嫉妬の冒険譚


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作:凪 瀬
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31話 成長限界と初めての『冒険』後編


 

 膝裏を貫かれ倒れ込む小竜から一度離れ、完全に崩れ落ちたことを確認してから、折りたたまれた右後ろ足を足場に背中へと駆け上がる。

 微かに突起した鱗や背骨へ爪先を引っ掛けながら、長く伸びる首と胴体の根元目指して加速する。

 無論、小竜もやられっぱなしという訳でもない。背中を駆けるズィーヤを振り落とさんと体を左右へと揺らす。

 小竜自身からすれば軽く揺さぶる程度の動きであろうと、その巨躯から放たれる揺さぶりは背中を走るズィーヤを振り落としかねない強力な地震となる。

 

「くっ……!暴れ牛もビックリだなクソッタレ!」

 

 悪態をつきながら、背中の比較的柔らかい部位に長槍を突き刺して揺さぶりから耐える。

 落ちる気配がないどころか槍を突き刺してくるズィーヤに苛立ちは重なり、負傷した右側に一回転する。

 

「うっおあっ!?」

 

 小竜の横転によって槍は引き抜かれ、耐え忍んでいたズィーヤも放り投げられてしまう。

 ようやく下手人の姿を視界に収めた小竜は苛立ちをぶつけるように無事な右前足を持って踏み潰さんとする。

 前足が持ち上げられたことで何をするつもりか察したズィーヤは小竜の懐に向けて全力で走り込む。想定以上の速度で振り下ろされる巨大な足は風圧によってズィーヤを吹き飛ばし、体制を崩させる。

 懐に入られてしまい四肢によって追撃することができないことを理解した小竜は、四足全てから力を抜き、圧倒的な質量を持って押し潰すことにした。

 

「っ『歪め』ぇ!!」

 

 体勢が崩れ、このままでは押し潰しを回避できないため、外套の内側に備えておいた泥玉を放り投げスキルによって回避するための追い風へと変える。

 魔法によって生み出された風と小竜の押し潰しによって発生した風に転がされながらも何とか回避に成功したズィーヤ。

 しかし、状況は好転しておらず、寧ろ、距離を離されたことによって小竜は自身の持つ質量という武器を十全に発揮できるズィーヤにとって不利な状況となってしまった。

 

「……『歪め』」

 

 長槍の形が歪み、厚みを持った両刃を備えた両手斧へと姿を変える。

 開いてしまった距離を積めるように一直線に加速し、小竜の踏みつけによって隆起した地面を足場に跳躍。

 加速と跳躍による飛翔の中、体を限界まで捻じらせ両手で握った斧を引き絞る。目の前に広がる小竜の首へ目掛けて横一文字の一閃を叩きつける。

 

「グオォッ!」

 

「ちっ!(あせ)ぇか!」

 

 ズィーヤの渾身の一撃は小竜の鱗を突き破り、肉を裂いて一文字の傷をつけることに成功したが、そこから流れる血の量や小竜が上げる鳴き声の小ささから大きなダメージになっていないことを察する。

 攻撃の反動で首に激突することは避けたものの、勢いの無くなったズィーヤは地面へ向けて落下していく。

 そんな無防備なズィーヤを見逃す小竜ではなく、その長い首を落下中のズィーヤに向けて振るい叩きつける。

 

「ぐぅっ!」

 

 視界にいなかったためかズィーヤの少し下を薙ぎ払う形で小竜の首が振るわれ、その勢いに巻き込まれて横へ吹き飛ばされそうになる。

 真下を通り抜ける首へ一矢報いようと上から斧を叩きつけ、その反動で上へと上昇することで横への吹き飛ばしを軽減する。

 そして元の位置に戻る小竜の首を伝う形で駆け下り、再度小竜の背中へ着地する。今度は、首の根元に立つことが出来た。

 

「おっ、ら゙あぁ!」

 

 背筋を限界まで反らし、重力という自然界の助けを借りて、気合いの声とともに叩きつけられた斧の一撃は鱗を砕き、筋肉を幾度も裂きながら体内へと痛烈な一撃を与える。

 

「グギャアァァァ!!」

 

