さて、あれから一時間は経ったかな。空気の読める女である私は暇だったが本を読んで何とか一時間待機した。
……当然だけど盗聴なんてしていない。
そろそろ話を進めようと、彼女達の居る部屋の前へと移動した私は扉をノックする。
「はーい!」
……めちゃくちゃ元気な声が返ってくる。あれが本来のあの子の声なのか。
そのまま扉を開けて中を覗くとベッド起き上がっているアリーゼちゃんの膝の上に倒れ込むように寝ているリューちゃん。
泣き疲れて寝ちゃったのかな、可愛いなぁ……
「えーと、何て言えばいいのかしら?……ありがとう?」
そう言ってコテンと首を傾げる様は大変可愛らしいが、やはりまだ混乱はしてるようね……まあそれも当然か。
「まずは、初めまして……ですね。私はミラーナと申します。当然困惑されていると思います。なので色々と説明します。が、その前に」
彼女はベッドのシーツを身体に巻き付けている状態だったのでとりあえず適当な下着とワンピースを渡す。
「何時までも裸じゃあれなので、とりあえず着てください。」
一応スポーツタイプの様な下着なのでサイズが合わない事はないでしょう
「ありがとう!で、早速だけど何が起きているの?私って今どういう状態なのかしら?」
矢継ぎ早に質問を飛ばしてくる彼女に返答し続け、その後私の目的なども軽く説明する。
「良いわ!誰もが住みやすい国って言うのはとても素敵だと思うの!きっとそれがあなたの正義なのよね!」
「ええ……私も生まれは悲惨な方でしたから。」
彼女は協力してくれると言うが、その前に一つだけお願いがあるという。仲間を復活させてくれと言うのかと思ったが、
そうではなく主神に会いたいのだと言う。
「……アストレア様は私達の事をとても大事にして下さっていたし、すごく悲しませてしまったと思うの。」
「……良いですよそのくらいなら。置いていかれる側の気持ちは分かりますし、是非協力しましょう。」
「ありがとう!あなたってとっても話がわかる人ね!すごく素敵だと思うわ!」
めちゃくちゃ褒めてくれる……しゅき!うーん。ほんと人たらしだなこの子……
「まあアリーゼさんの仲間についても考えます。流石に
「そうね!本音を言うなら今すぐ会いたいけど……ここで我儘を言うほど私も子供じゃないわ!」
さてじゃあ……早速彼女達の主神様に会いに行こうかな。長引かせてもアレだしね。
「ではアリーゼさん、リューさんを起こしてください。アストレア様の元に向かいますよ。」
「へ……?もう行くの?」
「はい。転移の魔法ですぐですから、後回しにする意味もありませんし」
「転移…魔法?あなたって……そう、少しアレなのね!」
……やめてください、言葉に詰まるの。あなたみたいな人に言われるのが一番効きます。あともう少し言葉を選んで。
「……早くリューさんを起こしてください」
「拗ねなくたっていいじゃない!それと私の事はアリーゼでいいわっ!私もミラーナって呼ぶから!」
……距離の詰め方えぐい。コミュ強過ぎるなアリーゼちゃ……アリーゼ。
「分かりました。では起こしたら支度をしてください。すぐに出ますから」
「分かっ……ちょーっと待って!」
急に大声を上げるアリーゼに驚いた私は何かと思えば彼女はお腹を摩って一言。
「お腹がぺっこぺこなの!先にご飯にしましょう!」
……ご飯にしましょうって。それ材料提供するのも作るのも私じゃん。まあいいけど
