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パナマをめぐる米中対立で香港企業が板挟み

2025年4月9日(水)

世界の貿易の要衝、パナマ運河をめぐるアメリカと中国の対立が香港最大級の企業グループを巻き込み、今後米中間の新たな火種になる可能性も指摘されています。中国担当の奥谷龍太解説委員と読み解きます。

(横川キャスター)

先月初め、香港のCKハチソン・ホールディングスが、パナマ運河の両端にある2つの港を含む世界各地の港の運営権を、メリカの資産運用大手・ブラックロックが主導する企業連合に228億ドル、日本円にしておよそ3兆4000億円で売却する計画を発表しました。合意文書の締結は先週2日に行われるはずでしたが、中国共産党の関連部門が売却計画を厳しく批判したのを受けて、文書の締結は延期されたと伝えられています。

トランプ大統領は就任以来、パナマ運河を取り戻すと宣言してパナマ政府に圧力をかけ、2月にはパナマの大統領に中国の巨大経済圏構想「一帯一路」からの離脱を表明させました。今回の売却計画もアメリカの圧力と関係があると見てよいのでしょうか。

(奥谷)

少なくとも中国側はそう見ています。CKハチソンは米中のせめぎ合いの板挟みになるのを避けたかったとみられますが、中国を封じ込めようとしていると疑う習近平指導部は、これに待ったをかけた形です。

中国政府と中国共産党で香港政策を担当する部門のホームページに、先月13日から「大公報」という中国共産党系の香港の新聞に出た記事が繰り返し転載されています。記事は、「アメリカは一帯一路に打撃を与え、貿易秩序や安全を破壊しようとするだろう」と述べています。港の運営権を得たアメリカ側が中国にさらに圧力を加えるに違いないと疑っていて、安全保障上の懸念がある、という訳です。その上で「全ての中国人を裏切るものだというネット民の批判も完全に理解できる」と述べて、すべての中国人を裏切った、という激しい言葉を使っています。またその4日後に転載された別の記事では、「中国の側にしっかり立たなければ、歴史の中で罵られるだろう」とまで言って批判しています。

(横川キャスター)

厳しい批判ですね。このCKハチソンという企業グループは、香港最大級ということですがどういう企業グループなのでしょうか。

(奥谷)

香港で不動産、エネルギー、飲料水など様々な重要産業で多角的にビジネスを展開しているほか、ヨーロッパを中心に世界各地に投資して利益を得ています。創業者の李嘉誠氏は広東省出身の96歳で、小さなプラスチック工場から出発して一代で財を築き、世界でも屈指の大富豪にまで上り詰めました。香港を代表する実業家として立志伝中の人物、財界のいわばレジェンドとして、香港だけでなく中国本土でも非常に有名です。

李嘉誠氏は中国が80年代に改革開放をスローガンに市場経済を導入した際、いち早く北京や上海に大規模投資をして、経済発展を後押ししました。また鄧小平氏とも何度か面会していて、天安門事件で中国が孤立していた時にも、李嘉誠氏は投資を続けて、その後の経済発展に貢献したと言われています。その李嘉誠氏が習近平指導部に厳しく批判されているということは、他の企業とはやはり違う意味を持っていると思います。

(横川)

CKハチソンは民間企業で、しかも香港の企業な訳で、国の側に立てと言うのは、ちょっと強引な気もしますね。

(奥谷)

まさに、そこがポイントです。中国本土では習指導部が民間企業への統制を強め、これが経済の低迷につながっていると指摘されています。一方香港では、5年前の香港国家安全維持法の導入で、言論や政治の自由は制限されましたが、企業活動に政治は介入しない建前だったはずです。しかし批判記事の中で、習近平指導部は香港企業も、国家や党の側に立つべきだという立場をはっきり示しました。一国二制度の形骸化を自ら露呈した形です。

また、トランプ大統領がパナマ運河を取り戻すと発言したことについて、中国外務省は「中国はこれまで運河の管理・運営に関与したことはない。中国が運河を支配しているという主張は全くのでたらめだ」と強調していました。ところが一連の批判記事は、立場が変わってアメリカ企業が運営権を持てば安全保障上問題だと批判している訳ですので、これも自己矛盾に聞こえます。

(横川)

今回の厳しい批判の背景として売却先の企業連合を主導しているのがアメリカの企業だという点が大きいと言うことですね?

(奥谷)

そう思います。ブラックロックは、世界最大級の資産運用会社というだけでなく、CEOのフィンク氏はトランプ大統領を含む歴代の政権と良好な関係を持つ人物だということもあって、習指導部はなおさら警戒しているようです。また計画では、パナマの2つの港だけでなく、世界の43の港の運営権をまとめて売却するということですので、一帯一路構想を妨害されたと感じたとみられます。

さらに、厳しい批判の背景には、CKハチソンのこれまでの習指導部との微妙な関係もありそうです。かつて中国に大規模投資した李嘉誠氏は、習近平氏がトップになった2012年以降、一転して投資を引き上げ始めたのです。いま中国では不動産不況が問題になっていますが、李氏は実害をあまり受けずに済みました。実業家独特のきゅう覚で、高度成長の時代が終わったと感じ取ったのかもしれません。また、6年前に香港の民主化運動が拡大したとき、李嘉誠氏は明確には共産党の側に立たず、中立を保っていました。これも協力的でないと映った可能性があります。

(横川)

売却計画が延期されているということですが、中国が圧力をかけて計画が立ち消えになると、今度はトランプ大統領の反発を招くことになるのではないでしょうか。

(奥谷)

そう思います。トランプ大統領はパナマ運河を取り戻す、と先月の施政方針演説でも明言し、ヘグセス国防長官もパナマを訪問して運河を取り戻すと強調している訳ですので、これを中国が妨害した格好になると、米中対立の新たな火種になる可能性もあります。

さらには、習指導部は最近、経済活性化のため民間企業重視の姿勢を打ち出しているのに、香港を代表する実業家を締め付けたら、それは経済活動に政治が介入する象徴的な事例となって、中国経済がいっそう活力を失うことにもつながりかねないと思います。実際、市場も今後、CKハチソンは習指導部からいっそうの圧力を受けるとみています。CKハチソンの株価は、批判記事が出た時、また売却の延期が伝えられた時に一時急落しています。

この問題では、香港の一巨大企業グループが米中対立の板挟みになっているというだけでなく、習指導部がどこまで政治を経済に優先させるのか、選択を迫られているとも言えます。中国の国のあり方や将来の米中関係にも関わる問題になってきており、今後の習指導部の出方が注目されます。