 生物の急所である首元を無抵抗に傷つけられ、流石の小竜と言えども悲痛な叫びを抑えられない。

 しかし、即座に痛みを怒りへ変えて自身を傷つけたズィーヤへ向けて本能に裏打ちされた凶暴な殺意を向ける。

 首の傷から血が溢れるのもお構い無しに体を揺らし、ズィーヤを背中から落とす。

 あまりの暴れように耐えられずズィーヤが地面に振り落とされるのを確認すると、巨大な足を使い階層を抜きかねないほど乱暴に連続で地面を踏みつける。

 できるだけ距離をとらないようズィーヤも避けるが、ズィーヤという個ではなく、いるであろう面を潰す小竜の地団駄を避けるのは非常に難しい。

 足の届かない懐に入ろうにも、定期的に膝を折りたたみ腹による押し潰しも行うため、下手に入り込めばダンジョンの染みが1つ増えることになるだろう。

 

「チッ、無駄に知恵の回るトカゲだなぁ!」

 

 前後左右へ移動しながら無差別に破壊し尽くす小竜だったが、一箇所だけ小竜から距離を取らず、地団駄も押し潰しも回避できる空間があった。

 小竜の正面。突進されてしまえば横に避けることは難しく首を伸ばせば薙ぎ払い、口を開けば噛み砕けてしまう距離。

 確かに足も届かず腹部の押し潰しも有り得ない場所であるが、横や後ろへ回り込み距離を取った方が安全だろう。実際、これだけ暴れられてしまえば、距離が云々など瑣瑣末な事だ。

 だが、小竜の勢いは収まらず、砕けた岩や土、立ち上る土煙などが容赦なくズィーヤを襲い、掠った額を裂いて血を流させる。

 悠長に思考する時間さえもズィーヤには残されていない。

 

「(コイツの思惑通りってのは気に食わねぇが、下手に悩んでいられない。一か八か、やってやろうじゃねぇか!!)」

 

 地面に槍を突き刺し棒高跳びの要領で前へ飛ぶ。

 しなる槍からピシピシと嫌な音を聴きながら暴れる小竜の足元を抜き去り、小竜によって生み出された空間に躍りでる。

 

「『歪め』!」

 

 本来想定していない動きによってヒビの入った槍をリュックから取り出した泥玉によって補強し、より苛烈になる小竜との戦いに備える。

 暴れていた小竜も正面にズィーヤが出たと気づくや否や、その巨大な(あぎと)を開きズィーヤの矮小な身体をを噛み砕かんとする。

 

「ンな見え見えの攻撃に当たると思ってんのか、バカがよォ!!」

 

 落ちてくる顎を横へ回るように避け、回転の勢いをそのまま武器へと伝える。

 

「『歪め』」

 

 補強された泥の槍は振り切る瞬間に巨大なハンマーに変わり、回転による勢いの乗ったやや楕円を描くハンマーが小竜の横顔を撃ち抜く。

 

「グゴォォン!?」

 

「はっはぁ!所詮はちょっとずる賢いだけのトカゲかぁ?!」

 

 振り抜いた勢いのまま前へ駆け出し、吹き飛んだ小竜の頭部を追いかける。

 鱗が剥がれ、口の隙間から覗く牙にヒビが入っているのを確認して、もう一度横顔を狙ってハンマーを振りかぶる。

 

「グォォ!!」

 

「なっ!?ぐっっ!!」

 

 しかし、捻る事で無防備になったズィーヤの胴体めがけて小竜は頭突きをお見舞する。

 魔物の持つ身体能力をもってすれば、勢いの乗せられなかった頭突きであろうと飛び込んでくる冒険者の体を吹き飛ばすことは容易だ。

 狙われた横顔をそのまま突き出す形で放たれた頭突きはズィーヤを吹き飛ばし、追撃を抑えることは出来たものの、衝撃によってヒビの入っていた牙が折れてしまった。

 

「あ〜、クソッタレ。もうちっと混乱してるもんだと思ったんだが……まぁ、いい」

 

「ガッ!……グォォォ……!」

 

