「ここだ!」
「はい取り、と」
「なにっ」
盤面を睨みつける
そこには絶望的な盤面━━━━サウィルは今の今まで互角の盤面だと思っていた━が広がるばかりだ
「…イカサマ?」
「なわけあるか。現実を見よ」
対面で得意気な顔をしているのは輝夜だ
ここ最近ホームでの余興に将棋という遊戯を教わり甚振られている
恨めしげに盤を眺めるがどうしようもない
「その駒俺のだったから返して?」
「そういう遊戯で何を言うか」
「おいサウィル!そこじゃ!そこに指せ!」
膝の上に座るバロールが騒ぎ出す
あまりにもボコボコにされたサウィルはバロールとのコンビ打ちで対抗することにした
「ここか?了解!」
「悪手だぞ」
「なんじゃとおおおおおおおおお!?」
「おい足を引っ張るな!」
「妾悪くないもん!」
「…ふふふ、罰ゲームが楽しみだ」
その後何事もなく敗北しうなだれるサウィル
「いいだろう。罰ゲームを受けよう、バロール様も一緒に…」
膝の上に座っていたバロールがいつの間にか影も形もない
「あのー、ほら、妾は親戚の法事で急用が出来たから後頼んだそサウィル」
「神に法事があるわけないだろ」
扉の向こうへ颯爽と去ろうとしたガキを冒険者の身体能力で捕まえる
「生きるも死ぬも一緒ですよね?バロール様」
「いやじゃーー!!これはお主の勝負じゃろうが!」
「途中から一緒に打ってたんだから共犯だろう」
「その通りだぞサウィル。離してやれ」
「えっ」
まさかバロールの肩を持たれるとは思っていなかったサウィルが絶望の表情で振り返る
「裏切るのか…?」
「はじめから味方ではなかったな」
「うむ!ではよきにはからえ〜」
「あっ」
風のように去る主神
残されたのは俺と邪悪な笑みを浮かべる輝夜
「では罰を受けてもらおうか…」
観念した俺は目を閉じる
「…借金増やすのだけは勘弁してください」
「こっちとこっちどっちが似合う?」
「左の方が似合ってるんじゃないか?」
「そう?じゃあそれにしよう」
(…これが罰?)
目の前ではリューがブーツの試着を終え選んだ物を買っている
当然リュー自身の所持金でだ
初め罰としてリューと買い物に付き合うよう言われた時は俺の財布で買い物をするかと絶望していたがその様子はない
喜ばしいことに違いはないのだが困惑を隠せない
「お待たせサウィル…どうかした?」
「いや?ナンデモナイ」
「何でもありそう」
というかさっきからリューと話すたび心がざわつく
なんでだろうと考えると、口調だと思い当たる
アストレアファミリアの面々とは丁寧語で話すリューだったがいつしか俺相手にも丁寧語で話すようになっていた。
「急に戻られるとちょっと落ち着かないな…」
「何かいった?」
「ああ、昔を思い出すって言ったんだ。最近二人きりになることなかったから」
「そうね…本当に賑やかだから、ファミリアは」
しみじみとリオンが呟く
もっと喜色満面な様子を予想していたので少し困惑する
自分のような薄情な人間でも最近の賑やかな繋がりに幸福を覚えているのだから彼女ならなおさら喜んでいるだろうと思っていた
その表情には嬉しさや感謝の他に郷愁が含まれているからだと気づいた
郷愁、その感情は俺にないものだ 覚えたことのない感情だ
ただ知識として知っている。故郷を想って懐かしんだり寂しく思う感情だ
俺はあの森にそんな感情を抱くことは生涯ないだろう
けれどリオンは?
