大手芸能事務所・スターズ。
業界最大手の一つに数えられるほどの大手。
どのくらい大手かって言うと、オーディションで一人を選ぶために募集をかけると、三万人の応募者が集まってくるくらいだ!
滋賀の仮面ライダー美術展が入場者数三万人とかだぞ、頭おかしいんじゃねえの……?
俳優の発掘と育成においては比肩するものを探すのが難しいほどの大手事務所で、俺はここに所属している俳優と一緒に仕事をすることが多い。
最近の数多くの映画のメイン格の多くが、スターズ所属の俳優だからだ。
最近絡んだ相手だと子役の山森歌音ちゃん、アキラ君、百城さんなんかがスターズだ。
スターズの社長の星アリサさんはアキラ君のおふくろさんだが、アリサさんがアキラ君を親として贔屓してゴリ押ししてる、って感じはしない。
むしろアリサさんが推してんのは百城さんの方だろう。
演技に幅があり、生まれつきの才能よりも後天的に訓練で身に着ける演技力を重視し、スポンサーや監督の意図をできる限り反映してくれる俳優。
人々の記憶に一生残る名演ではなく、汎用性の高い演技を重視する。
そうやって、俳優が役にのめり込み過ぎて潰れないようにする。
そうやって、俳優の芸を『特異』から『一般的』の枠に入れる。
出来上がった俳優の多くは、無理をした演技をしない、末永く芸能界で食っていける人間として完成するのだ。
俺が物を作る人間なら、スターズは"スターを作る"事務所ってことになるんだろうな。
スターズはスターを排出する。
それで芸能界での影響力を増す。
増した影響力で、自分の事務所の俳優をドラマや映画にキャスティングしてスターを作る。
以下、ループ。
この繰り返しで事務所の力を増大させ、スターを増やし、スターを作るために新人に経験を積ませる場を増やす。
商業的に見れば理想的なループが完成するってえのが恐ろしい。
こいつは時に「事務所のゴリ押し」とも言われるが、多くの映像作品の品質が低くなりすぎないための『最低値保証』になる。
昔と比べりゃ、演者の質の平均値は劇的に上がった。
それは演技のメソッド、演技指導のマニュアル、作品の大失敗を避けるための方法論ってやつが業界に蓄積されたからだ。
商業的に、マニュアル的に、一定以上の質の俳優を排出し続ける。
スターズはそういう意味じゃ、芸術家の工房と言うより、機械的な工場みたいなもんか。
だから事務所のゴリ押しが嫌いな監督とかはスターズが嫌いだし、同じ俳優の顔を見飽きた視聴者はスターズが嫌いだし、手堅く無難に作品を作りたい監督はスターズが好きだし、人気俳優の顔が見たいだけのミーハー視聴者はスターズが好きだ。
スターは生まれてくるものだと俺は思うが、現社長のアリサさんはスターは作るものだと思ってるらしい。
スターズはスターを作る工場だ。
そこで、百城千世子や星アキラという『商品』は作られ、商業の世界で成功している。
まあ分かる。
俺も百城さんやアキラ君が出てる番組とか録画して絶対に見てるしな。
そう、これが俳優目当てで見るファン心理ってやつよ!
映画や番組を作る人間は、芸術家と工場者の二種に分かれる。
スターズも俺も、どっちかと言えば後者だ。
過去の事例を参考にして、過去の成功例と失敗例を研究して、知識と経験の積み重ねを成功に直結させようとするスタイル。
誰も見たことのないものを作る芸術家とかにはなれねえやつだ。
そういうもんだから、俺とスターズが絡む仕事は結構相性が良い。
スターズは徹底したスケジュール管理と俳優管理を行ってるから、俺にあんま無茶振りしねえしな。俺にあんま無茶振りしねえしな! 俺にあんま無茶振りしねえしな!!!!!
