「…警備隊の隊長様がなんのようだい」
「なに、神殺しをした帰りだ。部下達に差し入れを渡すと約束していてな。最高に美味い料理と言えばここだろう」
メルビンの発言にミアと店員達は言葉を失う。
オラリオで大罪とされる事を行った上に、ソレをサラリと言ってのけるのだ。気が狂っているとしか思えない。
「それで、英雄様の考えは?」
「なに、明日にこの都市中に俺の名は知れ渡り討伐隊が組まれるだろう。自己の利益しか考えない悪党達がな」
ミアはその言葉に呆れ返っている。メルビンは神殺しを後悔するどころか、自分がやった行動の一つとしか考えていない。
「家の店に不都合は?」
「もしかすると顔馴染の客が減るかもしれん。売上が減った場合は済まないとしか言えんな」
「殺すのかい?」
「カリストは街の住人さえ操り、俺を殺す為の刺客へと変えた。そして、その仇討ちに来るだろう者達は街の敵だ。俺は、街の、警備隊の隊長として仲間を、民間人を守る義務がある」
「……アンタ、考えたね」
「ほう、考えたとは?」
「アンタは正義さ、今回の件、その筋から知っててね。アタシから見ても神の方が悪だ。アンタ、この機会に間引くつもりだね。利口な奴等はこれから起こることに関与しないさ。でも、馬鹿どもは違う。アンタは……」
ミアはメルビンを見ていた、その心さえ見透かさんとし的確な答えを得ていたのだ。
「正解だ、だが俺の個人的な理由からではない」
「短い付き合いだけど、理解してるさ。一応、住人に伝えるべき事とかはあるかい?」
「……戦争だ、これから起こるのは人間同士が殺し合う戦争だ。悪神と、悪神の尖兵は死ぬだろう。だが、民間人に死傷者を出す気はない。家に閉じこもり、外に出るなと」
「伝えとくよ、ほら家の料理だ。冷めないうちに食いなよ」
「感謝する、ミア」
翌日、オラリオ中にメルビン・コールレインの名前が広がった。
神殺し、大罪人として。無論、ギルドはメルビンを召喚しようとしたが、メルビンはソレを拒否。逆にギルド代表の来訪を望んだ。
「……隊長、街は」
警備隊副長オークル・ゲールマンが地区の全体図を開きながら確認する。先方からの返答がない以上、警備隊は臨戦態勢を取らねばいけない状況だ。
「警備隊は常に市民の防衛と敵対者が出た場合、極力捕縛に努めろ。無論、自身また市民の命が脅かされるのなら、このメルビン・コールレインの名の下に殺害を許可する」
「了解です、屋上には狙撃兵も配置しています。無力化も一筋縄では、行きませんが……少なくとも我々警備隊が敗北する事はないでしょう」
警備隊の総勢は40名、大半がレベル3となっている。
何故ここまで強いのか、理由は簡単だ。メルビンがいるからだ。
メルビンのステータスバフと警備隊としての誇りを胸に抱いた彼等はそれぞれの主神を驚愕させ、オラリオの記録を踏みにじっている。だが、神の人形ではない。むしろ、ステータスがなくなろうと彼等は戦える。
「コールレイン隊長!ギルドからの使者が来ました」
「誰だ」
「ガネーシャ神です、ソレも護衛は確認できません」
それは会議中の警備隊メンバーをざわつかせた。
今現在、この場は敵地に等しいのだ。そこに使者とは言え護衛も付けず、単身で乗り込むなど馬鹿としか言いようがない。
「ガネーシャ神をお通ししろ、直接話す」
メルビンはガネーシャを警備隊の待合室に通す。
「俺が!ガネーシャだ!!」
「新区警備隊隊長、メルビン・コールレインです。かのガネーシャ神とお会いできて光栄だ」
メルビンの言葉に嘘はない、だからこそガネーシャは即座に腹を割って話すことを決めた。
「単刀直入に、神殺しは」
