光の奴隷のダンジョン攻略


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作:影後
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光の奴隷と英傑


「くっ……」

 

「やっぱりだ、コールレイン。アンタの弱点は筋力の無さ。

アタシの様な重厚な一撃は難しいだろう」

 

「忌々しいな……フリュネ!」

 

メルビンの行動は一対の大戦斧を容易く弾いているように見えるが、打ち合う度に段々と後ろに押されていっている。

本来、星辰体感応奏者(エスペラント)たるメルビンは素の状態で星辰光を切り、新たに得たステータスという力のみでの戦闘だ。しかし、元々メルビンは技量と速度を優先した立ち回りをする柔の剣。さらに、星辰光による身体能力強化でありレベルは変わらず1のままなのだ。むしろ、上がる必要がない。

メルビンはエスペラントの身長能力で十分であったからだ。

そして、遂にフリュネの一撃がメルビンを壁へと吹き飛ばす。

 

「ぐつあ……」

 

木材があったのか、棒状の物がメルビンの脇腹に刺さっている。

フリュネ自身、殺すつもりがない為、助けるために近寄り始める。

 

「アンタはステータスを上げてこなかった。舐めてないね、アンタの事だ。神を使うことを厭わないと思っていたけどね」

 

「…純粋にレベルアップという謎の概念を信用できん。何故、強くなる?ステータスとはなんだ?所詮、神の作り出したシステムにすぎない。我々、エスペラントと変わらない。にも関わらず、エスペラントと相対する事ができるのは一握り」

 

「まぁ良いさ、アンタを倒せば」

 

「まだだ」

 

「あん?」

 

フリュネはソレを知っている。その言葉を。

その言葉の意味を。自分はその言葉を発する存在、英雄(破綻者)の部下だったのだから。

理解する、英雄がたかが腹に穴が空いている程度で倒れるはずがないと。

 

「……ぐっ……っぁあ!」

 

突き出た部分をへし折り、棒から腹を抜く。

一瞬にして血が溢れるが、メルビンはソレを無視しながらじっとフリュネを見つめる。

 

「フリュネ、お前も……英雄足らんとする者か」

 

「あんたらみたいな化け物じゃない。アタシは、ただ示すだけさ。女は強いってね」

 

「………ふっ…認めよう。

お前は、俺やヴァルゼライド閣下とは違うが、真に英雄だ。

仲間に希望の光を示す。確かな英雄だ」

 

「……嫌な予感がするんだよ。アンタのその言葉を聞いてると」

 

「だが、」

 

「うわ来た」

 

フリュネの顔があからさまに悪くなる。

ここからの未来を予想できたからだ。

 

「俺は!負けん!

ヴァルゼライド閣下ならこの程度で倒れはしない。

ヴァルゼライド閣下は立った。

ヴァルゼライド閣下ならできた!

なら、俺達凡人にできないはずがない!

そうだ、俺は勝つ!」

 

魔法なんてちゃちなものじゃない。

星辰光という科学の神秘の力ではない。

メルビン・コールレインという一人の男の火事場の馬鹿力。

そして、一人の人間の可能性。

 

「……まったく、英雄って奴は馬鹿げてるよ!」

 

「来い……フリュネ!」

 

「星辰光も使ってないってのに……どうしてこうも……輝いて見えるのかね!」

 

フリュネの双大戦斧がメルビンの頭上から振り下ろされる。

だが、今度はフリュネの顔が忌々しげに歪んでいく。

 

「やってらんないよ!アンタらは!まったく!」

 

メルビンが右腕たけでその攻撃を受け止めたのだ。

左腕に力を込め、フリュネに正拳突きを放つ。

 

「……ごほっ…ゲボゴホ」

 

「アーマーを砕いた程度?ありえん………俺の左腕を使い物にならなくする『覚悟』の一撃だぞ!」

 

「確かにねっ!アンタの……覚悟は強いよ。実際、胸の骨はたぶんボロボロさ。でもね、此方は立たなきゃならないんだよ。負けられねぇんだ!アタシは!」

 

フリュネは英雄の様に目覚めることはない。

それでも、火事場の馬鹿力には自信がある。

 

「くらいな!アタシの………本気の一撃を!」

 

「受けて立とう、この…メルビン・コールレインが!」

 

一本の剣と一対の大戦斧が何度も何度もぶつかり合い続け、火花が飛び散る。どちらも数打ちの品には変わりない。

だが、それでも戦闘の余波で街が破壊されていく。

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

「らぁぁぁぁ!!!」

 

2人の雄叫びが大気を震わせる。

そして、時は来た。

 

「コレで……終わりだぁぁぁぁ!!!!」

 

フリュネの大戦斧がメルビンの剣を破壊する。

 

「はぁ…はぁ……はぁ………じぬ」

 

「くっ…得物を破壊されては負けを認めねばならんか」

 

「なんで……負けた……方が……元気で」 

 

「鍛え方が足りん。ステータスという物にかまけた結果か?

