「サウィルよ、お主は妾のファミリアに入ればよい!」
「…は?」
「気の抜けた返事をするでない!はいか喜んで!じゃろ?冒険者志望ではないのか?」
「いや冒険者志望で間違いないんだが…」
自分のファミリアを持っていたのか、規模はどの程度なのか、頭の中に色々な疑問が浮かぶが口から出た疑問は一つだけだった
「いいのか?俺は5億の借金をしているんだぞ」
「構わぬ!そもそもディアンケヒトには妾のファミリアで働かせて得た金から返済すると言って治療させたからの!」
「そうだったのか!?」
「うむ!あやつが身元不明の素寒貧相手の治療を渋ったので勢いでな!」
そういって笑うバロールの笑顔はあまりにも輝いて見えてとても邪神には見えなかった。
俺はベッドから立ち上がりバロールの前で跪く。
「感謝する、神バロール。そして今までの非礼を深く侘びる。あなたは素晴らしい神格者だ」
「う、うむ///?苦しゅうない!」
バロールは急に礼を尽くした俺の行動に少し顔を赤らめ慌てていたがやがて得意げに鼻を鳴らした。
「それでファミリアには入るんじゃな!?」
「もちろん入らせてもらう。むしろこちらからお願いしたいくらいだ。これからよろしく頼む、主神様」
「…!!!うむ!うむ!よかろう!お主の魂、この邪眼の主がしかと拝領した!!」
「あのー二人共?少しいいかしら」
暫く二人の世界に入っていたところをアストレア様の声で我に返る。そういえばリオンが静かだと思い見ればショックを受けた顔で固まっていた。
冷静に考えればよそのファミリアでこのような話をするのは良くなかったかもしれない
「申し訳ない神アストレア、ベッドを占拠したあげく少々我を忘れていた。」
「いえ、それはいいのだけれど…その」
「ファミリアが決まった以上後の治療は本拠地で行います。この恩はいずれ必ず返します」
「いいのいいの!怪我人を見捨てるなんて出来なかっただけだから!けど」
「ではバロール様、本拠地はどちらに?」
俺がそのままバロールファミリアの本拠地へ行こうと尋ねるとバロールの肩がギクリと揺れる。なんならさっきからそっぽを向いて目も合わせてくれない
「バロール様?・・・バロール?」
「・・・らぬ」
「なんて?」
「・・・本拠地なんてもっておらぬ」
「は?じゃあ普段眷属たちはどこで寝泊まりしてるんだ?」
「・・・らぬ」
「・・なんて?」
「眷属などおらぬ!」
「はぁ!?」
「なんじゃ!恩神にむかって文句でもあるのか!?」
「じゃあファミリアじゃないだろ!」
「そうじゃ!まだファミリアはない!お主が一人目じゃ!文句いうでない!」
ギャーギャーと罵り合うサウィルとバロール。もはや先ほどまでのかしこまった雰囲気は完全に霧散していた。
「ちょ、ちょっと待ってください。つまりファミリアをまだ作っていないということですか?神バロール。ならばサウィルは私と共にアストレアファミリアに入ったほうがいいでしょう。いかがですか?アストレア様」
「でももう恩恵は授けたんじゃぞ。寝てる間に」
「はぁ!?」
「ちょっとバロール!恩恵は子供たちの同意を得てからってきつく言っておいたでしょう!」
「知った話ではないな!なぜなら妾大邪神じゃから!!まさに極悪!」
ハーハッハ!と高笑いするバロール
唖然とするリオンとサウィル
ため息をついたアストレアがバロールの首根っこをむんずと掴んだ
「バロール?ちょっと裏でお話しましょうか」
「ご、ごべんにゃじゃい…!!」
数分後我々の目の前には泣きじゃくる大邪神の威厳ある姿が展開されていた
「だって勧誘とかやってられんかったんじゃ~!ヒッグ」
最低な事も口走っていた
「ごめんなさいね、サウィル。もし改宗したいのなら私のファミリアに」
「いや、俺はバロールファミリアに入るよ」
「サウィル!?」
「…理由を聞いてもいいかしら?」
「確かに無理矢理恩恵を授けられていたことに驚いたがバロールが俺の命の恩神だという事実は変わらない。俺はその恩を返したい。…それに俺には正義というものはまだよく分からないんだ。」
