各仕事を分担する特撮分野では、能力こそが重要だ。
いや、違うな。
これは正しくない。
『技術と経験こそが』重要だ。
未経験者をいきなり撮影にぶっこんで、経験を撮影中に積ませて、撮影中に一人前まで成長させるっていうのは日曜朝番組の特権だ。
映画は撮影スケジュールがギチギチで、余裕がねえ。
だからできるやつにやらせる。
この撮影場所における"できるやつ"は、俺だった。クソァ!
いい人材はいるっちゃいる。
映像編集チームや脚本の人は言うことないくらいで、スーツアクターといい主演女優・百城千世子といい、演者も粒揃いだ。
粒揃い。
……この単語を悪い意味で使うとは思わなかった。クソァ!
能力ある人がチラホラいても、全体の平均値が低い。
超有能な人が一人いるとそうじゃない人が他に五人くらい居る気がする。
バランスが悪い!
俺は美術監督だが、実質特撮監督補佐で、操演責任者で、造形責任者で、照明総指揮やらせられてるようなもんだ。
他にまともな経験者がいねえからだ。クソァ!
人手は十分以上に揃えられてるし、経験が無いだけで将来的に有望な人も多い。
が、経験者が足りない。
責任者とか、セクションごとに指示出して舵取ってくれる人がいない。
指示待ちの手足が多すぎるのが、俺とかの負荷を倍増させてやがる。クソァ!
しかも監督と俺の間で、イメージを共有するところでまた苦労してる。
この監督は主体性が薄い。
性格の主体性は強すぎるくらいなんだが、作品イメージの主体性が薄い。
俺と仕事の上でぶつかり合うんじゃなくて、ぶつかり合うところがねえ。クソァ!
ふわっとしてる。
この監督"こんな感じの作りたいな"とは思っていても、"こんな形に完成させたい"っていう完成形のビジョンが出来てねえ。
指示がふわっとしてるだけなら俺が意図を汲んでいい感じに仕上げりゃ良いんだが、この人はそもそも完成形がふわっとしてるんで、俺が柔軟に合わせると大変なことになる。
ふわっとしてるもんに柔軟に合わせたら、芯がねえ作品にしかならねーよ!
あ、相性が悪い!
この監督が何もかも悪いってわけじゃあねえんだが、俺と相性が悪い!
俺が特撮の秘蔵技術とか披露すると、それに引っ張られて監督の完成形のイメージがブレて、監督が脚本を修正させる。お、お前ッー!
だ、駄目だ。
変に良い特撮のやり方を俺が見せると、監督が引っ張られる!
『これ面白い、脚本変えてでも色々入れてみよう』ってなるから悪化する!
俺の技術が足引っ張ってる! クソァ!
プロデューサーと監督が仲良いせいで基本監督の方針が支持されてどうしようもねえッ!!!
ただ、細かい指示が出されてねえから、百城さん以外の俳優陣の中の、経験が浅い若手勢の人達はかなり喜んでる。
自由に伸び伸び演技ができるのが楽しいみてーだが、それで俳優の個性が出てるものの、統一感があんま出てねえ。
俳優個人の魅力は出てるんだが、映画としては正直怖い。
ギャンブルだろこれ。
全員の個性が噛み合ったらウケるかもしれねえが、十中八九不協和音が出る……しかもなんだ、明確な目標を目指して撮影した結果こうなってるってわけじゃねえのがまた怖い。
監督が俳優を伸び伸び演技させてるから、半ば制御不能になってるだけだ。
「監督、打ち合わせで俺が言っていた件なんですが」
「君は何度同じことを言うつもりかね朝風君。
スケジュールと演出は役者全体を見て決めるものだよ。
君の言う通りにしたら撮影が破綻する。役者の再オーディションなど正気かね」
「……すみません」
いや、まあ、俺も無茶言ってんのは分かるわ。
だけどな、顔だけで選んだモデルを直感的に出演者採用とかお前本当にやめろよ。
いやモデルが悪いって言ってんじゃねーよ。
俺もモデルが出て来た特撮とか、芸人出演や芸人声優とかの映画好きだよ。
だけどな、なんかこう……駄目だろこれ! モデル出演者を仕上げる時間がねーよ!
外見以外あんまよろしくねえ!
「朝風君、それよりも何かもっと面白い技術はないかね?
