明神阿良也。
その演技力、三國無双。
俺が見たところ、現在の総合力で言えば百城さんと景さんを上回る。
あんまり世間で目立ってねえのは、映画→テレビ→インターネットと娯楽情報媒体の主役が移り変わっていく中、舞台演劇がイマイチ中軸になれなかったからだと個人的に思う。
要するにテレビ俳優と比べると、舞台俳優は広範囲の一般人に知られねえのだ。
逆に言やあ、舞台演劇ってカテゴリの中では間違いなく若手最強クラスだ。
例えばプロ野球の若手でアラヤさんクラスの評価がされてる人がいたとしたら、その若手は年俸2億3億とかに相当すんじゃねえかな。
そんなアラヤさんが、俺に電話をかけてきた。
『いい熊ってどんな熊だと思う?』
いい熊と悪い熊って分類をまず知らねえよ!
『できればいい熊を食って役にしたいんだよね』
「ええと、熊を食う、ですか。熊の料理店に行ってみたいとかでしょうか」
『するとしたら俺が店に卸す方がいいかな』
「……?」
『熊ってどのくらいの大きさ? 人食ってそうなのがいいんだけど』
「え、え? ますます分かんなくなってきました……
とりあえず三毛別羆事件*1のクマは身長2.7mで体重340kgでしたけど」
『そのくらいか。ヒグマ探してるんだよね。
役作りで親父を食い殺すくらいのヒグマが欲しい』
「役作りで人を熊に食わせるんですか……?」
『食わせないよ。熊は俺が食うけど』
「……?」
『小さいのだとヒグマはどのくらい?
食いでがあるといいけど、熊は小さくても十分食いでがありそうだよね』
「痩せ型のオスが250kg、痩せ型のメスが100kgくらいでしょうか。
メカキングギドラ*2のスーツが確か200kオーバーなので、これを熊の基準にすれば……」
『朝風はもうちょっと相手に分かるように話した方がいいんじゃない?』
この野郎!
『後さ、別に主目的じゃないんだけど、熊の美味しい食べ方って―――』
それからあれこれと話したが、結局俺はアラヤさんの意図をさっぱり掴めず、アラヤさんに持ってる知識を色々と喋らされた。
なんだったんだ。
「すげえ。訳わかんねえ。結局何言ってるかさっぱりだった」
近い内になんか熊関連の仕事でもすんのかな。
あの人と話してると、毎回不思議に思う。
言語が全く通じてねえのに仕事に致命的な齟齬起こったことはねえんだよな。
あの撮影の時のあの監督の時の方がよっぽど相性悪かった。
会話の相性は悪いんだがそれ込みで見ても相性そんな悪いわけじゃねえ。
不思議なもんだ。
だから、俺も「明神さん」じゃなくて「アラヤさん」なわけで。
相性悪いと言われるとなんか違う気がする。
「……ヒグマのフィギュアか。彫ってみようかな。
俺の芸風はまだ増やす余地があるはずだ……いくぜ」
結構大きな時間的余裕ができたんで、手慰みに修練でも始めよう。
熊。
クマか。
クマのモチーフのヒーローは結構作られてるが、代表的なもんはねえ。
俺個人が傑作だと思うものはあるが、バッタとかカブトムシみたいな印象的で代表的なもんはあんまねえもんだ。
クマのメインフィールドは子供向け、女性向けだと思う。
かわいいクマのぬいぐるみに、かわいいクマの小物。
これ何十年くらいずっと売れ筋商品のままなんだ?
クマのぬいぐるみほどのヒット玩具って人類史にいくつあるんだ?