しかし、スターズのこの姿勢が満場一致で上手く噛み合ってるところもある。
その一つが、スターズ事務所の食堂だ。
つまり飯だ。
飯にはそこまで急速な進化や、斬新な革新がなくていい。
昔ながらの美味い飯を作れれば十分に需要がある。
スターズの食堂の飯は美味い。
その食堂で、俺はアキラ君と飯を食っていた。
「アキラさん、ワイヤー無しスタントマン無しで、自分でアクションするの控えませんか?」
俺がラーメンをすする。
「多少危険でも、僕がアクションもやった方がアングル誤魔化さなくて済むじゃないか」
アキラ君がチャーハンを食う。
確かに今時は"アクションもできるイケメン俳優が演じるヒーロー"ってのは、子供にも大人にも男性にも女性にも人気なもんだけどさ。
「佐原岳さん、いるじゃないですか」
「鎧武の?」
「そう、鎧武の主役・葛葉紘汰を演じた人です」
佐原岳さん。
仮面ライダー鎧武(2013)の主役を演じ、その圧倒的な身体能力で『生身のアクションで視聴者を圧倒する』というとんでもねえことをやってくれた人だ。
具体的に言うと、敵に変身前に襲撃され、壁に向かって逃げ、垂直の壁をノースタントで駆け上がり、壁を蹴ってバック宙というとんでもないことをする。
もちろんワイヤーとかもない。
おい任天堂のマリオじみたことするんじゃない。
スーツアクターやアクション監督など、番組のアクションに関わる人は揃って彼のアクションを絶賛し、仮面ライダー歴代主演俳優で最も身体能力が高いと評された。
佐原岳さんは性格も明るく、誰とでも仲良くなれるので、プロデューサーは揃って彼を『少年漫画の主人公のよう』とたとえた。
脚本の実淵玄さんも、佐原岳さんの性格に影響を受けたとか。
なんだこのリアルスーパーヒーロー。
アクションができるイケメン俳優で、性格も良い子供達のヒーローで、身長170cmの佐原岳さんはなんつーか……身長173cmのアキラ君とタイプが近い気がすんだよな。
「佐原さんが前に言ってたんですよ。
アクション俳優のイメージが付きすぎて、逆に普通のドラマの仕事来なくなったって。
ただ本人もそこまで気にしてなくて、バラエティで冗談めかして言ってた時もありましたが」
ここで問題がある。
イケメンで、演技力があって、派手に動ける、アクションが売りの俳優。
イケメンで、演技力があって、派手に動けない、演技力が売りの俳優。
この場合、顔と演技力が互角でも、多くのオーディションでは後者が選ばれるという。
顔の良さと演技力が互角でも、唯一無二のアクションが目立ちすぎると、「演技力等はアクションほどじゃないな」と、相対的に低い評価をされがちなのだ。
また、ドラマの大人しくて運動が苦手なキャラなどにも「イメージが合わない」として、アクションができる俳優はキャスティングされにくい。
『他の人にできないことができる』は、芸能界では弱点になることもある。
めんどうくせえ。
今日ふと、ちょっと心配になっちまったんだ。
アクションを"俳優としての売り"の全面に出しすぎると、アキラ君のこの先の仕事が限定されちまうかもしれねえ、と。
「それは……そういうこともあるかもしれないな」
「アクションが悪いとは言いません。
ただ、アクションって怪我の可能性も付き纏いますしね。
ウルトラ仮面が終わったら、アキラさんはその後の仕事もありますし……
今後の仕事のことも考えると、その辺のバランスも考えた方が良いんじゃないかなと」
「……母は過保護だからね」
「アリサさんの言ってることは、割と正しいと思いますよ」
アキラ君はワイヤー無し、スタントマン無しの少し危険なアクションを平気でする。
アキラ君の顔に傷が付くことも許容しないアリサ社長は、そういうのを認めない。
母親の言うことを、アキラ君はよく聞いているが、一から十まで従ってはねえみたいだな。
「……」
あっ、ちょっとむすっとした。
アキラ君じゃなくて母親の主張の方の味方したのはマズかったか。
「でも、アキラさんのアクションは凄いですよ!
アレに魅了された子供も多いですからね。
あくまでバランスの話ですし、アキラさんのことですから、アキラさんの自由にするべきです」
「ああ、そうだね。心配してくれてありがとう。忠告は参考にさせてもらうよ」
人付き合いはムズいが、あんま不快にさせないように喋らんとな。
百城さんほどじゃねえが、子供の前で常にヒーローで在ろうとするアキラ君も、不満や暗い感情を隠すのが上手い。
子供におふざけのキックを食らっても、"ヒーローの笑顔"を浮かべられるのが彼だ。
表情の動きには注意しとこう。
不快の反応を見逃したらよろしくない。
「た、大変です! 朝風さん!」
あれ、スターズ専属のヘアメイクの人が来た。
どうかしたのか?