あの炎スプリンクラーは素晴らしかった。
心打たれる思いだったよ。他に見栄えのするものがあれば作品に取り入れたいのだが」
「あの、監督のイメージに沿った演出を絞って使った方がいいと思います」
「派手な演出から見せてくれたまえ。あ、ナパームで何かいい感じにできるかな?」
「……すみません、ちょっとお手洗いに行ってきます。すみません、お話の最中に」
「ウンコかね。派手にぶっ放してくるといい」
派手なら何でも良いのかよあんたは! 監督! しっかりしろ!
「ヤベえ、悪い噛み合い方し始めた……どうしよう」
逃げ出した俺は途方に暮れる。
どうすんだよ。
変な意味で八方塞がりになってきたぞ。
おや百城さん、こっち来てどうしたんですか。
「駄目だなあ、英二君は」
「大変申し訳無い……」
微塵も言い訳できん。
「こういう時は、現場の人間関係をちゃんと見て、話の通し方を考えないと」
「百城さん?」
「ちょっと待っててね」
小さく手を振り、百城さんは心地良い足音のリズムで監督に向け歩き出していった。
監督に近寄り、可愛らしくあざといような、けれど正面から見ると自然に見える動きで、可愛いという印象を持たせつつ監督との距離を詰める。
「監督」
「む、千世子くんかね。どうかしたかね?」
「ちょっとお願いがあるんです。聞いてくれますか?」
「おお、いいともいいとも。私にできることならね。何かね?」
「脚本さん達のお願いを、聞いてあげてほしいんです」
「ん?」
両手を合わせて可愛くお願い、してるようにしか監督の方からは分からないだろう。
第三者の視点から見てるから分かる。
会話の間の取り方が完全に女優モードだ。
百城さんと、監督と……あれは映像編集チームのチーフと、脚本の人だ。どういうことだ?
「監督、撮影スタッフと脚本の総意です」
「撮影計画を見直した方がいいんじゃないですか?」
「む、そうかね?」
総意? いつの間にそんな方向性で意見の統一が?
……!
そうか百城さん、映像編集チームでそれとなく話を振って、チームの中に『このままだと撮影がマズい』って共通認識を作ったのか。
そして脚本も同じように誘導して、映像編集のチーフと脚本の人が一緒に監督に直訴しに行くよう、誘導したのか。
待てよ。
そうだ。
スポンサーとかから、監督は口が酸っぱくなるほど色々言われてるはずだ。
―――ついたあだ名が興行収入ボンバーマンですよ。大丈夫なんですか
―――今回はスポンサーがぎっちり監査してますし
そんな会話を、俺はした。
監督は俺の知らないところでもスポンサーから色々言われてる、それは間違いねえ。
んでもって、周りが身内だらけの監督から見りゃ、俺は監督サイドじゃなく、スポンサーサイドやスターズサイド寄りに見える……そうか、だから俺の意見があんま通ってなかったのか。
だけど脚本と映像編集は、俺の知る限り監督のイエスマンじゃなく、かつ初期に監督達が集めたスタッフで、撮影状況がマズいと判断できるレベルには有能だった。
ここに目をつけたのか。
いや、言われてみりゃ確かにここしかねえ。
百城さんに誘導されてくれるポジションで、自分の意志で今の撮影に反抗し、監督に素直に意見を聞かせられるのはここだけだ。
もうここ以外で監督に意見通せそうなのは全員、監督のイエスマンしかいねえ。
「むぅ……そこまで言われたなら、一度打ち合わせてみようか」
「わぁ、ありがとうございます監督!」
「うむ、主演の千世子くんにも気を使わせて申し訳ないね」
「私も監督が頑張っているこの映画を、監督のために完成させたいんです!」
「千世子くん……!」
あと、あれだな。
男は基本自分に好意的(に見える)女の子に弱え。
女の子の"お願い"が間に入ると一気に角が立たなくなるな。
百城さんは女優トップクラスの外面の良さと、普段からキャラ作りを徹底する強固なイメージ戦略の実現者だ。
実績があって超いい子に見える可愛い主演女優の『お願い』の破壊力は高い。
あ、つかそうだよ。
この監督、監督ってことは高確率で主演女優に百城さん選んだ人の一人はこいつじゃねえか!
そりゃお願いが効く可能性高えわ!