あの森に家があった
あの森に友達
あの森に家族がいた
それをリオンは俺を森から出す為に擲ってしまっている
もしかしたら━━━リオンは森に帰りたいと思っているのではないか
考えないようにしてリオンと買い物を樂しんでいる最中にもこの考えは頭を離れずグルグルと回り続ける
「どうかした?サウィル」
「いや?リオンが楽しそうでよかった」
俺の答えに首をかしげるリオン
「サウィルは楽しくないの?」
「俺は…」
聞き返された俺の頭には今日の思い出と…リオンに連れ出されてオラリオに来てからの思い出が巡る
「俺は楽しいよ、ここに来てからずっと」
「そ?ならよかった」
「けど…不安なんだ」
「不安?」
「リオンはいつかあの森に帰ってしまうんだろう?あそこには…お前の家と家族がいるんだから」
リオンはキョトンとしている
それから面白そうにコロコロと笑い出す
「もしかして…寂しがってる?」
「そそそそそそそそないなことあるわけなかろうが」
「自分で選んだ道を歩いているのに後悔なんてするわけない」
「!」
「私は家の中で家族と過ごす道よりサウィルと歩く道を選んだんだよ?それは負い目や義務感なんかじゃない、私がそうしたかったから」
「俺は…」
「それに家も家族も今はここにあるから」
「そうだな、無粋なことを聞いた…俺も同じ気持ちだよ」
家、家族それを聞いて思い浮かべたのはアストレア・ファミリアの面々とリューが、そしてバロールと俺が同じ食卓で笑い合う光景
いつの間にか夕暮れにさしかかっていたことに気付く。リオンに微笑みかける
「それじゃあそろそろ日が落ちる。俺達の家に帰ろうか」
「ハッピーバースデーサウィル!!」
「うおっ」
家に戻るとクラッカーのけたたましい音が響き驚く
そしてはたと気がつく
「ああ、そういえば今日が誕生日だったか」
今まで祝われたことがないので全く意識していなかった
アストレアがほほえみかける
「12歳の誕生日おめでとうサウィル。アストレアファミリアからあなたへの日頃の感謝の気持ちよ。受け取ってくれるかしら?」
そう言ってアストレアから差し出されたのはポーション等を入れられるアイテムポーチだった
革製だったが見た目だけで一級品とわかるツヤと拵えで過酷な冒険にも容易に耐えうることが一目で分かる一級品だ
俺は恐る恐るそれを受け取る
「これはメタル・ラビットの毛皮をレベル2以上の職人がなめして造られた頑丈なポーチよ。この中にポーションを入れておけばいざという時割れて中身がこぼれているなんて下らない不幸で命を落とすことを防ぐことができるわ」
胸が熱くなり気づくと自然と頭を下げていた
「…ありがとう皆、大事にするよ必ず墓場まで持っていく」
「喜んでくれて嬉しいけどちょっと重いな」
苦笑いするライラ
「そして私からはこれを」
リューが手渡したきたのは木製の首飾りだった
「これは故郷に伝わるお守りです。旅から無事に帰るよう祈って作られます。」
「リュー姉さん…ありがとう。ずっと大事にするよ」
「いえ、肌見放さず付けて雑に使いなさい。そしてどれだけ無茶をしても必ず帰ってくるように!」
「はい」
すぐに首にかけて眺めるサウィル。鳥の羽根を模した木彫りのそれを両手で包み込むとどこか安心するような気持ちに包まれた
「最後は妾の番じゃな!!」
少し待っておれ、そう言い残して別室に消えたバロール
変なものじゃないといいんだが
(まあアストレア様たちと選んだのなら心配ないか)
「どんなプレゼントなんでしょうね?私も知らないので少し楽しみです」
「えっ」
「待たせたのう!」
急に不安になる中戻ってきたバロール。とても自信満々だ
「さあサウィルよ、邪眼の女神、大邪神バロールたる妾から直々に宝物を下賜される栄誉に咽び泣けい!!」
そして手渡されたのは───本だった
「これは…本?」
「クックック…そう訝しむな、勿論ただの本ではないぞ?これはな…」
「
「「はい?」」
俺とアストレア様の声が重なる
「む?もしやお主ら
アストレア様が能面のような笑顔をのまま問いかける
「これは誰かから貰った、そうよね?」
「いや、買った!金は借りた!!勿論返すつもりはない!」
その日俺はアストレア様の本当の恐ろしさを知った
普段優しい人が怒ったら、あんなに怖いんだなぁ…