
俺じゃあどうしても身体表現の演技も混じえねえと……
ってか、ウルトラマンやってる奴はどうなってんだこれ?
ウルトラマンゼロもウルトラマンベリアルも表情動かねえよな。
なのにスーツの中の人の演技と、声優の演技だけで表情豊かに見えるぞ……」
「ベリアルに関しては口元の造型もありますね。
ほら、口元が少し笑ってるように見えるでしょう?」
「ん? ……確かに」
「だから、悪役笑いに映える。
ベリアルが笑う演技で首を後ろに傾けると、口周りがよく見える。
ねめつけるように首を動かすと、口周りが見えなくなって怒りの表情にも見える。
ポーズで一瞬口元を隠したりすると真面目な表情に見える。良いスーツ造型ですよ」
「なるほどな」
「こういうの作るのが俺の仕事なんですよね」
「なんか満足しちまったなー。英二の好きな特撮バリバリ系は今日はもういいや」
桃野さんみたいな可愛さだけを武器に戦える人も、お笑い芸人みたいに喋りの表現を武器に戦える人も、時々特撮の世界で凄まじく活躍することがある。
これが面白えんだ。
「次何見ましょうか。お二人は何が見たいですか?」
「堂上君、最近和歌月っていう新人と仲が良いんだって?」
「そうでもねーよ、人並みだ人並み。共通の知り合いがいて話すきっかけになっただけだ」
「アキラさーん、堂上さーん?」
「でも堂上君、彼女が欲しいってあれだけ……」
「ばっかお前! 誰でも良いってわけじゃねえんだよ! 誰でも食えるお前と一緒にすんな!」
「なっ……! そういうことはしていない! 不潔だぞ堂上君!」
「うるせー!」
「お二人ともー!」
「じゃあなんだ、その和歌月さんに不満でも?」
「いや、俺はそういうわけじゃ……ってかそういう話じゃねえっての」
「……」
俺は黙って、DVDをデッキに入れた。
「お、なんだなんだ?」
「朝風君、何を入れたんだい?」
「『グリーン・インフェルノ』です」
視聴開始。
視聴中断。
堂上さんがリモコン操作しやがった。何してくれてんの堂上?
「お……お前ェー!!」
「なんですか?」
「なんですか? じゃねーよ! 蛮族の人肉食映画とか……お前!」
「これは辺境の食人族の文化を、人肉食に偏見持つ都会人が差別することこそが蛮行。
蛮族は悪意があって人を殺してるわけではないのに、どちらが蛮族なのかという深い……」
「作品テーマはどうでもいいんだよ!」
「いやあ気持ち悪いですよね。
俺実は血液連想すると気持ち悪くなるトラウマあるんですよ。
赤い塗料とかはもう慣れたんですけどね。
だからこの作品見てる時も気持ち悪くて気持ち悪くて……」
「自爆か! 特攻か! 神風特攻隊か!」
「堂上君、ふと思ったんだが、これはもしかして朝風特攻隊っていう遠回しなギャグじゃ……」
「黙ってろ星アキラ!」
そうだぞ、アキラ君の理解が正しいぞ。
「なんか、なんかないか、他の」
「『The Wave』なんてどうでしょうか。
2008年のドイツの映画です。
ナチスドイツが何故人間を支配できたか、を分かりやすく物語に仕立てた話ですね。
ドイツみたいにバカなことになるわけねえだろ、と思ってる教師や生徒達。
彼らがナチスなどのやり方を学んでいきます。
一体感や讃えられる充足感、同調圧力に世間への不満、肯定の渇望……
そういうものが丁寧に描写され、次第にナチスのように暴走していく話です」
「僕は少し興味持つな」
「俺は全然」
「じゃあ別のにしようか、朝風君」
アキラ君本当に地味なところにいいヤツ感にじみ出るよな。
「『CUBE』*12とかどうでしょうか。
罠が仕掛けられた正六面体の部屋を数万を組み合わせたダンジョン。
この中に放り込まれた七人の人間の物語です。
各人間の能力や性格が緻密に計算され、最後の結末に向かう綺麗な物語ですね」
「えー、あれグロじゃね? グロだけが売りのやつ俺好きじゃねえぞ」
「どうでしょう。
確かにグロもやりますけど、CUBEシリーズは『数学的な傑作』なんですよね。
初代は壁に書かれた素数などを計算すれば助かる、という論理の話。
2作目になると数学的幾何学図形の処刑システムが人を殺す、って話ですし。
あ、もしかして堂上さん、SAW*13のシリーズもただグロだけが売りだと思ってませんか?」
「ああいうグロ系がテレビの子供が起きてるような時間にCM出してたの変だと思うわ」
「あれもグロ系のイメージ持たれてますけど、ちゃんとやってた初代とかは違いますよ。
あれはグロより論理の映画です。
数学的論理ではなく、観客の思考を製作者が読み切った、思考トリック論理の映画ですね」
「そうなのか?」
「あー、朝風君。痛い系ちょっと避けてほしい。もうちょっと間を空けたい」
悪いなアキラ君。今夜グリーンインフェルノとか夢に見たら許してくれ。
蟻に喰われてる人間の苦通シーン見る前に映画止めといて良かったね。
「『ハングマン』*14とかどうでしょうか。
現実的なストーカーの手口を参考にしたって話も聞く映画ですね。
ストーカーが自分達の家の天井裏とかにこっそり住んでたら、って話です。
