「だから、お前はなんの為にそこまで金に執着するのだ!」
「我が主神たるヘラよ、コレは俺の正義に準じているものだ」
女帝達は既にファミリアに出入りする男、メルビンには慣れた。
覗き対策、資金稼ぎ、調理人、メルビンは才能は凡人レベルだが、努力を怠った事はない。
軍の仲間との打ち上げには手料理を披露した事も何度もある。
仕事は知らないが、戦い方は知っている。
「願いがある。ヘラ、貴方が信頼できる神はいるか?」
「何を」
「スラムを潰す、俺はあの様な無秩序を享受できない。オラリオにいる間位、せめて一人の大人として、軍人として秩序を作りたい」
「は?」
事実、そこからの動きは速かった。
あり得ないことにメルビンはへラ・ファミリアだけでなく、マキシム達、ゼウス・ファミリアも巻き込んでオラリオのスラム街を改革していったのだ。歯向かう物を痛めつけ、武力による秩序を一晩にして作り出し、無垢な子供は保護し学びを与える。
この秩序ができるまで1週間とかかっていない。
「駄目だな、ヴァルゼライド閣下ならより効率的にできただろうに」
「効率的ね」
「……コレが、絶対的な正義」
「英雄って奴は……あまりにも」
それは正義の女神アストレアと行商と旅人の神であるヘルメスである。だが、二人の反応は真逆の物だった。
「素晴らしい、素晴らしいぞ。メルビン・コールレイン。たった1週間で秩序と統制を生み出し、スラム街を街へと変えた。あぁ、コレこそが英雄の英雄たる由縁」
「……貴方の正義は過激すぎる、貴方に歯向かった者達はどうなったかしら。えぇ、確かに生きてはいるでしょう。でも、」
そう、いきなり現れたメルビンにスラム街の元締め達は反逆した。無論、スラム街という闇を利用した者達もだ。だが、メルビンはその者たちに対する慈悲など持ち合わせてはいない。
「死んだ、遺体すら遺さずな」
メルビンの極光により、悪という悪は一晩にして遺体も、血の一滴すら残すことなく消失した。汚職に関わっている者達もいるだろう、利用する者達もいるだろう。なら、『金輪際、現れない様にすればいい』
「膿を消毒しなければ傷は広がる、膿をどうにかしなければ細菌に入られ、悪化する。ならば、俺が消毒すればいい」
「……狂っているわ」
「狂っている?違うな!正義とは!光とは!ヴァルゼライド閣下の歩んだ軌跡。私はその軌跡の邪魔する小石を排除する役。小石は悪である、その場にあるだけで誰かが躓き怪我をするかもしれん」
「でも、その小石が最初から存在したとすれば?貴方はその小石をただ邪魔だからと投げ捨て、全てを」
「良いや、違うぞ女神アストレア。俺は投げ捨てていない、小石を消滅させ、小石を拾っているのだ」
「え?」
「殺す時、俺は相手の魂を感じてみる。俺が殺す相手は明確な敵のみ。ただ光を渇望する者達、闇からの救いを求める者達ならば俺は手の差し伸べその道を示す。事実、このスラム街の者達にはそうしてきたのだ」
「そんな……そんなの」
「コレが真の英雄というものか……私達が生み出す英雄ではない。なんという事だ……素晴らしい…素晴らしいぞ。英雄とは、破綻者の事であったか」
メルビンの言葉は、人間ができることではない。
全てを拾い上げはしない、取捨選択をする。それは良い。
だが、求められたら救い、求められる者達に導きを与える。
神々のように傲慢であり、まともな人間なら行えない感性。
しかし、この男は1週間でやってのけた、悪からの救いを、光への渇望を、そのすべてをその身に受け、スラム街の住人の英雄となったのだ。
「……それで、なぜ私とヘルメスが」
「お前達がまともな部類だからだ。簡単だ、此処にいる全員にステータスとやらを刻め」
「おいおい、さすがにソレは」
「問題ない、既に話は通している。軍には徴兵という物がある。最低限力を持ってもらわねば家族は愚か、住む場所も守れん」
「……まじで何したんだお前」
「英雄という光を見せた、ソレだけだ」
「……それで、此処に居る者達は全員が」
「違う、アストレア、ヘルメス、スラムの全員に刻んでもらう。無論、ゼウスのヘラにも協力は頼んである」
「そんな、子供も」
「情操教育と規則と秩序、生きていけるだけの技術知識。
いずれは独り立ちもするだろう、その為の物がある。だが大人は違う。男も女も問わず、働かない穀潰しなど必要ない。子供を虐待し、捨てる親など必要ない。俺はソイツらを全て断罪し、意識を改めてもらった。此処に居るのは俺と同じ、その凡人達だ」
過激な言葉も英雄の言葉となれば心地が良い。
だからこそ、アストレアは恐怖する。メルビンという英雄に。
そして、そんな
「さて、速くしてもらおうか。金なら払う、無論お前達のファミリアとなればこの者達は貴様らの定めた分は必ずファミリアに収めるだろう」
「死んだら?戦った事もない子が居るのよ!なら」
「人間は戦える、
「はい、私達は誰かの保護下にあるべきではない。その為には力がいる。知識がいる。私達はこのスラムの秩序となる為に此処にいます。アストレア様、ヘルメス様、どうか我々に祝福を」
見窄らしい女が跪き、それに続くように見窄らしい者達が跪く。