そう思うと、造形屋としては尊敬の念しか抱けん。
子供に売れるオモチャの模索は特撮屋の宿命だ。
なんであんな、人間とかですら食っちまうようなクマを、あんな可愛らしい商品にしようと思ったんだマルガレーテ・シュタイフ!*3
そんなことを考えていたら、クマを一匹彫り終わった頃には、クマのぬいぐるみが作りたくなってきた。
「んーいい天気だ」
事務所前に出て、近辺にあったベンチで作る。
良い空だ。
こういう青空の下での物作りは気分が良くなる。
色々縫い方を試しつつ、クマのぬいぐるみを量産してみることにする。
作ってるだけでも楽しいが、作れば作るほど俺の腕が上がってくのも、色々試してる内に新技術を編み出せるのも、こいつを誰かにやって「ありがとう」と言われるのを想像すんのも楽しい。
物作りはいいな。
心と技の両方が磨かれてるような、そんな気がしてくるぜ。
しかしこうして作ってるとクマのぬいぐるみとか、テディベアとかはすげーな。
アレルギーの原因や、経年劣化で有害になりそうな素材が一切使われてねえ。
子供の柔らかくて弱い肌に絶対に悪影響与えないため、表面の毛はふわふわ柔らかい。
柔らかな仕立てが絶妙で、子供の目や粘膜に触れても害がねえ。
子供が壁に投げつけても、細い腕を持って振り回しても、噛み付いても壊れねえ。
柔らかいのに、しかも軽い。だけど風では飛ばねえバランス。
子供がどう扱っても子供が怪我しねえラインを、完璧に見極めてやがる。
いやこれ地味に凄い商品だって。
子供への愛に満ち溢れてるもんよこれ。
ちなみに仮面ライダーウィザードの宝石に見えるマスクは、単純に素材だけ見るとクマのぬいぐるみの毛の主流素材の一つと、同じもので出来てたりする。
これ、俺の周りの人とかに配るとしたらどういうのがいいんだろうな?
ふむ。そう仮定して、少し考えてみるか。
百城さんは私的にも大事に出来て、仕事でもイメージ上昇に使えるやつがいいか。
天使のイメージに合わせたら体色は白。
体毛がやや長めでふわふわした印象を受ける……そうだな、モチーフにたんぽぽの綿毛とかを使ったら面白いかもしれねえ。
景さんなら弟や妹と遊べるのがいいな。
それならあれだ、1m超えの茶色のぬいぐるみとかが良いだろう。
インパクトは十分。デカいってだけで男の子も女の子も大喜び、遊び方は無限大だ。
本当にちっさい子の遊び道具に贈るなら、白よりも濃い茶色がいいんだ。
子供は凄え勢いで汚すし、茶色は汚れが目立たねえから。
例えば湯島さんならどうだ?
見ての通り結構乙女っぽいからなあの人。
男の子っぽいぬいぐるみと女の子っぽいぬいぐるみのセットがいいかな。
タキシード着せた男の子と、リボンとドレスの女の子って感じで。
あ、いや、待て。
よく考えるとぬいぐるみに服着せるって別技術だな……こいつは研鑽しがいがありそうだ。
男ならどうだ。
例えば巌爺ちゃん。
そういやあんま知られてねえけど、還暦とか米寿とかを祝う長寿祝い専用のテディベアとかあるんだよな。
あれ作ってみるとか良いかもしれねえ。
巌爺ちゃんには長生きしてほしいもんだ。
黒さんなら……いや、あれをクマのぬいぐるみで喜ばせるのは不可能じゃねえか。
考えろ、考えろ。あ、そうだ。
事務所の空気を柔らかくするものだって言えば、仕事の依頼も増える可能性が出てくるから、喜んでもらえるかもしれん。
黒さんはともかく、柊さんとかは事務所に可愛いぬいぐるみが増えりゃ喜んで……
あれっ。いつの間にか柊さんに贈るやつになってる。何故だ。
こういう思考実験はいいな。
どういう人にどんな物を贈るのがいいのか、って考察力が高まる気がする。
そういえば、だが。
熊熊言ってたが何するつもりなんだアラヤさん。
話をぼんやり聞いてた分には熊をぶっ殺そうとしてたみたいだがどうなんだ。
「何をやってるんだ、君は」
「あ、アキラさん」
「野外でぬいぐるみ生産工場と化してる人間は初めて見たよ……え、何これ1m超えてない?」
「贈り物だからいくら大きくても良いんですよ」
見ろよ、クマさん帝国だぞ。
途中から楽しくなってきたから合体機能とか付けてたわ。
ぬいぐるみの中に柔軟な芯の『骨』を入れてな、ふわふわの綿を骨の周りにしっかり巻いてからぬいぐるみの中に沢山詰めて、体の末端に端子を付けたって寸法だぜ。
あ、そうだ。
「アキラさん」
「何?」
「クマに勝てますか? ヒーローですよね」
「勝てないよ!?」
まあそりゃそうか。