 ズィーヤは体を捻り痛みがないことを確認し、小竜は口の中に転がる牙を吐き出す。

 戦況はズィーヤが優勢に進んでいる。

 体に土や埃など汚れをつけながらも傷のないズィーヤと、距離こそ取れたものの横顔の鱗がヒビ割れ、牙も一本折れている。更に、首元からは血が溢れている状態の小竜。

 もっとも、これらの損傷は小竜にとっては致命傷には程遠く、無防備に小竜の一撃食らってしまえば致命傷となるズィーヤと比較すれば、戦況はようやく対等と言った程度だ。

 先に駆け出したのは小竜だった。

 巨体に見合わぬ速度を持った突進はズィーヤとの距離を一瞬にして詰め、地面スレスレまで下げた頭部によって懐への逃げ道を無くす。強靭な鱗を持ち、鍛えられた筋肉を持つ小竜だからこそできる致命の突進。

 対するズィーヤは上半身を捻り上げながら、肩に担いだハンマーを振りかぶる。背筋や肩の筋肉がミシミシと音を立てる中で小竜から決して目を逸らさないよう睨みつける。

 小竜の首が伸び切り、ズィーヤの胴体へ頭部を叩きつける刹那、限界まで溜められたハンマーが小竜の頭部へ叩きつけられる。

 首を伸ばし切り、地面との距離もなかった小竜の頭は勢いよく地面へとめり込み放射線状の亀裂を起こす。

 ハンマーの直撃した頭頂部の鱗は砕かれ、皮膚の下で赤く滲んだ筋肉がまろびでる。

 

「『歪め』」

 

 鱗の破片がこべり着いたハンマーを一般的なものよりも刃の長い長剣へと切り替える。

 脳を強く揺さぶられ、視界の点滅する小竜の垂れ下がった首を駆け上がり、血こそ止まったものの鱗の下、皮膚の下で隆起する筋肉を顕にする傷口へ刃を構える。

 

「これで、終わりだ」

 

 緩やかに振り上げられた長剣は、自重と重力によって加速し、振り下ろす瞬間に込められたズィーヤの体重と手首の返しによって最高速へと到達する。

 残像さえ残す速度の中で、一切のブレなく小竜の傷口へ振り下ろされた一撃は、無事だった筋肉も砕けなかった骨も断つことのできなかった鱗も、全てを両断して小竜の首を落とす。

 断末魔をあげることも無く、混濁した意識の中で首を断たれた小竜は瞼を閉じると共に灰に変わり、巨大な魔石と傷一つ無い真っ白な牙となった。

 

「…………勝った」

 

 長剣を振り切ったまま、噛み締めるように呟く。

 ハラハラと灰が舞い落ちる中で、ゆっくりと顔を上げて周囲を見回す。

 小竜との激戦によって砕けた地面や瓦礫と化した大岩、倒木した自然武器など、周辺だけを見て階層を破壊し尽くしたと言われても信じてしまいかねない惨状の中心で立ち尽くす。

 

「……勝った」

 

 小竜にトドメとなる一閃を加えた長剣を見て、滴る血が自身の勝利を実感させる。

 

「勝った」

 

 痛みを訴えながらも、致命傷となる傷もなく、五体満足で立つ己の体を見下ろして、空の手で足元の魔石を拾う。

 独特の虹彩を放つ魔石は、これまでズィーヤの手にした中って最も大きく、最も鮮明に輝いて見えた。

 

「ッしゃあぁぁぁぁ!!!!!」

 

 長剣を放り投げ、渾身のガッツポーズを決める。

 勝利の喜びは歓喜の絶叫とともに11階層へ響き渡り、戦場から離れていた魔物達の体を震わせる。

 絶叫しても収まることのない喜びのままに哄笑を上げ陥没した地面へと倒れ込む。

 舞い上がった灰が体を汚すが、勝利の余韻に浸るズィーヤにとっては全くの些事だった。

 こうして、ズィーヤの行う初めての『冒険』は完全勝利に終わり、ダンジョンには似合わない喜色に塗れた笑い声が、暫くの間響き続けるのだった。

 

 

 

「ふぅ……さてどうするか」

 

 目的だったインファント・ドラゴンの討伐はできた。極大の喜びは過ぎ去ったとはいえ、未だに喜びは胸中で疼きまくっており、今すぐにでも踊り出してしまいたい気分だ。

 だが、まだまだ危険なダンジョンの中。今は小竜との戦いで周囲の魔物は居ないが、それがいつまで持つかは分からない。

 落ち着いて思考できる今のうちに、これからの予定を考える必要がある。

 

「と、言いつつも……もう予定は決まってるんだよな」

 

 地面に投げおいた長剣を握り、陥没した地面から這い上がる。

 