そこまで計算してたならもう怖いレベルだぞ百城さん。
あ、戻って来た。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「最近思ったけど、英二君って派閥闘争とか苦手そうだよね」
うるせえ。
お前の対人能力を基準にするな。
俺は仕事してりゃ満足なんだ。
「ねえ。加工してない現実は、美しくないよね」
……解釈に困ることを言うな。
百城さんは俺の目に映る現実を持っていったが、百城さんの目に映る現実は、そうなのか。
「私達は加工した美しい現実を売る人達。英二君には、わざわざ言うまでもないかな」
ああ。
そりゃ、間違いない。
花畑は自然のままでも美しいが、間にある膨大な雑草を切った方が美しい。
自然の子犬は可愛いが、汚れを落として毛並みを整えてやった方が可愛い。
宝石は原石のままでも煌めくが、売り物にするなら磨いて指輪にしないといけねえ。
ドキュメンタリーだって、現実を切り取ってどう見栄え良く加工して人に見せるかが重要だ。
巌爺ちゃんは人を磨いてより輝かせる。
俺は人の傍に添える、人を引き立てる何かを作る。
百城さんは……積み重ねた技術で、自分を輝かせてるってところか。
世界のどこかにある美しいもんを、手を加えて美しく仕上げるのが俺達だ。
少しだけ手を加えて、美しく仕上げる。親父は『それが技だ』と言っていた。
百城さんは、『加工した美しい現実を売る』と言った。
本質的には、多分同じことだな。
「英二君が全力を出せない枷要因になりそうなものは、これで結構マシになったと思うよ」
なんつーか、恐ろしい。
この人は今、あんなにとっちらかってた撮影現場をその手で少し加工して、美しい流れに乗せてみせたんだ。
感覚で分かる。
空気が違う。
撮影の流れが、前ほど悪くなくなってる。
そういや、前に聞いたことがある。
百城さんは以前、俳優だってのに撮影現場全体に影響を及ぼし、監督から制作進行までコントロールして、撮影全体の舵取りをしたことがあったとかいう噂を。
もし、あの噂が本当なら。
「頑張ろう? 英二君」
「……はい!」
撮影現場全体が、百城さんの独擅場になったのか?
もしかしたら、もう現場は百城千世子監督がコントロールする撮影に変わったのかもしれん。
少なくとも、監督が百城さんの『お願い』を聞く関係性になった以上、これまでとは撮影の流れが明確に変わる可能性が高い。
百城さんが全体を調整できる。
……ん? 待てよ。
俺と監督の相性は悪かった。
悪かった、が。
もしも今の流れの変化が、流れの主体が百城さんに変わったことを意味するなら。
俺と監督の相性問題は、俺と百城さんの相性の問題にすり替わるのか……?
「今度は俺の仕事で、恩返しに百城さんをより輝かせてみせます」
「あら、凄く気合い入ってるね」
監督筆頭に悪い要素しかなかった制作陣だが、百城さんが微調整に入ってくれんなら、俺がかなり自由に動ける!
これなら、俳優の方のカバーに行ける! 百城さんの負担も多分減らせるぞ!
人材の偏りは……まあ頑張って穴埋めするしかねえか。クソァ!
撮影は進む。
撮影と、撮影準備と、撮影後始末、全部やんなきゃならんのが面倒臭えところだ。
撮影現場全体に目を走らせてる監督の目を意識して、その上で微調整している百城さんの意向を読み取りつつ、俺も現場全体を見ておかねえと。
「ああちょっと待ってください! 弁当箱捨てないで!」
「はい?」
「後で使うかもしれないので、取っておいてください」
「弁当箱を……ですか?」
「はい。いい形してますよこれ」
仮面ライダー電王*1では、時の列車ゼロライナーの側面に弁当箱を貼り付けている。
轟轟戦隊ボウケンジャー*2でも、遺跡の柱をよく見て拡大するとゼロライナーと同じ弁当箱が貼り付けてある。
この映画の予算は少ないわけじゃねえが、百城千世子主演の特撮映画として成功させる質を求めるんなら、もう相当にギリギリだ!
スタッフの弁当箱一つ捨てないくらいの気概で行くんだよ!