スタジオ大黒天にぬいぐるみ軍団を贈りに来たら、景さんがいた。
ちょうどいいや、と思ったんで景さんと話をしてみることにする。
「景さん今タレント養成もやってる制作会社所属の女優ですよね。
あとCMの時ので見てたんですけど給与形式じゃなくて仕事して報酬貰ってましたよね。
じゃあ多分給与所得者じゃなくて個人事業主として確定申告すると思います。
スタジオ大黒天と委任契約結んでると思いますが、申告のやり方は大丈夫ですか?」
「こじんじぎょうぬし……?」
あ、駄目だこりゃ。
また今度にしよう、この話。
「まあ大丈夫ですよ、多分。難しい話ですけど柊さんもいますから」
「英二くんは時々黒山さんの扱いが酷いと思う」
妥当だと俺は思いまーす。
「私の分も貰っていいの? ぬいぐるみ」
「三人分作りましたから、三人で遊んでください」
「ありがとう。英二くんには貰いっぱなしだわ」
「そこは……回覧板回してもらってますしね?」
くすっ、と、景さんが笑う。
彼女にとっては自然な笑顔。
俺の目にも自然な笑顔に見える。
だが、それが映画の真似をして顔の表面に貼り付けているのだと分かる人には、結構気持ち悪く見えるかもしれない。
「今、私何か変だった?」
「いえ、綺麗な笑顔ですよ。いい俳優の笑顔です」
景さんが頬を掻いた。
たとえ話をすると、百城さんが素顔の上に作り物の仮面、更にその上に作り物の仮面を重ねるタイプなら、景さんは顔の肉を切り抉ったり盛ったりして顔を変えるタイプだな。
個性的な美しさ、強み、魅力がここにある。
「そういえば、保護者は子供に与える物を選ぶって聞きますね。
教育に良いものとか悪いものとか意識して。そのぬいぐるみ、大丈夫ですか?」
「私はあんまりそういうことを考えないから」
「そうなんですか。子供が余計なことを知って、変な成長をするのって怖くないですか?」
景さんが首を横に振る。
「弟達の人生だから。私は安全を守る保護者で、二人の人生を決める命令者じゃないわ」
……。
いいやつだな、本当に。
親ではないかもしれねえけど、立派な姉だ。
「その、不躾なことを聞くようですが……景さんのご両親は」
「母はもうこの世にはいなくて、父は私達を捨てて出て行ったわ」
「……すみません」
「あら」
「? どうかしましたか?」
「英二くんって、そういう顔もするのね」
どういう顔だよ。
「英二くんは?」
「両親ともに死んでます。
高校行ってどうなるとも思ったので、中学出たらすぐ社会出て食い扶持稼ぎ始めましたね」
「……ごめんなさい」
「あ」
「? 何?」
「景さんってそういう顔もするんですね」
「どういう顔?」
そういう顔だよ。
「人生って色々ありますよね。俺の短い人生でも、色々」
「……そうね。色々だわ」
俺達は、互いのことを教え合ったが、そこから先には踏み込まなかった。
教えたことは信頼の証で、踏み込まないことは思いやり。
俺と彼女の間で、言葉無いままに、そんな感じの意思疎通が交わされた……気が、した。
「そういえば黒さんがいらっしゃいませんね」
「時代劇の方にお仕事取りに行ってるらしいわ」
「時代劇。いいですね。
時代劇出身の特撮俳優も、特撮出身の時代劇もいいものです。
端役であればバイト感覚で募集かけてるところもありますし」
「今度はどんな役かしら……」
「近年の時代劇は割とファジーですからね。
挑戦的で成功したものもあれば、目も当てられない失敗もあります。
特例であれば、馬に乗った将軍とバイクに乗った仮面ライダーが共闘しますしね」
「……なんで?」
なんでだろうな。本当に。
「日曜朝の仮面ライダーならルイが……あ」
「?」
「大変、忘れてた」
「何がですか?」
「明日、私学校だけど、ルイとレイは学校がお休みなの。
柊さんも黒山さんと一緒にお仕事の交渉に行くと言ってたから、どうしよう……」
なんと。
まあ景さん高校生で弟妹が小学生だと休みが合わない時もあるか。
「何回か仕事はただで受けるって言いましたよね。どうぞ、俺に仕事をください」
高校行ってない俺の時間フリーっぷりを頼っていいぞ。
あ、少し悩んでる。
「ありがとう、英二くん」
「お隣さんですから」
高校行きながら女優って大変そうだな。
忙しそうだ。頑張れよ。
翌日。
俺は双子を夜凪お姉さんから預かって、ウルトラ仮面の野外撮影地に仕事に来ていた。
「おー!」
「おー!」
「二人とも、あんまり動き回らないでね。
あと足元に気を付けて。転ばないように……足元見ろって言ったぞ!」
こえー!
