「……間に合わなかったか」
「女帝か、安心しろ。クリスは無事だ」
メルビンは何事もなかったかのように話すが、女帝の顔は険しいものである。
「ヘラ、此処に」
「殺したわね、女神を」
ヘラの言葉に女帝は驚くが、目の前の男。メルビンの事を考えれば納得がいく。女帝もマキシムとの戦闘を目にしたさい、理解した。メルビンは自分達の理解が及ばない範疇の存在であり、クリスはそれに至っている。メルビンは片足を入れていると。
「カリスト、三美神だったか。
操られ、傷付いた無垢なる民達へ報いるには
「そうね…
「ほぉ、ヘラ。お前は善人だな、何度裏切られてもその愛を捨てていない。ヒステリー体質も、ゼウスの本質を理解してからは消えている。今のお前は正に神々の女王だ」
「御託は良い、メルビン。神殺しは大罪だぞ」
「そうか、だが俺は進もう!何故か?俺が正義だからだ!悪とは弱者を踏み躙り、弱者を傷つける者の事を言う!俺は、ヴァルゼライド閣下と同じだ。閣下は常に何処か誰かの英雄であった!ならば、今の俺も閣下と同じくして歩もう!俺の正義に従い、数多の敵を討ち滅ぼそう!弱者を一人残らず守り、新たなステージへと導こう!」
メルビンの立ち振舞、言葉、全てが人間にとって弱者にとって素晴らしい物だった。事実、メルビンはその言葉通りの事をやってのけた。スラムの住人を何もできない存在から一週間で強固な警察組織を有する優れた存在へと格上げしたのだ。
子供すら読み書きを行え、情操教育も施され、犯罪への意識、命の尊さ、そして一人一人がメルビンという
ヘラにとっても異母娘にあたるアストレアはメルビンを正義とは認めたが、自身の掲げる正義とは違うものとかつて話していた。
「お前達は光を与えるものを選別する。そのくせに、自分勝手に悪に生きる者達をどうにかしようとする」
それは英雄の掲げる言葉、光を知るものにはより澄み渡り、光を知らぬ者へは新たな光への渇望を与える言葉。
「俺は違う!悪に堕ちた者は始めから悪なのだ!」
「それは」
「自らの欲望の為に生きているからこそ、喜び、また新たな罪過を増やす。救えないのなら殺せばいい、始めから悪な存在など必要ない!」
「なら、環境が、堕ちるしか無かった者達は!お前のスラムの」
「女帝よ!俺はその行動でソレを示したぞ!環境により悪に堕ちたのなら、掬い上げ、光を見せよう!その環境を破戒し、臨むべき環境を整えよう!俺はそれが出来た!凡人である俺にだ。そう、つまり神とは本来不要であり無用の長物。神という存在が新たな確執を生み出し、新たな被害を呼んだのだ。だが、ソレを排斥する事は既に叶わない」
そして、メルビンは告げた。それは神を敬う心などない。
今を生きる者達への言葉だ。
「神の、ステータスのシステム。ソレさえあれば良い。神を人間が管理する。ならば、悪神は生まれない」
「バカな!そんな事は」
「無論、しないさ。コレを行えるのは心ない無情な存在。私には心がある。例え、『目的の為とはいえ…そのような事は出来ない』『それは苦しく、酷く辛い事だ』」
「……メルビン……お前は」
「やはり、ヘラ。我が主神に嘘はつけんか」
ヘラの驚愕する表情とメルビンの微笑む表情に周囲は警戒する。
メルビンは普段と何も変わらない。
「お前は……お前は出来るな。神だろうと、お前のそのシステムに組み込むことを厭わない!そのくせに……最後の言葉!アレに何一つ嘘はない!」
「……当たり前だ。俺が仕えたヴァルゼライド閣下に俺は大切な姉を殺された。とても悲しい出来事だ」
「…何故、何故家族が殺されてお前は怒りが」
「湧くわけがない!ヴァルゼライド閣下は世界の為に、俺の祖国の為に姉を殺したのだ!そうだとも、英雄譚の犠牲となる。それは酷く悲しい事だ。嗚呼、その通り。しかし、ヴァルゼライド閣下の礎となれるのだ。何故?ヴァルゼライド閣下を恨む必要がある」
ヘラは困惑した。コレが英雄に魅せられた英雄かと。
カリストが何故襲撃したのかがよくわかる、危険すぎる。
「お前は」
「だからこそだ、主神ヘラ。お前が正義であるのなら、俺の手を取れ。世界へ羽撃くのはまだ難しいが、せめてこの都市を変えよう。新たな世代のため、新たな生命のため、未来に生きる者達へ今の世代ができることをしよう」
それは神をも魅力する言葉、普通の人間であれば
「よせ……メルビン・コールレイン」
「無理よ、止めなさい」
「女帝と主神にそう言われたのでは、仕方ないな。事実、戦力が足りない。〘まだ〙どうすることも出来んさ」
メルビンは肩を竦めるが、女帝もヘラも理解している。メルビンは〘まだ〙と言ったのだ。きっとその時が来ればメルビンはソレを行うだろう。正義の名の下に断罪をし、全てを救わんと殺戮を繰り広げるだろう。しかし、誰もが認める英雄となる。そう、ヘラも、アストレアも認める。メルビンは正義なのだ。苛烈であり、影すら消さんとする極光なのだから。
「クリスが起きたら俺の拠点に向かうように話してほしい」
「何故?」
「その力の使い方、戦い方を身を以て知ってもらうのだ」
その言葉に女帝は違和感を覚える、何処か忌々しく、だが心から微笑んでいるという歪んだ顔をしていたからだ。
「クリスは強い、今のままで」
「駄目だ!強いだと?それでは駄目なのだ!クリスティーナ・ヴァルゼライドは英雄だ!英雄になる定なのだ!それが、それが私に負けたのだ。英雄とは常に勝利し続けなければいけない。英雄に敗北はない!敗北しても、必ず立ち上がり勝利する!それが英雄なのだ!」
「……まさか、クリスがお前に負けたからか」
「そうだ、クリスは負けてはいけない。いずれ、オラリオの、人類の頂点になり世界を導く存在になるだろう」
「……狂ってる」
女帝は思わずそう言ってしまう、まるで自分がクリスに倒されることを望んているかのように。そう思えてしまう。
「狂ってなど居ない、クリスが共に歩むならクリスには私を支えて貰おうかとも感じた。しかし、彼女は英雄だ。英雄は誰の下にも付くことはない。もし、付くとしたら英雄の恪の違いを知らしめられた時のみ。彼女はまだ、自身の格を気づいていないのだ」
メルビンは話し終えたとばかりに立ち去ろうとする。
「神殺し、オラリオ中が敵になるぞ」
「ならば俺はソレを打ち倒そう、俺の正義の邪魔をする悪達を」
「……メルビン、もし抗争になれば我々は手を出せない」
「構わんさ、我が主神ヘラ。お前は仲間を守る義務がある。元々、教員として以外頼っていないしな」
「メルビン、スラムは」
「…なに、英雄の背中を見せれば良いのさ。俺はワンマンアーミー。元よりたった一人の軍隊とも呼ばれていた。オラリオで、俺に対峙できるのは女帝、貴女か…我が宿敵か、クリスだけだ」