「感覚でわかる。俺はステイタスを更新したらランクアップしてるだろう」

 

 周りを見れば、怖いもの見たさか好奇心か、あるいは飛躍した警戒心か魔物達が荒野を遠巻きに眺めている。

 誘引したことによって、数えるのも面倒くさい数の魔物が這い上がってきた俺に無粋な視線を向けてくる。

 

「だが、俺は魔法以外のステイタスが成長限界になっていない。それは、ちょっと勿体なくないか?」

 

 外套の内ポケットを撫で、泥玉のストックを確認。5つ。小竜との戦いじゃあ想定よりも使うことがなかったからな。

 背中のリュックは小竜に吹き飛ばされた際に破れた箇所こそあれど、敷いておいたクッションのおかげで中身は無事なようだ。ポーションも殆ど無事。

 手元の長剣は泥色の光沢と共に鋭利な刃を唸らせ、肉を裂き骨を断つ激戦を求めている。

 長剣を半身に隠しつつ、魔物達へ嘲笑と共に手を煽る。

 表情の意味も行動の意図も魔物達には理解できないだろう。だが、自分達が舐められ、挑発を受けていることは理解したのか、俄に殺気立つ。

 

「おら、来いよ経験値ども。俺のステイタスの為に死んでいけ」

 

 次の『冒険』は、終わりの見えない魔物達との連戦と行こうかっ!!

 

 

 

 それは、戦闘と言うにはあまりに一方的であり、狩りと言うには荒々しく、形容するならば悪夢の如き殺戮だった。

 

「おらァ!どうした畜生共がっ!所詮は知能の足りねぇ獣かァ?!俺に一発でも当ててみろよ愚図共がっ!」

 

 一般の冒険者であれば物量に押され挽肉となって死ぬ複数の魔物による攻撃も、距離を詰めたり逆に離したり、攻撃線上に他の魔物を誘導して同士討ちさせたり攻撃や回避の邪魔をさせたりと立ち回ることで常に優位に立ち回る。

 

(のろ)(のろ)い!そんなんで攻撃って言えんのかよっ!?散歩かと思っちまったよ!クソトカゲ!」

 

 ごった返す魔物達の足元を高速で転がるトカゲ型の魔物は不自然に崩れ落ちる魔物から判断して横へ避け、追撃として槍の一突きをお見舞する。

 

「木偶は何やっても木偶だなぁ!?デケェ、遅せぇ、弱ぇ、そんで味方の邪魔しかしねぇ!お前が敵で良かったよ!豚野郎!」

 

 巨体による高威力の一撃を得意とするオークはその予備動作の大きさから距離を詰め、首に一閃いれ殺すと共に、灰に変わる前の死体を盾にする。

 

「その筋肉は飾りかよカス猿がよ!なんだ?こんなに叫んでる俺も見つけられねぇのかぁ!?だったら死んでろよォ!」

 

 機動力と発達した筋肉から繰り出される徒手空拳が脅威であるシルバーバックは、機動力の源となる健をいの一番に切り裂かれ、本来の機動力をも超える速度で動き回るズィーヤに翻弄され、その姿を見ることがないまま首を落とされた。

 

「ブンブン、ブンブン鬱陶しいんだよ小蠅共っ!『歪め』!そんで焼け死ね!」

 

 ズィーヤからの攻撃が届かない高所では、バッドバットやインプ達がデバフや遠距離攻撃を行おうとするも密集した箇所を狙って投げられた泥玉が極大の爆炎に変わり魔石も残さず灰となった。

 

「おらぁ!どうした?!かかって来やがれ○○○(ピーー)共っ!」

 

 ズィーヤの名誉の為に言及するのであれば、彼は小竜との戦いによって本人が自覚しているよりも脳への疲労が蓄積され、更に一瞬の隙が自身を轢き殺しかねない数の魔物たちとの連戦によってより精神へ強い負荷をかけられている状態だ。

 言うなれば、徹夜明けに新しい仕事が降って湧いたせいでもう一徹する必要が出てきた時のようなものだ。

 これによって今の彼は非常に口が悪い。元々魔物や悪人といったズィーヤにとって容赦する必要がない存在に対して口が悪くはあるのだが、疲労が輪をかけて酷くなっている。

 11階層には、魔物達の怒号と断末魔、そして豊富な語彙による罵詈雑言が響き渡っていた。




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