「あの、朝風さん」
「和歌月さん、お疲れ様です。撮影上手く行ってるみたいですね」
「おかげさまで。それで、弁当の空き箱を洗ってるのは何故……?」
「ここからの特撮撮影予定を考えてる間、腕動かしてないのがもったいないので」
「休ませていいんじゃないでしょうか」
「いいんですよ。手だけ動かしてる時は逆に頭が暇ですから何かしら考えてますし」
和歌月さんは途中で派手に死ぬ街の女キャラ役だが、まあいい感じにハマってるよな。
「百城さんが引っ張っている俳優の方の撮影は撮りやすいでしょう?」
「あ、それは感じました。あの人の周りは流れがスムーズな気がします」
「現場レベルで引っ張ってくれる人がいるのはいいですよね」
「スターズのレベルの高さを感じさせられました。……スターズはやはり、憧れますね」
ぬ?
「女優部門の俳優発掘オーディションが日程まで発表されてましたよ。応募してみては?」
「……考えておきます」
付き合いが浅いとどういう意味合いでこの返答したのかよく分からんな。
「それで、どうしました? ここに来たなら俺に何か用があったのでは?」
「あ、少し気になったことがありまして。
人間のシーンで雨を降らせて、怪獣の出現と爆発のシーン。
そこまではいいんですが、何故その後の怪獣のシーンで雨を止めさせたんですか?」
「ああ、それですか」
雨ね。
「一つは合成班の負担を減らしたかったからです。
雨という要素が入った合成は一気に苦労が増します。
なら、その分の労力を他に回してほしかったんです。
あとは、スーツの素材が雨を乗せるにはちょっと不安だったからですね」
「雨を、スーツに乗せる?」
「雨の水滴は表面張力で一定の形や大きさになります。
一旦落ちれば、人間の体の上でも、怪獣スーツの上でもです」
「あ」
「昔霧吹きで再現してみようとしたんですよ、怪獣の体表に乗る1/24の雨粒。
でも全然駄目でした。リアルでない上に、カメラに全然見えないんです。
水滴が集まってスーツ表面で丸まり、巨大感が損なわれたことまでありました。
ですので雨はそもそも降らせないか、怪獣の体表で丸くならないようにするかなんです」
「なるほど……」
「ただ、雨に濡れた路面や地面を怪獣が歩いた跡は仕込むつもりです。
和歌月さんは街中の怪獣の大きな足跡の横を走ることになると思いますよ」
「分かりました、微力を尽くします。
……もしかしてなんですが、雨の後に爆発がある撮影にも意味があるんですか?」
「もちろんですよ、雨で肌を守っているんです」
女優を水濡れにして万が一にも火傷しないようにしてんだよ。
「仮面ライダーディケイド*3でも、第一話の撮影は雨→炎の順です。
水降らしは女優の皆さんの肌を絶対に傷付けないための、俺のルールだと思ってください」
「……意外でした」
「何がですか?」
「いえ、あまりそういう繊細な気遣いをする印象がなかったので」
なんだ剣崎アクションクラブからはそういうイメージ持たれてんのか俺。
火傷防止のジェル配ったりとか色々やってんだけどな。
アクションクラブはスーツアクターやスタントマンがメインだから、そんなもんなのか?
「皆さんの演技以外の物は全て俺が用意します。安心して撮影に望んで下さい」
「助かります」
和歌月さんはうやうやしく頭を下げて、他の俳優と合流していった。
結局スーツアクターの大御所と全然話してないなお前。
実績多いベテランのオッサン多いから仕方ないのか。
さて、撮影も日程進んできた。
いい感じに進行も安定してきたな。
と、思っていたバチが当たったのかもしれん。
その日、撮影所に衝撃が走った。
「―――予算が、尽きた? 追加予算もない?」
「監督ぅ! なんですかこれ!?」
「私も知らんわ! 初耳だ!」
予算が尽きた。しかも誰一人として「俺のせい」とは言わず、関係者全員が「は?」としか言っていないような、青天の霹靂であった。
はいはい予算予算。
で、俺は誰を殴りゃいいんだ?