家族が寝静まった後に家の中を徘徊するストーカー。
天井裏から何が楽しいのか一家の毎日をじっと見続けるストーカー。
寝てる家の主達の体の匂いを嗅ぎ始めるストーカー。
睡眠薬を飲み物に混ぜたりして家族の行動をコントロールするストーカー。
家族の冷蔵庫の飲み物にストーカーがこっそり唾混ぜるシーンとか凄いですよ。
もしストーカーが家に居たら、っていう恐怖を書ききる監督の鬼才が感じられて……」
「「 気持ち悪いのはちょっと 」」
ですよねー。
俺も気持ち悪いと思う。
ただ造型屋は『人がかっこいいと思うもの』『人が綺麗だと思うもの』『人が気持ち悪いと思うもの』とかを意識的に作り分けていかねえといかんのよな。
こういうの、実は少しばかり参考になる。
「つーかなんだ!
俺への嫌がらせか!?
なんかふっつーのでいいだろふっつーので!」
「昨日俺とアキラ君で粗方見ちゃったんですよねそういうの。
それに皆さんスターズで日本の名作は粗方見てるでしょうし。
そこから堂上さんが先程満足してしまった特撮系を除外すると、ちょっと」
と、いうか。
百城さんのチョイスに『人間の心を良くも悪くも大きく揺さぶる名作or奇作』が意外と多い……人の心に残らない名作に、一生残る変化球作品が混ざってる。
ああ、"感想聞かせてね"って言ってる百城さんの笑顔が見える。
重症だな俺。
「『イット・フォローズ』*15。
こいつは怖いですよ。
空気が良いんです空気が。怖気持ち悪い的な。
すっげー怖いオバケがいます。
こいつはセックスすると、性交した相手に移ります。
オバケはゆっくりと、常に追いかけてきます。
ゆっくりなので車で逃げれば逃げ切れます。
でも、もし寝てる時に来たら、
「うーん……僕はちょっと……そういう性病を思わせる系の下ネタタイプが苦手で……」
「というか怖いって分かってんなら俺達に勧めんのやめろや」
ん?
「じゃあこれはどうでしょうか。
『パラドクス』*16。
幽霊は出ませんが途中からかなり怖いですよ。
動画サイトの宣伝映像見るだけでも怖いって言ってる人いるくらいですね」
「へぇ」
「幽霊も出ないのに怖い?
そりゃあれだろ、暴力が怖いとか。そんなのでビビったら鼻からチョコ食ってやるよ」
視聴開始。
視聴終了。
「こっわ……」
おい鼻からチョコ食えよ。
「「 ……面白かったけど 」」
歯切れの悪い感想。
まあ分かる
「上に行っても下に繋がる無限構造の階段。
どっちに進んでも元の場所に戻って来る無限構造の道。
どこにでもあるような道や階段が、一瞬でループの地獄に変わる……
なんというか、僕は『もしこうなったら』と想像してぞわっと怖くなる映画だと感じた」
「それで合ってると思いますよ」
「この時間設定が怖いよな。
俺も最初はまさか、閉じ込められたまま35年経過とかまでやるとは思わなかった」
そうそう、それそれ。
一般人がある日突然、日常の中で道や階段の無限ループに閉じ込められる。
娯楽もない、食べ物や飲み物はある、発狂しそうな閉鎖ループの中で35年……これがとんでもなく怖い。
35年間閉じ込められた人間のどっか壊れてる感が絶妙に出てる。
「つーかオチが……」
「あれはね……」
「ホラー系でよくあるやつですね。
『解決すると思ってたら最後の最後で何も解決してないことが示唆される』というの」
俺さあ。
ああいう最後に何も解決してないって示されんのさあ。
作品自体が大好きでも、好きじゃねえんだよな……すっきりしねえ……いや作品自体の出来がいいならその作品は好きなんだけどさ。
逆にそういうのを始めとした『映画のお約束』を纏めたパロディの究極致の『キャビン』*17とかは凄え面白いよな。
キャビンは予告だけでもめっちゃ面白いし気になる。
100人に予告を見せたら90人くらいは見たいと思うはずだ。
問題なのは本編の面白さの八割くらい予告に詰まってて、予告以外の面白要素はクライマックスに詰まってるってことかね……ちょっと困る。
あとアレだ。
理不尽とグロあるから今はオススメできん。
「なんか明るいの見ようぜ明るいの」
「ディズニーでも見ます?」
「いいよあんなガキっぽいやつ。俺がこの歳で見ると思うか」
えー。
「朝風君。僕も回復したから、グリーンインフェルノみたいなのでなければ大丈夫」
「じゃあ『ミスト』*18見ましょう。
最近の若い層には見てない方も多いですが、間違いなく名作ですよ。見たら一生忘れません」
「おいおい、そんな前振りしたら俺達身構えるだろ。
身構えた奴を感動させるのは難しい。
こんな状態の俺の記憶に一生残る映画なんてありえねえ。
もしありえるとしたら、俺は鼻からフルーチェでも食ってやるよ」
お前は早く鼻からチョコ食えや。
視聴開始。
視聴終了。
「……」
「……」
良い沈黙をありがとう。そうなるよな。
「いや、その……僕は……」
「なんだこの……なんだ……俺は……」
「俺これ大好きで大嫌いなんですよね」
「「 …… 」」
映画の出来で見れば最高レベルだよな?