よその家の子供預かってるって怖い!
怪我しないか怖い!
爪楊枝に彫刻掘るのとかは俺は気を付けとけば折れねえけど、この子達は勝手に走って足とか折りそうで怖い!
「にーちゃんありがとー! すっげ、ウルトラ仮面だー!」
「どういたしまして。あ、ルイ君、そっちは地面凸凹してるからちょっと」
「美人のおねーちゃんと私達で対応が変わるんだもの、おとこってかってね」
「レイちゃんどこでそんなこと覚え……ああ駄目駄目、そっちバッテリと電気回線あるから」
怖い!
しょうがねえ、他スタッフにも助力を頼もう。
「―――ということで皆さん、すみませんがこの子達を気遣って見守ってくださると嬉しいです」
「ほー」
「了解」
「十五年前の英二思い出すな」
「英二くんすぐに手がかからなくなっちゃったからね」
「なになに? 英二の知り合いの弟達だって?」
「英二の妹達ってどこー?」
「子供来てるんだって?」
「朝風の子供?」
「英二もう子供作ったの?」
「誰? 相手誰? 湯島さん?」
「孫みたいに思ってた英二に子供ができたのか……泣けてくるな」
「僕四歳の時から英二君見守ってきたガチ勢ですよ」
「ガチ勢ってなんだよ」
「英二の息子見れるって聞いて来たんだけどどれ?」
「朝風と百城の熱愛スキャンダルの証拠が見れるとか聞いたんだけど」
「伝言ゲームそろそろ止まってください!」
お前ら撮影に関わるもの以外の能力をどっかに投げ捨てて来たのか!?
「にーちゃん人気だね」
「スタッフの半分くらいは俺より後に業界に入った後輩。
残った半分の中の半分くらいは、俺が生まれるより前から業界にいた先輩だからね」
「へー」
「俺は昔から、家にいる時間より撮影現場にいる時間の方が長かったからね。
撮影現場が俺の家で、撮影の仲間が俺の家族だよ。そういう人もいるんだ」
「ふーん」「ふーん」
ま、感覚的な話だからな。気にしなくていいぞ。
とりあえずこのくらいの年頃の子達の相手なら、一番良いのは大人の女性。
それも子持ちの既婚者だと理想的だ。
なので衣装部女性チーム*4の下に行く。
確か既婚者の女性も何人かいたはずだ。
「俺が忙しい時はお願いします」
「おっけーおっけー」
「任せて!」
「あんたも忙しくても目は離さないようにしときなよ」
よーし。
これで俺が作業に回らねえといけねえ時も、二人を預けられる先が出来た。
子守は無理に自分であれこれやろうとするより、子供持った経験ある大人を頼んのが一番だ。
「ルイ君、レイちゃん、何かしたいことはある?」
「ウルトラ仮面に会いたい!」
「あっち、あっち行きたい」
「あー二人共俺の腕を持って別方向行こうとするのは痛い痛い痛い」
アキラ君を見た弟君がそっちに行こうとする。
綺麗な花の群生地を見つけた妹ちゃんがそっちに行こうとする。
正反対の方向に腕が引っ張られて痛い痛い!
……俺より年下なのに、この動物と人間の中間みたいなちっちゃい子の面倒見続けてきた景さんすげえな!
これ絶対大人の根気と大人の寛容さ必要なやつだぞ!