つか二十代の人に敬語使われるとむずがゆいからもっとぞんざいに扱ってほしいわ。
「どうかしましたか?」
「そ、そのそのその」
「落ち着いてください。何が起こったんですか?」
「ゴジラの中で人が死んでます!」
本当に何が起こったんだよ!?
現場に辿り着いた俺とアキラ君が見たのは、ゴジラVSデストロイア(1995)に登場するゴジラの最強形態の一つ、バーニングゴジラの
死んでねえじゃん、勘違いか。
「あ、あれは……今度やるって予定の企画の……」
その部屋には、多くのゴジラやメカゴジラのスーツが並んでいた。
今度、ゴジラの当時のスーツを再現して、中に人が入ってスターズの人気俳優と一緒に展示会場を回る……という、西宝株式会社主導の展示イベントが予定されていた。
俺もちょっと関わった仕事だ。
その一環で、今は一時的にゴジラの着ぐるみなどがスターズ事務所に置かれている。
事務所に置いておいて、どのゴジラにどの俳優を合わせるか、俳優と着ぐるみを並んで立たせて決めようとしてたってー話だ。
だが、なんでその中から、人が救出されてるんだ?
話を聞きつけたスターズの事務員や俳優もちらほら見える。
誰かに話を聞いてみるか。
「おはよう、英二君、アキラ君」
「ああ、おはよう千世子君」
「おはようございます、百城さん。何があったんですか」
百城さんだ。今日も可愛い。
「んーとね」
百城さん、曰く。
スターズの事務所に警備員を装った泥棒が潜入していたらしい。
警備会社に入り、スターズの事務所の警備に回された日に、スターズの事務所から金目のものをかっぱらう計画だったんじゃないか、と推測されてるようだ。
泥棒は二人。
金目のものと、企画書のメモから高く売れると判断したゴジラのスーツを盗もうとしたらしい。
ところが儲けを独占しようとした泥棒Aが、泥棒Bにおふざけだと言って、泥棒Bがバーニングゴジラの着ぐるみに入るよう仕向けたらしい。
そして、泥棒Aはスーツのチャックを閉め、部屋もロック。
残されたバーニングゴジラの中の泥棒Bは、着ぐるみの中で失神してしまったそうだ。
「なるほど納得です。百城さん、説明ありがとうございます」
ゴジラのスーツは一人じゃ脱げねえ。
一人が入って、一人が後ろから閉め、部屋に閉じ込めればそのまま死ぬ可能性も高い。
儲けを独占しつつ、共犯者を消して口封じし、自分の身の安全を確保しようとしたってことか……胸クソ悪ぃな。
「スーツに焼き殺されそうだった、ってうわ言のように呟いてたよ。怖いね」
子供に夢を与える怪獣スーツを悪用とか死ねよ……
「だが朝風君、当時のものを再現した着ぐるみなんだろう?
ならつまり、過去には人が入っていたことがある着ぐるみだったはずだ。
それなら、人を入れたところで、すぐにあんな大変なことにはならないと思うんだが……」
アキラ君。ゴジラは人を焼き殺す大怪獣だ。忘れんなよ。
「アキラさん、バーニングゴジラは、エネルギーが暴走した状態のゴジラです。
全身は赤く輝き、体のいたるところから蒸気を噴き出しています。
その雄々しくも危うい姿は、ゴジラの中でも一番人気を争えるほどの人気を博しました」
「うん」
「光らせるため、電飾に860個の電球。
これが着ぐるみ内部を加熱します。
更に水蒸気と炭酸ガスを噴出する仕組みと電飾が合わさり、スーツ重量は130kgを超過。
噴出される炭酸ガスは着ぐるみの中に溜まり、中の人は四回も気絶し倒れました。
救急車で運ばれたスーツアクターは不整脈を起こしていたそうです。
それにより、酸素ボンベがないと中で呼吸できないことが判明しました。
加えて、内部電飾回路に不備があったので、感電の危険性がある仕様になっています」
「人権は放射熱線で燃やし尽くされたのかな?」
世界よ、これが日本のゴジラだ。
「ちなみにこういったギミックがなかったシンプルな初代ゴジラですが……
その着ぐるみの中の温度は、60℃ほどだったそうです。
ノーマルな形状のスーツですらそれですから、バーニングゴジラはもっと……」
「人権は最初からなかったんだね」
まったくその通りだアキラ君。
「そりゃ倒れてるところを発見されるわけだ」
まったくその通りだ、天使ちゃん。
でもクソかっこいいから否定的になれねえんだよな、バーニングゴジラ。
「いいですか、覚えておいてください、アキラさん。
―――バーニングゴジラは、着ぐるみでさえ人を殺す、最強の怪獣王なんです」
「危険度最悪のスーツって言えばいいじゃないか」
うるせえ。
「さしずめ、バーニングゴジラ殺人未遂事件ってとこかな?」
「ちょっと、ちょっと、百城さん」
「字面の破壊力が凄すぎるぞ、千世子君」
盗難事件が霞むインパクトをありがとう。
「ん? これは……」
これは、床に落ちてたこれは……ひと目で分かる。
これは、初代メカゴジラの歯だ。
初代メカゴジラの歯は透明樹脂を形成して作られている。
だが、何故初代メカゴジラの歯が床に落ちてるんだ……?
