「よくやった、ゲールマン」
ボロボロでイシュタルファミリアのホームに入ったゲールマンを
待っていたのはメルビンによる労いの言葉だった。
「俺は負けてしまった。お前達の隊長であるにも関わらずだ」
「何処が負けただ!こちたら全力でやってアンタの得物を壊したんだぞ!戦場だったらアンタに殺されてるよ!此方はね!」
「フリュネ、コレは模擬戦だ。お前は勝ったんだ。誇れ」
「誇れねぇつってんだよ!英雄!」
フリュネと昔からの友人のように軽口を言い合う姿はゲールマンも見たことがなかった。英雄ではなく、一人の青年の姿。
だが、それでも他者を労ることを忘れない。
疲労困憊のゲールマンを支え、椅子に座らせる。
「今、回復してやる」
「……ありがとうございます。隊長」
メルビンの星辰光による回復でゲールマンは疲労困憊だった肉体に活力が湧いてくる。傷は塞がり、失っていたスタミナが返って来る。
「他のメンバーとイシュタルファミリアのメンバーもだ」
「集めてるさね。うちの娼婦に男娼達も頑張ってね」
「なら、敵は居ないと言うことだな」
今度はメルビンは手を天に掲げると星辰光が天から降り注ぐ。
ソレはまさに神の所業。傷ついた者達は直ぐ様立ち上がり、
警備隊は天に向かって敬礼し、イシュタルファミリア達は何が起こったのか分かっていない。
「隊長の力さ」
警備隊員がことごとくそう呟く為、納得するしかない。
そして、イシュタル・ファミリアと警備隊員が集まり、
アドラー地区警備隊隊長メルビン・コールレインと
イシュタル・ファミリア団長フリュネ・ジャミールとの間で、
正式に同盟が結ばれる事となった。
「歓楽街からついでだ、警備隊の方々も来てくれて構わないから何かあれば連絡頼むよ?」
「俺からもだ、人間の三大欲求はそう簡単に発散はできん。
ただし、仕事とプライベートで分けろ。また、俺はヘラ・ファミリアだから言うが、恋人は一人にしろ。遊んでもよいが、本気で愛すると決めた女性が居るなら守り抜け。死なせるな」
会話が終わり、それぞれが解散だ。警備隊のシフトは問題ない。
解散は現地で行い隊員達は歓楽街に繰り出す物もいる。
「ゲールマン、お前も好きにに過ごして良いんだぞ」
「そうですな、隊長の仕事を半分肩代わりしたら休みましょう」
「……まったく、なら頼むぞ。副隊長」
数日後。仕事もなくオフの状態のメルビンはヘラ・ファミリアの
戸を叩いていた。
「あら、メルビン」
「ヘラ……丁度いい。俺のステータスを」
「え?」
「フリュネに負けた」
「ごめんなさい、もう一度」
「イシュタル・ファミリア団長フリュネ・ジャミールに敗北した」
「全員集合!!」
その日、休暇を過ごしていたヘラ・ファミリアの女帝、アルフィア、メーテリア、そして団員がヘラに会議室に集められた。
「嘘だろ…メルビンが負けた?コイツが?」
「女帝…負けは負けだ。星辰光もなく、ただ身体能力のみでフリュネに挑み敗北した。だが、2度も負けん」
「一応、イシュタルに確認取ったわ。そしたら、フリュネの方が満身創痍。そこの馬鹿は剣が折れただけだそうよ。えぇ、メルビン」
「しかし、フリュネ、あの蝦蟇蛙が」
「ソレが今のフリュネってすんごい美人なのよ。
昔、イシュタルと来た時みたいなね。まぁ、何処ぞの英雄の光に当てられて、自分がどれだけ愚だったか理解したなんて言ってたわ」
「……あぁ」
「アルフィア、なんだ」
「それで?集めたのはそれだけじゃないだろ」
「えぇ、アルフィア。この馬鹿息子のレベルアップよ」
そう言いながらヘラは優しくメルビンの頭を撫でた。
神の女王の慈愛を感じ、何処か心のそこから懐かしい感情が湧き出る。
「母か……ヘラの様な女性が……いや……」
「……わかります。ヘラ様は皆のお母様ですから」
アルフィアとメーテリアもメルビンと同じスラムの孤児であった。違いがあるとすれば、メルビンはただ光を求めたこと。
アルフィアとメーテリアは家族ができた事だろう。
「まぁ、過去を悔やむ事は止めろと言われたからな。
あぁそうだ、過去だ。過去が今の俺を作り上げている。
俺は閣下になりたい、俺は」
「話が長くなる。兎に角だ、背中を出せ。今更、ここのメンバーはお前の上裸で赤らめる子はいないから」
言われた通り上裸になる。
鍛え上げられた肉体と痛々しい程の傷跡。
中には新しい傷もあり、肉が赤々しいところがある。
「……この背中とお腹の貫通した真新しい跡は」
「イシュタル・ファミリアとの演習で木の破片が刺さってな。
無理矢理引き抜いてそのまま戦ったんだ。星辰光は仕えず、治療は出来なかった。考えたら、あの時失血死を迎えて」
「なんでその時、降参しないの!」
「武器はあった、仲間が戦っている。あの演習では気絶させるか戦闘不能にすれば良い。その戦闘不能に武器の損壊があったから負けた。だが、その時は負けていなかった。なら!どんなに傷付こうと、仲間の光となるべく戦おう」
ヘラだけでなくファミリアのメンバーも顔をしかめた。
たかが演習でそこまでと言う思いだ。
「……もう、レベルも冗談じゃない」
「どうだった?」
「ステータスはインフレしすぎよ。変動してるし、常時上昇してるから測定不能。レベルは取り敢えず8よ。……ランクアップで二つ名が付くんだけど」
「くだらん、俺には『
「その断罪者が皆、共通して知ってるからどうしょうもないわ。
むしろ、別の二つ名要らないでしょ」
「当たり前だ。俺はJUDGMENTER。全ての罪を裁定し、断罪する。ヘラ、感謝する。俺はより、戦える」
メルビンの顔に爽やかな笑みが浮かんでいる。
だが、ヘラ・ファミリアのメンバーにとって碌でも無い。
「そう言えば、お前報酬は払い終えたのか?