「その前に二人とも、おやつはどうかな。欲しい?」
「欲しい!」
「欲しい!」
「そっか。それじゃ三人一緒に食べに行こうか?」
「「うん!」」
なるほど、こういう感じに手綱握ればいいのか。
「なんかいいお兄ちゃんしてるねえ。君のそういう表情は初めて見たよ」
と、そこで俺にかけられる声。
顔をそっちに向けると、怪しいグラサンに胡散臭い雰囲気と、何考えてるかよく分からない軽薄な笑みを浮かべた人がいた。
「! 手塚さん! 今回の監督は手塚さんですか!」
「やあ。今回は頼りにしてるよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「特撮畑は面白いねえ。監督をコロコロ変えるんだから」
「一年通してやるには、そうやっていくしかないんですよ。負担が大きいですから」
その名前から、"お前の名前手塚治虫っぽいけどそうじゃない絶妙に惜しい感じ"と言われる男。
まあ実際結構惜しいよな。
スターズ専属の演出家で、俳優を育てるためにあるスターズのギアの一つ。
アリサさんは俳優を望み通りに制御・成長させるため、俳優以外のユニットとして俺を懐に入れようとしてたわけだが……そういう意味じゃ、この人は俺の未来の一つ。
俳優でないのにスターズで大きな役割を果たす枠の人だ。
世間的には、手塚さんの評価は高くもねえが低くもねえ。
スポンサーや事務所の言うことに逆らわず、有名原作を引っ張って、有名俳優をキャスティングして、定番の演出と構成で映画に仕上げる。
だから『事務所のゴリ押し』とかが嫌いな、人気漫画に人気俳優を当ててるだけで忌避感を覚える人達からは、かなり評判が悪い。
逆にライト層からの支持はかなり強え、そういうタイプだ。
ただ。
俺はこの人、クッソ有能だと思ってる。
何故ならこの人が撮った映画は、基本的に全部結構な黒字になってるからだ。
『絶対に黒字にする』。
こいつがとんでもなく恐ろしい。
"手塚監督が撮った作品はどれも売れた"とか、"業界から重宝されてる"と言われてるが、手塚監督の有能さはかなり分かりにくい。
だから過小評価されてるところもあんだよな。
上の用意した有名原作、有名俳優、ルーチンワーク化した演出に、いつものように同じように作っていく作品群。
……待て、なんでこれで売れてんだ。
原作あり作品の大半は、制作費回収できてねえんだぞ。
しかも毎回芸風が変わらねえ監督は、次第に飽きられて売れなくなっていくもんだ。
これで売れてる時点で手塚監督はなんかおかしい。
あくまで、俺視点の解釈だが。
オーソドックスな起承転結を外さない王道の作り、話にメリハリを付ける感覚、面白さをストーリーに付随させるセンス。
面白さを破綻させないバランス感覚、きちんとキャラ/俳優を魅せていくスタイルに、見やすくてインパクトのある画作りを得意とする技量。
各々がハイレベルにまとまってるからこそ、この人はいつも同じように作っても面白えし、作った作品は売れるし、仕事が絶えることもねえ。
業界でこういうタイプの監督は、そりゃあ誰からも重用されるわ。
映画は一種の博打だ。
原作通りに作ろうが、原作から大きく外れようが、多額の予算をかけようが、有名俳優や有名原作を使おうが、映画の多くは興行収入爆死する。
そんな中、黒さんが言うところの"クッソつまんねえ作品"を大量生産して、片っ端から黒字にしてんのがこの人になる。
なんだこいつ。
有名原作と有名俳優で爆死する割合がどんくらいのもんか教えてやろうか。
この人は地味に凄い……いや、
俺が貢献できるタイプの監督じゃねえから、そこは結構寂しいけどな。
「今日はねえ、ちょっと通りすがりの人が視察に来てるんだよ、朝風二代目」
「視察?」
「ほら、あそこ」
「……? っ、!」
あそこにいるのはアキラ君。
その向かい側にいるのは……アリサさんじゃねえか!
うーわやな流れ。
「こりゃまた、アキラさんにはハードな撮影になりそうですね……」
失敗できないってプレッシャーとかがアキラ君にかかってねえといいんだが。
星親子を見つめていた俺の肩を、軽薄な笑みを浮かべた手塚さんが叩く。
「頑張りなよ。あの人の目は、厳しいからさ」
からからと笑う手塚さんは、アリサさんの手でスターズに拾い上げられた手塚さんは、監督のくせに俺達の味方とは言い難かった。
手塚さんはモノローグで「業界からは重宝されるようになり撮った作品はどれも売れた」とか言ってますがこれ大抵の有名監督が言えないレベルのことだと思うんです。
上が用意した有名原作と有名俳優をルーチンワークの演出で映画に仕上げて、出した映画が全部売れた……? こ、この人は一体……?