ヘルメスは頷き、アストレアの返事を待つ。
「この子らは自分で選択しているんだぞ、アストレア?」
「わかりました、私の、アストレアの眷属と成りたい者達。此処に」
元々、アストレア・ファミリアは女性だけのファミリアである為、
メルビンは事前に女性の志願者を募っていた。そして、6名の女性がアストレアの眷属となるべく、志願した。
「私も、メルビン様の様に正義を成したいんです!」
アストレアは複雑そうな顔をしながらも眷属を迎え入れた。
「子供は12歳までは孤児院だ、12歳になる年また、お前達に手伝って貰うことになるだろう」
「……なぁ、英雄よ。その子供達の教師役は」
「私、女帝、マキシム、クリス、ヘラが務める。ヘラはゼウスの様な子を作らん為に全力を尽くすと誓っているぞ」
「……英雄に憧れる者が増えるか」
大人の大半がゼウス、ヘラ、ヘルメスに加入しアストレアに加入したのは6名。しかし、反発した者も居た。しかし、英雄は常に手を差し伸べるのだ。
「屑など世界には、必要ない」
「お前は…お前は戦えない者なんて考えて」
男は右腕がない、だから何もせずにいた。金もなく、家族もなく、生きる目的も意味もない。襤褸布を纏いただスラムの路地裏に居た。
「ならば、戦えれば動くのか」
「当たり前だ!俺は強い、俺は……俺も……」
男は元は冒険者であった、しかし仲間に裏切られ見捨てられ、折れてしまった。利き腕たる右腕をモンスターに食いちぎられ、命からがら戻っても腫れ物扱い。
「そうか」
メルビンは剣を男に投げ渡す。
「なんだよ……俺に…そうだよ、俺みたいな穀潰しは死んだほうがマシなんだろ!」
そして、自身の持つウダイオスの剣を振り下ろした。
「何しやがる!」
だが、男は剣を持ちメルビンが振り降ろした剣を受け止める。
「今お前は諦めただろう、何故剣を持ち、俺の一撃を受け止めた」
「んなの」
そう、生きる為だ。本当に死にたいのなら今の一撃を受け入れるだけで済んだのだ。
「お前には生きると言う強い意志がある、生きたいと言う望みがある。お前はまだ折れてはいない、まだ渇望があるだろう」
「……違う、俺は」
「立て、お前に意味を与える。お前への義務を与える」
「……なんだよ……アンタは」
「俺もスラムで生まれた、裏切られ、殺されかけた事すらある。だが、その経験すら今の俺を構築するファクターでしかない。お前はどうだ。俺はこの一撃を、少なくともお前を殺すつもりで放ったぞ。しかし、お前は左腕一つで受け止めた。俺の手を取れ、
「アンタは……俺を必要としてくれるのか?」
「俺だけではない、コレからのスラムはいや…この街はお前を必要とするだろう」
「…あぁ」
男にとってとても心地が良い言葉の羅列、しかし理解できる。
この
「…貴方の、貴方様のお名前を」
男はこの日、仕えるべき光にであった。かつてのメルビンと同じように自分を変えた英雄を見たのだ。
「メルビン・コールレインだ。お前の名前は」
「俺は……いえ、私はゲールマン。オークル・ゲールマン」
「そうか、ゲールマン。立て、改革はまだ終わっていない」
「はっ!」
絶滅光ではない、極光しかしその在り方は確かに
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「全体、止まれ!コールレイン隊長に敬礼!」
一ヶ月、メルビンがオラリオに現れて一ヶ月でスラムは元の姿を失った。子供達は笑顔で整った服装をし、大人達はダンジョンアタックや農業、被服となれないながら作業している。
誰一人、朝から飲んだくれる者や、戦えないと言う者達は居ない。
「ゲールマン、地区の警備御苦労。私はコレよりヘラの下に向かう」
「ハッ!」
そこに荒んだ目をした男は居ない。身形は整えられ、40代ながら優れた筋肉が服の上からも理解できる。片腕ながらサーベルを左に挿し、常に臨戦態勢を取れる男。
「アルベルト、マリアンヌ、メーシー、お前達も感謝する。警備隊の勤務は辛いだろう。簡単な差し入れを後で詰め所に入れる。酒は無理だが、他で楽しんでくれ」
メルビンがそう言い立ち去るとゲールマンの後ろにいた3人が次々に口を開く。
「隊長は隊員一人一人の名前を覚えてる、マジだったんだ」
「当たり前よ、隊長は別格だもの」
「でも、ソレは全て努力による物。私達も努力すれば隊長に届く」
「そうだ、だがオーバーワークはよせ。死んでしまったら元も子もない。ダンジョンアタックには気を付けろよ」
「わかってます、ゲールマン教官。でも…憧れます」
「えぇ、英雄。とても素晴らしい人ですもの」
「隊長が居てくれる、いや隊長は居なくなっても私達は変わらない。隊長が遺した軌跡を継ぐものは現れる」
「おいおい、隊長がダンジョンで死ぬと思うのか?オラリオ最強と相討ちなお人だ。必ず帰還する、我等の下にな」
メルビンの光は伝染し、スラムは活気あふれる都市となる。
スラムの者達は同じ主神に祝福を受けた者も居るが、皆本質は街のため。スラムを二度と腐った街にしないために動くのだ。
スラムに自己を優先する存在はいない、皆がスラムの為に動くのだ。