我々の方は遅れても」
女帝がそう言いうと、神妙な顔で話す。
「…遅れる事などないさ。ソレは助けてくれた皆に泥を塗る。
遅れるなど、あってはならない」
「メルビン、無理はするな。私達も居る」
「メルビンも、無理しちゃ駄目よ。ほら、私達も居るから」
「ッ?!」
声も、姿も、何一つ似ていない筈だ。
なのに、メルビンは幻視してしまった。
幼い自分に語り掛ける存在を、大切『だった』……大切『な』
女性を。
「メルビン、顔色悪いよ?」
「……クリスか、気にするな。問題ない」
女帝の一言、たった一言でメルビンは誰の目にも明らかな程に
顔色が悪くなり逃げるようにホームから消える。
「……私はおかしなことはしていないぞ」
「アレはトラウマか何かが呼び起こされた顔よ。
でも、メルビンにトラウマなんて……いや」
「………多分、お姉さんの事だと思います」
クリスの言葉に女帝は焦る。
だが、誰が悪い等ということは無い。
コレは、偶然だったのだ。
「……俺は………違う。姉とは…姉さんとは違う。俺は……」
「「決して折れない」」
メルビンはそのままダンジョンに向かった。
心を落ち着かせる為、戦場という生命のやり取りを行う場に、
自分から向かっていく。
魔石を回収しなごら、返り血を浴びながら。
ソレは普段とは違う、一太刀で殺しながらもソレは『鋭く斬る』
ではなく、メルビンが基本的に行わない『叩き切る』斬撃による
もの。
「……閣下…!ヴァルゼライド閣下」
(何をしているのだね、コールレイン中佐)
ソレは上官にして自分の憧れたる光たち。
(迷うな、迷わなければ良い)
ソレは軍事帝国アドラーの軍服を身にまとい、眼鏡をかけた男性。幻覚だろうか、だが、メルビンの前に確かに立ち、手を差し伸べている。
「嘆かわしい、これでは君の部下が哀れだろう・・・
不断の努力と、輝く大志と、不撓不屈の決意があれば、人は限界など容易く超えられる。君は越えた。君はもとより、星辰体感応奏者に自らなった。命令ではなく、己の意志で。
思い出せ、君は倒れ、挫け、折れた。だが、君も立ち上がった」
「中佐、ヴァルゼライド閣下と君は立ち上がったのだ!
不断の努力と、輝く大志と、不撓不屈の決意があれば、人は限界など容易く超えられる」
「ヴァルゼライド閣下なら出来たぞ?」
「ヴァルゼライド閣下なら出来たぞ?」
「ヴァルゼライド閣下なら出来たぞ?」
ギルベルトは笑っている。
「そうだ……そうですよね。ハーヴィス中将」
そつ呟くと、メルビンはギルベルトの手を払い闇から立ち上がる。
「「ならば不可能なことなどこの世の何処にもありはしない!
ああ、素晴らしきかな人類よ。未来を目指して歩む限り、人の可能性は無限大なのだ!
すべては心一つなりッ!」」
そこにギルベルトは立っていなかった。
「そうだ、ヴァルゼライド閣下が迷うものか。
そうだ、俺は…背負い、掬う者。ありがとうございます。
ギルベルト・ハーヴィス中将」
メルビンは破竹の勢いでダンジョンアタックを繰り返し、
1週間と問わず報酬を全てのギルドに払い終えた。
その間も、傷つく者がいれば救い、助け、迷う者がいれば道を示す。
オラリオではついに、来ような言葉が連日会話に上げる。
『英雄を……光を見たと』