「…本当は?」
「自警団より変な神についてった方が愉快なことが多そうだ」
「サウィル…あなたという人は」
リオンはため息をついた後サウィルを見つめる
「正直言って私とサウィルは当然同じファミリアに入るものだと思っていました。まさか違うファミリアに入るなんて、寂しいです。」
「…悪い」
ばつが悪く感じて目を逸らす
「あら、そんなに寂しいのなら一緒に冒険をすればいいじゃない」
「!違うファミリアなのに出来るのか?」
「ええ、それにファミリアを作ったからといって本拠地の目処も立っていないのでしょう?暫くはあなたもバロールもここで暮らしなさいな」
「感謝する、神アストレア…バロール様も、ほら」
「ぐ、ありがとうなのじゃ」
「ふふふ、良くできました」
「子供扱いするでない!」
その後ギルドへの申請は明日行うことになり俺たちはバロールが居候していた部屋で二人きりになった
ステータスの確認を行うためだ
「うむ、書き写したぞ。伏して拝むがいい!我が与えた汝の【ステイタス】じゃ!」
サウィル
Lv.1
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
《スキル》
【
・理外の呼吸による肉体への干渉権限を得る
【
暗所での精神力の回復速度上昇
《魔法》
「おおスキルが二つも…」
「うむ!さすが妾の眷属じゃな!」
「…でもなんというか、どっちもいまいち要領を得ないスキルだな。権限?精神力?とか何を言ってるんだ?誤訳じゃないか?」
「舐めすぎじゃろ妾のこと!?精神力とは魔法を使う際に消費されるエネルギーのことじゃ。精神力がゼロになっても魔法を使おうとすると
「ダンジョンで精神疲弊を起こしたらまず助からないな・・・じゃあこれはかなり強いスキルなんじゃないか?」
「ところがどっこい魔法を覚えておらぬ汝にはそもそも精神力を使う機会がないから現状使い道なさそうな死にスキルじゃ!」
「そんな馬鹿な」
崩れ落ちるサウィル。笑うバロール。
「まあそう気を落とすな。妾が見込んだ眷属なんじゃからそのうち魔法の一つや二つ覚えるじゃろ!」
「バロール・・!いやバロール様・・・!」
もしかしたら俺は最高の主神にめぐりあえたのかもしれない
「じゃあこのマントラの権限っていうのは一体?」
「知らんな!」
気のせいだったようだ
「ええいそんな目で見るでない。汝のスキルならば心当たりの一つや二つあるじゃろ!自分で考えるんじゃな!」
「そんなこと言われてもな・・・ああ」
「呼吸以外自分に許されていたことなんてなかったからな」
「サウィル、お主・・・」
鎖に繋がれ移動も食事も睡眠も許しがないと出来なかったあの頃には呼吸して空を眺めるくらいしか自由に出来ることはなかった
それがスキルとして現れたのかもしれない
それによく考えればおかしなこともあった
運動もまともに許されなかった俺がなぜリオンと同じペースで夜通し走れたのか。リオンが凍えていたあの夜なぜ俺が平気だったのか
(俺は無意識の内にこのスキルを行使していたのかもな)
「辛いことを思い出させってすまぬ、サウィル」
「いいんだバロール。あの日々も無意味ではなくて良かった」
そう言うとやっとバロールは安心した表情を浮かべて笑った。
「ではサウィル、お主はこれで正式に我が眷属となった。」
「ああ」
バロールが改まった顔で立ち上がりベッドに腰かけたサウィルと対面する。
一変し厳粛な神気を放つバロールを前にサウィルは無意識のうちに跪いていた。
「妾は大邪神、全ての邪眼の主にして悪徳を愛し善行を嗤う者だ。お主も眷属ならばその目的に命を尽くすことは当然だ。」
「ああ」
「此度の契りの見返りとして妾はお主に姓を与えよう」
バロールが俺の頭を抱くようにして耳元でささやいた。
「エスリン、『サウィル・エスリン』と名乗れ。末永く共にゆこうぞ、我が唯一人の愛し子よ。」
そう囁きながら無邪気にしかし艶然と笑む女神にサウィルは見惚れ、そして頭を垂れた。
「こちらこそよろしく頼む。我が唯一柱の神様よ。」