「真実だ、カリスト。美の三女神、アフロディーテに仕えたあの女神は俺の生命を狙った。暗殺者が三女神カリストであっただけである。少なくとも此方に非はない。むしろ、正当防衛かと思うが」
「うむ、嘘が今のところ何一つない!ガネーシャ、驚嘆!所で、オラリオと戦争をするつもりは?」
「…嘘を言ってもしょうがない。場合によっては」
「ほぉ、勝てると?」
「俺は元々軍人でな、単身で数百、数千の敵を殺せとあった。無論、成し遂げたがね。オラリオが…いや、俺を快く思わない存在に告げろ。此方は逃げも隠れもせん、生命を取られるかくごがあるなら来るが良い、全力で、お相手しようとな」
「……それが正義かお前の」
「俺の正義だ、お前達神ではない。人間による、人間の為の正義。そう……(俺はなるんだ
「なに?」
「既に根付いた物だ、取り払うのにも私の代では難しい上に、数多の民が苦しむ事になる、だから妥協するのだ。民を利用した悪神カリストに影響された悪神達でな」
「!」
理解した、ガネーシャは何故美の三女神たるカリストがメルビンを殺害しようとしたのかを。コレは危険だ、メルビンは人を魅力する光がある。人を導き、優しく包み込む光がある。
しかし、その光は敵対者となった瞬間まるで全てを飲み込む業火へと変わる。
「面白い……その魂、このガネーシャ。見届けたくなったぞ」
ガネーシャは『富の神』や『群衆の護り手』としても、オラリオで有名な存在である。ガネーシャは思った、この男の闘争の先ではどのような富が産まれるのかと。ガネーシャは感じた、この光を受けた民たちの行く末を。
「ガネーシャよ、貴方が群衆の味方であるなら守る為に協力して欲しい」
メルビンはガネーシャに手を伸ばす、ガネーシャはその手を取る危険性も理解している。ガネーシャのファミリアにも相談はない、自分の一存で全てが決める状況だ。ガネーシャはこの光を取りたい、だが彼にも守るものがある。
「ガネーシャ個人ならメルビン、お前の手を取りたい。だが、ファミリアがある。答えを、今日の深夜0時まで待ってほしい」
「了解した、では明日の朝までは停戦と言う事で」
「無論、もし破る物が居たならこのガネーシャの言葉を踏みにじったとして、我がファミリアが殲滅する」
メルビンはガネーシャに向かい敬礼する。
「…軍人か、メルビン」
「はい、普通は上官と国旗に対してだけですが…今は貴方にするべきだと。敬われるべき民だと感じました」
ガネーシャは微笑み、自らギルドへと歩いていった。
ソレをメルビンは見送り、静かに笑う。
「味方は増えた、ゲールマン。恐らく、ガネーシャは我々がコレからの戦争に勝利しない限り動けん、しかし」
「えぇ、ガネーシャ・ファミリアにはモンスターの調教技術もあります。今のところ、かのファミリアに所属している隊員はおりません。手を取り合えれば……」
「あぁ、必ずや我々の強い味方になる。第一彼等も群衆、つまり民を守護する者達であるはずだ。警備隊と手を取り合う事柄も増えるだろう」
「その為にも、明日からですな」
「そうだ、明日。時代が動くぞ」
メルビンとゲールマンはメルビンの執務室へと向かう。
そこには赤と黒は無くとも、メルビンが心からの忠義を誓った紋章を流用し、改変したものがある。かの鷲とAが重なり合ったような紋章、そこにメルビンもゲールマンも敬礼を行う。
「…我々が勝利したが決定した時、スラムと言う無名誉な名前は捨てよう」
「えぇ、隊長の故郷からつけさせて頂きましたが……見てみたいものです」
「ゲールマン、警備隊各員に連絡。装備の点検と休養をするように、明日に備えるぞ」