「では適当に何か作って来るので、リューさん起こしといてくださいね。」
「分かったわ!」
そう言ってキッチンまで来たは良いもののグリーンシークレットハウスに食材なんて……ある。何故かある。
まあ、あるとは言っても普通のパンと野菜と……ベーコンみたいなお肉。
手に取って鑑定の魔法を使ってみるとまあ至って普通のベーコンだ。
まあその豚はユグドラシルのモンスターなんだけど……食用の素材が取れるモンスターだし使えるでしょ。
とはいえジャガイモにキャベツに人参……玉ねぎみたいなネーミングだけユグドラシルのほぼリアルにある野菜だし……
何作ればいいんだろ。せっかくパンがあるし適当にスープで良いか。都合よく調味料あるし……
ていうかちょっと待って。ハーブとか胡椒とかあるのに醤油がないのは終わってる。そんな所だけファンタジーしなくて良いから。……クソ運営め。
まあいいか。適当にベーコンと野菜とか豆とか入れて塩で味付けするくらいで良いでしょ。ファンタジーというか中世の農民の食事みたいだけど。
それからグツグツと煮込み、味見してみると適当な味付けの割にそれなりに美味しかった。
完成したので彼女達を呼びに行く。
「アリーゼ、出来ましたよ。」
私が扉越しに声を掛けると元気よくはーいと聞こえたので、テーブルに配膳していく。まあただのスープとパンなんだけど。
すると目を腫らしたリューちゃんをの手を引いてアリーゼが席に座る。……なんだこの尊い光景は。
席に着くとリューちゃんは開口一番に謝罪をしてくる。
「……先程は見苦しい姿をお見せして申し訳ありません。それと貴女に、心より感謝します。この御恩はいつか必ずお返しします。」
深々と頭を下げてくるリューちゃん。……私はそもそも自分の目的の為だし、助けた訳じゃなくて死後に蘇生させた訳だから妙な気分だ。
素直に喜ぶ事は出来ない。とはいえ互いにメリットがある為、とりあえず彼女の気持ちは受け取っておく。
「アリーゼは私の目的に協力してくれると言ってくれたので、WinWinですよ。元々私の目的の為ですし。ただお気持ちは受け取っておきます。」
「はぁ。」
納得のいかない顔をしたままうぃんうぃん?と呟いているリューちゃん可愛い。
「ねぇ!もうお腹ぺこぺこなんだけど!先に食べてていいかしら!」
私とリューちゃんが会話していると腹ぺこアリーゼは待ちきれない様子。リューちゃんもそれを見て思わず苦笑い。……尊い。
「では待ちきれない方もいる様ですし頂きますか。」
何故かログハウスなのにスプーンやフォークはきちんと鉄製という。ユグドラシルの不思議は置いておこう。
一応、変に遠慮させないように私の分も用意してある。アリーゼはともかくリューちゃんは遠慮しそうだしね。
「簡素な食事ですが、どうぞ。……パンはスープに浸して食べてくださいね。」
「分かりました。」
「分かったわ!」
そう言ってスープから飲んでいく二人を見て癒される私。
「とっても美味しいわ!あなた料理もできたのね!」
内心大袈裟だなと思いつつも何処か嬉しい私がいる。
「料理と言うほどしっかりしたモノじゃありませんが、お口に合ったのなら良かったです。」
「……」
無言でもぐもぐしてるリューちゃん可愛い。一方アリーゼは既にスープが半分程無くなっている。
その後、結局アリーゼは一瞬で完食しておかわりを要求してきた為、既に二杯目である。
リューちゃんはまだ少し残っている様だ……口に合わなかったのかな?
