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なぜメディアは「韓国でコメを買う日本人観光客が急増」と伝えたのか

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
写真:イメージマート

韓国で、コメの値段が日本の半額のため、韓国でコメを購入して帰る日本人観光客が急増している、と、2025年4月15日付でTBSが報じており(1)、Yahoo!に転載された記事には4月19日時点でコメントが1673件書かれている(2)。

この記事を読んだとき、メディアが何を伝えようとしてこれを報じたのかがわからなかった。

記事の末尾には、「日本にコメを持ち帰る際には検疫所で検疫証を発行してもらう必要がある」こと、「海外から個人で持ち込む場合、過去一年間の輸入数量が100kg以下であれば届け出すれば納付金が免除される」と、韓国から買って帰る際の注意点まで書いてある。

つまり「韓国はコメが安いよ。多くの日本人観光客が買って帰ってるから、検疫証をもらい、100kgまでなら納付金も要らないから、あなたも韓国で買って帰ったらどう?」と、韓国へ行って安いコメを買うことを視聴者に促しているのだろうかと思った。

だが、それはメディアがいま報じるべきことなのだろうか。

検疫が月0〜1人から月20名に「急増」

記事によれば、韓国の疾病管理庁のコメの検疫受付が、毎月1人いるかどうかだったのが、2025年3月以降は毎月20名ほどに増え、大半が日本人観光客とのこと。

確かに、0か1だったのが20に増えれば「急増」と言えるのかもしれない。

だが、株式会社JTB総合研究所が2025年4月15日に更新したデータによれば、今年2025年2月に韓国を訪問した日本人観光客は224,482名いる(3)。仮に3月もこの人数だとすれば、その中の20名は、全体の0.008%に過ぎない。

0.1%にも満たない人の一部の人の行動を、わざわざ報じて、広く一般の人に注目させる意味があるのだろうか。

韓国へ行く金があるなら日本でコメを買えるのでは

そもそも、韓国へ観光旅行に行くだけのお金があるのなら、日本のコメもじゅうぶん買うことができるのではないかと思う。

消費者にできることの一つは、日本のコメを買い、生産者を支えることだ。

いま、日本の農家の平均年齢は69.2歳で、ほぼ70歳と高齢化している(4)。

稲作農家の時給は2022年時点でわずか10円。農林水産省のデータによれば、2023年時点でも97円にしか上がっていない(5)。

日本で生産されたコメを、日本に住む消費者が買うことで、日本のコメ農家や米穀専門店を支えることができる。

消費者としてコメ農家を買い支える責任

消費者には権利があるが、責任もある。社会や環境のことを考えて消費行動をする責任がある(6)と、1982年に国際消費者機構が提唱しており、このことは、日本の中学校の家庭科の教科書にも掲載されている。

消費者は、自分たちが選んで買うものが、社会全体に影響することまで考える責任がある。

消費者の「社会的関心を持つ責任」や「環境への自覚の責任」(ながさき消費生活館公式サイトより)
消費者の「社会的関心を持つ責任」や「環境への自覚の責任」(ながさき消費生活館公式サイトより)

日本には、海外旅行どころか、国内旅行にも行くだけのお金がない家庭がある。そのような家庭は、コメを買うのに苦心している。だが、海外旅行に行ける人が、旅行代よりはるかに安い日本のコメを買い惜しむのはどうなのだろうか。

毎日捨てている米飯を減らすことが急務

何よりマスメディアに報じていただきたいのは、毎日捨てられているコメや米飯がある、ということだ。

もともとコメが不足したために今の事態が起きている。筆者も出演したNHKの日曜討論では、減反政策を続けてきた「農政の失敗」だと専門家は指摘していた(7)。

お金が足りず、収入も増えないなら、お金を節約しなければならない。

食料も同じで、コメが足りておらず、備蓄米の投入も「焼け石に水」程度であれば、いま連日捨てているコメを捨てないようにする必要がある。

大手コンビニでは年間672万円/店 の食料廃棄

大手コンビニ関係者によれば、一店舗あたり、年間672万円の食料廃棄が発生している(8)。このうち、多くを占めるのは、デイリー食品(日配食品)と呼ばれるおにぎりや弁当、調理パンや麺類などだ。

リサイクルセンターに持ち込まれたセブンイレブンの総菜類など(撮影:島田幸治)
リサイクルセンターに持ち込まれたセブンイレブンの総菜類など(撮影:島田幸治)

一つの企業に年間2,920トンもの米飯が運び込まれる

神奈川県相模原市の日本フードエコロジーセンターには、1日8トンの米飯が運び込まれている(9)。食品廃棄物を扱う企業たった1社に、年間2,920トンもの米飯が運び込まれている。