「英二君、空が綺麗だよね」
「ですね。今日も綺麗な青空です」
「空は悩みがなさそうでいいよね」
「空は空で空っぽい悩みがあるかもしれませんよ。空が高所恐怖症な可能性もありますし」
俺達、何の話してるんだこれ。いや何考えて現実逃避してんだろうか俺達。
この最悪の事態は、各所の小さな齟齬とミスと思い込みが噛み合った結果発生した。
プロデューサーは下が上手くやると思っていた。それが慣例だと思っていた。
棘谷系のスタッフは自分の会社のやり方で費用や予算を計算していた。
西映系のスタッフは自分の会社のやり方で費用や予算を計算していた。
スポンサーの会計処理が、一部処理を忘れていた。
制作進行はプロデューサーとその周りが多くを処理するタイプの制作現場にいた。
当時海外の特撮展開を担当していた新人が抜擢され、この映画の各処理に採用されていた。
更には予算を食い潰していた機材や県外ロケ代。
他にも色々。
そのせいでなんとこの時代に、撮影中に突如予算の枯渇が発覚するという事態が発生したのだ!
明日世界滅ばねえかな……クソっ……
そしてそこに、リカバリの利かない額の予算がクリティカルヒットした。
めっちゃ金かけた映画は予算に余裕がある上、スポンサーに金持ちが多いので追加予算も出してもらいやすく、失敗してもやり直しがききやすい。
が、ここの監督は興行収入ボンバーマン。
この映画予算を見る限り、最初の予算要求の時点でギリギリ上限ってレベルだ。
現状の予算が上限で、追加予算は望めねえ。
「監督、撮影続行も不可能ですか?」
「予算の枯渇とはいっても、現在香盤*4を見る限りは問題ないんだ。
あくまで、このまま撮影を続ければ予算が枯渇するという話でしかない。
だが……その……君の担当である、美術・特撮・造形は、もう予算を使えない」
「何もできないと、そういうことですか?」
「今あるものを使うならいい」
俺達の撮影最後なんで、まだ映画に必要な物全部作り終わってないんですけど。
物は作れ、ただし何も買うな、って言いてえのか? ええコラ。
監督は弱々しく笑みを浮かべた。
「わるいこの無人島0円生活って、知ってるかい……?」
「0円でどうにかしろとか言いたいんじゃないでしょうね、監督」
ぶちころがすぞ。
「無理かね……?」
……。
「できます。やれます。任せてください」
「―――! おお、ありがとう、ありがとう!」
あーもう。
ヤケクソだわ。
もう七割がた仕事は終わってんだ、あと三割どうするかな。
え、マジで0円? こっから何も買えない? やべーどうすっかな。
あと最低でもスーツを三着新造する予定だったよな確か。
あれと、あれと、あれを組み合わせて……そっからどうすっかな……どうしよう。
制作費0円とか低予算映画の究極だな、はっはっは! 笑えねえよ!
「できないならできないって言っていいよ。誰も英二君を責めないから」
百城さんが心配そうに言ってくる。
和歌月さんが勢い良く頷いていた。
周りも皆頷いている。
一体感を感じる……かつてない一体感を……皆『お前でも無理だよ』って心で言ってる……! 俺もそう思うが今更投げ出せねえよ。
「皆さん、特撮ロボットドラマ『77部署合体ロボダイキギョー』をご存知ですか?」
皆に呼びかける。
まだ終わってねえ。
完全なチェックメイトじゃあ、ないはずだ。
「77部署合体ロボダイキギョーの企画が始まり、プロデューサーは言いました。
『会議室一部屋分くらいの予算で十話完結のドラマ作れない?』
監督は言いました。
『じゃあロボットもので行きましょう』
美術スタッフは言いました。『コクピット一つ作ったら予算が尽きたんですけど』」
「一から十まで狂気しかない話を聞かせて正気を奪いに来るのやめない? 朝風君」
「これですら特撮ロボットドラマを名乗っているんです」
俺の限界はどこにあるのか。
俺ですら知らない。
そいつを試すのを、きっと挑戦って言うんだろうさ。
「やってみましょう、0円撮影継続。未熟な腕なれど、やってみせます」
「英二君、無理なら無理って……」
「百城さん。信じてると、そう言ってください」
頼むわ、メンタルにパワーが足りねえ。
「俺はあなたの期待を裏切ったことがないんでしょう? なら、今回もそうしてみせますよ」
百城さんが、きょとんとした顔をして、笑った。
ガラスの花みたいな笑顔だった。
「信じてるから頑張って、英二君。待ってる」
おう。
さて、どうするかな。
こんなとんでもねえことを成功に導くには―――何か、魔法が必要そうだ。
自分の金使うとかもアウト
追加の金をくれそうな人を探しに行くのもアウト
使えるのはその二本の腕だけ!
終盤の撮影も丸々残っています