ある日、町に
そして霧の中を怪物が動き回り始める。
霧がない場所に怪物は入ってこない。
よってスーパーの中の主人公達はそこで籠城を強いられる。
話の概要だけ見れば、ありきたりなモンスターものだが、『主人公を含めたほぼ全員に主人公補正がない』ってのがあまりにも恐ろしい。
頑張ったら上手く行くわけじゃない。
助けよう、と言うより見捨てよう、って言った方が良かった状況も多い。
やる気を出した奴は一部が上手く行って一部が仲間の足を引っ張る。
現実に立ち向かうより現実から逃げるのにパワーを使う奴が増える。
「誰かのせい」にする一般人が増える。
スズメバチを大きくしたような怪物は人間が殴れば死ぬが、大きくなったスズメバチが怖くないわけないじゃん! なパワーバランス。
何よりオチだな。
オチが苦しい。
映画史上最悪のラスト15分とか、映画史上最高のラスト15分とか、ラスト15分で鬱にしてくるとか評価が全部違うようで全部同じ。
造形屋の俺としてはこのモンスター造型にこそ注目してる。
グレゴリオ・ニコテロはこの映画の制作にあたり、自分が熟達してる映画史とモンスター史を洗い直し、類似デザインを全部ボツにした。
おかげで、ミストはモンスター映画としてもかなり独自性が高え。
過去にあった様々な事例を見比べ、類似しないことを意識し、自分の仕事に活かす。
俺も見習いてえとこだな。
あの時……巌爺ちゃんの依頼で行った時に描いた空の絵。
あれは本当に、過去の事例と重ならない絵だったから。
「俺が大好きだけど大嫌いな理由、分かってもらえると思います」
「見てよかったけど見るんじゃなかった……」
「結構好きだけどかなり嫌い……」
「やっぱり最後ですよね最後。
こう、感覚的には
『人の心がない人間に映画作らせるとこうなるのか……』
ってなる感じがあるというか、辛さと苦しさが混ざっている感じがあります」
空気が重い。
「この結末は監督のオリジナルだそうですよ。
オリジナルのこの結末に原作者はこう言ったそうです。
『この結末は衝撃だ。恐ろしい。
だがホラー映画を見に行く人々は必ずしもハッピーエンドを望んでいるわけではない』と」
「「 限度があるだろ! 」」
でっすよねー。
「ホラー系はこじらせてるやつが多いのか……」
「堂上さんのその指摘は間違ってもない気がしますが、なんて言うんでしょうね。
ホラーは矛盾があるんですよ。
良いエンディングにするには怪物を倒さないといけない。
でも怪物の恐ろしさを強調するには怪物は無敵じゃないといけない。
なので、怪物の恐ろしさを強調するために、すっきりしないバッドにすると言いますか」
「うるせーな! 貞子*19だろうと伽椰子*20だろうとお前らのウルトラ仮面とやらに倒させろ!」
んなむちゃくちゃな。
俺達はヒーロー番組の人。
悪は倒してスッキリ爽快。
これらは怪物が恐ろしくてなんぼのホラー。
怪物倒すヒーローはいちゃいかんのだぞ。
「朝風君が嫌いなのも分かる。君、最後に頑張った人間が報われる映画が好きだからね」
「ですです」
「僕も朝風君と好きな映画のタイプは同じだから、感想は大まかに同じかな」
「俺が色々映画見てるのは、仕事の参考にするためですからね。
とはいっても、俺は映画より仕事の方が好きですから。
映画にそんな時間は割いてません。
映画を見てる量で言えば、おそらく百城さんのそれには敵わないと思います」
俺を映画好きと言うのは何か違うよな。
「以前に映画の『ライフ』*21一緒に見ましたけど、基礎知識が多い人でした」
「ん?」
「研鑽と研究を苦にしない人なんでしょうね。
あと、子供の頃から映画好きらしくて、女優は多分天職だったんでしょう」
「え? お前ら二人で映画見に行く仲だったのか?」
「いえ、アキラ君と映画見に行った時に偶然会って、三人で見ました」
「ああなんだ偶然か。俺の心臓止まるかと思ったぞ」
幼馴染のアキラ君に会いに来た可能性に気付けよ。
百城さんは忙しい人なんだぞ?