だが、日本の食品小売企業で、このようにリサイクルに出しているところは少ないので、この処分される米飯の量は、氷山の一角であるといえる。

日本全国で発生するほとんどの食品ロスや生ごみは、水分80%以上で燃えにくいにもかかわらず、膨大なエネルギーと税金をかけて燃やされている。

日本フードエコロジーセンターに運び込まれる米飯(2025年2月、同社提供)
日本フードエコロジーセンターに運び込まれる米飯(2025年2月、同社提供)

スーパーでは精米して1ヶ月強のコメは棚から撤去

スーパーのコメ売り場では、精米して1ヶ月強経ったコメは、商品棚から撤去されている(10)。だから2025年4月中旬にスーパーに行けば、精米時期として「2025年4月上旬」や「2025年3月下旬」などのコメがほとんどのはずだ。

これは、精米して1ヶ月程度で味が落ちるということを反映している。

コメ農家や米穀専門店は、精米すれば味が落ちることをわかっているので、玄米の状態で保管しておく。貴重なコメを捨てないためだ。

消費者の利便性や効率を考えた結果、すでに精米したコメがスーパーでは売られているが、「令和の米騒動」と呼ばれたようなコメ不足の状況が今後も起こる可能性を考えると、普段から、コメ農家や米穀専門店から直接購入し、なじみ客として関係性を作っておくことも大切だと思う。

マスメディアの責任とは

マスメディアは、一般消費者の考え方や消費行動に大きな影響力を持っている。

最近のコメに関する報道では、コメの値段が「高い」か「安いか」のことに偏っている(11)。

農林水産省が2025年4月に発行した資料(12)によれば、ご飯1杯当たりのコメの値段は約50円とある。これは5kg3,878円で計算されているが、仮に5kg4,000円強だとしても55円程度だ。

米の消費拡大について(農林水産省、2025/4)の資料より抜粋
米の消費拡大について(農林水産省、2025/4)の資料より抜粋

三菱総合研究所が2025年3月に発表した資料(13)によれば、2024年時点のコシヒカリ1kgあたりの価格は、20年前の2004年より下回っている。過去20年間、生産者の立場を考えると、コメの価格は安過ぎたとも言える。2022年にロシアによるウクライナ軍事侵攻が始まってからは、飼料や肥料、燃料の価格が急騰し、経営できず、離農する農家も増えている。このままでは日本でコメが作れなくなってしまう。だからこそ、消費者は、日本のコメを買い、政府は消費者が適正価格で十分な量、安心して買えるだけの政策に取り組む必要がある。

三菱総合研究所、2025/3/11付の資料より引用
三菱総合研究所、2025/3/11付の資料より引用

マスメディアが「韓国に行けば日本の半額でコメが買える」と報じることが、いま、日本の食料安全保障やコメを守るために本当に必要なことなのか、考えてほしい。

参考情報

1)コメが日本の半額?! 韓国でコメを購入して帰る日本人観光客が急増 一方、持ち帰る際は注意も必要(TBS NEWS DIG, 2025/4/15)

2)コメが日本の半額?! 韓国でコメを購入して帰る日本人観光客が急増 一方、持ち帰る際は注意も必要(Yahoo!ニュース、2025/4/15)

3)日本人出国者総数(株式会社JTB総合研究所、2025/4/15)

4)農業労働力に関する統計(農林水産省)

5)米農家の「時給」、23年は97円 農水省・農業経営統計調査から試算 深刻な実態続く(農業協同組合新聞、2024/12/26)

6)消費者の権利と責任(ながさき消費生活館)

7)コメ・野菜価格高騰 「食」をどう守る(NHK日曜討論、2025/3/2)

8)コメ不足なのに大量に捨てる矛盾 コンビニ一店舗年間672万円の食料廃棄 コメ価格は20年前より安い?(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2025/4/13)

9)備蓄米放出の一方、毎日焼却処分され精米1ヶ月で棚から撤去されるコメ 廃棄物処理業には1日8トンの米飯 専門家のまとめ(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2025/2/15)

10)スーパーで精米1ヶ月後の米は商品棚から撤去 その後、処分される米はどこへ行くのか? 専門家のまとめ(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2024/8/6)

11)なぜメディアはコメの値段のことしか報じないのか(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2025/4/3)

12)米の消費拡大について(農林水産省、2025/4)

13)『令和のコメ騒動』(2)コメ価格の一般的な決まり方 食料自給率と安全保障 第11回(三菱総合研究所、2025/3/11)

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ありがとうございます。
食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書『私たちは何を捨てているのか』『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』『SDGs時代の食べ方』『食べものが足りない!』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞など受賞

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