いや、俺もステータスの有用性は理解した。コレが終わり次第、ヘラに頼むか」

 

「ゲホッ…ゲホッ……」

 

フリュネは勝ったには勝ったが、体力を使い果たしその場に大の字で寝転がる。

 

「見ていただろう、フリュネの回収を頼むぞ」

 

「……団長が……負けた?」

 

「俺が負けたのだ。まったく、部下に申し訳が立たん」

 

「ぞの……ずがだ……じね!」

 

メルビンは体力を使い果たしたフリュネが運ばれていくのを見送ると、静かにスタート地点に戻った。

負けたのだ。だが、何処となく心晴れやかなものだった。

力を使ってはいないとはいえ、メルビンの剣を壊したフリュネ。

 

「立て、英傑。傷ぐらいは治そう」

 

メルビンの星辰光が優しくフリュネの身体を包む。

死に体だったその肉体は回復し、激しい疲労が嘘のように治っていく。

 

「あんたら、メルビンに治してもらったが私はもう無理だ。

相討ちさね。良いね、大将首は二人とも居ないんだ。

後はやけに練度の高い奴等だけ!でもねぇ、負けんじゃないよ!女は強い、ぶっ潰してやりな!」

 

「「「おぉぉぉぉ!!!!」」」

 

歓楽街から上がるフリュネの仲間たちの声。

だが、メルビンも負けはしたが応援は忘れない。

 

「済まない、剣を折ってしまった。得物が破壊されては、演習では敗北だ。だが、一つ確実だ。フリュネも、否、彼女の仲間も我々と同じだ!仲間の為、家族の為、そして!自らの居場所を守る為に武器を取った!彼等は我々の先駆者だ!ならば!見せているやろうではないか!オラリオのゴミ溜めと蔑まれた我々が!

いかなる存在かを!」

 

「アドラー万歳!コールレイン隊長万歳!!」

「「アドラー万歳!コールレイン隊長万歳!!!」」

 

叫び声と共に剣戟や叫び声、悲鳴が大きくなっていく。

訓練では年間数名の死者が出ると言われている。

この演習も刃を潰してあるがその可能性はあるだろう。

 

「アタシらは先に行くよ。ついてきな、メルビン」

 

「了解だ、肩を貸そう」

 

そして、メルビンはフリュネの案内のもと歓楽街の支配者。

女神イシュタルと対面した。

 

「……ほぉ、ソナタがメルビン・コールレインか」

 

「美の女神イシュタル、此度の我々への支援。感謝致します」

 

「構わぬ、目が濁っていたのを思い出した。

そうか……人とは此処まで美しいものだったか」

 

イシュタルが見ているのはボロボロになりながら戦う2つの軍。

ファミリアではない、既に軍だ。

効率的に気絶させ、組織化された部隊が各地で戦闘を繰り広げている。イシュタルは愛、戦争、豊穣を司る古代メソポタミアの女神である。このほかに彼女は官能、生殖、神の法、政治権力も司るものとされており、シュメールで信仰された古き神の一人。

 

「女神イシュタルいえ…イナンナよ。

貴女の目に、彼等はいかが映りましょうか」

 

「……懐かしい名だ。そうだな、懐かしい。

美の女神など、名乗った覚えなど無かった。

私は、性愛と戦いの女神。そして……娼婦の守護神」

 

「お笑いだよな、アンタもアタシも…ただこの世界で使い潰される女が嫌だった。でも、オラリオに来てからアタシらは変わっちまった。権力闘争に明け暮れて、アタシは豚さ」

 

「………どこで、私は間違えたのだ」

 

「……さぁね、ソレにアンタだけじゃない。

アタシも、同罪さね」

 

 

 

更に1時間程すると最期の剣戟の音があった。

ソレはメルビンの右腕たるゲールマンとイシュタルファミリアのアマゾネスとの戦いだ。

 

「ありぁあ、リーゼじゃないか。あの小娘がねぇ」

 

「リーゼ?」

 

「アタシの……娘だよ」

 

「は?」

 

「アマゾネスだけど、孤児でね。拾ったのさ」

 

「母さんが帰ってきてくれたんだ……また!笑える日がくる!

だから……叔父さんはさっさと負けてよ!」

 

「いくら婦女子の頼みと言えど!

このオークル・ゲールマン!隊長の我等の光りの前で…

無様を晒すことなど出来ぬのだ!!」

 

「なっ…うそ」

 

ゲールマンはなんと、振るわれた刃を歯で受けた。

超人な顎の力でその後、鉄を噛み砕き己の拳でリーゼと呼ばれた少女を吹き飛ばす。

口の中の物を吐き出すと赤い唾も混ざっている。

 

「……私の勝ちだ!我々の……警備隊の勝利だ!!!」

 

「アンタの所には光が集まる。まるで閣下だよ」

 

「感謝するさ、さて部下を労わんとな。ついでに怪我人の治療もだ」

 

「逆だろうに」

 

軽口を言い合いながらもフリュネとメルビンは歩く。

イシュタルはその二人の装いを幻視した。

フリュネは顔は違うが、魂は同一だ。

そして、2人の先には類まれなる魂を持った一人の男が立っている。

 

「アレが、あの魂が………」

 

オラリオのどんな戦士よりも高潔にして、闇の入る隙間もない。

まさに『絶滅光』をまとった魂。

神でなければ魅力されただろう、人であれば心酔、羨望、それか

拒絶を見せるだろう『光』。

 

「……こんな男が世界には居るのか」

 

イシュタルは見た。

光に魅せられた奴隷と、光を羨望する女の姿を。

そして、古の女神だからこそ理解する。

 

『オラリオに激動の時代が来た事を』

 

 

 

 

 

 

 

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