「この透明樹脂の歯が、犯人を見つける手がかりになってくれるかもしれません」
「なるの?」
「なるのかしら」
「ならないんじゃないかな」
「なったらいいですね」
うるせえ。周りのスターズの皆さんも総ツッコミ入れてくんなや。
「朝風君、ゴジラのスーツを盗んだとして、それはどのくらいで売れると思う?」
「そうですね、ネットで安物のゴジラの着ぐるみを買っても1万2000円……
2016年に作られた精神WEBの精巧モデルの192cmフィギュアが448万……
となると、買い手が見つかるか次第ですが、500万から1000万くらいでは?」
「そんなに!?」
「現代は仮面ライダーの怪人スーツも一着数百万になったりする時代ですから。
それに、これは西宝の昔の秘蔵技術も使った西宝製の当時再現レプリカですからね。
海外のマニアな金持ちであれば、その数倍出したっておかしくはないと思います」
驚くなよアキラ君。
ま、マニアの気持ちは、俳優にはあんま分かんないだろうけどさ。
有名な絵は模写した絵ですら高値が付くのと同じで、西宝製の初代ゴジラスーツレプリカともなりゃあ、どのくらいの値段が付くかも分かんねえよ。
「そう、これは大きな損失です」
「! 社長!」
「母さん?」
「アリサさん! おはようございます!」
「私達は管理責任を問われるでしょう。
失われたスーツの弁償、信用の損失……無視していい事案ではありません」
来たか。
スターズ社長、星アリサ。
往年の名女優にして今や敏腕女経営者。
顔が怖くて圧が強い。
「箝口令を敷きます。
大々的に公にし、スキャンダルにしていいことではありません。
許可が降りるまで、ここで起きたことは他言無用です。
SNSでの発言も厳重に注意するように。警察への連絡も事務所が行います」
ん、そりゃそうか。
通報のタイミングと内容もちょっと考えたいところだよな。
こんなの下手したら最悪のスキャンダルになりかねん。
芸能界はスキャンダルを隠したがるもんだ。
偉い人は大打撃。
事務所の仕事も減る。
大スキャンダルともなりゃ、業界全体の元気もなくなる。
映画の収入や番組の稼ぎが減れば会社も余裕がなくなって、下っ端からリストラされていき、売れない俳優も下から順に消えていく。
だから、誰もが隠したがる。
あんまよくねえことなんだが、隠そうとする人達の側の気持ちも分かる俺は、一概にクソが死ねとか言えねえ。
被害者が泣き寝入りとかは気分が悪くなるから、そういう悪質なスキャンダル隠蔽の類は公になってほしいけどよ。
スキャンダルは、事実の公開と処罰だけに終わるならまだいい。
だが情報化社会の現代では、過剰な個人攻撃や企業攻撃、デマや作り話の洪水によって最悪の方向に転がって当然のもんだ。
これがスキャンダルになりゃ、最悪あることないこと書かれたりして、偉い人や事務員や俳優が引退に追い込まれる可能性だってある。
さて、どう采配する気だ、アリサ社長?