「リューさん、美味しくなかった?」
「……!いえ、すみません。色々あり過ぎて少し考え事をしていました。」
「なら良かった。まだあるから遠慮しないでね。」
「はい」
と、既に完食した私が皿を洗っていると後ろから賑やかな声が聞こえてくる。
「リオン!そのベーコン要らないなら私が貰うわ!」
「っ!アリーゼ!それは私が最後に食べようと取っていただけです!返しなさい!」
振り向きはしないけど、きっと凄く尊い光景が広がっているんだろう。
なんて考えながら皿を洗い終わって椅子に座っていると、私の存在を忘れて二人ともギャーギャー言い争いをしていた。
そして本来必須の指輪を外している事を忘れている私はいつの間にか眠ってしまっていた。
「……かなり時間を掛けちゃったわね!リオンのせいで!」
「元はと言えばアリーゼが……!」
「さーて!ご馳走してもらった訳だし皿くらい洗っときましょ……あれ?」
一方的に会話を打ち切ったアリーゼは皿を持ってキッチンへ向かおうとすると、いつの間にか眠っているミラーナを見付けた。
「どうする?寝ちゃってるけど。」
「……無理に起こす必要は無いのでは?きっと疲れているのでしょう。寝室まで運びましょう。」
「ベッド一つしか無かったけどいいの?」
アリーゼはエルフであるリューが他人との身体的接触を極度に嫌うのを知っている為に気を使ったのだが……
「失礼な!私は恩人を床に寝かせる様な恥知らずでは無い!」
「そんなこと言ってないわよ、相変わらず頭が固いわねぇ……リオンは」
アリーゼにとっては何気ない発言。だが過去に幾度も言われた言葉に言い表せない感情が湧き上がるリュー。
彼女は本来自分を庇って死んだはずで、事実リューは今日まで常に自責と後悔の念を抱えて生きてきた。
何気ないやり取りでその実感が湧いてきたのだ。
「アリー、ゼ……本当にそこにいるのですか。やはりただの私の妄想では」
「リオン……何回も言ったでしょ。確かに私は一回死んじゃったけど、今は間違いなくここに居るから、安心しなさい。」
情緒不安定な妹分を優しく抱きしめるアリーゼに、少し落ち着いた様子のリューは深呼吸をしてアリーゼから離れる。
「……すみません、取り乱しました。」
「全く、アンタはいつまで経っても子供なんだから!」
その言葉に食いつかず、むしろ安心感を覚えているリューにアリーゼは問い掛ける。
「で、リオンはどう思う?」
「……どう、とは?」
「ミラーナの事よ」
「……彼女の事は、まだよく分かりません」
「詳しい話は敢えて聞いていないけれど、彼女はオラリオではどういう立ち位置なの?」
「全く、彼女の噂を耳にした事はありませんでした。酒場で何度か見かけた程度です。」
リューの言葉にアリーゼはふむふむと頷きながら情報を整理していく。
「あれほどの能力があって噂すらないのはギルドが情報を規制しているか、オラリオに来たばかりかのどちらかしか無いと思うの。」
「そういえば、酒場でオラリオに来たばかりだと話していました。」
「……まあそうよね。私はね、リオン。暗黒期の終わったオラリオも見てみたい。けどその前にアストレア様に会いたいの。」
その言葉に、俯いて肩を震わせるリュー
「……さっきも言ったけどね、アストレア様はアンタを破門した訳じゃないと思うわよ。」
「いえ……どう言い訳しようと、私は道を誤りました。アストレア様に合わせる顔など無い。」
「っもう!良いから着いて来なさい!これは団長命令よ!」
「……そういえばアリーゼ、恩恵はどうなっているのですか?」
「恩恵?……そんなもの無いわ!何故か綺麗さっぱり無くなっていたの、不思議な事もあるものね!」
あまりにも軽すぎるその言葉に思わず目を丸くするリュー
「恩恵なんて飾りよ飾り!後でまたアストレア様に刻んで貰えばいいの!」
「……流石に飾りでは無いと思うのですが」
「そういう事を言いたいんじゃないわ!このポンコツエルフ!」
「ポンコ……!誰がポンコツですか!訂正しなさい!」
ストッパーがいない為どんどん逸れていく話に、ようやく元の話題を思い出した二人。
「そうだった!ミラーナの話だったわね!私とした事が忘れていたわ!」
「何度聞かれても彼女については、まだ何とも……ですが少なくとも恩人ではあります。」
「私はね、危険だと思うの。」
「……彼女がですか?」
アリーゼは疑問符を浮かべるリューに人差し指を立てて話し出す
「彼女が危険人物というわけじゃ無くて、持っている力にあまりにも無自覚なのが危ないと思うの。」
「……確かに。とはいえ、彼女の体捌きなども明らかに上級冒険者のそれでした。自衛程度出来るのでは?」
「まあそうなんだけど!周囲への影響力とか馬鹿にならないし……なんて言うのかしら。そういう事じゃないのよね……」
リューにも伝わる様にどう言語化するべきかをウンウン言って悩んでいるアリーゼだったが……
「あーっ! もう面倒になっちゃったわ!難しい事を考えるのはやめにしましょう!少なくとも悪人ではないわ!」
「……そうですね。では運びましょう。」
そうして、スヤスヤと眠っているミラーナを抱えて寝室へと移動する二人であった。