これだから堂上は。
鈍い奴だな。
「そういえば、朝風君あの時何か真面目な顔で話してたね」
「仕事の話ですよ。
百城さんが抱いた違和感を元に、あの映画の翌日にドレスを改善しました。
映画から帰ったらすぐドレス改善に取り組みましたからね。
おかげでより出来のいい、百城さんの美しさを引き立てるドレスが出来たと思います」
「……お前らはさあ……」
なんだ堂上。
「まあいいや。飯だ、飯食おうぜ」
「あ、もうそんな時間でしたか。作ってきますからちょっとお待ちを」
今事務所に食料何置いてたっけ。
「アキラさーん、蕎麦ないんでラーメンでいいですかー?」
「うん、いいよ」
「いや俺にも意見聞けよ」
「肉どのくらい入れますか?」
「限度を知らねえくらいに頼む」
お前が遠慮を知れ。
炒めたキャベツ、卵、ソーセージを日清の塩ラーメンの上にぶちまける。
「ハイ出来ました、三人前ラーメンお待ちです」
「おー来た来た。サンキュ」
「ありがとう。いただきます」
ささっと食い始める。
素早く作れて素早く食えて、それで美味い。
ラーメンは神の食べ物だな。
「そういや無駄にグロ入れる映画とか無駄にキャラ死なせる映画とか、あれなんなんだろうな」
「堂上君」
飯時にあんまりする話でもない話を堂上さんが始めて、アキラ君がたしなめる。
大丈夫大丈夫。
そこまで飯時にする話気にしねえって、俺。
流石に俺がすることはねえけど、俺がされる分にはいい。
「刺激って、強いんですよね。
娯楽……というか、嗜好という分野そのもので強いんだと思います」
「?」
俺のラーメンに塩コショウをかけて見せる。
「例えば、ラーメンに塩味が足りなかったら?
ラーメンに熱さが足りなかったら?
『刺激』が目減りしたラーメンは、美味しくなくなってしまいます」
「ああ」
「逆に熱々のラーメンは、固有の需要があります。
塩コショウがたっぷりのラーメンもですね。
『刺激を増やす』というのは、それだけで他の人間に求められる要素なんです」
「人死にやグロが刺激かー」
「2005年のキングコングとかでは……いえ、食事時にはやめておきましょう*22」
これは色んなことに応用できる概念だよな。
「そういう意味じゃ、千世子は結構特異だよな」
「かもですね」
「あいつは安定した演技、安定した需要への供給、余分な刺激が無いことが売りだろ」
そう言っていいのか分からんが、そこに百城さんの売りの一つがあることは否定しねえよ。
「英二は百城千世子より刺激的だと思った奴に心引かれたりとかしねーの?」
堂上さんの言葉に、何故かアキラ君がピクっと動く。
俺とアキラ君、同時に同じ人間をイメージしたみたいだな。
いや、どうだろ。
アキラ君の方はひょっとして、俺があの人のことをイメージしたと思ったから今動いたのか?
ま、どっちでもいいか。
だよな景さん。
「まあ、百城さんより刺激的で退屈しない人ならいます。でも……」
でも、安心や信頼で言えば、百城さんは俺の知る女優の中で一番です、と言おうとした時。
がたん、と音がする。
そちらの方を向くと、俺が料理の換気用に開けた入口横の低い窓の向こうに、真っ青な顔をした歌音ちゃんが見えた。
その右手には、和風の袋。
おそらくは時代劇撮影のついでに買われたであろう手土産。
その右手には、スマートフォン。
待てどこに何を連絡しようとしてる?
「大変……千世子さんにラインで伝えなきゃ……! スターズの皆に知らせなきゃ……!」
「やめよう!」
怖い! 情報化社会!
舞台演劇は期間を決めてその期間の間、時に連日時に合間を空けて公演します
なので毎日背景が変わる生きた背景を作ったのが、英二くん
今日失敗しても明日にその反省を活かそう、がアキラくん
"役を完全に体現できている"のでアドリブで毎日違う内容の公演ですら出来る、のが原作の今の時間軸のアラヤと夜凪だと思います