「あら、朝風英二」
げっ、目が合った。
「しばらくぶりです、アリサさん」
「また背が伸びてきたようね。父親に似てきたわ」
アリサさんは親父の友人だ。
役に没入するタイプの女優だったアリサさんに親父は相当振り回されたらしく、親父はアリサさんを語る時は苦い顔になっていた。
つまりだ。
計算した上で、無茶振りする方の人間である。
「警察にはある程度事情を話して通報したわ。それで、朝風」
この人は、親父を朝風と呼んでいた。
俺のことも朝風と呼んでいる。
俺と親父を比べる人はいる。
俺と親父を重ねる人もいる。
だがこの人は、明確に俺に親父超えを期待している。
それが、怖い。
この人は俺に甘い評価をくださない。
俺の仕事を見て、親父の真似事の仕事か、親父にできなかったことを俺がやった仕事か、それをひと目で見抜いてくる。
この人の目は、怖い。
アキラ君のやや他人に甘いところが、この人には欠片も見当たらない。
「盗まれたスーツだけでも、取り戻せないかしら」
「えっ」
頼む相手間違えてない?
「歴代ゴジラスーツの足跡を見て、一瞬で見分けられる貴方なら、あるいは」
そんなん誰でもできるわ。
「泥棒はスーツを盗んで、おそらくまだこのビルの中にいる可能性もあるわ。
ならば貴方であれば、盗人がスーツをどう運搬するかも、想像できるはず」
「いや、俺はただの造形屋ですよ」
「泥棒を捕まえろとは言わないわ。
貴方が怪我をすることも私は望んでいない。
ただ、スーツを取り戻して、企画が予定通り進んでくれればいいの。
取り戻せなくても、スーツと盗人の現在位置だけ分かればいいわ」
む。
そうして、通報で来た警察の人がさっさと取り押さえ、スキャンダルを嗅ぎつけてきた記者とかが来る前に速攻で事件を収束させる気か。
この人、本気で事件をスキャンダルにさせないつもりだな。
だが、俺みたいな喧嘩に勝ったこともないようなクソザコナメクジ野郎にこんな仕事振られても……
「あなたのお父様ならできたわ」
……親父ならできた? ほほう。
「ええ。私は色々と貴方のお父様に無茶振りしたけど……彼が期待に応えないことはなかった」
親父もおんなじこと言ってましたよ。
星アリサはいつも俺の期待を超えた、俺の予想を飛び越えていった、って。
「貴方にこの一件を一任するわ。受けてくれる?」
「それは、仕事ってことでしょうか」
「そうね。ちゃんと報酬は払うわ。今後の評価にも色を付けると約束しましょう」
「……」
「多くは望まないわ。
貴方の今の能力に相応の結果を出してくれればいい。
完全無事なゴジラのスーツが戻ってくるなら、それ以上は望まない」
……あ。
あーはいはい。
何言ってるか分かった。
泥棒が盗んだゴジラの着ぐるみがちょっとでも壊れてたら、直してからスターズ事務所に持って帰ってこいってことだな。
親父! この人の無茶振りによく応え続けられたな!
「俺は……」
どうすっかな。
ちょっと、気分的には断りたい。
親父を引き合いに出されると受けたくなるけど、こんな仕事俺の仕事じゃねーだろって思考の方が優勢だわ。
うん? どうしたよ百城さん。
「面白そうじゃん。朝風君、やってみたら?」
「そうですね、やってみます」
しゃあねえ、俺は今日だけ探偵だな。
「あの、アキラさん」
「何か用かい? 山森君」
「あの、朝風さんのお父さんとアリサさんの関係の話、聞いたことあるんですけど……
もしかしたら、もしかして千世子さんと朝風さんの関係、そのままなんじゃ……」
「山森君、やめよう。その辺りを考えるのは少し怖い」
おい、聞こえてんぞ。
小さい女の子とイケメンなら何でも許されると思うなよ?
泥棒探し
ゴジラの着ぐるみを盗んで抱えて運んでた泥棒がいるとします
疲れた泥棒がちょっとだけ地面を着ぐるみでこすっちゃうとします
「この蛇の鱗に見える表面構造、加工した生ゴム特有の表面感……ここの地面でこすったのは、映像に使われなかった0号ゴジラスーツですね。映画に使われた初代ゴジラの1号スーツ、2号スーツのモデルになったやつです。この表面構造は他のゴジラにはない特徴なんです」とコメントするのが英二くん